【連載】インカレ直前特集 第4回 佐藤紘翔×藤原昇平

体操

 連載の最後を飾るのは、早大体操部を背中で引っ張る佐藤紘翔主将(スポ4=岡山・関西)と、頼れるエースに成長を遂げた藤原昇平(スポ3=埼玉栄)。共にチームの要として活躍する両選手に、体操への思いや全日本学生選手権(インカレ)への意気込みを語っていただいた。

※この取材は7月30日に行われたものです。

「経験が生きている」(藤原)

国内外で経験を積んだ藤原

――まず初めに、お二人での対談と聞いてどう思われましたか

佐藤 藤原が面白いこと喋ってくれるから、僕はあんまり喋らなくていいかな(笑)。

――お二人は普段からよく話されますか

藤原 はい。練習の面だったり、普通の世間話とかしますね。

――では早速、今シーズン前半を振り返っていただきたいと思います。藤原選手はご自身初のNHK杯出場を果たしましたね

藤原 自分は日本の代表としてどんどん上に行きたいので、日本で一番大きな大会に出ることによって、そういう雰囲気を感じて、自分には何が足りないかというのを学ぶことができました。次につながる良い試合だったと思います。

――佐藤選手はゆかで全日本種目別選手権の決勝の舞台に立ちました。やはり決勝に行きたいという気持ちは強かったですか

佐藤 目標にはしていたんですけど、相当難しいなと思っていました。本当に運良く決勝に行けて、決勝には行きたいと思っていたし、ああいう体育館の中で自分一人だけが演技をするという経験は初めてだったので、すごく興奮したし、緊張しました。とても良い経験をしたなと思っています。

――昨年11月の全日本団体選手権が終わってから今シーズンが始まるまで、しばらく試合のない期間がありましたが、どのように過ごしていましたか

藤原 自分は海外の試合(スタンフォード大対抗戦、環太平洋選手権)があったので、全日本団体が終わってから特に技を増やすわけでもなく、通し練習とかをやっていましたね。

――スタンフォード大対抗戦では非常に高い得点(6種目合計91.300点)をマークされていました。どんな大会だったのか詳しく教えていただけますか

藤原 何年か前から対校戦として日本とスタンフォード大とでやっていたんですけど、最近ではいろんな国が参加するようになっています。対抗戦ということで多少点数が甘かった部分もあって、ああいう点数が出ました。ちょっと出過ぎかなという感じもしたんですけど、出来としては結構良かったので、高い点数が出ることによってとても楽しんで試合ができました。

――海外の選手と試合をして得たものはありますか

藤原 海外の強い選手や五輪に出ている選手もいて、そういう選手と試合をできていることが嬉しかったですし、もっと上に行きたいなという気持ちになりました。

――佐藤選手はオフシーズンの間どのようなことに取り組んでいましたか

佐藤 僕は藤原みたいにすぐ試合がなかったので、新しい技に取り組んで、Dスコアを上げる練習をしつつ、ちょっと体の故障があったので、それも気にしながら、両方が良い方向に進むようにやっていました。

――何かチャレンジしたい技があったのですか

佐藤 僕はなかなか冒険する方じゃないので、どれもDスコアを上げるために、できればやりたくないけどみたいな感じの技が多いです。僕とか藤原くらいになると、だいぶ難しい技をやらないとDスコアが上がらないので。怖くてやりたくないんですけどね(笑)。

――怖いんですか

佐藤 超怖いっすよ、僕は。

藤原 自分はそうでもないです。

――選手によって違うのですね

佐藤 違いますね。技によっても違いますけど。

藤原 イメージ通りにその初めてやった技ができたら恐怖心はないんですけど、明らかに違う景色だったりすると、やっぱり多少の恐怖はあります。でも自分はそんなに感じないですね。

