全日本種目別選手権(種目別)。各選手が自身の得意種目に特化して挑む今大会は、オールラウンダーの素質が求められる個人総合の試合より種目ごとでハイレベルな戦いが繰り広げられる。決勝で演技ができるのは各種目8名のみ。この大舞台に駒を進めるべく、早大からは3選手が予選に出場した。中でも注目はNHK杯で大技ロペスハーフを日本人で初成功させた現・跳馬王者の小倉佳祐(スポ4=千葉・習志野)。世界レベルの技が次々と飛び交うスペシャリストたちの祭典で、小倉は3連覇を成し遂げることができるか。ついに運命の幕が開けた。
予選通過を目標にしていたのは藤原昇平主将(スポ4=埼玉栄)と高橋一矢(スポ1=岐阜・中京)だ。跳馬に挑んだ藤原昇は、伸び伸びと高さのある跳躍を行う。技の印象を決め、点数を左右する着地は小さく1歩にまとめた。一方の高橋はきょねんの高校生つり輪チャンピオンであり、この種目に対する揺るぎない自信が演技に表れる。大学1年生とは思えないような、後半まで疲れを感じさせない力強い実施を披露。しかしスペシャリストたちの厚いカベに阻まれ、両選手ともに決勝進出には至らなかった。
大学1年生ながらも堂々とした演技を見せる高橋のつり輪
いままで跳馬の印象が強かった小倉。ことしは特に力を入れているつり輪でも、種目別の舞台に立った。演技の前半にはゆっくりと見せつけるような力技を披露。振動系の技から静止への移行も決め、着地は1歩にまとめる。ガッツポーズも飛び出したが、思うように点が伸びず。予選通過は叶わなかった。一方2連覇中の跳馬では、ロペスとヨー2で貫録さえ感じさせる雄大な跳躍を行う。こちらは予選通過を確実に決めた。
気迫に満ち溢れた実施をする小倉のつり輪
そして迎えた決勝。小倉の最大の敵はリ・セグァンを得意とする鈴田佳祐(福岡大)である。ロペスハーフとリ・セグァンの技術点は共に6.4。跳馬の最高難度の技をわがものにしている東西『佳祐』対決に会場の熱気は最高潮に達していた。小倉の1本目はロペスハーフ。興奮していた観客は息をのんで見守る。小倉は静かに息を吐き、走り出した。張り詰めた空気を一気に突き破る助走の音。力強い踏み切りから誰よりも高く宙(そら)に舞った。大きな弧を描いた放物線は、着地点にしっかりと刺さる。15.850の自己ベストの実施にガッツポーズと笑顔が輝いた。2本目のヨー2は最低限の減点に抑える。2本の跳躍の平均は15.550。高難度でありながらEスコア(出来栄え点)が共に9点を越え、王者は隙を見せない。前の演技者であった鈴田も2本とも良い実施をそろえており失敗は許されない状況の中、0.15の差で見事優勝を果たした。
演技終了後、小倉の指には勝利を確信する1stの文字が灯っていた
今大会の目標は「世界選手権の代表に入ること」。3連覇という偉業を成し遂げた小倉だが、その顔には悔しさが少し残っていた。日本代表の選考は2種目以上を得意とする選手が重視される。そのためつり輪で予選通過ができれば世界選手権のメンバーに選出される可能性は十分にあったのだ。ことしは全日本個人総合選手権(全日本)で決勝に進出し、跳馬だけの選手ではないことを証明している小倉。JAPANの文字を背負う日は確実に近づいてきている。国内のタイトルをたくさん掴んできた王者が次に狙うのは国際舞台での金メダル。独特の緊張感が漂う決勝の雰囲気すら「楽しんで」しまう強さを持っている彼は、日本代表にふさわしい存在であろう。世界は小倉の挑戦を待っている。
(記事 大浦帆乃佳、写真 大森葵)
メダルを手に取り、笑顔を見せる小倉
結果
跳馬 | ||||||||
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選手名 | 1回目 | 2回目 | 平均(順位) | |||||
小倉佳祐(スポ4) | 15.250 | 15.100 | 15.175(2位) | 藤原昇平(スポ4) | 14.500 | 14.300 | 14.400(12位) |
つり輪 | ||||||||
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選手名 | 結果(順位) | |||||||
小倉佳祐(スポ4) | 14.450(18位) | |||||||
高橋一矢(スポ1) | 14.400(19位) |
