【連載】秋季早慶戦直前特集『乾坤一擲』第10回 小宮山悟監督

野球

 昨秋、就任2年目で初の東京六大学リーグ戦(リーグ戦)優勝を飾った小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)。しかし今春は5位という結果に終わった。「能力はある」と常に選手の実力を信じつつも、「それを神宮で出せていない」と厳しい表情を見せてきた小宮山監督。4年生にとっては最後のリーグ戦となる今秋、優勝の可能性を残して早慶戦を迎える指揮官に、現在の心境を聞いた。

※この取材は10月28日にオンラインで行われたものです。

東大1回戦、丸山の先制ソロがターニングポイント


取材に答える小宮山監督

――今季ここまで8試合を終えました

 能力のある選手がそろっているので、しっかりとした戦い方をすれば何とかなるだろうと思っていました。コロナの影響で法政さんが最初試合が難しいということで、スケジュールが変わってしまったというところがあり、初戦の法政戦をステップにしようと意気込んできて、ひと月くらい前から開幕戦を何とか勝とうと思っていたところ、出鼻をくじかれたようなところはありました。バタバタしたという感じは否めないのですが、この条件は他も一緒なので。まさか連敗スタートから、自力優勝の可能性を持って早慶戦に臨めるとは思っていなかったので、それでいうと他校も同じようにこけてくれたおかげでこういう状況になりました。いいかたちでゲームを進められる能力を持っていると信じていますので、早慶戦に向けて試合を反省しつつもちろんいい試合もありましたが、だらしない試合もあったので、それをしっかりと反省して週末に臨みたいと思います。

――連敗した開幕の立大戦から、2週間後の東大戦まではどのような練習をされましたか

 能力のある選手たちと思っているので、物足りなく写るんですよ。能力を発揮できていないので。持っている力を最大限に発揮するために、何とかしないといけないということで、きつい言葉で学生たちをたしなめたりはしました。スタンドにいる方たちが最も感じることで言うと、闘争心みたいなのが伝わらないので、淡々と試合をするというのが物足りなさだったかなと思います。「歯を食いしばってでも」というような姿勢が垣間見えるように、ということをいろいろな言葉で仕向けたりはしました。

――大勝した後の法大戦では2試合続けて無得点で引き分けとなりました

 相手(の先発)もドラフトで指名された2人(三浦銀二、山下輝。ともに4年)でしたから、そう簡単にはいかないだろうと思っていました。あれだけ東大戦で打っておきながら、全く(打線が)機能しなくなったというのはこちらとすれば大いに反省しなければいけない点だと思います。ただ、打線を機能させるにはどうすればいいのだろうということを決断できる2試合だったので、その後の(明大戦での)打順の入れ替えがあの試合があったから、こうしたらどうだろうと考えられたので、そういう意味では明治戦につながったのかなと思います。

――明大戦での打順の入れ替えは法大戦の結果からということでしょうか

 そういうことです。

――その打順を入れ替えた明大1回戦では劇的な逆転勝利を収めました

 今井(脩斗、スポ4=埼玉・早大本庄)が神がかっていたので、彼の力によるところが大きいのだけれども、9回ツーアウトからの大逆転は蛭間(拓哉、スポ3=埼玉・浦和学院)が四球選んでから福本(翔、社4=東京・早実)のセンター前ヒット。あのヒットがチームに勇気を与えてくれたというか、ひょっとしたらいけるんじゃないか、と一瞬で空気が変わるようなヒットになったので、あの一、三塁の状況になって中川(卓也、スポ3=大阪桐蔭)が調子がいいですから、もし出てくれれば今井に回るというところで、あの福本の一本のヒットで雰囲気がガラッと変わったと思っています。

