第4回に登場するのは、新たな正捕手争いの筆頭を走る印出太一(スポ2=愛知・中京大中京)。東京六大学リーグ戦(リーグ戦)には未出場だが、昨年は全試合でベンチ入りを果たし、小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)からの期待をその肌で感じてきた。「楽しみな気持ちが一番」と語る自身初のリーグ戦へ、どのような準備の末に臨むのだろうか。現在の心境とともに伺った。
※この取材は3月25日にオンラインで行われたものです。
「まだまだやれる」
今シーズンは攻守ともに求められる役割は大きい
――まずはこれまでを振り返っていただきたいと思います。冬の練習や春のオープン戦を経て、現在に至るまでの満足度はどのくらいですか
このオフとオープン戦が本当に自分の身になっていたかというのは、リーグ戦の結果次第だと感じています。リーグ戦に向けてしっかり準備を進めてきてはいますが、やはり他の大学や全国などより広く見たときに、自分よりレベルの高い人はたくさんいると思います。それで今の自分に満足していたらその先がないというか、「まだまだやれる」という意味を込めて、満足度は5、60点くらいですかね。
――冬の期間には守備、打撃ともにどのようなことを意識して練習されましたか
守備においては、昨年正捕手を務められた岩本さん(久重、令4スポ卒=現Honda)が引退されて、今季から自分が出るからには、やはりチームが勝てるようにやっていく必要があると思います。この冬はそのために基礎からもう一度見直して、とにかく守備力向上へ丁寧にシミュレーションをしてきました。打撃に関しては、オープン戦でもそうですが自分は下位打線を打っていて、「上位打線につなぐ」というのが下位の最も重要な役割であり、自分に求められる打撃だと考えています。スイングの能力を上げることも大事ですが、とにかく打率を残せるように、他の五大学の好投手を打つにはどのようなスイングがいいのかを模索しながら練習してきました。
――その冬の練習で変化を感じたことはありますか
オープン戦をここまで十数試合やってきて、一応打率が3割に乗っているので、ミート率などの面では少し成果も出ているのかなと思います。それを神宮で実行できるように、これからも練習していくという感じですね。
――昨年正捕手を務めていた岩本選手が卒業され、今季から正捕手としての働きが求められてくると思います。それについてはどのように考えていますか
監督さんに昨年1年間ベンチに入れていただいた意味というのは、もちろん自分の中でそういう(新チームで正捕手の役割を期待されているという)意味だと解釈していましたし、このオフシーズンもそのつもりで過ごしてきました。しかし、リーグ戦を未だ経験したこともない自分が今季から出場し、岩本さんの穴を埋めようと背伸びをしたところで、良い結果は出ないと思います。監督さんもいつも「求められている以上のことをしようとすると、全てうまくいかなくなる」とおっしゃっていますし、自分もその通りだと感じています。 正捕手の穴を埋めるために努力するのはもちろんですが、 今の自分ができることを神宮でしっかり発揮することが、チームにとって最もプラスになるのかなと考えています。
――野球部に入部してから約1年経ちますが、昨年の自分と現在の自分とではどんなところが違うと思いますか
昨年は最下級生で自分のことで精いっぱいというか、大学野球というものを感じ、岩本さんにいろいろ教わりながら土台をつくってきた1年でした。今年からオープン戦にも多く出させていただいていている中、まだ2年生で下級生とは言われますが、やはり早稲田のユニホームを着て試合に出る以上は、学年は関係なく言い訳にならないと思います。そういった責任や3、4年生の方の分まで頑張らなければいけないという思いは昨年より強くあります。
――続いて大学生活に関してお聞きしたいと思います。今春から2年生になりますが、大学生活には慣れましたか
そうですね。教職の授業もとりましたが、今のところ単位は落とさずにフル単で来ています(笑)。
――東京での生活には慣れましたか
コロナとかであまり東京を感じることはないのですが、生活には慣れてきましたし、寮生活が楽しいですね。
――その寮生活はいかがですか
高校は通いだったので寮生活は初めてなのですが、やっぱり楽しいです(笑)。友達が普通に隣の部屋とかにいて、今は吉納(翼、スポ2=愛知・東邦)と栗田(勇雅、スポ2=山梨学院)が両隣です。
――同期の2年生の中で注目の選手はどなたですか
やっぱり吉納ですね。リーグ戦にも出場すると思いますし、吉納はチームを勝利に近づけるキーマンだと思っています。今は(打順は)六番を打っているのですが、吉納の打撃はチームを勢い付けるものがあると思うので、吉納に注目してもらいたいですね。
