【連載】秋季早慶戦直前特集『結実』【第3回】印出太一

野球

 「投手も野手も、秋は粘ることが大事」。正捕手を務める印出太一(スポ2=愛知・中京大中京)は、東京六大学秋季リーグ戦(リーグ戦)前にこう語っていた。昨季は5位に沈んだものの、今季はロースコアを制した展開が多い早大。印出が感じる手応えや課題を、今シーズンの振り返りとともに伺った。

※この取材は10月23日に行われたものです。

「春とは違った粘り強さが出てきている」

今季本塁打を放っている印出

――早慶戦を除く8試合を終えました。まずチームとして今季ここまでを振り返っていかがですか

 今は3位につけていて、優勝の可能性が明治と立教のカードにかかっている状態です。昨春5位という成績で、何もできなかったという悔しい思いがあった中で、夏の練習やキャンプ、オープン戦を通して今季はチームに粘りが出ていると思います。勝負どころで守備で粘って逃げ切ったり、攻撃でも相手のピッチャーが良くて得点が難しい中で、ワンチャンスで得点してロースコアをものにしたりという展開が多く、そういう面で春とは違った粘り強さが出てきていると思います。

――今季ここまでで印象に残っている試合はありますか

 最近にはなりますが、立大2回戦ですかね。負けたら優勝の可能性がほとんど0になり、絶対に負けられないとチームみんながわかっていた中で、ああいう試合展開(2回に2点を先制される)でスタートしてもそこからひっくり返してなんとかカードをものにしたというのは、すごく大きかったなと思います。特に最後の打席、バスター(同点で迎えた8回、無死一塁でバントの構えからヒッティングで左前打を放ち、好機を拡大)をしたのは野球人生でおそらく初めてですが、練習していたことで急にサインが出ても成功できたので、そこは準備しておいて良かったです。あれがあったからというわけでもありませんが、あれをつないでその後得点できたというのは、チームのためにしっかり役割を果たせたと思うので、あの打席は自分の中でも意味がありました。後半に試合をひっくり返して勝ったことは自分としてもチームとしても大きなプラスになったので、立大2回戦が一番印象に残っています。

――バスターのサインが出たときはどんなお気持ちでしたか

  一塁ランナーだった蛭間さん(拓哉副将、スポ4=埼玉・浦和学院)に後で話を聞いたのですが、蛭間さんは本当かどうかわからなかったみたいで(笑)。「ホントに?」という感じでバスターエンドランのサインが出てから、もう一回監督(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)にサインをお願いしていました。自分は一発でサインはわかりましたが、「ここで仕掛けるか…」と思いましたね。ですが準備はしていましたし、ランナーが蛭間さんということもあってただ送りバントが出るような気もしなかったというか、どこかで仕掛けるかもしれないなと考えていました。その中で一球目のサインでしたが、それほどビックリしたわけでもなく、自分はどこに打とうかな、ボールがここら辺に来たらあっちに打とうかなとか結構冷静だったと思います。打席ではあらかじめしっかり考えて準備できたので、その点は良かったですね。

――ここまで唯一勝ち点を許したのは明大とのカードです。今振り返ってみて、明大戦は個人的にどのような試合でしたか

なかなか打てなくて、チーム的にも個人的にも得点圏で一本出せなかったと思います。反対に明治は少ないチャンスをものにして試合の流れを掴み、早稲田はそれを奪い返せないまま終わったという感じです。投手陣も頑張って粘ってはいましたが、最終的にはしっかり責められたな、明治にしっかりやられたなという印象ですし、春優勝のチームで強いのはわかっていましたが、もう少し打撃でも配球でも何かできたかなと思うところはあります。今振り返っても、明治には本当に完敗という感じですね。

「早慶戦では打ちますよっていう感じで…」

塁上でガッツポーズを見せる印出

――次は打撃について伺っていきたいと思います。ご自身の今現在の調子はいかがですか

  調子はあまり良くないですね。東大戦のときなどは良かったのですが、直近で言えば立教のカードもバスターのヒットだけでした。立大戦で荘司投手(康誠、4年)、池田投手(陽佑、3年)と対戦して、ボールを捉えていないことはなくてもヒットゾーンに落とせなかったのは、今考えると調子がいい方ではないのかなと思います。ですが、状態が悪いわけではないので、早慶戦では打ちますよっていう感じで…(笑)。