佐藤 本当にうらやましいです。

――ちなみに新しい技に取り組んだのはどの種目ですか

佐藤 あん馬とつり輪と跳馬以外で技を練習したんですけど、結局ゆかと鉄棒は練習した技はやらずに、平行棒だけですね、やるのは。ハラダっていう技です。

――練習していた技ができた瞬間はやはり嬉しいですか

佐藤 嬉しいですね。嬉しいですけど、すぐもう一回やりたいとはならないです。「ああできたー!きょうはもういいわ」って感じです、僕は。

藤原 自分は逆です。

一同 (笑)。

藤原 できたらどんどんやっちゃって、分かんなくなって、もういいやってなります。

――藤原選手は、以前鉄棒で大技カッシーナに挑戦するとおっしゃっていましたが、練習状況はいかがですか

藤原 いまちょっと指を故障していて、Dスコアを上げるのは難しいので、少し落として練習しています。

――お二人ともケガに悩まされているのですね

藤原 そうですね、結構。

佐藤 僕は藤原ほどじゃないですけど。体操選手はみんなどこか故障を持っているので、そこは向き合いながらやっていくしかないですね。

――今シーズンに臨むにあたって、何かメンタル面で取り組んだことはありますか

佐藤 僕は結構、自分の思い通りに事が進まないと駄目になってしまう感じだったんですけど、何が起きても全てを肯定して、受け入れて、そこで自分がいま何をするべきなのかということを全力で考えるようにすることで、どんな状況でも自分の演技ができるという風に、意識を変えるようにしてきました。米田功さんの本にそういったことが書いてあって、自分も実践してみようかなと。

藤原 ことしに入って大きな試合が続いて、経験を積んでいくことで、周りにも気を配れるような精神状態に持っていくことができるようになったので、これといってメンタルの強化をしたというのはないんですけど、経験が生きてきていると思います。

――試合前や試合中は緊張される方ですか

佐藤 緊張しますね。

――緊張していると感じたときの対処法は何かありますか

土屋純監督(昭61教卒=県長野)がよく言う言葉に、「結果はもう決まっている」っていうのがあるんですけど、練習してきたものしか試合では出ないですし、今更緊張してもしょうがないと思うので、練習してきたことを信じて緊張を和らげています。

――藤原選手はいかがですか

藤原 緊張…するのかなあ…。

佐藤 お前いいなあ、全部(笑)。

藤原 いや、緊張するタイプではあるんですけど、毎回緊張するかって言われると、そうでもないです。緊張しません。あ、最近は緊張しません。経験が生きているので。

――お二人ともさまざまなことに取り組んだり、経験を積んだりしてきたということですが、今シーズンに入ってからここまでの手応えはいかがですか

藤原 自分はきょねんU―21に入って代表合宿も経験して、日本の代表として集まってきている選手と練習することによって、そのモチベーションだったりそこで学んだことを大学で広めていけたらなと考えるようになって、ことしはさらにナショナル入りを目指していました。でも全日本とNHK杯はああいう結果で。なので、とりあえずまたU―21に入りたいです。

佐藤 全日本種目別選手権トライアルで3種目だけ出たときは、練習したことを上手に出せたんですけど、6種目の試合になると、やっぱり負担が大きくなって練習してきたことが出せなくて、なかなか手応えを感じられていないですね。

――今後に向けてまだ課題が残っていると

佐藤 そうですね。

「技ができた瞬間は、半端じゃないくらい気持ちいい」(佐藤)

体操への思いを語る佐藤

――お二人が体操を始めたきっかけを教えてください

藤原 自分はテレビでバク転を見て、バク転がしたかったので。あとはシドニー五輪を見てかっこいいなと思って。でも最初はバク転できればいいやくらいの気持ちで体操を始めて、楽しくなっちゃって、なんかいままで続けています。バク転ができるまでにはそんなに苦労しなくて、1カ月もかかりませんでした。

佐藤 僕は幼稚園の体操の授業、マットとか跳び箱とかが楽しくて、体操やりたいって両親に言って、スポーツクラブに入って始めました。

――体操を始めたのは何歳のときですか

佐藤 ちゃんとスポーツクラブに入ったのは小学校1年生です。

藤原 一緒です。

――尊敬する選手はいますか

佐藤 僕が大学1年生のとき3年生だった、武内智之さん(平25スポ卒=埼玉栄)を尊敬しています。なんでそこまでストイックに自分を追い込むことができるのかなと。すごく練習に真面目で、自分もあれくらいストイックにできるようになりたいなと思って、毎日背中を見ていました。

藤原 自分は日本の体操選手みたいな美しい体操なんてできないので、外国の選手に憧れますね。

――高校時代はどんな環境で練習していましたか

佐藤 岡山の関西高校だったんですけど、多分高校の中でもトップを争うくらい練習時間が長くて、キツくてキツくて毎日東京に帰りたいと思っていました。でも体操のために岡山までわざわざ行ったので、そこはしっかり練習して、行かせてくれた両親に恩返ししないとなという気持ちでした。

