12月3日に早稲田で行われた早慶定期戦(早慶戦)。声出し応援が解禁され、さらに応援部によるパフォーマンスなどもあり終始熱気を帯びた大会となった。結果は、女子フルーレと男子サーブルが勝利を収めるも他種目は慶大に軍配があがり、早大は2年ぶりの総合優勝とはならなかった。
盛り上がりを見せた早慶戦。総合優勝は慶大
今年で75回目となった伝統の一戦は女子エペで幕を開けた。女子エペのエース・蓮井陽菜(スポ3==香川・高松北)を中心に、「原田紗希(慶大)選手に耐えて、他の選手で点を取るということをイメージしていた」という言葉通り、中盤までわずかなリードを守り続けた早大。しかし終盤、その原田にポイントを奪われ差が開くと、そのまま流れを引き戻せず36―45で敗戦を喫した。
女子エペ 蓮井陽菜(スポ3==香川・高松北)。敗れても笑顔は絶えず
2試合目に行われた男子エペでは、序盤は競った展開に持ち込めたものの、攻めにいったところを突かれるなどして徐々に点差を離され、33―45で苦杯をなめる結果となった。3試合目は、エースの黒田ほのか(スポ4=香川・三本松)を筆頭に蓮井とフルーレの森多舞(スポ2=山口・岩国工)で臨んだ女子サーブル。1セット目に黒田が圧巻の攻撃を見せると、一時逆転を許しながらもその勢いのまま中盤までリードを保った。しかし6セット目で江頭麗万(慶大)に11ポイントを献上し、巻き返すことができず41―45で惜敗。そんな中黒田は「私が引っ張って最後は締めたかったけど、それができなくて残念という気持ちが強い。でも他の2人が全力でやってくれたので、負けはしたけど楽しい試合ができたかなと思います」と笑顔を見せた。
男子エペ 金高大乗(社4=香川・高松北)
女子サーブル 黒田ほのか(スポ4=香川・三本松)
ここまで3連敗し、負ければあとがない状況で迎えた4試合目は男子サーブル。主将の森多諒(社4=山口・柳井学園)を中心に、田中智也(商2=千葉・東葛飾)、佐藤悠雅(人科1=福岡・西南学院)が慶大に挑んだ。序盤はリードを奪うも、4セット目に佐藤が19―20と1点の逆転を許してしまう。しかしその直後に森多主将が「自分の今までの感覚を信じて」反撃し流れを早大に引き寄せると、続く田中と佐藤が相手に1ポイントも譲らない圧巻のプレーで慶大を突き放す。そのまま早大が点を重ね、45―28で今大会の初勝利を手に入れた。最後回りを務め、競技人生最後の1本を取り切った森多主将は「悔いのない終わり方ができて幸せだったと思います。(最後は)いろんな人の顔が思い浮かんだ」と涙を見せた。
男子サーブル 森多諒(社4=山口・柳井学園)。この早慶戦をもってフェンシングを引退する
森多舞に加え専門外の2人を擁して臨んだ5試合目の女子フルーレは、抜きつ抜かれつの展開に。5セット目には残り10秒のところで相手に連続ポイントを決められるも、森多舞が得意のアタック(腕を伸ばした状態での突き)を武器に攻め込み、慶大に傾きかけた流れを取り戻す。そのリードを保ったまま45―36で2勝目を手にした早大。「自分のフェンシングができた。先輩たちも耐えてつないでくれた」と森多舞は感謝の言葉を口にした。
女子フルーレ 森多舞(スポ2=山口・岩国工)。勝利が決まり「これまでにないくらい叫んだ」という
