京都の名門・洛南高から早大の門を叩いたF松本秦(スポ1=京都・洛南)。入学直後からチームの中心選手として躍動し、関東大学新人戦(関東新人戦)では1試合平均40得点を超える衝撃のパフォーマンスを見せつけた。6月に行われたFIBA3x3ユース・ネーションズリーグU21には日本代表として出場し、チームの準優勝に貢献。大学バスケ界で今注目を集める大物ルーキーに迫る。
「平均40得点」の衝撃
44点、42点、38点。これは松本が出場した関東新人戦の3試合で記録した得点だ。わずか6人で大会を戦いながらも関東7位に輝き、目標とする全日本大学新人戦(新人インカレ)の出場権を獲得した早大。その原動力は間違いなく、驚異的なパフォーマンスを見せ続けた松本だった。多彩なオフェンスでチームの半分近くの得点を叩き出し、帝京平成大戦では23リバウンドを記録するなど、ディフェンスやリバウンドでもチームに貢献。最後の2試合を日本代表の活動のために離脱したが、全試合に出場していれば得点王とリバウンドの2冠は間違いなかっただろう。
身長191cmの松本の武器は、なんといってもその得点力。正確無比な3Pシュートと力強いドライブを武器に、内外とバランス良くスコアを重ねていく。理想像として掲げているのは、洛南高の先輩である小川敦也(現・宇都宮)や比江島慎(現・宇都宮)といったガードの選手。
「今は味方に作ってもらったチャンスを決めていて、自分が起点になるプレーが少ないです。僕の身長だと将来的にはガードになるので、今のうちから自分でクリエイトするプレーをしていきたいです」
元々ミニバスから中学時代はストレッチビッグのようなプレースタイルだったが、成長とともに年々ガード寄りの技術を身につけてきた松本。現時点では自身を3、4番の選手と評価するが、将来的には更なるポジションアップも視野に入れている。

中学から光り続けた才能。早稲田で更なる開花を
中学時代は兵庫県神戸市を拠点とするクラブチーム、センターサークルでプレーした。中学3年時のU15選手権大会兵庫県予選決勝では、瀬川琉久(現・千葉J)を擁するゴッドドアと対戦。この戦いには惜しくも敗れたものの、当時から世代トップクラスのポテンシャルを見せていた。
高校は比江島や星川堅信(令5スポ卒=京都・洛南)らを輩出した洛南高に進学。全国屈指の強豪の中で、松本はルーキーイヤーからベンチ入りを果たす。しかし2年生時は強豪ひしめく京都府予選を勝ち抜けず、しばらく全国の舞台から遠ざかった。最上級生となり全国高等学校選手権(ウィンターカップ)の出場を果たしたものの、1回戦の尽誠学園高戦で足を捻り、その後は足首のケガを抱えながらプレー。本調子とはいかないまま、3回戦で福岡第一高に敗戦した。悔しさを晴らす大学バスケへ、松本が進路先に選んだのは早稲田大学。その理由をこう語る。
「文武両道を目指しているのに加え、自分は留学生のいないチームでやりたいと思っています。あとは普段から行ってる先輩が多いというところもあります」
G岩屋頼主将(スポ4=京都・洛南)やG高田和幸(商4=京都・洛南)、F三浦健一(スポ3=京都・洛南)が洛南高出身であるように、洛南高から早大に進学する選手は多い。両チーム共に留学生が居ないほか、洛南高のバスケットスタイルである「パスラン」が早大でのバスケットにも生きていると松本は語った。
早大へ進学した松本はチームの練習に参加して間もない3月、いきなり大器の片りんを見せつける。高校生と対決するスプリングマッチで大学バスケデビューを果たすと、六大学リーグ戦では3P王を獲得し、早大連覇の立役者に。関東大学選手権でも筑波大戦でのダブル・ダブルなど、1試合平均2桁得点の活躍。将来を期待された怪物ルーキーは堂々たる活躍を見せ、瞬く間に早大の中心選手へと駆け上がった。

06世代が世界へ羽ばたく
松本を含む2006年生まれは、日本バスケ界の「黄金世代」となるかもしれない。既にB1チームとの契約を結んだ瀬川や、渡邉伶音(現・A千葉)。松本と同じスコアラーにも十返翔里(東海大1年)や村田桂次郎(日大1年)といった、名だたるメンバーが並ぶ。中でも松本が最も意識する相手として名前を挙げたのは十返だ。
「同じポジション、体格のライバルですが、まだ対戦経験がありません。同世代で日本代表のキャンプに呼ばれているので、意識する存在です」
目標は「日本を代表する選手になること」。その夢に向けて今年6月、松本は早速世界の舞台へ飛び出した。中国で行われたFIBA3x3ユース・ネーションズリーグU21に日本代表として出場。経験が浅く、高校時代に少しやった以来と語る3x3であったが、持ち味の3Pシュートを武器にチームを総合2位へと導いた。
「初日は緊張もあって固かったですが、2日目からは自分の持ち味をバンバン出せていったかなと思います。(6本の3Pを決めた2日目のモンゴル戦は)打てば入るといった感覚でした(笑)」

リーグ戦で完全復活へ
しかし7月の新人インカレ、松本の姿はコート上になかった。6月の3x3日本代表の大会中に右肘を脱臼し、肘内側側副靭帯を負傷。新人インカレは無念の欠場となり、5人で戦うチームメイトを同じくリハビリ中のF南川陸斗(文1=京都・東山)と共に見守った。
それでも日本学生選抜として選出された8月の世界大学選手権には右肘にサポーターを着けながら試合に出場。一試合平均4得点と本調子とは言えない成績であったが、各大学の有望な若手選手たちと共にプレーした経験は大きな財産となっただろう。
状態の不安こそあれど、松本の照準はすでに関東大学リーグ戦に向かっている。掲げた目標は1年生の日本人選手では宇都直輝(現・富山)以来となる得点王だ。強敵が揃う1部の強豪を相手にも「気持ちの面では負けない」と意気込みを語る。大学、そして日本を代表するプレイヤーへ。早稲田の誇る怪物ルーキーが描く4年間の物語が始まった。
(記事:石澤直幸)