長く続く歴史を持ち、今年も白熱の試合が期待される、第61回早慶戦が、12月2日に開催される。自身にとって最後となる早慶戦を控え、様々な思いを胸に抱く早大の4年生、井上稜介主将(スポ4=東京・八王子東)、岩田翔吉(スポ4=東京・日出)、藤田裕崇(社4=愛知・清林館)、新村久瑛主務(教4=東京・戸山)が、ボクシング部と関わってきた4年間を振り返りながら、早慶戦への思いを語った。
※この取材は10月14日に行われたものです。
「誰かのために役に立ちたい」(新村)
早大ボクシング部4年生の4人
――ボクシングを始めた、あるいはボクシングに関わろうと思ったきっかけは何でしたか
井上 5歳からの10年ほど柔道を続けており、また兄が総合格闘技の選手であったことも影響して、打撃系の格闘技に興味を持ち、大学から始めました。
岩田 もともと小学校4年生の頃から格闘技をやっており、また、「戦うこと」が好きで、様々なスポーツに挑戦している中で、中学2年生のときに家の近所にあったジムに行ってみたことで、自分にとても合っていると感じ、魅了されました。
藤田 単純にボクシングが好きだったからです。小さい頃から観ていて、どのスポーツよりもかっこいいと感じ、大学から始めました。
新村 部員の方に誘われ、1年生の途中から入部しました。最初はあまり接点のなかったボクシングに尻込みしてしまい、一度は断ったのですが、大学生活で真剣に打ち込めるものが欲しかったこと、そして、誰かのために自分が役に立てる場所があると感じられたことが、大きな理由だったと思います。
――4年間で印象に残っていることを教えてください
井上 半年の間留学していたのですが、帰ってきたら、同期が退部し、新入生も入らず、部員が減っていたことには驚きました。
岩田 全てが充実していたので、特に取り上げることはありません。
藤田 (印象的なことは)たくさんありますが、一番は同期の試合です。自分が試合をしているときよりも汗をかきますし、同期の頑張っている姿によく泣いてしまいます。早期の試合の一つ一つが強く印象に残っていて、井上が倒されたときは自分のように悔しかったですし、当たり前のようになっているかもしれないけれど、勝ち続けるというのは難しいことですから、岩田はすごいなと思います。
新村 まずは、一番最初に練習に参加した日です。何もわからない中で、皆の前で挨拶したこと、そして、そんな私に部員の方が優しく声をかけてくれたことが印象に残っています。そして、自分が経験した2回の早慶戦です。2年生のときは、ワセダが勝った試合でしたが、ワセダは不利だといわれていました。しかし、リーダーシップの強い当時の主将が、部を上手く盛り上げて、勝利へ導いてくれ、主将もチーム全体も勝つことができたのがとても嬉しかったのを覚えています。3年生のときは、初めて主務となって運営の中心で関わった早慶戦で、残念ながら僅差で負けてしまいましたが大きな達成感があり、来年は勝ちたいと思いました。
「勝つことが自分の仕事です」(岩田)
――入部した当時の、そして現在の早大ボクシング部に抱く思いを教えてください
井上 自分はずっと先輩方の背中を追いかけるタイプで、可愛がっていただいていました。今はいざ自分が上に立つ立場になって、寂しく感じる一方で、後輩にも自分と同じように、楽しくボクシングをさせてあげたいと考え、なるべく思いやりをもって接しようとしています。
岩田 もともと中学の頃から早大ボクシング部に強い憧れがあり、あの臙脂(えんじ)と白のユニフォームを着て、ワセダを背負って戦うことをとても魅力的だと感じていました。現在は、当時の憧れを実現していることに充実感を覚え、嬉しく思います。
藤田 僕は大学から始めたのですが、当初はスポーツ推薦で入部していたり、インターハイでの優勝経験を持っていたりする強い選手たちに驚いていました。岩田と初めて交流したときのこともよく覚えていますし、井上は上達も早く、また今や主将として皆を支えてくれる、信頼のおける同期です。自分が自由にボクシングに取り組めているのは、同期のおかげだと感じています。
新村 私が入部した頃、スポーツ推薦の強い先輩方も多く、入部以前から経験のある方が部を盛り上げていっているという印象でした。今、岩田のように実績もある素晴らしい選手だけでなく、大学から始めた井上と藤田、後輩たちが頑張って部を支え、盛り上げているように感じます。同期一人一人の個性が強く、皆違うからこそお互いに支えあっているのだと思う一方で、皆努力している姿を見せたがらないところは共通していることを面白く感じました。
――楽しかったこと、辛かったことはありましたか
井上 ボクシング以外のことは全般的に楽しかったと思います。ボクシングに臨むことは基本的に辛いです。練習も辛いですし、特に初めてのリーグ戦で一度も勝てなかったことは、今思えば「もっと何かできることがあったのではないか」と思います。
岩田 1年生の5月にあったリーグ戦から欠かさず試合に出ているのですが、本来経験するはずのサポートや雑務などを今まで全くしてきませんでした。しかしそれについて皆が理解して何も言わないでくれることをとても有難く感じています。嬉しい、辛いといった感情よりも強くそれを胸に抱き、だからこそ絶対に勝たなければならないし、勝つことが自分の仕事だと思います。最後に皆が笑って終われるようにしたいです。
