応援部を音で支える吹奏楽団、特に今年は離れた場所からの応援ということもあり、音の大事さが際立った。そんな吹奏楽団を指揮棒一本でまとめあげる指揮者。演奏中だけでなく、練習から吹奏楽団全体を見守る学生指揮の二人に話を伺った。
※この取材は12月14日に行われたものです。
指揮の仕事とは・・・
インスペクターと呼ばれたいという井田
――指揮の普段のお仕事を教えてください
飯田 見えやすいところだと、野球応援で指揮を振っている。一番目立つところですかね。
井田 そうだね。実は僕ら二人で役職名が少し違って、飯田が「指揮」で僕が「インスペクター」っていって名前だけちょっとね(笑)。
飯田 けど今年は結構一緒に仕事をしたことが多かったね。
井田 野球での指揮以外だと、練習での指揮だったり、練習をどういうスケジュールで進めていくか、が主な仕事かな。
飯田 今年は練習場が狭いので、全員入るための練習場所を確保したりするのも新しい仕事としてありました。
井田 すごい大変でした。
――例年だと指揮とインスペクターはどのようにお仕事を分けていますか
飯田 どっちかというと(私が)指揮を振る人、
井田あとは、練習中に指導する人。(僕は)練習のスケジュール組んだりとか、あと先生方と連絡をとったり、裏方的な。
飯田 今年は井田も指揮振ってるし、
井田 逆に飯田もかなり手伝ってくれてるし、って感じです。
――吹奏楽団全体でも演奏面でリードするような役割でしょうか
井田 一応…(笑)。と言っても、今年から新たな指揮者の先生をお呼びしてるので、その方に基本的な指導は任せている感じですね。
――新たに先生を迎えての変化は
井田 色々、変わったよね。
飯田 まず先生が来る回数が増えた。
井田 3倍ぐらいになったよね。
飯田 あと先生が指揮の専門の方ではなくて、トランペットの専門なので、吹き方とかも指導してもらってて。
井田 結構わかりやすい。
飯田 変わって一年目で前の方が良かったなという意見とかもありそうなものなんですが、全然そんなことはなく。
井田 練習は全部お任せしてる感じです。
――練習中に指揮として意識されていることはありますか
井田 僕は自分個人ができてるか、っていうよりも全体的にここを詰めていった方がいいかな、というところを見ながらやってます。
飯田 あー、偉い(笑)。私は結構自分のことでいっぱいになっちゃいがちなんですが、合奏の練習中に「この楽器だけやってみて」と取り出されることが多いんですけど、そういう時に自分以外のパートが何を言われていたかを意識して聞くようにしています。
――試合中、指揮台から見える景色は
井田 全然違いますね、今年はまた例外なんですけど、演奏している時は試合側を見てるからお客さん全く見えないんですけど、指揮者は逆を向いているので応援席全体の景色がよく見えて。
飯田 去年も指揮を振ってるんですけど、早慶戦の時とかはお客さんが全部えんじ色になってるのは感動的でした。
井田 やっぱり一番綺麗なのは『紺碧の空』のとき。(お客さんが横に)ざぁー、ざぁーって揺れるんですよ。あれは結構綺麗。今年はなかったんだけどね(笑)。
飯田 今年はもうただただ(笑)。
井田 (笑)。部員しか見えない。
――今年は逆に部員の方々がよく見えたと思います
飯田 それはそうだね。
井田 あーそれはもう本当に、というかそれしか見るものがないから(笑)。一人ひとりの顔までよく覚えてる。
――お二人は楽器経験者で入部されましたか
飯田 私は中学からやっていて。
井田 僕は高校からで。初心者が半分ぐらいいる団体なので、サークルとかは結構経験者だから、個人個人の指導ってあまりないと思うんですが、入部してから担当の部員がついて付きっきりで指導するのは他の団体とは違うのかなって思いますね。
飯田 一対一の練習をみんなで集まる時とは別でするんですけど、そういう時に同じ楽器の先輩に教えてもらて覚えていくって感じだよね。
――指揮の後輩に指導されることは。
井田 指揮も部門になっているんですけど、指導…って言っても僕らもペーペーなので(笑)。
飯田 指揮に関しては完全に素人なので、何度か一緒に練習するっていう機会は数回、ありました。
井田 みんな拙いながらね。
――試合中に意識されることはなんですか
井田 僕は結構単純なことしかしてなくて、応援だとチャンスじゃない時とかと、『コンバットマーチ』に入る時とかだとテンションが違うので特にチャンス時は、音を聞いててガラッと変わったな、と思わせることができるように、少し引き出すような意識はしていますね。この楽器もうちょっと出して、とかは軽くしてます。
飯田 してるイメージある。(笑)。結構出してって(手振りを)してるんですよ。
井田 結構嫌がられるんですけどね(笑)。
飯田 吹く方は結構きついからね。(笑)。
井田 なんだあいつって目では見られるよね。
飯田 私は逆に、結構みんながガンガン吹いちゃってスタミナがもたなくなるので、逆にここは抑えられるなっていう序盤とかつなぎのような曲のときは軽く指揮を振るように意識してます。
――記憶に残っている応援曲とシーンなどはありますか
飯田 大抵、三塁まで行くとずっと『コンバットマーチ』なので、大体の場合は『コンバットマーチ』で、吹いているときはきつい!ってなった時に点が入るかなって。
井田 他の曲から点が入ることってなかなかないので。ホームランじゃないと。そういう意味では『コンバットマーチ』だけかもしれない。
――今年の早慶戦第二戦での劇的なホームランの時、多くの部員が号泣してる中で吹奏楽団は『紺碧の空』を演奏しなくてはいけなかったと思います
飯田 私はちょうどその時指揮を振っていて、バックスクリーンに2アウトの表示が見えていて、どうしようと思って振っていて。心の中でホームラン出ろ!って思いながら振っていたら本当にホームランが出たので、びっくりしてでも、指揮なので泣いてても振れるんですよね(笑)。だから普通に泣いてました。
井田 ははは(笑)。
飯田 演奏者でも多分吹けるは吹けるよね?
