【連載】春季早慶戦直前特集『矜持』【第3回】印出太一

野球

 今季から正捕手という大役を務める印出太一(スポ2=愛知・中京大中京)。「ようやく自分の成果を試せる」と臨んだ自身初の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)では、3割を超える高打率を残し、存在感を示した。しかしチームは5位に沈み、課題を残す結果に。春季リーグを振り返るとともに、初の早慶戦への思いを伺った。

※この取材は5月18日にオンラインで行われたものです。

基本的に自滅がほとんど

チームのトップの打率を誇る印出

――まずは今シーズンについてお聞きしたいと思います。チームは5位という成績ですが、今季ここまでの戦いぶりを振り返っていかがですか

 打撃の面が特になのですが、守備の面でもミスが多くあり、正直上手く噛み合っていない部分があると思います。

――最初の法大、次の明大戦はどちらのカードも競った展開の中で勝利を逃しました。勝ちきれない要因はどこにあると感じていますか

 基本的には自滅がほとんどで、競った試合展開でも結局大事なところでミスが出て、それが失点につながって…ということなので。それがなければ、もっと流れも違ったのかなと思う部分はあります。ミスからの失点はチームとしてはもちろん痛いですし、流れも相手にいってしまうので、それが勝ちきれなかった要因なのかなと感じています。

――初めてリーグ戦に出場してみて、3連戦なども度々ありましたが、体の疲労などはいかがですか

 リーグ戦自体が初めてで、昨年のようなポイント制から勝ち点制になり、また更に新しくなって…ということで、正直3連戦などが終わった後は身体的にきつかったです。ですが、この時期からこういう経験ができて、逆に良かったのかなとも感じていますね。

――印出選手のリーグ戦初安打は、以前に「対戦したい選手」として名前を挙げられていた、法大の篠木(健太郎、2年)投手からでした。実際に対戦してみての感想を教えてください

 自分の方はヒットといってもクリーンヒットではないので、特に初ヒットを出せたという実感はありませんでした。ですが、やはり篠木投手は球速やボールのキレ、伸びなどがすごい投手だなと打席に立って改めて思いましたね。

――篠木投手以外に、他の大学で「この選手すごいな」と感じた選手はいますか

 キャッチャーで配球をしていて、明治大学の宗山(塁、2年)選手は打率の通りなのですが、やはり手強いバッターだなと試合をしながら感じていました。

――リーグ戦で特に印象に残っている試合はありますか

 明大2回戦(2―1で早大が勝利)かなと思います。野手はもう少し点を取りたいところではありましたが、あの試合は目立ったミスがなかったと思いますし、ピッチャーも1失点に抑えて接戦をものにしたというのは、すごくチームとしてプラスになると感じました。それまでミスで自滅をして僅差で負けてきた中で、最後にあのような松木さん(大芽、スポ4=石川・金沢泉丘)のプレー(レフト・松木の本塁補殺で試合終了)が出て勝てたということで、チームもすごく盛り上がりました。結局次の試合には勝てませんでしたが、チームの雰囲気がすごく良くなった試合だったと思います。

打ち気にならない、欲を出さない

キャッチャーとしてもリーグ戦初出場とは思えない貫禄だ

――続いては打撃に関する質問に移りたいと思います。現在打率はリーグ5位(取材時点)の.333です。これは印出選手にとって、満足のいく数字だといえますか

 3割というのは1つボーダーラインだと思うので、最後の早慶戦1カードを残してその数字を維持しているというのは、自分の中では及第点なのかなと感じています。ですがやはり上には上がいますし、これからもそういった(高打率を残す)バッターと戦っていかなければいけないと思います。今季いろいろな経験をした上で、打席での反省点もいくつかあるので、そういった面では「まだまだやれる」というふうに感じますね。

――高打率の要因は

 ボールを自分のもとに引きつけるというか、「打ち気にならないこと」、「欲を出さないこと」がまず自分は一番大事だと思っています。細かいことではありますが、やはり「打ちたい」や「ここで自分が決めなきゃ」というような欲が出ると、バッティングっておかしくなってしまうので。それを防ぐために、練習から常に同じメンタルで、同じように打席に入るというのを意識してやっていますし、それが今の数字に結びついているのかなと思います。

――反対に、自身の打撃で満足がいっていない部分はありますか

 長打がないことですね。現在36打数12安打で打率3割3分3厘なのですが、12本ヒットが出て塁打数が13と長打が1本しか出ておらず、基本的に単打が多い状態です。今からは変えられませんが、やはり長打が出ればチームに流れが来るので、秋や次春のシーズンに向けて打率を求めつつ、長打という部分にもこだわっていきたいと思います。