――ありがとうございます(笑)。調子が良くないと思ったときに、誰かに相談することやアドバイスをもらうことはあるのでしょうか

  練習や実戦で打撃をするときに、自分が打つ際に守っているキャッチャーにどのように見えているかを聞いたり、あとは生沼さん(弥真人、教3=東京・早実)といつも練習をしていて、長く見ている人の方が気付きやすいこともあるので、気になることがあれば質問したりしています。ですが生沼さん以外にも、比較的いろんな人に話を聞いていますね。

――リーグ戦前の取材で、長打を意識してこれまで練習されてきたという話がありました。今季ここまで長打は二塁打3本と本塁打1本の計4本で、春の数字(二塁打2本)を超えています。これについてどう捉えていますか

 塁打数は春より増えているので、その面では成果が出ていると思います。今打率は2割7分少しで長打力の部分では手応えを感じている部分もありますが、やはり相手も打たせまいと投げてくる中で、その球をしっかりさばいて率を残すことが大事だと感じています。春はそれまでに出場したデータもなくてノーマークといえばノーマークでしたし、春に3割5分くらいを残したからこそ、後のシーズンは重要だと思います。残りは早慶戦だけですが、単打を狙っていくわけではなくても、3割に乗せていきたいというイメージですね。

――明大戦あたりから打順が7番から5番に上がりました。打席での意識など変わった部分はありますか

 5番は一応クリーンナップですが、7番を打っていたら前に吉納(翼、スポ2=愛知・東邦)が、5番になったら蛭間さんが前を打っているのですが、あまり景色が変わらないというか。そんなに重荷に感じることはありませんが、蛭間さんはやはり警戒されている分フォアボールなどが多くて、前にランナーがいたり得点圏だったりという状態で打席が回って来ることが多いと思います。立大2回戦でバスターがありましたが、5番だからといってただ打つだけではないですし、やることをしっかりこなしていけば逆にチームに流れをもっていけると思うので、その点は大事な打順だと感じています。

――明大2回戦での本塁打は内角高めのボールでしたが、それは狙っていたのでしょうか

 1回戦で明治のバッテリーが、自分に対して逆球などはあってもインコースに放ってきているケースが多かったので、決めに来るならインコースの真っ直ぐか低めの変化球かどっちかだろうというのが頭にありました。そう考えていた中で甘い球が浮いて来たのでしばいたという感じですが、狙っている感覚はあまりなかったです。事前に頭にあった分、反応できたという感じですね。

――打った感触的にはいかがでしたか

 打ってすぐに多分いったかなという感覚はあって、あとはしっかり一周走らないとなっていう感じでしたね。

――次は守備について伺いたいと思います。リーグ戦前の取材で、少しずつ盗塁阻止の送球に手応えというお話がありました。ここまでの送球面については振り返っていかがですか

  少しばらつきがあると思うので、自分の中でまだやれるなという感じです。春よりは良くなっているとは思いますが、実際に試合の中でやってみて、まだまだ課題はあるので、そこを冬やっていかないとなと思っています。

――盗塁を刺すには、投手との連携なども重要だと思います。盗塁を刺せないときの原因、「こうなると刺せないな」という部分をどう考えていますか

 ピッチャーは盗塁のケアもしますが、そもそもバッターに打たれたらまずいので、まずはそれを抑えるために投げないといけないと思います。自分からすれば、その中で低めに来たり高めに来たり横に逸れたり、いろんなところにボールが来るので、それに対してどの位置で取ってもぶれずに同じ投げ方をする必要があります。そこに関して自分の中で定まっていない部分があることで、盗塁を決められてしまうと考えています。タイミング的に投げても絶対無理っていう盗塁はリーグ戦ではそれほどなく、自分がうまく処理して投げれば刺せるケースが多いと思うので、要因はそこかなと思いますね。

――開幕カードの法大戦は2試合とも完封勝ちを収めましたが。今季の投手陣はどのようにご覧になっていますか

  相手の打者もいいので打たれることはありますが、要所で粘っているというか、得点圏にランナーを背負いながらも無失点で切り抜けて、点を取られても大量失点せず1、2点で食い止めている印象です。法政や立教戦でもわかりますが、結局2点ほどで抑えればワンチャンスで打撃陣も逆転できる可能性がありますし、そこで一気にもう2、3点取られたら試合が決まってしまうと思います。失点した後のピンチの粘りというか、その場面での制球力などの投手力が、春よりは上がっているのかなと感じています。

