【連載・第4回】『最後の戦い』北川隆之介主将×鬼澤大真

フェンシング

 早大フェンシング部の二枚看板、北川隆之介主将(スポ4=埼玉栄)と鬼澤大真(社4=茨城・常磐大高)。入学当初から互いに切磋琢磨(せっさたくま)し進化を続けてきた2人も、ことしがラストイヤーとなる。好調な滑り出しを見せた春、苦い経験を糧に成長した夏。そして、全国の舞台に挑む秋──。集大成を迎えるにあたってWエースは何を思うのか。その本音に迫った。

※この取材は10月31日に行われたものです。

敗戦も成長の糧に

チームのムードメーカーで、関カレ覇者の鬼澤

──最近の練習状況はいかがですか

鬼澤 いつも通り頑張っています。試合も近いので。

──重点的に取り組んでいることはありますか

鬼澤 というよりも僕は、もう全てが最後なんだなと思って…感慨深い気がしないでもないです。

北川 (笑)。

鬼澤 でもそうでしょ?

北川 確かに。やっぱりインカレ(全日本学生選手権)で終わるから、こうやって本気で追い込んで練習するのも最後になるのかなと思うと寂しい気持ちになりますし、早くインカレを迎えたいという気持ちにもなりますし…。

──大変ながらも寂しさがあるという感じでしょうか

鬼澤 そうですね。キツさもまぁ、ありかなと。頑張るしかないかなという感じですね。

──4月からいままでのことをお伺いしたいと思います。まず、春の関東学生リーグ戦(リーグ戦)では優勝しました

北川 きょねんはリーグ戦、王座(王座決定戦)、関カレ(関東学生選手権)と三個(のタイトルを)取って、今季は追われる立場で臨んだので、最低優勝という気持ちでした。

鬼澤 負けられないというか。だから、優勝した時はうれしいというよりも正直ほっとしたという気持ちの方が大きかったです。

──追われる立場としての気負いはありましたか

北川 気負いというよりも、4年なのでやるしかないし、たぶん大丈夫だろうみたいな感覚で臨んだ気がします。

──その自信は4年間培ってきたものが基になっているということでしょうか

北川 そうですね。あとはきょねんの経験とか。

──夏季には全日本選手権(全日本)やユニバーシアード(ユニバ)がありました。全日本では思うような結果を残せなかったように思いますが、そのことについてはどのように思われますか

北川 悔しい気持ちもありますが、全日本というよりは学生なのでやっぱりインカレを取るということが大事だし、その時はユニバーシアードも近かったということもあって、変にそこで気落ちせず「良い経験になったな」と。終わった後はそんな気持ちでした。

──全日本での経験は具体的にどのようなかたちでユニバーシアードに生きてきましたか

鬼澤 自分はもう、やることを悩むんだったら1つに決めて、相手も外国人でしかも自分よりも大きい選手だったので、そういう中で自分のできることを1つやって、それが勝ちに繋がれば良いなという感じでした。全日本の時は変にいろいろ考えすぎてどれも上手くいかなかったかなと感じたので、じゃあ1個にしてできることをやろう、という風にしました。

──全日本の時にいろいろ考えてしまったというのは、具体的にはどういったことでしたか

鬼澤 例えばいま攻めようかなとか、ポイント取りにいったら取れるかなとか、でも避けられたらどうしようかなとか。そういうのが堂々巡りというか。それで結果、全部が中途半端になってしまって、だから終わってももやもやするし…。そんな感じだったので、そういう風に終わるのは嫌だなって。負けるにしても自分なりの負け方というか、やることをやって負けた方がまだ悔いがないかなと思ったので、悔いが残らないようにという気持ちでユニバーシアードは戦いました。

──北川さんは全日本で経験したことが、どのようにユニバーシアードで生きてきましたか

北川 日本と海外って体格差とかも全く違うので一概には言えないんですけど、調子は本当にその時期良かっただけに、全日本では上位に進出できるんじゃないかと自分でも思っていました。それくらい練習してきていたので、全日本の経験が活きたというよりは本当にそこで気落ちせず、いままでやってきたことを信じてユニバでぶつければ良いかなという感じでユニバに挑みました。

──北川さんはユニバーシアード初出場でしたが、いかがでしたか

北川 いやぁ、良かったです。

一同 (笑)。

北川 2年前に大真が行ってその話とかをいろいろ聞いていたので、ユニバだけは絶対に代表になりたいなと思っていました。いざ行ってみたら、本当にオリンピックみたいでした。開会式とかも盛大にやるし、ジャージとかも全部支給されるし。それで選手村に入って、日本でも(鬼澤と)いつも一緒にいるのに、海外に行って一緒にいるのはあれなんですけど(笑)。本当に試合もそうですが、人生においても良い経験になったなと思います。