得失点差で1点上回っていた早大は、最終戦の男子フルーレが勝利すれば総合優勝という有利な状況に。さらに今年の男子フルーレは、王座決定戦や関東学生選手権で優勝し、全日本学生選手権でも準優勝するなど歴代最強のチームであったため、順当にいけば優勝は堅いと思われた。ただそこで想定通りとならないのが伝統の一戦の醍醐味でもあるのだろうか。「プレッシャーを感じていた。でもやるしかないという気持ちで臨んだ」と、中盤までは相手のビッグプレーに阻まれながらも何とか接戦を制していたが、終盤にかけて徐々に慶大のペースに飲まれていく。8セット目、川村京太(スポ4=東京・東亜学園)は慶大の強豪選手・飯村一樹に対し「フィニッシュまでの運びはよくできていたが、突く攻撃の精度が落ちてしまった」と、うまく相手を捉えることができず37―40と追い込まれた。結局この劣勢な状況を巻き返すことができず、39―45で敗戦。昨年に引き続き慶大に総合優勝を譲る結果となってしまった。アンカーを務めたダグラス・ビューワーニック(スポ3=埼玉・星槎国際)は、「(最後回りを)任せてもらったのにな、と悔しい思いが込み上げてきました」と試合後なかなか立ち上がれずにいた。
藤澤将匡(スポ3=宮城・仙台城南)。強豪の飯村一樹を相手に勝負を制した
敗戦し崩れ落ちたダグラス・ビューワーニック(スポ3=埼玉・星槎国際)
敗れはしたが、自慢の明るさとチームワークで最後まで戦い抜いた早大フェンシング部。この大会を機に代替わりし、新たに主将に就任した藤澤将匡(スポ3=宮城・仙台城南)を中心に、残る全日本選手権の団体戦で4年生が有終の美を飾ることができるよう、あと1週間ほど精進していく。
(記事、写真 槌田花)
コメント
森多舞(スポ2=山口・岩国工)
――早慶戦にはどのような気持ちで臨みましたか
去年は違う大会に出ていたので自分にとって初めての早慶戦で、ちょっと独特な雰囲気で結構緊張もしたし、自分でも手が震えるくらい緊張していたんですけど、自分が引っ張っていかないと、という気持ちもあったので、2人につなげてもらって自分がロースコアで点を取るという作戦でした。
――試合を振り返っていかがですか
結構自分のフェンシングができたし、ちょっと楽して簡単に点を取られてしまったところもあったんですけど、アドバイスも先輩たちにして、先輩たちもそれで耐えてくれて、つなげてくれて最後勝つことができたので、本当に感謝です。
――試合中に意識していたことは
自分はアタックが得意なので、ディフェンスにきても自分が攻撃権を取ってそこからもう1回アタックにつなげるというのを意識してやっていました。3種目やったので、サーブルがまだ残っていたり、突きなのに最初はカットするみたいな(笑)でも後半はちゃんと調整できたかなと思います。アドレナリンでどうにかなったんですけど、休憩しているときに一気に疲労きて、でもけがせずに終えられたのでよかったです。
――全日本選手権に向けて意気込みをお願いします
全種目出るので、そこでは強い人しかいないので、全種目で貢献できるように全力で頑張ります。フルーレでしたらベスト4に行く、狩野先輩もいるので、狩野(央梨沙、スポ4=宮城・常盤木学園)先輩と最後に組める試合なのでそこでベスト4目標で。他種目も、1勝は絶対したいですね。他種目だとしても全力で、あきらめずに頑張ります。
――お兄さんが競技人生最後の試合でした
最後45本取り切った後に、涙を流しているのを見て私ももらい泣きしそうになったんですけど、次試合だったので危ないと思って(笑)本当にやり切った、悔いのない終わり方をしたのでよかったなと思います。お疲れ様って言いたいです。
――ありがとうございました!
