悔い残る結果も、笑顔で今季の最終試合を終える

体操

 早大体操部今季最後の大会となった全日本団体選手権(全日本)。昨年はあん馬のミスが要因となり惜しくも決勝進出を逃した。「絶対に決勝進出を決める」(佐藤紘翔主将、スポ4=岡山・関西)。最高の結果を残すべく、きょうの予選に挑んだ。序盤から上々のスタートを切った早大は勢いのままにあん馬でも全員が落下することなく演技を終える。しかし得意の跳馬でまさかの失敗。平行棒で粘りを見せたが、あと1.700のカベに阻まれ、ことしも雪辱を果たすことはかなわなかった。

 全日本という並々ではない緊張感の中、鉄棒ではそれぞれが力を出し切ると続くゆかでは美しい体操でEスコア(出来栄え点)を積み上げる。中でも浅野佑樹(スポ2=東京・明星)は高い跳躍で力強さを見せ、15点台に迫る高得点をたたき出した。3種目目はここ数年、早大の鬼門となっていたあん馬だ。ことしの全日本学生選手権(インカレ)でチーム唯一の落下となった嶋津も今大会で体操競技生活最後の大会となる。インカレ同様下級生から主将へとバトンが渡り、佐藤がミスのない実施をすると、ついに順番が回った。安定した旋回だったが、一瞬のリズムの乱れで支える手が止まる。この瞬間、誰もが落下を危惧(きぐ)した。「最後の試合の意地や粘りを見ることができました」。佐藤が同期・嶋津の演技をこのように振り返る通り、粘りの力技で立て直す。ついに早大はチーム全員が落下なく演技を終えた。チームの盛り上がりは最高潮に達し、苦手のつり輪へと挑んだ。臆することなくそれぞれが実力を最大限に発揮すると、最終演技者・嶋津がこの種目でもチームを引っ張り、4年生としてのプライドを見せつけた。

競技生活最後の大会であん馬をついに成功させた嶋津

 流れは突然にして途絶えた。5種目目の跳馬、早大にとっては得点源となる種目だ。しかし、きょうは状況が違っていた。藤原昇平(スポ3=埼玉栄)がロイター板で滑り、技にならないというまれに見るミスを犯す。これを皮切りに佐藤、浅野が着地で乱れ減点となる。全日本種目別選手権王者である小倉佳祐(スポ3=千葉・習志野)も雰囲気にのまれ、まさかの着地で失敗。決勝進出は大きく遠のいてしまった。チームが一転して暗くなりかけた中迎えた最終種目の平行棒。二人目の演技者である浅野が悪い空気を断ち切ると、さらに4年生二人が最後の意地を見せた。嶋津が体勢を崩しながらも不屈の精神で倒立を披露すると、佐藤も高難度の技も美しく決める。全種目を終え早大体操部として臨む最後の試合を良いかたちで締めくくった。

チームを1年間引っ張ってきた佐藤主将

 無情にもついえた決勝進出という夢。だが選手たちの顔は充足感に満ちていた。跳馬での失敗はあったものの、昨年の敗退とは明らかに違っていた。今季のチームの持ち味である笑顔。チームを盛り上げようとする姿勢。「(早大体操部は)体操に真面目なやつらばかりなんです」(佐藤)。チームをより良い雰囲気にするために主将だけでなく、全員で自然と取り組んできたこと。それがきょうの試合ではきちんと体現されていた。笑顔の裏に隠された4年生の悔しさは間違いなく後輩へと伝わっている。来季はさらに強くなった早大体操部が見られそうだだ。

(記事 三上雄大、写真 寺脇知佳、栗田麻里奈)

男子団体予選
選手名 ゆか あん馬 つり輪 跳馬 平行棒 鉄棒 合計点
佐藤 紘翔(スポ4) 14.600 14.200 13.400 14.450 14.000 70.650
嶋津 尚弥(スポ4) 14.100 14.650 13.950 13.500 56.200
小倉 佳祐(スポ3) 13.950 12.950 13.900 13.850 54.650
藤原 昇平(スポ3) 14.200 14.350 14.300 0.000 14.250 14.250 71.350
浅野 佑樹(スポ2) 14.900 14.000 14.250 14.000 14.650 71.800
竹中 貴一(スポ1) 14.250 14.000 14.000 14.200 13.450 13.400 83.300
団体 57.950 56.650 56.950 55.700 56.650 56.400 340.300(6位)
コメント

佐藤紘翔主将(スポ4=岡山・関西)

――きょうの意気込みは

予選通過を絶対にすることを目標にしていました。

――その中でまずご自身の演技を振り返ってください

ゆかまでは地に足が着いていないような状況で、ようやくあん馬で流れをつかんだというような感じでした。つり輪は自分は演技しなかったので、みんなの演技を見ていたのですが、本当にみんなが演技をしてくれて、良い流れで跳馬には迎えられたんすがね。自分も練習のときから不安に思っていた跳馬で失敗が出てしまいました。この過失でチームが暗くなりかけたのですが、最後の平行棒は自分だけでなくチームとして本当にいい演技ができたと思います。