──2年前は鬼澤選手からどのようなお話を聞いていたのですか

北川 「本当にオリンピックみたいだしすごかったよ」ということを聞きました。

──ユニバーシアードの、試合以外での思い出はありますか

鬼澤 ロシア人がすごくかわいかったです。

一同 (笑)。

北川 現地ボランティアの子がいて、その子に結構案内をしてもらって。

──どちらに行かれたんですか

鬼澤 いや、出られないんですよ。

北川 基本的に選手村から出られないです。

──鬼澤さんは2年前にも出場なさっていましたが、今回はいかがでしたか

鬼澤 2年前に出て、1回戦かな。そこで負けて。結構不完全燃焼で、その思いだけはしたくないと思っていました。それで、焦らないで自分のフェンシングをしようという感じで戦いました。

──ユニバーシアードに出場してから変わったことはありましたか

鬼澤 ユニバーシアードの前に海外の試合に何度か行って、外国人選手との戦い方とか自分たちの知らない技とか、単純なことなんですけど新しいことを多く学べました。ワセダは指導者がいないんですけど、ユニバーシアードはコーチとかもいて、いまもナショナルチームの練習をやったりして、ユニバーシアードを通してフェンシングの新しい発見することができたかなと思います。

オフの過ごし方

──4年生で大学生活もあと少しとなりましたが、最近はいかがですか

鬼澤 追い込んでいます。

北川 めちゃくちゃ追い込んでいます。

──卒論などでしょうか

北川 違います。遊びです(笑)。

鬼澤 4年生の友だちがフェンシング部以外にも結構いて、みんな就職も決まっているんですけど、全員が東京にいるとは限らないので、ご飯行こうってなります。

北川 ご飯楽しいよね。

──何部の選手と仲が良いんですか

鬼澤 自分は学部一緒で、ちょうど道場が隣なのでここでよく会う空手部の主将(丸山政宏、社4=東京・世田谷学園)と仲が良いです。

北川 自分はスポ科なのでトップアスリートがたくさんいて、ア式(蹴球部)とか競走部とかも最近仲が良いです。大迫(傑、スポ4=長野・佐久長聖)とかよく食事に行きますね。あとは来年Jリーグに行く三竿(雄斗、スポ4=東京ヴェルディユース)とか、榎本(大希、スポ4=横浜・Fマリノスユース)とか(中田)航平(スポ4=横浜・Fマリノスユース)とか。その辺とすごく仲が良くて、やっぱり刺激を受けますね。

──他の部の選手とご飯に行ってどのような話をなさるんですか

北川 普通の話しかしないです(笑)。競技の話はあまりしないけど、お互いにいろいろ聞いて知りたいから「この間の試合どうだった?」とかは話しますね。

──他競技の選手と話して驚いたことや意外だったことはありましたか

鬼澤 驚きというよりも、自分は部活の話とかだったら、「こういう後輩がいるんだけどどうしてる?」とかそういうことを結構話します。みんな4年生なので、後輩を頑張らせるにはどうしたらいいかとかそういう真面目な話もしたりします。あとは、みんなふざけてそうで意外とやることはちゃんとやっているんだなと思います。

北川 それは思う。まぁ、やるべきことをやっていない人は上まで行けないだろうなという感じですが。試合とか見に行ったりすると、すごくかっこいいなと思います。

──お二人で遊びに行ったりはしますか

鬼澤 二人ではないかなー。他大のフェンシング部で仲良い人たちが8人くらいいるんですけど、だいたいそのメンバーで遊んでいます。

北川 暇になると集まっていますね。

──みなさんでどちらに遊びに行かれるんですか

北川 買い物行ったり食事行ったりだよね。

鬼澤 主に食事です。

北川 でもなんかプラプラしてるんですよ。ただ家にいてみんなでぐだぐだ喋ったりもするし。

──フェンシング以外で好きなことはありますか

北川 (プロ野球・広島東洋)カープが好きです。カープ女子が増えたらしくて、見に行った時に回りを見渡してみるんだけどおじさんしかいないです(笑)。夏休み前にカープファンじゃないフェンシング部の後輩を連れて、みんなでユニホーム来て応援しました。

──ちなみに好きな選手は

北川 今村選手(猛、広島東洋カープ)ですかね。同い年なんですよ。

──鬼澤さんはフェンシング以外で好きなことはありますか

鬼澤 なんだろうなぁ、俺つまらない人間なんですよ。

北川 (笑)。

鬼澤 強いて言えば買い物は好きですね。あとダンスが好きで見たりしてます。

北川 若干踊れるよね。

鬼澤 うん。若干踊れます。

──いつくらいからダンスが好きなんですか

鬼澤 高校生くらいかな。深夜番組でダンスをやっていてそういうモテそうなことが好きなので(笑)、かっこいいなと。バク転とかも昔好きで、そういうのをできるようになるのが好きでした。運動が好きですね。合宿中もずっと一人でYouTubeとかを見てかっこいいなと。

──運動が好きということでしたが、フェンシング以外でどんなスポーツを経験なさってきましたか

鬼澤 中学校は部活に入らなきゃいけなかったので、野球部に入りました。でもサッカーとかバスケとか全部好きで、休み時間にやっていました。

──試合前のゲン担ぎはありますか

鬼澤 ないかも。

北川 俺もないかも。何かある?