森多諒(社4=山口・柳井学園)
――早慶戦が競技人生最後の試合ということで、今はどんな感情が大きいですか
最後の1本を取る前にもう泣いていました。最後1本取り切ったら俺のフェンシング人生が終わるという、その時点で泣いてて。やっぱりチームとして負けたのはしょうがないし課題もいっぱいあると思いますが、自分個人の気持ちとしては最後の終止符を良いかたちで終われたかなと思っています。悔いはない終わり方ができて僕は幸せだったかなと思います。
――最後の涙はどういう感情だったのですか
中2からオリンピックの強化選手に選ばれて、そこから遠征に行ったりというメンバーが頭に思い浮かんで…これが終わると思うといろんな人の顔が思い浮かんだというのが一番大きかったかなと思います。それですごく昂ぶって涙が出てきたかなという感じです。
――試合前はどのようなことを思いながら早稲田に来ましたか
あがり症だから落ち着いてというのもありますが、最後俺の友達が30人ぐらい来ていたので、そういう人たちにフェンシングの魅力を知ってもらうためには俺がいいところを見せないと、と思って。やっぱり勝ちにこだわるためにハッスルしたり、そういうのをちゃんとしようという決意で来ました。
――試合内容に移ります。5セット目、佐藤選手が1点差で負けている状態で戻ってきてから森多選手に代わってそこから流れが変わったような気がしましたが、あのセットは何を意識していましたか
とにかく落ち着くこと。あとは、無意識な動き、例えばフェンシングって全部考えてやってしまうと、反応がほんの何秒遅れてしまうので。そこは今までやってきたことを信じてやってこうと。ある程度判断がすごく早くできて、自分なりのフェンシングとか自分の今までの感覚を信じてやったら、自分っていろいろやってきたんだなということを感じました。
――技術面で意識したことはありましたか
選手としては、派手な技をやりたいです。でもそれよりも大事なこと、今まで自分はそれを練習してきたわけじゃないし、勝つために自分は違う練習をしてきたので、試合でそれをいきなりやるのは違うなと思って、戦術としては基本的なこと、今まで自分が課題としてしっかりもって毎日練習してきたことが、本当に慶大にも通じると思っていたのでそれは曲げずにいきたいなと思っていました。
――終わった後にかけられた言葉はありますか
俺がすごく涙していたので…久しぶりに泣いて、その時にかけられた言葉は、「やっぱお前森多だよ」みたいなことを言ってくれて。結構昔は強かったのですが、大学に入ってあまり成績が出せずに他の事に集中してたりして、「お前やったら強くなるのにな」とかいろんな監督に言われてて、そこで「やっぱりお前はお前だよ」みたいなことを言ってくれたのは最後の最後で良かったなという風に思います。
――インカレの話に移ります。団体戦は去年と同じ3位でしたが、メンバーも変わって、前回の3位と今回の3位では何か違う点はありましたか
流れが向こうにある時に、全力でこっちに流れを持ってくるということは、常々言っていましたが、それが体現できたのが今回のインカレだなと思っています。みんなの成長だったり、みんなが点取られてきても、その時にかける言葉だったりというのがすごく成長したなという風に思います。
――中央大との試合で、佐藤選手が離された後に怒涛の追い上げがありましたが、あの時は何を意識していましたか
やっぱり下がらないことです。サーブルでは下がるのがベースの人もいるのですが、「お前は絶対に前に行った方が強い」って誰もが言うので、そこは自信を持ってしっかりと前に行ったら、すごく追い上げられて、自分のフェンシングができたなと思っています。
――個人戦は12位に終わりました。良かった点と悪かった点をそれぞれ教えてください。
オリンピック強化選手の一緒に切磋琢磨していた選手と最後にあたって負けてしまったのですが、インターハイの決勝でも負けてて、今回は絶対に勝ちたいなと思ってやっていて、本当にシーソーゲームでした。最後にバッと離されて、でも追いついて、最後13ー14で俺のポイントじゃないかというところで負けてしまって。そういう悔いはあるけど、今まで一緒に育ってきた選手と、最後試合ができたというのはすごく心にも残るし、すごく楽しかったなという風に思っています。
――今日の試合でも判定に納得がいかないというシーンはありましたか
ありました。あの審判をやっていたのもそのオリンピックの強化選手で一緒にやっていた選手で、高3の時に俺がインターハイで準優勝で彼が優勝しました。そういう人にジャッジしてもらって、あれは確かに自分も感情的にはなるけれど、冷静に考えたら違うのかなという風に思います。
――ありがとうございました!お疲れ様でした。