【男子バスケ】下山瑛司 「スコアリングガード」としての進化 早稲田を優勝に導いた絶対的司令塔

男子バスケットボール

 高速バスケットを武器に、関東大学リーグ戦(リーグ戦)で57年ぶりに優勝した早大。早大の大躍進を語るうえで欠かせない存在が、絶対的司令塔・G下山瑛司(スポ3=愛知・中部第一)だ。リーグ戦全試合でスタメン出場。平均6.1アシストでアシスト王に輝き、優秀選手賞にも選出された。また、今シーズンは1試合平均10.1得点、3Pシュート成功率38.4%と得点面でもチームの勝利に貢献し、「スコアリングガード」としてさらなる進化を遂げた。今回は、下山の進化の過程をリーグ戦での活躍とともに振り返る。

 「スコアリングガード」を目標に掲げて

 「得点力のあるガードほど怖いガードはいない」。リーグ戦前の対談で下山はそう語った。今シーズンから倉石平HC(昭54教卒=東京・早実)が指揮官に復帰し、早いタイミングでも躊躇なくシュートを打つ高速バスケットへ劇的に変化した早大。下山には速攻でチームをけん引するのはもちろんのこと、積極的にシュートを狙う姿勢もチームから求められるようになった。「大事な場面で決め切るとか、得点面でチームに貢献できるようにしたい」。理想とするのは河村勇輝(前シカゴ・ブルズ)や富樫勇樹(現千葉J)のような存在だ。司令塔として試合をコントロールするだけでなく、得点でもチームを勝利に導く「スコアリングガード」としての飛躍を誓った。

日大戦でシュートを放つ下山

リーグ戦序盤から大車輪の活躍

 今シーズンの早大は攻守において、下山が起点となっている。オフェンスでは、下山がチームメイトからパスを受けて速攻がスタート。パス1本でF三浦健一(スポ3=京都・洛南)が独走レイアップを決めるのは、今では早大の十八番のパターンだ。パスには常にメッセージ性があり、速攻の時は空いているスペースに力強いパスを出す。一方で、しっかり1本決めたい時には、ボールを落ち着かせてからパスを出す。パスの強弱、長短だけでオフェンスをコントロールできることが下山の魅力のひとつだ。

 ディフェンスでは、まず下山が相手ガードにプレッシャーをかけることで、相手の攻撃を停滞させる。相手からオフェンスファールを誘発する場面もリーグ戦で何度もみられた。1試合平均出場時間がリーグ1位の38分ということからも、倉石ヘッドコーチがいかに下山を信頼し、攻守で重要な役割を担わせているかがわかる。

早大のスティール数はリーグ1位。下山はリーグ2位の平均1.73スティールを記録した。

 リーグ戦1巡目の中大戦では、早大を勝利に導くクラッチ3Pシュートを試合終盤に決め、「大事な場面で決め切る」という目標をさっそく有言実行。迷いなく放ったそのシュートから、日々の練習の積み重ねにより、シュートへの自信が確かなものになってきたことを感じさせた。

さらに磨きがかかったスピード 

 高校時代から世代随一のスピードを誇っていた下山。早大に進んでからは、その武器にさらに磨きがかかっている。毎試合ほぼフル出場ながら、試合中は常に軽く足を浮かしており、両足が地面に揃って着く瞬間はほとんどない。このフットワークが、オフェンスでは鋭い一歩目の加速を、ディフェンスでは相手のドライブへの瞬時な対応を可能にしている。実際、今季のリーグ戦で下山が完全に抜かれる場面はほとんど見られない。

 さらに特筆すべきは、オフェンスにおける圧倒的な加速力だ。その秘密は、ドリブル中に見せる『軽いホップ』にある。何気ないレッグスルー(足の間を通す切り返し)の瞬間でもわずかに跳ねることで、一気に加速してドライブに移れる体勢を保っている。この『構え』が、相手にとって常に脅威となっている。

 スピードスターとしての真価を示したのが、1巡目の筑波大戦だ。速攻を執拗にファールで止めようとする相手に対し、ファールすらさせないほどの圧倒的スピードで突破。早大に勝利をもたらした。

優勝を決めた明大戦の下山

首位攻防戦でみせた「スコアリングガード」としての覚醒

 リーグ優勝を争う大一番となった2巡目の東海大戦。第1Qから早大の高速バスケットはエンジン全開で、37得点を奪って東海大を圧倒する。そして第3Q、スコアリングガード・下山瑛司の独壇場が始まった。ノンシューター扱いしてきた相手に対して3Pシュートをお見舞いすると、今度は1対1から抜群の緩急を使った切り返しで相手ディフェンスを完全に手玉に取り、再び3Pシュートを沈める。第3Q終盤には、またも1対1からロールで相手を翻弄(ほんろう)しブザービーターを決め、あまりにも圧巻なプレーに早大ベンチは総立ち。観客席も熱狂に包まれた。

 リーグ優勝を一気に引き寄せたこの試合で、下山は19得点。3Pシュートも9本中5本決め、「自分でもびっくりするぐらい入ってた」と試合後に本人は振り返った。それでも、「半分は落としてるんで、そこの精度っていうところをもっと上げれたら強みになるのかなと思う」とバスケに対する謙虚な姿勢はいつも通りだった。

 今季の早大を象徴する一戦となったこの試合。「スコアリングガード」を目指してきた下山の努力が、ついに実を結んだ。

東海大戦でガッツポーズを見せる下山

 リーグ戦で57年ぶりの優勝を果たした早大。約3週間後には第1シードとして、全日本大学選手権(インカレ)に臨む。

 そこで鍵を握るのが下山だ。中部第一高校時代にインターハイを制した男は、高速バスケットの起点として、再び日本の頂点を目指す。

 背番号0。その背中は、インカレの舞台でもまばゆく輝くだろう。

(記事 村山諒)