鬼澤 ない。特にないです。

北川 普段通り平常心です。

鬼澤 緊張しちゃうから逆に喋ります。

──試合前は一人で集中を高めるタイプと周りの人と話すタイプに分かれると思いますが、お二人はどっちのタイプですか

北川 俺は話す方です。

鬼澤 俺も。なんか一人で音楽聞いたりしていると周りから「うわ、こいつガチかよ」みたいに思われてるんじゃないかなと思っちゃって。それは別に良いはずなのに、なんか俺の美学として「そんなガチじゃないし」みたいな風に見せかけちゃう、強がっちゃうみたいな感じです。

──試合前は普通の話をなさるんですか

鬼澤 いろいろな話をします

北川 別に何の話もしないです。

鬼澤 中身はないよね。そういえば話は変わるんですけど、俺らお笑い大好きで見過ぎてネタを覚えちゃって。本当に自己満足で試合会場とかでやっています。

北川 ボケてるんですけど、俺にしか伝わらないボケとかあります。みんな知らなくて。だから俺がそれにつっこむとかよくやっています。

──お二人でどのようなネタをやられるんですか

鬼澤 基本的に隆之介がボケて、俺がツッコミ…かな?コンビでもないからちゃんと決まってるわけじゃないけど(笑)。

北川 確かに(笑)。

鬼澤 そこは臨機応変に。

──お笑い番組をよく見るということでしょうか

鬼澤 (北川とは)高校時代から知り合いなんですけど、そのころからお互いにお笑いが好きで深夜番組とかをよく見てたせいもあって、メジャーどころの下の下まで話が通じる唯一の相手みたいな。

北川 そうそう(笑)。本当にテレビにはちょっとしか出ないけど、漫才をちゃんとやってますみたいな人とか。

──お笑いが好きとは意外でした

鬼澤 オンバトとかも見に行きましたよ。チャンピオン大会。

北川 インカレ終わった後に行くよね。11月の終わりくらいに。

──いま一押しの芸人さんは

北川 もちろんあれだよね。せーので言って良い?

鬼澤 でもそれで言うとミーハーみたいじゃん(笑)。有名どころで言うと…。

北川・鬼澤 せーの、ジグザグジギー!

「優勝しないと笑って終われない」(北川)

昨年のインカレ王者である北川は2連覇が懸かる

──鬼澤さんは関カレで初優勝を飾りましたが、それについてはどのように思われますか

鬼澤 隆之介も優勝していたので、俺も優勝したいなと思って頑張りました。

──鬼澤さんの初優勝に関して、主将として思うことはありますか

鬼澤 ないでしょ(笑)!

北川 何だろう…うれしいです。

──1年生の時からお2人で頑張ってきたという印象がありますが

北川 そうですね。大真が負けると、「俺が一緒に練習しているから練習環境が悪いんじゃないか」と周りに思われるのが嫌で、だからやはり2人で上位に行きたいなというのは1年生の時からありました。

──いつもお2人で練習なさっているんですね

北川 二人でっていうわけでもないけどね。

鬼澤 でも、自分たちで言うのもあれですけどたぶん、(真所)美莉(スポ4=宮城・仙台南)も含めて練習は休まなかったよね。体調とか悪くてもね。

北川 練習は体調が悪くてもとりあえず来るという感じでした。意外と真面目。

鬼澤 自分で言うな(笑)。まぁ、練習は来たよね。来た気がする。

北川 うん。休んだことないね。

──北川さんは個人フルーレの前回覇者としてインカレに挑みますが、そのことについてはどのように思われますか

北川 「2連覇は難しい」、「きょねん優勝したからベスト8くらいで負けるだろう」とよく言われるんですけど、それを逆にプレッシャーと感じずに「やってやろう」という気持ちでいます。

──それほどプレッシャーは感じていないんですね

北川 そうですね。もともとプレッシャーはそんなに感じないです。緊張もあまりしないタイプなので、緊張している人を見ると面白いです。大真とかすごく緊張するんですよ(笑)。普段はおちゃらけているのに試合前になるとそわそわし始めて。

鬼澤 そんな風にはなってないよ(笑)!