井田 泣いてると息遣いが荒くはなっちゃって、そんないい演奏ではないかもしれないんですけど、やるしかない、って感じですね。あの時はめちゃめちゃ感動したな。
――井田さんはその瞬間鼓手をされていました
井田 そうですね、逆に鼓手なので、もう一人いる方に叩いてもらって(笑)。僕は一人で感傷に浸ってましたね。
飯田 (笑)。
井田 応援部なんで、言ってはいけないんですけど、9回で2アウトまで来るとちょっと厳しいかな、という気持ちはやっぱり表にこそ出さないものの、あったので。
飯田 あーあとちょっとで優勝できたのに、って思っちゃってる自分もいました。優勝できたかもしれないのに、無理かも、みたいな。
井田 うん、あれは感動したなぁ。
――そんな早慶戦を振り返って印象的なことを教えてください
飯田 ずっとホームランの話になってしまうんですが、やっぱりあの瞬間が印象的で。自分が指揮を振れていたというのが、本年度の指揮としてあの『紺碧の空』を最後に振れたのがとても嬉しくて。演奏者の時に得点が入るのももちろん嬉しいのですが、今年1年間指揮として活動してきて指揮者として点をとれたっていうのがすごい嬉しかったです。
井田 今年の応援は早慶戦だけじゃないんだけど、お客さんがいないで部員だけで応援してるから、ある意味応援っていう行為には慣れてる存在ばっかりで、逆に部員だけでまとまってる分、一つになって前をむいて頑張ろうって言えて、それで最高の結果になったので、大満足です。
――内野席まで「届ける」という点で意識されたことは
井田 試合終わった後にバックホームからの動画とか、見て想像以上に全部の音が聞こえてきていて、お客さんの声が無い分、いつもならかき消されていた飾りの音だったりも聞こえてくるので。そういうとこまで神経質に演奏しないといけないなって思ってました。
飯田 自分たちが思っている以上に聞こえてるっていうのが単純に嬉しくて、けど嬉しいだけじゃなくてプレッシャーでもあるので、いつもだったらハリセンとか歓声でかき消されてしまう音が、「届ける」という意味では届きやすい環境だったのかなと思いました。
井田 とにかく気を遣ってやってましたね。
嬉しいこともあり、寂しかったことも乗り越えた一年
『雷轟』編曲でのエピソードを語る飯田
――好きな応援歌応援曲を教えてください
飯田 特にエピソードとかはないんですが(笑)、『スパークリングマーチ』が好きで、単に曲がかっこいいから好きっていうのと吹く方としては結構きついんですが、好きですね。あ、後エピソードだけでいうと(笑)、今年『雷轟』の編曲をしたんですよ。一個上のリーダーの泉川さん(創太氏、令2卒)が作曲されたんですけど、それを吹奏楽団的な視点からより吹きやすいように編曲して、それを神宮で何度も使ってくれたのは嬉しかったです。
井田 学生歌なんですが『早稲田の栄光』が好きで。早慶戦に勝利したときもそうなんですが、入学式でも卒業式でも歌って、っていうので曲調も綺麗で、早稲田にこういう曲あんまりないんですけど(笑)。だからすごい好きです。しみじみと早稲田の思い出が浮かんでくるような、応援部の芯が一番出てくるところかな、って思いますね。
――『雷轟』編曲について
飯田 泉川さんとはすごいやりとりしました(笑)。
井田 (笑)。
飯田 年明けからずっとLINEとか直接だったり、ここはどうしたい、っていうのを二人でやってました。
井田 『雷轟』は近い存在の泉川さんが作られたので編曲ができたのですが、基本的には作曲者の意図を尊重しようっていう考えなので、30年前の曲とかだと、
飯田 連絡取りようもない…(笑)。
井田 から基本的に編曲とかはしないですね。
――朝ドラ『エール』で『紺碧の空』が取り上げられましたが吹奏楽団の視点から見ていかがですか
飯田 単純に話題になって嬉しかったです。有名になったな。って。
井田 自分が所属している部活があれだけ取り上げられて、『紺碧の空』もすごい有名になってその回の視聴率が良かったのとか見ると、自分たちだけじゃなくて多くの人に支えてもらっているんだな、っていうところが嬉しかったですね。
飯田 あまり今まで作曲者をちゃんと見ていなかったので(笑)。受け継がれてきた「曲」としてあったので、以外と古関裕而先生の作品があるんだなって、気付きました。