――昨春は5位に終わりましたが、今季は現在3位につけています(取材当時)。春から秋にかけて順位が上がった理由は、個人的にどのように考えていますか

 やはり攻守において粘りの部分はあると思います。春に関しては、振り返るとフォアボールに長打にエラーなど自滅が多く、自らペースを乱して相手に流れを渡す展開が多くありました。しかし今秋は、相手に流れが渡りそうなところで粘り、当たり前のプレーをきちんとやれていることが、ロースコアの試合をものにできる要因かなと思っています。あとは4年生がラストシーズンなので、「もう最後なんだな」という思いは自分を含めて下級生みんなにありますし、立教戦は2試合とも土壇場で逆転するドラマチックな試合で、4年生がベンチで涙しているのを見ることもありました。そういった今季への思いみたいなものも、この順位につながっているのかなと思います。

ベストを尽くし、チームに貢献したい

キャッチャーとしてはどういったパフォーマンスを見せるのか

――ここからは、早慶戦に向けての質問に移りたいと思います。まずら今季の慶大のイメージを教えてください

  圧倒的な打力があって勝負どころで確実に点を取ってくるので、その勝負強さが自分は慶應の持ち味じゃないかと感じています。そこをどう封じられるかが早慶戦では大事になってくると思いますね。

――全員手強いとは思いますが、特に警戒している慶大の投手・野手はいますか

 投手では増居投手(翔太、4年)が一番良くて、防御率的にもそうですが今季は状態がいいので、そこを叩けるかが重要だと考えています。逆に増居投手を叩ければ慶應にとっては痛手ですし、早稲田がそこでしてやられてしまったら慶應のペースになってしまうと思うので、そこをなんとか食らいついていきたいです。打撃陣で言うとクリーンナップ、廣瀬(隆太、3年)、萩尾(匡也、4年)、山本(晃大、4年)の3人が大体の点をとっているイメージなので、彼らの前にランナーを出さないことが大事だと思います。

――早大の中ではどなたがキーマンになると思いますか

  やはり蛭間さんですかね。早慶戦といえば蛭間さんみたいなところはありますし、その後ろを自分は打たせてもらっているので、蛭間さんが塁に出たら返せるようにしたいと思います。あとは加藤さん(孝太郎、人3=茨城・下妻一)で、やはり一戦目は大事なので、強力打線をいかに抑えるかがかなり重要という点で、キーマンだと思っています。

――早慶戦に向けて、現在のチームの状態、雰囲気はいかがですか

  明治と立教戦の結果次第ではありますが、いずれにせよおそらく2連勝が優勝への絶対条件だと思います。幸いにも2週間くらい日が空くのですが、その2週間はレベルアップする時間、かつチームとして相手を倒すために何をしなきゃいけないのかを整理して準備する時間だと、チームで共有して取り組んでいます。2週間後ではありますが、早慶戦への強い思いというのは出てきていると感じますね。

――最後に、早慶戦への意気込みをお願いします

 個人的には昨年ベンチ入りさせてもらい、慶應が優勝して胴上げをしているのを目の前で見ていました。悔しくてあの光景は今でも忘れていないですし、なんとしても今度はやり返すと強い思いがあります。早慶戦を必ず2連勝して早稲田の意地を見せつけると同時に、それが優勝決定戦になれば勝って監督さんと4年生を胴上げし、神宮大会で日本一を目指すために、なんとしても早慶戦は勝ちたいと思います。自分は攻守ともにベストを尽くして、チームに貢献したいと思います!

――ありがとうございました!

(取材・編集 湊紗希)

◆姓名(いんで・たいち)

2002(平14)年5月15日生まれ。185センチ。捕手。愛知・中京大中京高出身。スポーツ科学部2年。今回は、粘り強さについて手応えを語ってくれた印出選手。昨秋目の前で見た慶大の胴上げは、今も忘れていないそうです。「やり返したい」との言葉通り、早慶戦では勝利を後押しする活躍に期待しましょう!