――吉納選手にはオープン戦で本塁打が多く出ていましたね
チームで一番打ったんじゃないですかね。吉納は打撃に期待されている部分が多くありますし、彼のバッティングを見て参考にというか刺激を受けながら、でもあまり欲は出さずにいきたいなと思っています。
――続いてすでに数人の1年生が練習に参加していますが、期待の選手はいますか
オープン戦でも少し投げているのですが、伊藤樹(スポ1=宮城・仙台育英)ですね。監督さんの判断なのでわかりませんが、リーグ戦でも投げることになるのではと思います。伊藤のピッチングはすごくいいと感じますし、自分は彼の力を発揮させられるようなリードができればと思っています。
――2年生になり下級生も入ってきますが、意識の変化はありますか
下級生が入ってくることで、今後はやはり何かを教えたりだとか、見本となる行動やプレーをしなければいけないと思います。学年の中でもそういったことに関し、「ちゃんとしていこう」とミーティングで話をして意識を高めています。2年生でまだ下級生といえども、やはり下に後輩がいる以上は上級生ぐらいの自覚を持つことが大事だと思うので、そういった部分はこの1年しっかりしていきたいですね。
「欲は出さず、自分のできることを」
直近のオープン戦では打撃が好調だ
――次にオープン戦について伺いたいと思います。昨年は主にブルペンで球を受けられていましたが、実際に多くの試合でマスクを被り、「ここが大変だな」と感じている部分はありますか
大学や社会人、プロの打者と対戦させてもらって、やはりどこもレベルが高いと感じましたし、その打者を一人ずつ抑えて計27個のアウトを積み重ねることが、一番シンプルですが難しい、自分の仕事であると考えています。配球やピッチャーが投げるボールなどが自分の思い描くようにならないこともありますし、そのようなズレが生じたときの修正力というのも、キャッチャーに求められる能力だと思います。加えてそこがまだ自分には足りていないかなとオープン戦を通して感じるので、リーグ戦に向けて直していきたいですね。
――捕手において大事にしていることはありますか
一つこの冬こだわってきたのが、「ブロッキング」で、キャッチャーとしてボールを後ろにやらないというのが一番大事なことだと思います。岩本さんからもいろいろご指導いただきましたし、この冬にそれをひたすら練習した分、オープン戦でも少し成果を感じています。「どんな球でも止める」というところからピッチャーとの信頼関係も生まれてくると思うので、しっかり低めに放らせられるよう、ブロッキングには人一倍こだわってやっています。
――どんな捕手を理想とされていますか
これは高校の時からずっと言っているのですが、「勝てる捕手」というのが一番理想だと思っています。もちろん盗塁を刺せることもそうですが、やはり「ここぞ」という勝負どころの場面で投手を奮い立たせ、バッテリーで試合をつくっていける、試合に勝てるキャッチャーこそが最も自分の目指すところですね。
――続いて打撃についての質問に移ります。改めてオープン戦での打撃の調子はいかがですか
調子は良い方だと思います。一応打率が3割に乗っているというのは、冬に心がけてきたことの成果が出ているのかなと感じる部分ではあります。ですがあくまでオープン戦の結果ですし、リーグ戦では相手のエース級のピッチャーが次々出てくる中で結果を出さなければいけないので、それを打つことが本当の成果だと感じています。それを打てるような練習をこれからも継続していきたいと思います。
――印出選手の理想の打撃とは
やはり、打率を残すことが一番大事だと感じています。現在下位打線を打っていることも関係していますが、いくらホームランや長打を打ったところで打率が1割、2割なら、チームの勝利に貢献できる可能性としては低いと思います。そうではなくて3割5分くらいを残し、コンスタントに打って出塁、あるいはランナーを返してというのが、一番自分の理想というか求められる打撃だと考えています。良い当たりの延長線上にホームランがあると思っているので、あまり長打を意識しすぎず、中距離の中でとにかく率を残すという打撃スタイルにこだわりをもっています。
――打撃において参考にしているものは何かありますか
例えば良いバッターの特徴を見て、それを自分の中で整理し、「これだ」というものを貫いてやっています。あとは夜に同じ右バッターの生沼さん(弥真人、教3=東京・早稲田実業)と一緒に自主練習を多くしていて。何かを参考にというよりかは、そこで試合のときにお互いを見た感想や、打撃のちょっとした理論などについて意見交換をしているという感じですね。
――練習や試合をしていく中で見つかった課題はありますか