――春季リーグ戦の中で理想的な安打はありましたか

 明大2回戦での先制タイムリーがセンター前ヒットだったのですが、あの打席は自分的に狙った球を狙った箇所に打てたと思います。二塁ランナーが蛭間さん(拓哉、スポ4=埼玉・浦和学院)で単打でも得点できる場面だったので、守備位置が最も深いセンターに打ちたいなと考えていました。そこでボールを一球で仕留めて、狙っていたセンターに打てたというのは、自分の中ではすごく良かったかなと思います。

――次は1点を追いかける9回2死から、印出選手が同点適時打を放った東大2回戦について伺いたいと思います。あと1アウトを取られたら負けてしまうという場面での打席でしたが、特に意識していたことはありますか

 東大のバッテリーは自分に対して変化球を放ってくるケースが多かったので、基本的には変化球を意識して打席に入りました。(ランナー二塁という好機で)とにかくシングル(ヒット)を出せばという場面だったので、打席ではコンパクトにというイメージをもっていましたね。

――2ストライクと追い込まれてからの同点適時打でしたが、緊張はされましたか

 緊張はあまりしていなかったと思います。試合前に監督さん(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)が「過度な緊張はするな」とおっしゃっていて。要は「上がる」ということなのですが、それではパフォーマンスが下がり絶対に結果が出ないから、ルーティンなどでリラックスできる状態をつくり、その「上がる」状態だけは避けろと言われていました。2球目にボール球に手を出して2ストライクになった瞬間に、その監督さんの試合前の言葉が本当に頭をよぎって。自分的には緊張していないと思っていたのですが、追い込まれた瞬間に「ああ、これ多分上がっているんだろうな」と感じて、逆にそこでリセットできたというか。そのようなこともあって、狙っていた変化球を上手くバットに乗せていけたのかなと思っています。

――ここまでのリーグ戦を通して、緊張された場面はあったのでしょうか

 自分は初戦でめちゃくちゃ緊張するタイプですね。中学、高校のときからそうなのですが、大会の初戦の1打席目や1イニング目ですごく緊張します。大会で1試合目を消化してしまえば、あとはもう大体同じなので変わらないのですが…。

――では、初戦の法大戦のときは少し緊張があったということでしょうか

 (イニングの)先頭だったということもあり、第1打席は少し緊張していましたね。結果的には(投手への内野安打で)ラッキーだなと思いました。

――今季は得点圏の場面においても、勝負強い打撃が目立っています。ランナーなしの打席と好機での打席とでは、どちらが打ちやすいなどはありますか

 ランナーがいた方が打ちやすいですね。ランナーがいると相手の内野手がそれをケアするので、その分グラウンドを見たときにヒットゾーンが広い印象を受けます。ランナーがいた方がピッチャーの癖なども出やすいですし、逆にランナーがおらず、ピッチャーとの一対一で出塁を目指すとなると、結構しんどい部分もあります。そういうこともあり、自分的にはランナーがいた方が打ちやすいですね。

――チームの打線としては、好機はあってもあと1本が…という試合が多い印象を受けます。今の打線の状態についてはどう感じていますか

 多分調子が悪いとかではなくて。プロなどと違って短い期間で行われるリーグ戦においては、「何本打つか」よりも「どこで打つか」が大事だと思います。ですが現状を見ると、先ほど言ったような「ここで打たなきゃ」といったメンタル的なズレが体のズレにつながり、結局相手の術中にはまっていると個人的には感じています。技術的な問題や調子が悪いということではなく、おそらく打席への入り方などが要因ではないかと思いますね。

――捕手としてプレーをしていく中で、投手のボールなどが、印出選手の思い描いたようにならない場面があったと思います。そこから精神的な面で、打撃へどう切り替えていましたか

 自分がサインを出し、守備のリズムを生むために考えてやっている中で失点が重なると、やはりキャッチャーとしては精神的に結構きついというか、上向きにはなりづらいです。ですが打たないと点が入らないですし、守備のことを考えながら打席に入ると、結局集中できていないことになってしまうので、そこはもう「守備は守備」と切り離して考えています。それでも打席が回って来ないようなイニングに関しては、少し守備のことを考えるなどして、バランスをとりながらやっていますね。

まだまだ鍛え直さなければいけない

――続いて投手陣についてお聞きしたいと思います。全体として、今季ここまでの先発陣の働きについてはどう感じていますか

 加藤さん(孝太郎、人3=茨城・下妻一)に関しては現時点で一番防御率が低いですし、そういうピッチャーがいる中で勝てない要因というのは、打者にもあると思います。ですが試合の流れの中で、絶対に失点してはいけないイニングというのがあって。今季はそういった流れの関係から絶対に点をやれない場面で失点し、その分相手が勢いづいて手に負えない状態になっている部分があります。試合の流れを左右する場面で、バッテリーでなんとか踏ん張り切ることが、今後の課題になってくるのかなと感じています。