藤原 (埼玉栄高校は)強豪校なので、優勝校の伝統を継がなきゃいけないというプレッシャーがありました。練習量はそこまでではないんですけど、トレーニングが尋常じゃなく厳しかったです。あと生活のことも結構厳しくて。その頃はつらいと思っていましたけど、それがいまに生かされているのかなと思います。なので、高校はとても良かったです。

――これまでの体操人生の中で、何かターニングポイントになるような出来事はありましたか

佐藤 僕はとても指導者に恵まれていて。中学までは、体操の楽しさを全力で教えてくれるような先生でした。中学校くらいまでって他にいろいろな誘惑があるじゃないですか。でもやっぱり体操楽しいから辞めたいとはならなかったし、関西高校に行っても、毎日厳しい練習だったけど楽しいって思いながら練習できました。それぞれの時期に、良い先生方に出会えたのがターニングポイントです。本当にいままで教えてくださった先生方には感謝しています。

――早大の土屋監督はどのような方ですか

佐藤 いままでは体操のことばかり教えてもらってきたんですけど、(土屋先生は)体操以外のことをよく話してくれる先生で。とても頭の良い人だと思うので、話していて勉強になりますし、面白いです。土屋先生に出会えたことも大きなターニングポイントだと思います。

――藤原選手はいかがですか

藤原 高校のときの同期に加藤凌平(順大)がいて、自分たちの代からは言われてやる練習ではなく、大学みたいに教え合って練習するようになって、それで本当に凌平からいろいろ学びましたね。凌平に、トランポリンをやれと言われたんですよ。いままでやったこともなかったから、やりたくないと逃げていたんですけど、それでも嫌々やっていて。そしたら、だんだんトランポリンの感覚と体操の技の感覚が似ているなということに気付いて。その一言がなかったら自分は成長できていないと思いますし、もちろん感覚も身についていないと思います。なので、凌平に出会ったことが自分にとって大きなターニングポイントというか、多分そんな感じです。

――お二人とも体操が楽しくて続けているとおっしゃっていましたが、体操の魅力はどんなところにあると思いますか

佐藤 自分がイメージした通りに体が動いて技ができたときの瞬間というのは、半端じゃないくらい気持ちいいし、それが毎日の練習で味わえます。試合だったら、いつも練習してきたことが思い通りにできたら本当に嬉しいって思いますね。

藤原 自分もだいたいそんな感じです。想像もできないような動きを試してみて、それができたときの嬉しさは何にも代えられないので、そこが体操の楽しさだと思います。

――話は変わりますが、お互いの第一印象はどのようなものでしたか

藤原 第一印象っていうと高校ですかね。試合でよく見ていたので。

佐藤 ゴリラがつり輪やってる!って感じでした(笑)。

藤原 そんなことないですよ(笑)。第一印象は、高校のときは結構髪が短くて、目つきもよろしくなかったので、ちょっと怖いなと。でも(実際は)そうでもなかったです。

佐藤 優しいもんな(笑)。僕は藤原がうらやましいと思っていましたね、筋肉もりもりで。僕はあまり力がない方なので。高校生の頃から中水平やってたよな。

藤原 はい。

佐藤 中水平っていう力の必要な技を藤原がやっていたので、いいなあと。悪い印象ではなかったですね。

藤原 自分もそうです。自分にない、きれいな体操なので。体線も美しくてしっかりしていますし。体操に関してはうらやましいところばかりでした。

――それぞれタイプの違う体操ですね

佐藤 全然違いますね。藤原は力はもちろんあるんですけど、技術もちゃんとあるので、ただ荒削りなだけではなくて、しっかりときれいな体操をやりますね。

藤原 紘翔さん(佐藤)は体線が非常にきれいで、自分は通しの後半とかに疲れてくると倒立が反ってきてしまうんですけど、そういう状況でもしっかりとした倒立姿勢でさばくので、そこがうらやましいです。