オープン戦で最近打線の調子があまり良くないのですが、そういうときにいかにバッテリーが踏ん張れるかだと思います。リードを許す展開が多くても、やはり最少失点に抑えることが最高のかたちですし、それがこのチームが今年勝っていくための、一番大事な部分だと考えています。なんとかピッチャーをサポートし、リーグ戦を勝っていけるようにすることが、自分の課題だとオープン戦を通して感じています。
――オープン戦でプロ野球球団との試合がありましたが、プロの選手と対戦していかがでしたか
キャッチャーとして間近にバッターを見ていて、アマチュアのレベルではピッチャーが失投したとしてもよくファウルや空振りになりますが、プロ相手ではその一球の甘い球を打たれるという部分が、違いというか差に感じました。それはリーグ戦においても、結局いいバッター相手では同じですし、ピッチャーがしっかり投げきれるようにジェスチャーや構え、声かけなどいろんな部分で自分にできることがあると思っています。
――現在のチームの雰囲気はいかがですか
打線の調子がうまく噛み合っていない状態ではありますが、打撃の他にもベンチの雰囲気や、試合でのベンチとグラウンドにいる選手間の言葉のキャッチボールなどから意識をし、「チームを変えよう」と話をしています。打撃に関しては結局個人の問題、個人で練習や調整をしていくものなのですが、主将の中川さん(卓也、スポ4=大阪桐蔭)と副主将の蛭間さん(拓哉、スポ4=埼玉・浦和学院)を中心に、一体感をキーワードに取り組んでいます。徐々にチームが良い方へ向かっていくのではと自分は思っていますね。
――最後にリーグ戦についてお聞きしたいと思います。徐々にリーグ戦の開幕が迫っていますが、今の心境はいかがですか
自分はあまり緊張とかはしないタイプで、早く試合がしたいという気持ちがありますね。昨年リーグ戦を1年間、ベンチやブルペンで間近に見てきて、自分も出たいという気持ちをずっともっていました。早稲田のユニホームを着て試合に出るというのは簡単なことではないですし、そういったことに対して、プライドや責任のようなものをリーグ戦が近づくにつれて感じています。ですが自分的には、リーグ戦でようやく自分の成果を試せるという楽しみな気持ちが、今は一番強いかなと思います。
――捕手として、今季の投手陣はどのような印象ですか
昨年は徳山さん(壮磨、令4スポ卒=現横浜DeNAベイスターズ)と西垣さん(雅矢、令4スポ卒=現東北楽天ゴールデンイーグルス)が軸となって投手陣を引っ張っていました。ですがそのお二方が卒業された後の投手陣においては、正直「誰が先発か、誰がエースか」というのはオープン戦の監督さんの起用を見ていても、明確にはわからない状態です。昨年よりはいろんなピッチャーを継投していく試合が多いと思うので、そこをいかに無失点でつないでいくかが自分的には大事だと感じていますし、それが今年の投手陣のスタイルだと思っています。
――春季リーグで対戦したい選手はいますか
打者としては、法政大学の篠木(健太郎)投手ですね。昨年の秋の法政戦で最後篠木投手が出てきて、ベンチから見て軽く衝撃を受けました。「この球を打ってみたい」と思いましたし、生沼さんとも「あれを打たなきゃ意味がない」という話をしています。他にはベンチ入りするかはわからないのですが、すでにオープン戦で投げている明治大学の松島(元希)投手が高校時代の同期なので、打ってやりたいなと(笑)。守備としては法政大学に同じく高校の同期の西村(友哉)と一つ上の先輩である今泉(颯太)さんがいらっしゃるので、彼らには打たれたくないという思いがあります。
――最後にリーグ戦への意気込みをお願いします
必ず優勝して日本選手権(全日本大学野球選手権大会)に出場し、日本一になれるように、自分はその力になれるようにプレーしていきたいです。個人的にベストナインを取れるぐらいの活躍ができれば、チームにもプラスになるとは思いますが、欲は出さずに自分のできることをやるだけだと考えています。優勝に対する気持ちというか執念を全面に出してなんとか勝ちきり、まずはリーグ戦優勝、そして日本一を目指したいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 湊紗希)
◆印出太一(いんで・たいち)
2002(平14)年5月15日生まれ。184センチ。愛知・中京大中京高出身。スポーツ科学部2年。昨年、正捕手を務めていた岩本選手と守備練習をしていたという印出選手。練習方法や試合中の考え方などを教わったそうで、岩本選手へ「少しでも成長した姿を見せられたら」と語ってくれました。自身初のリーグ戦となる今春ですが、先輩の目にも留まるような堂々としたプレーを見せてくれることでしょう!