――跳馬での失敗の要因は

今シーズン跳馬はとても調子が良かったのですが、最近少し気になるところがあって、なかなか調整ができずという状況でした。会場練習でもギリギリ合わせられたくらいだったので、できるとは思っていたのですが不安要素が演技に出てしまいました。

――あん馬ではようやくチーム全員が成功を収めました

そうですね。つり輪までは本当に演技がチームとしてできていたと思います。

――同期である嶋津選手もあん馬をついに落下なく演技を終えられました

途中本当に止まりかけて落ちるかと思ったのですが、最後の試合の意地や粘りを見ることができましたね。あの演技を見てチームがさらに盛り上がったと思ったのですが、跳馬で失敗してしまい、嶋津の頑張りを無駄にしてしまいました。

――跳馬では藤原選手の行った技が抜けてしまいましたが

本人はロイター板で滑ったと言っていました。僕も初めて見ました。前の人が失敗しても自分のやるべきことをするだけなので、自分の責任です。

――最後の平行棒は意地を見せました

点差的にも頑張れば届かない点差ではなかったので、チームで切り替えて挑みましたがあと一歩及びませんでした。

――主将として臨んだ一年間はいかがでしたか

僕にはただ四年生という理由で主将という肩書きがついているだけで、特に自分がしたことはありません。みんな真面目で才能のある仲間ばかりなので僕が何を言う必要もなく、楽をさせてもらいました。本当に下の代には感謝しています。

――雰囲気が昨年とは違う印象を受けました

ことし入った1年もすごくムードを作ってくれるやつもいますし、下の代が明るいやつばかりで盛り上げてくれているからではないかと思います。全く自分の力ではないですね。全員が真面目に体操に取り組んでいるから、自然と良くなかった部分を変えていくようになっているのかなと思います。

――4年間振り返っていかがですか

個人としては何一つ結果を残すことはできませんでしたが、4年のインカレでチームでああいう演技をできたことが本当にうれしいです。1番心に残っている大会です。

――早大体操部に一言お願いします

自分が早大体操部主将という立場になって、ようやく自分のいる大学への誇りや、すべき行動などを自覚するようになりました。みんなにはもっと早くからそのことに気づいて、早大体操部の一員であることを自覚し、誇りを持って、生活していってもらいたいです。

――これからも体操を続けられるとのことですが、今後の抱負をお願いします

らいねんの全日本個人総合選手権の権利を持っているので、まずはそこを突破し、NHK杯に出場することが目標です。

嶋津尚弥(スポ4=和歌山・田辺工)

――試合を終えて率直な感想をお願いします

この試合で僕自身引退するという思いでいままでやってきました。あわよくば決勝に行ってもう1試合やりたいという気持ちはあったんですけど、結果的には6番で、予選通過はできませんでした。でも最後にみんなでいい演技して終われたことは、良かったなと思っています。

――演技からは気迫が感じられましたが、どのような意気込みで臨まれましたか

(自分の体操は)きれいな演技というよりはどちらかというと力強く腕の力でという意識があって、粘り強さは持っていると思います。それがきょうの試合で出たので、良かったなと思います。

――自分らしい演技ができたという感じでしょうか

そうですね。自分としては満点でいいんじゃないでしょうか。

――特につり輪は圧巻の演技でしたね

最近の練習通りの演技ができたので、非常に良かったと思います。

――得意のつり輪で着地までピタリと止め、チームも沸きました

着地は狙っていたわけではなく、後ろに一歩という意識でやっていたんですが、たまたまうまくいったのは良かったですね。

――昨年の全日本団体戦では試合後に人一倍悔しそうにされているのが印象的でした。ことしはその時の表情とは違っていますね

そうですね。きょねんは先輩の引退試合で、そればっかり考えて演技に集中できなくて。それでボロボロの試合をして、チームにも迷惑をかけてしまいました。ことしは自分のことだけを考えてできたので、それがこの演技につながったのではないかと思います。満足しています。

――今シーズンを通して成長できた部分はどのようなところだと思いますか

最上級生になって、下級生のことも考えなくてはいけないし、大変なこともあったんですけど、頑張って最後までやってくることができました。お世話になった方々、保護者の方や大学の友達、先輩後輩に、感謝したいなと思います。

――早大体操部での4年間は嶋津選手にとってどのようなものになりましたか

高校時代あまり成績が良くなくて、1部校の大学に来てもメンバーに入れるのかと不安だったんですけど、大学3年生のときにようやく入れて、決勝にも個人で進むことができたりして、予想もしていなかった体験をこの大学でさせていただきました。この大学に来て、すごく良かったなと思っています。

――体操を始めた年齢が周囲に比べて遅かったにもかかわらず、トップレベルの選手にまで上り詰めました。これまでどういった思いで体操に取り組んできたのでしょうか

単純に体操が楽しかったというのが一番ですが、成績を残したいという気持ちもあって、それを目指して努力してきた結果、上位で戦える選手になれたのではないかと思います。なので後輩たちも頑張ってほしいなと思います

――後輩に向けてメッセージをお願いします

きょうは後輩たちが跳馬で失敗してしまい落ち込んでしまっているんですけど、試合はいろんなことがあるので。とにかく最後に笑って終われるように、頑張っていってほしいなと思います。