藤田 部員と遊びに行くことも楽しかったのですが、特に、昨年の早慶戦に、同期全員で出られたことが嬉しかったです。基本的にどんな試合でも変わらない自分ですが、あのときはやはり気合いが入りました。辛かったのはやはり怪我をしたときだったと思います。悲しいことはたくさんありますが、怪我をしている間は、皆が頑張っている姿を見ながら何もできず、チャンスを逃したこともあり、悔しい思いをしました。
新村 部員が試合に勝っているのを見るのはとても嬉しかったですが、私は特に毎日の練習で部員と他愛もない会話をしたり、同期の仲間と交流したりするのが一番楽しくて、自分の居場所があると感じられるのが今でも嬉しく感じています。主務は裏方の仕事が多く、その働きがわかってもらえないときに、何故自分は主務をやっているのだろうと悩むこともありました。特に主務としての最後の1年間は、自分にとって辛いものだったと思います。
「ボクシングを好きでい続けることです」(藤田)
――一番力を入れてきたことはありますか
井上 自分はボクシングの面では貢献できないので、雑務に積極的に取り組んで皆を支えることを頑張ってきました。ボクシングの試合に勝つことは大変ですが、雑務は積極的にみつけて取り組めば、皆の力にもなれるので、自分にも向いていると思っています。
岩田 勝つことです。
藤田 ボクシングを好きでい続けることです。それだけは誰にも譲れません。一日もそれが変わることはありませんし、入部したときよりも今の方が、ボクシングが好きです。
新村 自分がパイプ役になることを頑張ってきました。言葉を交わすことがなくとも、普段から選手たちをよく見て、相談を受けてきたと思います。引退ぎりぎりまで、自分が本当にその役目を果たせているのかどうか悩んだり、個性の強い部員たちをまとめるにあたって自分が力になれたらいいと考えたりしています。
――ご自身にとってボクシングは何ですか
井上 ボクシングは自分にとって痛みです。なかなか殴ったり殴られたりする競技はありません。4年間通して、ボクシングは怖いし、痛いものだと感じています。
岩田 生き様ですね。岩田翔吉という人間を一番よく表現できる場所だと思います。
藤田 ボクシングは自分にとって持病のようなものです。自分の中にあって、ずっと付き合っていかなければいけないものです。僕はボクシングのロマンに魅了されその虜になっていて、自身の実力に関係なく、努力をして試合に勝ちたいと思わずにはいられません。そして、ボクシングを通して様々な人々と関わることで自分は大きく変わったと思います。ボクシングのない自分の姿は想像できません。
新村 私にとってボクシングは想像です。選手ではないので、実際の殴られる痛みや減量の辛さはわかりませんし、選手の気持ちそのものを感じ取るのはとても難しいことですが、それを想像することだと思います。
「担架を用意して待っていてください(笑)」(井上)
――ご自身にとって早慶戦とは何ですか
井上 早慶戦も、自分にとって痛いものです。痛くないことはありませんし、特に昨年は自分のスタイルに反して殴り合ってしまったので、物も食べられないほど顎が痛かったことを覚えています。今年は最後の早慶戦なので、最後の痛みですね。それに最後の団体戦なので、痛いけど我慢して頑張りたいと思います。
岩田 憧れの舞台です。
藤田 普段の試合と特に変わることはありません。どの試合でも自分のことを応援してくれる人がいますし、また、ワセダの名を背負って戦う身として、負けても構わない試合はありません。
新村 同期で出る最後の試合ということでも意味あるものですが、私個人としては、今年は様々なことがあってとても苦しく、主務、先輩として過ごすことは、ただ純粋に楽しかった低学年の頃より、責任や、仕事を理解してもらえない悩みが重くのしかかる面もありました。今年の早慶戦は、ボクシングと関わる生活が自分にとってどういうものであったか、再確認する場になると思います。
――早慶戦への意気込みをお願いします
井上 普段から自分はあまり強気なことを言うタイプではないのですが、今回に限って、慶大側には担架を用意して待っていてもらいたいと思います(笑)。
岩田 KOで勝ちます。
藤田 自分の100%、全力を出し切りたいと思います。
新村 皆が輝ける場所にしたいと思います。早慶戦に関わる全員が、早慶戦が良いものだと思えるようにしたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 佐藤慎太郎、庄司笑顔)
4人の個性が部を彩ってきた
◆井上稜介(いのうえ・りょうすけ)(※写真中央右)
1995年(平7)6月17日生まれ。身長168センチ。東京・都立八王子東高校出身。早稲田大学スポーツ科学部4年。伝統ある早大ボクシング部の主将を務めて部を率いる一方、常に周囲への細やかな気配りで部を支えてきた。
◆岩田翔吉(いわた・しょうきち)(※写真中央左)
1996年(平8)2月2日生まれ。身長165センチ。東京・日出高校出身。早稲田大学スポーツ科学部4年。1年生の頃から数多くの試合に出場して連勝し、ワセダのエースとして部を大いに盛り上げてきた。
◆藤田裕崇(ふじた・やすたか)(※写真右端)
1995年(平7)12月26日生まれ。身長174センチ。愛知・私立清林館高校出身。早稲田大学社会科学部4年。真摯(しんし)にボクシングを愛し、持ち前の真面目さで確実に勝利を掴んできた。
◆新村久瑛(にいむら・ひさえ)(※写真左端)
1996年(平8)1月30日生まれ。身長158センチ。東京・都立戸山高校出身。早稲田大学教育学部4年。多様な業務をこなす一方、部員の心に寄り添ったサポートにも余念がない。