――練習中にお互いに教え合ったりすることはありますか

藤原 ちょいちょいあります。

佐藤 僕はちゃんとしたアドバイスを聞きたいなっていうときはだいたい藤原に聞きますね。

――部全体でも教え合う雰囲気なのですか

藤原 全体というわけではないです。

佐藤 なかなか自分から聞きにいけないやつもいるので、そこは上が気にしていかなきゃいけないなと思います。

――佐藤選手は主将として、現在の体操部をどう見ていますか

佐藤 みんな本当に僕から見たらうらやましいくらい才能を持っているやつらばかりです。僕は、みんながその才能をしっかり発揮してくれればいいなと思っています。

――では藤原選手から見て、いまの4年生の代はどういった印象ですか

藤原 いまは4年生の男子が2人しかいないので、大変な部分もあると思います。紘翔さんは、言わなくてもみんなを信じているという感じのキャプテンです。信頼されている感じです。

「嬉し泣きして終わりたい」(佐藤)

互いに信頼し合っている佐藤と藤原(左)

――昨年のインカレはお二人にとってどのような大会でしたか

佐藤 あん馬とつり輪で失敗してしまって、チームにも迷惑をかけてしまったし、自分が目標としていたU―21日本代表にも入れなかったので、あまり良い試合ではなかったですね。

藤原 毎年課題とされているあん馬が弱点で、そこでチームの雰囲気が少し悪くなってしまったので、雰囲気づくりというものができていないと勝てないなと実感した試合でした。個人的にはU―21に入れたことは良かったですね。

――あん馬が弱点というお話しがありましたが、その対策は何かしていますか

佐藤 みんな能力があって難しい技もたくさんできるし、その技を自分の演技に入れたいと思っている人もたくさんいるんですけど、少し抑えて、余裕をもった演技構成で失敗せずに演技できるようにという対策を取っています。

――ことしのインカレの目標を教えてください

佐藤 団体は3位をもちろん狙っていて、個人ではらいねんの春に行われる全日本選手権の権利を必ず取ることです。

藤原 団体は3位。個人では、いま指の故障もあるので、出来る限りのことをやって、またU―21に入りたいのと、らいねんの全日本選手権の権利を得たいと思います。

――団体3位というのは非常に大きな目標としてあると思いますが、仙台大など他の強豪校に勝つためには、どんなことが大事になってくると思いますか

藤原 雰囲気ですかね。強いチームって、試合中でも楽しくやっている気がするんです。4位、5位の大学はそれに比べると余裕がないというか。なので、楽しくできるかどうかというところも差になると思いますね。

佐藤 強い大学には、たくさん強い仲間たちがいて、追いつけ追い越せという気持ちが自然に出て、みんな強くなっていくと思うんですけど、ワセダは人数が多くないのでそれが少ないっていう部分があります。すぐそばにはいなくても他の大学のライバルたちをイメージして意識して練習することで、上に行けるんじゃないかと思います。

――現時点での団体戦のチームの雰囲気はいかがですか

佐藤 良い感じで盛り上がっています。けど、練習していてたまに失敗が出てしまったときに、まだ少し沈んでしまうので、そこで沈まずに次の種目に行くというところがもうちょっとかなと。そこをどうにか乗り越えて行ければ、良い雰囲気でインカレに臨めると思います。

――最後に、目前に迫ったインカレに向けて、それぞれの意気込みをお願いします

藤原 まずはチームのことを考えて失敗をしないことですね。自分が失敗しちゃいけない立場だということは自覚しているので。良い試合運びができたらと思っています。

佐藤 いままで支えて応援してくださったOBの方々のためにも、土屋監督のためにも、馬場亮輔コーチ(平18年人卒=埼玉栄)のためにも、下の部員や同期の部員のためにも、みんなが後悔を残さず、笑って、あるいは嬉し泣きして、終われたらいいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 末永響子)

主将とエースでツーショット

◆佐藤紘翔(さとう・ひろと)(※写真右)

1992(平4)年4月6日生まれ。168センチ、61キロ。岡山・関西高出身。スポーツ科学部4年。体操への一途な思いと、周囲への感謝を忘れない誠実さが、言葉の端々から伝わってきました。最近は積極的に映画を観たり本を読んだりして世界を広げられるように頑張っているそうです。

◆藤原昇平(ふじわら・しょうへい)(※写真左)

1994(平6)年1月1日生まれ。160センチ、58キロ。埼玉栄高出身。スポーツ科学部3年。色紙に迷わず書いたのは『初志貫徹』の文字。海外の試合に出場するなど着々と活躍の場を広げる藤原選手ですが、大きな志を持って取り組んでいるからこそ現在の躍進があるのですね!