【連載】『令和2年度卒業記念特集』第62回 三輪裕之/ボクシング

ボクシング

受け継がれるもの

 「三輪が勝ってくれる」。そんな期待のこもった視線を浴びながら彼はいつもリングに上がる。期待と重圧を背負いながら早稲田ボクシング部のエースとして戦った三輪の四年間とその思いをひもとく。

早慶戦を戦う三輪

 自分が中心となっていかなければならない時がくる。入部して間もない一年生の春、三輪裕之(文=神奈川・鎌倉学園)はそう感じたという。早稲田のボクシング部には大学からボクシングを始めた人も多く在籍しており決して常勝軍団では無い。全員が強いのではなく、毎年チームに一人や二人エース格の選手がおり、その選手が他校の強力な選手と渡り合っているのが早稲田のボクシング部である。当然その重責を担う彼らは相当な覚悟を持って試合に臨むことになる。

 三輪がその覚悟を実際のものとして受け止めるようになったのは一年の冬だ。「当時の4年生たちが卒業して、自分が副主将に選ばれた時、もうすぐ自分の番がくると感じました。その時期が来るのが早すぎるとも思いましたけど」と当時を振り返って話してくれた。その後一年間、当時の主将を見て学び、覚悟を固めていったという。次の年には主将となり、3年生にして早稲田ボクシング部のエースとなった。そしてその年はリーグ戦、早明戦、早慶戦で勝利し結果を残す。「自分が負ければチームは降格してしまう。なんとしても勝たなければと思った」とリーグ戦を戦っていた当時の心境を話してくれた。リングに上がればいつも一人、孤独なスポーツとも称されるボクシング。だが、彼の強さの理由はチームの仲間にあったという。「仲間が支えになりました」とインタビューの中で彼は何度も繰り返した。「副主将だった高橋良典(スポ=茨城・茗溪)なんかは特にそうで。ランニングの時もそうだったし、後輩への声かけだったり、自分より主将らしかったです。とにかく熱くて面白い奴でした。お互いが自分の得意とするところで助け合ってる感じでしたね」と笑いながら教えてくれた。「一人で頑張っている感覚はありませんでした。後輩同期が自分より頑張っているので自分も頑張らなくちゃみたいな。自分はみんなのおかげで頑張れていました。そういう仲間に出会えて本当にラッキーだったと思います」と語る彼の目には、これまでの4年間の日々が浮かんでいるようだった。「カッコいいかカッコよくないか」をモットーとしている三輪は先輩のカッコいい姿に影響を受け、自分もそうなろうと努力をしたからこそ今の自分があるという。そんな彼にボクシング部を通して学んだものを聞くと「礼儀」という答えが返ってきた。驚くことに昨年の主将もこの質問に対しそう答えていた。そのことを伝えると、「礼儀はあの人から自分は教わりました」と顔をほころばせた。

 三輪は先日、卒業手続きをするため大学を訪れ、部活に顔を出した。その際、練習中の良い雰囲気を見て驚くとともに安心し、「彼らなら大丈夫」そう思いその場を後にしたという。

 三輪はリングを降り、次の代へ託す。ボクシング部のさらなる成長を願って。

(記事 中嶋勇人 写真 中嶋勇人)