北川 (笑)。

鬼澤 でも緊張しいなので、体調悪くなるんじゃないかなと思います。だから隆之介とか見てちょっとうらやましいなって。「俺もああいう風にできたらな」と思います。

──緊張をほぐすためにやっていることはありますか

鬼澤 ほぐれないです。

北川 お前緊張ほぐれないまま試合してたの(笑)!?まぁ、でも始まっちゃえばそんなに緊張しないよね。

鬼澤 いや、してる。

北川 してるの!?

──その緊張が良い方向に働いているということでしょうか

鬼澤 良いのか悪いのかは分からないです。

北川 勝てる時は良い緊張感なんだよ。

鬼澤 負ける時は暴走しちゃう。でも分からないです。何年やっても分からないです。でもなんか、緊張だけは慣れないというか…。

──では、団体戦についてお伺いします。きょねんと同じチームですが、成長した点などはありますか

北川 大真とはずっと団体を組んでいるから意思疎通というか、言わないでも分かる部分がたくさんあります。後輩たちを見て一番大きいなと思ったのは、4番手の仙葉(恭輔、スポ2=秋田南)ですね。きょねんは団体ではちょっと出せないかなという選手だったんですけど、ことしに入ってから結構きょねんの経験が生きてきているみたいで。きょねんは団体でずっと座って見ていて、少しずつ試合に出ていたんですけど、そういった経験が生きて、使える選手になりました。3人じゃなくて4人で戦えるというのは大きいかなと思います。

鬼澤 俺も同じ感じですかね。でも、後輩たちが頑張っているから俺らでちゃんと良い思いをさせてあげたいなと思います。

──今季、団体戦では日大に勝てていませんがそのことについてはどのように思われますか

北川 きょねんは勝てていた日大に今季は負けているというのは、やっぱり自分たちの実力不足だし…。

鬼澤 リーグ戦の時も負けて、王座でも負けてこないだも負けちゃったんですけど、そろそろ勝つかなと思っています。

北川 お互いに昔から知っている選手で、きょねんから相手もずっと同じメンバーだし、こっちもそうだし、お互いに知り尽くしています。だから、どっちに転ぶかっていうのは本当にもうやってみないと分からないと言ったらあれなんですけど…あとはもう自分たちのチームと後輩と信じて戦うしかないですね。

鬼澤 でも、俺たちが一番良いチームだと思っています。

──日大の対策などは特にしていませんか

鬼澤 対策とかはしていませんが、どこで攻めるというのとかは…いや、でもないです。もう本当に正直、勝負という感じです。相手の弱点とか相性とかは多少考えたりしますけど、でもある程度のところまでくればそういうのも関係ないというか。本当にその時の勝負次第だと思います。

──団体戦で優勝するためにカギになるところは何だと思いますか

北川 それは俺らでしょ。

鬼澤 「取られたら取ってきてやるよ」という感じです。

北川 でも最後は本当にね、4年生が頑張らないと。

鬼澤 俺らも最後だから、逆にね。良く終わりたいというか、有終の美を飾りたいです。もう優勝するんで。そろそろ優勝する時期が来ているので。

──最後にインカレに向けて、お二人の目標と意気込みを聞かせてください

鬼澤 優勝のみ。それだけだ。

北川 (笑)。

鬼澤 よし。

北川 うーん、そうだな…。優勝のみ…それだけだ。

鬼澤 個人は別として。

北川 団体で特にね。「最後は笑って終わりたい」というきれいごとを言おうとしたんだけど、優勝しないと笑って終われないと思うので。

──ちなみに個人戦の目標は

北川 決勝で大真と当たる。

鬼澤 当たろう。

一同 (笑)。

北川 でも決勝で当たったらどうする?

鬼澤 ふざけちゃおう。

一同 (笑)。

――ありがとうございました!

(取材・編集 目黒広菜)

4年間共に戦ってきた2人のツーショット

◆北川隆之介主将(きたがわ・りゅうのすけ)(※写真左)

1991(平3)年6月13日生まれのA型。162センチ、60キロ。埼玉栄高出身。スポーツ科学部4年。音楽が好きで、ロックをよく聴くという北川主将。最近、後輩に勧められて高いヘッドホンを買ったそう。「世界観が変わった」とおっしゃっていました!

◆鬼澤大真(おにざわ・だいま)(※写真右)

1991年(平3)11月10日生まれのA型。167センチ、58キロ。茨城・常磐大高出身。社会科学部4年。ボウリングが大好きだという鬼澤選手。ただ、最近は全然行けていないようで「ボウリング友だち募集中(笑)」なんだそうです(笑)。