種目別決勝(跳馬) | ||||||||
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選手名 | 結果(順位) | 1回目 | 2回目 | |||||
小倉佳祐(スポ4) | 15.550(1位) | 15.850 | 15.250 |
コメント
※6月20日終了時
藤原昇平主将(スポ4=埼玉栄)
――今回の大会は跳馬だけの出場となりましたが、どのような意気込みで臨みましたか
もともと跳馬に出場できる権利は持っていなかったのですが、上位の棄権者がたくさんいたということで、参加権利が回ってきて出ることになりました。もともと2本の点が高い方ではなくて、2本ともばっちりやってぎりぎり決勝に行けるかなというくらいの気持ちだったので、決勝に行けたらいいなという気持ちでやっていました。
――ご自身にとってこの大会の位置づけはどのようなものでしたか
本当は全日本個人総合選手権(全日本)で試合が決まるのですが、そこで結果を残すことができなかったというのがあって、きょうは跳馬しか出ることができませんでした。なので、僕としては悔しいですね。
――演技前の調子などはいかがでしたか
きょうは良かったです。
――14.500という得点であった1本目の演技を振り返っていかがですか
そんなに悪くはない実施でした。(きょうは)跳馬だけだったので、非常にリラックスできて良かったと思います。
――2本目はいかがでしたか
2本目もいつも通り、練習通りにできたと思います。
――先ほどリラックスできたというお話がありましたが、演技前はどのようなことを考えていましたか
そこまで深く考えず、練習通りの演技ができればいいかなというくらいで、何かが懸かっている試合ではないので、リラックスして何も考えずにやりました。
――次の大会は全日本学生選手権(インカレ)だと思いますが、どのような調整をされていきますか
もうこれからは団体戦に向けて、しっかりと一人一人が自覚を持って、ワセダには何が必要なのかということを一人一人が考えながら、残り2か月足らずですがその期間を大切にして練習を行っていきたいと思います。
――インカレへの意気込みをお願いします
インカレでは毎年目標としていて達成できていない団体3位という目標をことしは狙っていきたいと思っています。そのために、団体3位になるための練習をしなければいけないなというのを日々実感しながら、これからの練習に励んでいきたいなと思います。
小倉佳祐(スポ4=千葉・習志野)
――どのような意気込みで試合に臨みましたか
つり輪の予選を通過するということだけを考えていました。跳馬は、つり輪が通過したら最悪(跳馬で予選)通過できなくてもいいかなと思っていました。つり輪で予選通過していればNHK杯のときの点数がそのまま持ち越されるので十分だったのですが、今回は全然駄目でした。
――出場した2種目を振り返って
内容的に自分の中では良かったですね。良かったのですが、つり輪に関しては点数がついてこなかったので納得いかないですね。
――つり輪と跳馬の演技時間の間は何をしていましたか
他大学の選手と話したり、つり輪の悔しさをかみしめていました。
――つり輪では今日のためにどのような調整を行ってきましたか
ひたすら力技の強化をして、降りで絶対ころばないようにまとめることを考えて練習していました。
――今大会のご自身のつり輪の得点について
納得いかないです。点数がもう出てしまったからには仕方がないですが、やっぱり納得はいかないです。もう少し点が出てもいいと思っていたので。
――跳馬に関しては予選2位通過ですが、この順位について
予選を通過すればよかったのでそんなに気にしていないですね。
――明日の決勝に向けて、改善点があれば教えてください
改善点はそんなにないですね。決勝はロペスハーフにするつもりですが、今回福岡大の選手が結構攻めた演技をしているので、その選手の結果次第では僕も攻めるかもしれないです。
――具体的に、どのように攻める予定ですか
前方系も半分多くひねるかもしれないです。でも練習で実施したことがないので、その場の雰囲気で実施するか決めます。インカレもあるので、ケガはしたくないです。
――決勝への意気込みは
世界選手権出場が厳しくなった部分があるのですが、それでも3連覇が懸かっているので、そこを目指して頑張っていきたいです。