井田 『早慶讃歌』とかも古関先生だったんだ、って気付きましたね。他にも結構有名どころが多くて『ひかる青雲』とか、あと慶應の『我ぞ覇者』とかも、すごいなって思いますね。
――今年『Stand up and Go Fight!!(フルゴー)』も演奏されていました
井田 そうですね、あれは作曲者の意図を尊重してっていう点で演奏しました。
飯田 あ、そういう意図だったんだ(笑)。
井田 フルゴーってみんな聞き馴染みもないと思うんですけど、他の曲にはないような雰囲気というか若干のおどろおどろしさというかジャズっぽさというか、すごい感覚で喋ってるんですけど(笑)。
飯田 結構私は好きです。あのいつもカットされてる部分。
――勝ち曲、のようなものはありますか
飯田 『雷轟』〜『コンバットマーチ』は結構大チャンスの時に流してるイメージかな。
井田 チャンスの中でもここで決めなきゃ、って時に流してますね。その時だけやるのであれが一番本気というか。
飯田 『雷轟』の後の『コンバットマーチ』の頭を遅くするんですが、あれが結構特別感というか重々しさを出すから一番決め所、って感じですね。
井田 こう、こっちの体を大きく見せるような、ゆっくり歩くようなイメージで演奏して迫力あるな、って思わせたいっていう意図ですね。
飯田 あー確かに。
――リーダーの太鼓についてはどう思われてますか
井田 まあ人によってばらつきはしょうがないというか、自分もある方ではないですがリーダーは音楽のセンスはまじでないので(笑)。
飯田 けどやっぱり全然違いますね、吹奏楽団で鼓手の人の太鼓とリーダーの太鼓だと。吹奏楽団の人の太鼓の方がテンポとかはすごい安定してる。
井田 まあ流石にね(笑)。けど吹奏楽団には出せない味が向こうにはあるので、やっぱりお互いの長所を生かしながら、練習とかでもリーダーのいい部分を残しながら、テンポとか取れるように指導してます。
飯田 練習だと色々言ってしまうんですが、でも本番では音の大きさもそうですし、味というか、リーダーだからこその音だけじゃない気合、みたいなものもあるので。
井田 あと鼓面についた血だよね(笑)。
飯田 血が絶対つくね。
井田 自分はあまり血が出ない方なんですけど、あんまり痛くはないですね。
――応援活動をするにあたって、感染症対策のガイドラインは特に吹奏楽団は厳しかったと思います。
井田 厳しかったですね。あれは決めるのに苦労して応援というもの自体をやってるのが他にほとんどいなくて、東京六大学野球はお客さんも入れて、大人数での応援もするっていう想定でいてくれた分、六大学でずっと話してたんですけど、規則とかは厳しくしてましたし決めるのは結構大変でした。
飯田 基本的にガイドラインとかは応援企画とか連盟とかがやってくれていたので私はノータッチだったんですが、一部員としてガイドラインを守ろう、って感じでした。唾抜きのタオルとか一番身近なところなんですけど、袋から出さないで、とか。
井田 球場の中では動く同線とかも全部決められたりしていて。
――合同演奏会が中止になるなど、六大学の他大学と関わる機会も減ったと思います
飯田 そうですね、寂しかったですね。合同演奏会がなくなるのは。
井田 結構思い出に残るステージなんですよね、合同演奏会って。普段は早稲田の人としかやらないのが、他の六大学の大体同期と、関わるんで、楽しくできるステージなので、悲しかったですね。
飯田 「六旗の下に」も例年なら二校ずつが合同でやったりするんですが、今年は完全にそれぞれで、六大学の人と演奏するのは本当に早慶戦の合同メドレーぐらいでしたね。
――その早慶合同メドレーについて伺います
井田 あれは大変でした(笑)。
飯田 いつもだったら前日から神宮球場に入れるので立ち位置を確認したり、ちょっと練習してってできたんですけど、今年は当日しか入れなかったので実際にその場を見ないまま色々確認して、大変でした。
井田 とにかく時間がなくて、あれをやろうって言ったのが本番一週間前ぐらいだったので、そっから詰めたんですけど、総合練習の前日ぐらいにやること決めて、本番は思ったよりうまくできたので、それは良かったなと安心感がありました。
モードの切り替え
互いの発言に笑う二人