――今のお話にも出てきた加藤投手は、明大2回戦で完投、東大3回戦では完封勝利を挙げました。今季の加藤投手の投球を振り返ってみていかがですか

 これは監督さんもおっしゃっているのですが、変化球も真っ直ぐもやはり「低め」、特に「アウトコース低め」を中心に投げきるというのが、ピッチャーの基本中の基本で。加藤さんに関しては、リーグ戦を通して何百球と投げていく中で、そこにミスなくコンスタントに投げ込めていることが、現在の防御率や完投、完封につながっていると思います。そこに投げるだけの実力があるからこその数字、結果だと感じていますね。

――その一方で、全体的に見て制球力などに少し不安定な部分がある投手も見受けられます。投手陣における課題はどのようなものだと感じていますか

 制球の部分ももちろんそうですし、中継ぎに関してはこれまでフォアボールからの失点や、特に今季目立っているバント処理のミスなどから、野手と同じように自滅しているケースが多いので。中継ぎ陣に関しては低めに投げきるということと、普段通りのピッチングやプレーをマウンド上でするという部分が、課題としてあると思います。

――その中でも、明大1回戦から伊藤樹投手(スポ1=宮城・仙台育英)が度々登板されています。まだ1年生ですが、伊藤投手の投球をどのように見ていますか

 1年生ではありますけど、見ての通りパワフルというか強いボールを放ってくれるので、自分としても頼りにしている部分はあります。度胸もあるので、そういった部分は1年生離れしているのかなと思いますね。

――以前の取材で、「リーグ戦へ向け、ブロッキング(投手の球を後ろにやらないこと)にこだわって練習してきた」とおっしゃっていました。ここまでリーグ戦を戦ってきて、その点についてどう振り返られますか

 法大1回戦と立大1回戦で、捕球面のミスが出てしまって。キャッチャーにミスがつく場面では必ずランナーがいるので、それにより無駄な進塁をさせないことが、失点を防ぐために大事になってくると思います。その点はやはりまだまだ鍛え直さなければいけないなあと感じていますし、もしチームが打てなくて流れが悪くなって打たれて…という展開になったとき、自分までそういうミスをしていると、チームが終わってしまうので。秋にはそのミスを0にするために、もう少し技量を上げないといけないなと思っています。

――これまでリーグ戦に向けて様々な練習を重ねてきたと思います。実際にリーグ戦を経験してみて、「この部分は成果が出たな」と感じていることはありますか

 バックホーム時の、タッチプレーの練習をかなりしていて。神宮(明治神宮野球場)は芝のアンツーカーの部分だとか、結構キャッチャーや野手にしかわからない難しさもあるので、それを意識して練習をしていました。明大2回戦や立大1回戦では(本塁補殺があり)、やってきたことを上手く発揮できたかなと思うので、その点は冬にしっかり練習しておいて良かったなと感じていますね。

勝って、早慶戦に良いイメージを

早稲田の新たな扇の要に注目だ

――最後に早慶戦についてお聞きしたいと思います。早慶戦に向けての現在のチームの雰囲気はいかがですか

 もう優勝の可能性はなくなってしまったのですが、早慶戦は絶対に負けられない試合ですし、早稲田のライバルはやはり慶應だと感じています。何としても負けないため、最善の準備をしようという方向に、チームは向かっていると思います。

――印出選手にとっては初めての早慶戦となります。どういう早慶戦にしたいですか

 シンプルに勝ちたいですね。早慶戦で負けるというのは、早稲田としては少し恥ずかしい…ではないですが、やはり負けられない一戦なので。初めての早慶戦ですがそれは関係ないですし、勝って自分の中で早慶戦に対しての良いイメージをつけたいですね。

――慶大はどういった相手という印象ですか

 打線が良いイメージですね。自分が見ている中で平均得点も高いですし、それをいかに抑えるかというのが、早慶戦の鍵になってくるかなと思います。

――捕手として、特に警戒する慶大の選手はどなたですか

 萩尾(匡也、4年)選手と廣瀬(隆太、3年)選手ですね。この2人が打っている試合は慶応が勝っているので、しっかり抑えきることで、勝利に近づけるのかなと感じています。

――最後に早慶戦に向けての意気込みをお願いします

 優勝の可能性はなくなってしまいましたが、早慶戦は必ず勝って、早稲田の意地を見せたいなと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 湊紗希)

◆印出太一(いんで・たいち)

2002(平14)年5月15日生まれ。185センチ、90キロ。愛知・中京大中京高出身。スポーツ科学部2年。捕手。右投右打。事前アンケートで、「自身の強み」に「勝負強い打撃」を挙げていた印出選手。『早大の意地』を見せるべく、宿敵打破へ向け躍動してくれることでしょう!