高橋一矢(スポ1=岐阜・中京)
――きょうの試合への意気込みは
決勝に残れるようにと考えていました。
――本番前はリラックスした様子が伺えましたが緊張などは
つり輪に関しては普段から失敗もあまりなく自信を持ってやれるので緊張はなかったです。
――力技もしっかり決まっていて堂々とした演技のように感じられました。振り返ってみていかがでしたか
途中の上水平のところで静止時間が短かったり姿勢が悪かったりしたのと、着地が止まらなかったのでそこが今後の課題かなと思います。
――得点についての印象は
少し悔しさは残りますが、それだけ周りの人との差がまだまだあるということが明確になったので今後もっと点数を伸ばしていけたらいいなと思います。
――Eスコアが伸び悩んだ原因については
やはり上水平と最後の着地が決めきれなかったところ、そして力技全体がトップの選手に比べるとまだまだ未熟だったところがEスコアに反映されたのかなと思います。
――自身の演技に点数をつけるとしたら
70点くらいです。
――残りの30点はどのようにして今後改善していきたいですか
細かい部分まで丁寧に行って、もっと力をつけていきたいです。
――今後の目標は
インカレで団体メンバーに入って団体3位に貢献するということと、個人的な目標としてはUー21に入ることを目標にしたいと思います。
――インカレメンバーに入るために、どのようなことをしてアピールしていきたいですか
自分の長所をよく見せれば必ず結果はついてくると思うので頑張ります。
――全日本種目別選手権トライアル(トライアル)の時、腰の調子が悪いとおっしゃっていましたが現在の調子は
最近はだいぶ良い方向に向かっていると思います。
――インカレへの意気込みをお願いします
なんとしても団体3位をつかむことと、U―21に必ず入ることを目標に頑張っていきたいと思います。
※6月21日終了時
小倉佳祐(スポ4=千葉・習志野)
――3連覇おめでとうございます
ありがとうございます。
――1本目の跳躍を振り返って
(着地で)立てて良かったです。というのと、ケガなくできて良かったです。
――2本目は
ラインオーバーがあったのですが助走する前から足が震えていて、足が合わなくて走りながら焦っていました。
――NHK杯でロペスハーフを決めて、メディアや観客の注目度が高かったと思いますが
そこはあまり気にしていないですね。予選の方がプレッシャーがあって緊張していたのですが、決勝はもうやるだけなので、楽しくやりました。
――演技前の調子は
手のつき、入りが合わなくて。でも大丈夫だろうと思っていたのですが、調子はあまり良くなかったです。
――演技前はどのようなことを考えていましたか
NHK杯と同じですね。ケガをしない、ということです。
――昨日、前方系をもう半分ひねるかもしれないとおっしゃっていましたが、それはどのタイミングで判断したのですか
前の演技者の鈴田佳祐選手(福岡大)がリ・セグァンで着地が少し動いて、そこまで点数を伸ばしてこなかったので。何よりもケガはしたくなかったし、練習したこともなかったし、そこで攻めてもインカレにつながらないので、いつも通り(2本)そろえればいいと思っていました。
――着地の後、何度もガッツポーズされていました
嬉しかったです。
――鈴田選手の後の演技ということで、プレッシャーは
(プレッシャーは)あまりなかったです。自分の演技をやるだけだったので、プレッシャーは感じないで楽しくやっていました。
――インカレに向けて、今後どのような練習をしていきたいですか
腰など調子の良くない部分があるので、上手く調整していって、しっかり団体に貢献していきたいと思います。
――インカレでは、ワセダをどのようなチームにしていきたいですか
主に藤原(昇平、スポ4=埼玉栄)がキャプテンとして引っ張ってくれる役割なので、それをしっかりサポートしつつ、自分の役割をしっかり果たして団体3位に入りたいと思います。
――小倉選手の役割とは
ミスをしないで、みんなのモチベーションが下がらないようにしっかり演技をつなげていくことが役割だと思います。
――インカレに向けての意気込みを一言お願いします
ことしは結構狙い目なので、しっかり演技をまとめていって、団体3位に入りたいと思います。