――定期演奏会について伺います。定期演奏会では応援活動とは違った一面を出すと思います
井田 応援部の吹奏楽団ってやることが演奏・ドリル・応援の三つあって、応援は試合の数がすごいあるので本番の数がすごい多いんですけど、演奏ドリルって本当に少なくて。
飯田 本当に定期演奏会と今年はなかったけどコンクールとか。
井田 それぐらいだけなので、その一個に向けて練習をするので、本番は失敗できないなと。
飯田 プレッシャーが(笑)。
――今年は練習場所なども限られたと思います。
井田 それが一番辛かった(笑)。普段の練習場所は狭いので使ってなくて、ずっと外で練習してて。
飯田 あちこちのホールを順番に空いているところを回って。
井田 毎日行ったり来たりしてます(笑)。今日は田無行って、府中行って、八王子行って、って感じでそれをとるのは大変でした。やっぱりどこも空いてなくて、他の団体も同じこと考えるんですよね。
飯田 今までだったらみんなの練習の度合いを見て練習日程組めば良かったんですが、今はもう場所が取れるところで練習しないといけないので、3日練習でやったと思ったらすごい空いちゃったり。
井田 すごい不定期になりましたね。基本土日以外だとみんなの時間が揃わなくて、土日しかまともに演奏できていないっていうのが本当に。
飯田 けどそんな中で平日にも時間合わせて来てくれたり出席率がすごいよくて、本当にありがとうございますって感じだよね。
井田 部員の皆さんには本当にこんなハードなことをさせてしまって申し訳ない(笑)。
――応援部の吹奏楽団を選んだ理由を教えてください
井田 僕は応援がしたかった。昔から早慶戦とか行ってたので。
飯田 私はドリルですね。ドリルができる団体が、早稲田で唯一なので、新歓ステージを見てあれやってみたいなって。決めました。
井田 全体的に幅が広い団体なんですよね。他の団体だと演奏会とか早稲田祭とかの本番に向けてやってる感じだと思うんですけど、僕らは月に4回ぐらい本番があるイメージなので永遠に尽きないので(笑)。モードの切り替えも大事ですね。
飯田 あー確かに。
井田 今日は演奏モード、今日は応援モードって感じで。
飯田 応援モードのまま演奏の練習にくるとみんなばーって吹き方しちゃうので。(笑)。
井田 耳が痛い(笑)。もうどれが普段かわからないですが、応援が普段だとしたら演奏会はだいぶ違う。その時はサークルとかと近くなるのかな。
――定期演奏会が基本オンラインでの開催になったことについて
飯田 お客さんがまず大学の規定でホールのキャパシティの4分の1ぐらいになっていて。
井田 さらに少なくしたんだよね、8分の1ぐらいに。
飯田 それで色々考えていくうちに席も指定した方がいいよね、とかになってくるといつも応援してくれている方々に見せることができなくなってしまうな、ってなってオンラインも併用した方がいいな、って。
井田 そういう早稲田の街の方々とかにお見せできないとかはすごい残念ですが、オンラインでも配信できるっていうのは良かったなって思います。
――定期演奏会の見どころを教えてください!
井田 やっぱり自分たちは一部二部の担当なので、演奏ステージでいかに綺麗な演奏をできるかっていうところを目指しているんですけど、自分たちの部活って未経験者も多くて、技術的にそこまで高いというわけではないんですが、そのぶん一生懸命やってる心持ちだとか、見てる皆さんがちょっとでもあったかい気持ちになれたりしてくれたら、そんな演奏会を目指しているので、そんな堅くなく、気楽に見て欲しいです。
飯田 今年二部は学生が指揮を振るんですけど、一曲ずつ別の人が振るので、指揮者の違いにも注目してくれたらいいかなって思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 市原健)
定期演奏会は12月21日18時から配信開始です!
◆飯田あやの(いいだ・あやの)
東京・共立女子高出身。文学部4年。井田さんに印象を伺ったところ、哲学科なので思想が深い、とのことでした!
◆井田隆之(いだ・たかゆき)
東京・早大学院高出身。政治経済学部4年。飯田さんからの印象は手足が長くてちょっとチャラそうに見えるけど、根は真面目です。とのことです!