早慶戦で2連勝を果たし、明大との優勝決定戦への切符をつかみ取った早大。東京六大学リーグ戦での2季連続優勝決定戦は、春秋連続で早大と慶大が戦った1939年以来となる。昨年から幾多の激闘を繰り広げ、賜杯を争い続けた2校による文字通りの頂上決戦。天下分け目の大一番を制し、3連覇の栄光をつかみ取れ。
エース伊藤樹を軸に戦う投手陣
早大の先発は間違いなくエースの伊藤樹(スポ4=宮城・仙台育英)だろう。今季は7試合に先発し、無傷の6勝0敗を記録。防御率もリーグ2位の2.44を記録しており、マメをつぶした影響で乱調となった立大3回戦以外は絶対的な投球を続けている。昨秋からの明大相手の投球に着目すると、伊藤樹は35イニングと2/3を投げ、許した失点はわずか1点。さらに明大2回戦では早大史上2人目のノーヒットノーランを達成し、六大学100年の歴史に名を刻んだ。名実ともに違わぬ「明治キラー」が、昨季の優勝決定戦での完封劇を再現する。

その伊藤樹の後を受けるのは、復調傾向のブルペン陣。中でもリリーフエースの田和廉(教4=東京・早実)は大事な場面のマウンドを任されるだろう。シーズン序盤こそ調子が上がらず、立大1回戦ではサヨナラ負けを許した田和。試合後には小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)から厳しい言葉をかけられた。すると天王山の明大戦から立て直し、4試合連続で無失点ピッチングを続けている。復活を遂げた守護神が優勝決定戦でも支配的投球を見せられるか。
また、普段は第二先発を務める宮城誇南(スポ3=埼玉・浦和学院)も、この試合では中継ぎとしての登板が予想される。今季の宮城は立大2回戦でリーグ戦初完封を記録し、防御率も3.03で伊藤樹に次ぐリーグ3番目の数字。しかし明大3回戦では3回降板、慶大2回戦では5失点を喫するなど、直近の2登板はいずれも苦しいピッチングとなった。本来の投球を取り戻し、ブルペンからチームに流れを呼び込みたい。
早慶戦では出番のなかった安田虎汰郎(スポ2=東京・日大三)も、決戦でリベンジを誓う。今季も魔球・チェンジアップを武器にブルペン陣を支えてきた安田だったが、明大3回戦では3点リードの最終回に同点本塁打を被弾。痛恨の一球に悔しさをにじませたが、明大との再戦で汚名をそそぎたいところだ。

明大投手陣はリーグトップクラス
対する明大の先発は毛利海大(4年)が予想される。今季の毛利は圧倒的な奪三振力と四死球管理能力を誇り、シーズン6勝、防御率1.34、54奪三振といずれもリーグトップの数字をたたき出した。早大1回戦では6回を投げ、被安打わずか2つの無失点ピッチング。だが中1日を経て先発した3回戦では味方の失策が絡む不運がありつつも、2回3失点の苦しい投球となった。それでも休養を十分に取った万全の状態で登板する毛利は六大学随一の左腕。勝負の一戦でも、早大打線の前に大きな壁として立ちふさがるだろう。
リリーフでは大川慈英(4年)が明大ブルペン陣の柱だ。チームメイトから「最終兵器」と評される最速155㌔右腕は今季ここまで8試合に登板し、防御率2.45。相手打者をねじ伏せる圧巻の投球を見せている。しかし、大川も早大3回戦では同点の10回に勝ち越し本塁打を浴び、敗戦投手となる悔しい登板に。優勝決定戦は雪辱を誓うマウンドとなるが、早大としては返り討ちにしたいところだ。
また、シーズン途中から復帰を果たした松本直(3年)も要注意だ。威力のある直球を武器に三振の山を築き、計8イニングを投げて1失点の好投を続けている。左投手では大室亮満(2年)が好調。今季神宮デビューを果たすと、早大戦では2試合で計3イニングを無失点に抑える好リリーフを見せる。法大3回戦でも緊迫した場面での火消しに成功し、優勝へ大きく近づく一勝を手繰り寄せた。他にも実績十分の髙須大雅(4年)や、早大2回戦の先発で好投を見せた三浦心空(3年)らを擁する充実の布陣。リーグ1位のチーム防御率を誇る明大強力投手陣を攻略するのは至難の業だ。
打線はクリーンアップの活躍に期待
早大打線はチーム打率がリーグトップの2割9分4厘。早慶戦では打率4割台を誇る渋谷泰生(スポ4=静岡)が復帰を果たし、完全体となった稲穂打線はさらに迫力を増した。中でも攻撃の核となるのは、中軸の小澤周平主将(スポ4=群馬・健大高崎)と寺尾拳聖(人3=長野・佐久長聖)。ここまで打率3割7分7厘、OPS1.006を記録する小澤主将は、慶大1回戦で3安打3打点の大暴れ。シーズン序盤は体調不良もあり苦しんだ小澤主将だったが、直近は7試合連続安打を記録するなど、早大主将の名に恥じない打撃でチームを引っ張っている。ここまでの全試合で4番を務める寺尾はリーグ3位の打率4割2分2厘で首位打者に肉薄し、OPSも驚異の1.163。リーグ終盤では2試合連続で猛打賞を記録するなど、持ち前の打棒を遺憾なく発揮している。

その2人の後を打つのは前田健伸副将(商4=大阪桐蔭)。今季はここまで低調な打撃に終始していたが、慶大2回戦ではバックスクリーンに値千金の満塁弾を突き刺した。中軸へつなぐリードオフマン・尾瀬雄大(スポ4=東京・帝京)も、明大3回戦から3試合連続のマルチヒット中。勝負の一戦でも早大打線の先陣を切り、チームの火付け役となりたい。
さらに早大は機動力も大きな武器だ。チームのテーマに「走塁改革」を掲げた今シーズンは、チーム合計30盗塁を記録。2位の法大の15個に対し、2倍の差をつける圧倒的な数値を叩き出した。しかし、明大との3試合で記録した盗塁数はわずかに1つ。天王山で持ち前の機動力は鳴りを潜めている。俊足の尾瀬や渋谷、石郷岡大成(社4=東京・早実)。そして慶大2回戦で殊勲の激走を見せた山口力樹(スポ4=早稲田佐賀)らが足でかき乱すことができれば、試合の流れは早大に傾くだろう。
一方の明大打線も好打者が勢ぞろいだ。左脇腹の骨折を抱えながらも一塁手として出場を続ける小島大河(4年)は4季連続となる打率3割台を記録し、本塁打はキャリアハイの3本を放つなど、天才的な打撃を見せている。中でも印象的なのは、早大3回戦の最終回に放った劇的な同点3点本塁打。一振りで試合の趨勢(すうせい)を決める小島のバットには要警戒だ。また、今季ブレークを果たした安打製造機・宮田知弥(4年)にも注目したい。開幕から高打率をキープすると、最終的にはリーグ2位の打率4割2分9厘をマーク。早大との対決でも3戦合計で12打数5安打の活躍を見せた。田上夏衣(2年)や榊原七斗(3年)といった上位陣を抑え切り、強力な中軸をランナーのいない状態で迎えたい。

自力優勝が消滅した危機的状況から起死回生の4連勝を果たし、たどり着いた明大との優勝決定戦。歴史的な逆転優勝へ、残されたピースはあと一つとなった。100年の偉業と歴史に敬意を表し、全身全霊で戦う大一番。一投一打に魂を捧げる激闘をその目に焼き付けよう。
(記事 石澤直幸)