――今季のターニングポイントを挙げるなら

 東大1回戦ですかね。もちろん先発全員安打全員得点で、それはリーグ史上5回目でした。立教戦で思うようにならなかったものが、相手が東大、投手力が落ちるというのは誰が見ても明らかという中ではありますが、打ちまくったと。中でも中川卓が四球を4つ選んでいて、こういうのを含めてそれぞれが何をすればいいのかというのを、しっかりと実践できた試合だったと。その勢いで翌日に同じような展開、2試合続けて全員安打全員得点なんて、ギネス記録になるようなレアな記録なので(笑)。2週目に立教が東大に負けて、法政は試合をしていないので、順位がどうこう言うのもおかしいけども、東大戦の前の時点で早稲田が東大の下に位置しているというのがあって、俺の記憶が確かなら東大より下にいるというのは記憶になかったものですから、それを学生たちにきつい口調で言って、春も東大戦の引き分けが5位に低迷する要因でもあったので、東大はもう早稲田を見たくないというくらいに徹底的に叩けと指示をして、その通りになりました。ただ戦う前は嫌な雰囲気でしたよ。連敗スタートだったので。で、立教にも勝って勢いのあるチームという雰囲気のあるチームだったので、その初戦の悪い雰囲気を振り払ってくれたのが丸山(壮史主将、スポ4=広島・広陵)の先制弾で、かなり大きな1本だったと思います。その後の徳山(壮磨、スポ4=大阪桐蔭)(の2ラン)はもうおまけみたいなものなので。あそこで点が取れたというのはなんか重い苦しい空気が払われて、次の試合でも勢いを維持できたのは丸山のバットが作り上げたものだと思います。

――投手陣に関して。徳山選手は春に比べ調子が戻っているように見えます

 春があまりにも悪すぎたので。夏場にどうすればいいのかというのを考えて、かたちをもう一度作り直してスタートしましたので、前回明治戦では思うようにならなかったけれども、全体的に見ると春に比べてしっかりとしたボールにはなっていると思いますね。

――西垣選手(雅矢、スポ4=兵庫・報徳学園)は好調を保っています

 まず30イニング無失点に関してはできすぎです。ここまで点を取られずに来ていることは、もう奇跡に近いことだと思っているので。でも決してやれないことはないという雰囲気が夏場のオープン戦から見て感じていたので、自分のイメージ通りにしっかりとしたボールを投げられれば。打ち取るコツみたいなものを掴んだみたいなところがあるので、よっぽどのことがない限り大崩れすることはないだろうと思います。

――春以前はスタミナ面に課題があるように見えていました

 夏場もしっかり走り込みをしていました。また、さっきも言いましたけどコツをつかむことはものすごく大切で、苦しい状況になる前に何とかしのぐというかたちができるようになったので、そこは大きいと思います。100球を超えたくらいから本人に心配して「どうするのか」と打診しても、「行かせてくれ」と言ってくるので、本人もマウンドに上がったら譲る気はないんだろうなと思います。

――その「打ち取るコツ」の部分に関して、監督からアドバイスは

 ボールがどうなるかを含めて、ピッチングの仕方というのは伝えましたが、それを実践できるできないは本人の才能なので。それをイメージしながらしっかりとボールを曲げたり落としたりしながら打ちにくくする工夫みたいなものを作り上げて出来上がったかたちなので、ドラフトで6巡目ということですが、そのことについては腹立たしく思います。もう少し早めに名前を呼ばれても良かったかなと思います。

――両投手ともドラフト会議で指名を受けました(徳山選手がDeNA2位、西垣選手が楽天6位)

 指名が確定した後に「おめでとう」と連絡はしました。ただリーグ戦中なので、終わるまでは気を引き締めてやれと。まさか優勝争いになるとは思っていない状況だったので、とにかく意地を見せろということでやっていました。

――岩本選手(久重副将、スポ4=大阪桐蔭)は惜しくも指名漏れというかたちになりました

 チーム事情がいろいろ絡むので、キャッチャーを補強しようとしたチームが思いのほか岩本よりも能力が高いと判断した選手を取れてしまったので、岩本を指名せずにということで、漏れてしまったと思います。こればっかりは運なので。ただ2年後に社会人でしっかりとしたものを見せつければ、キャッチャーというのは需要があるので、プロで必要だという選手になれば指名してもらえるでしょうから、とりあえず頑張れと伝えました。

――投手陣のお話に戻りますが、救援陣では原選手(功征、スポ3=滋賀・彦根東)を筆頭に経験の浅い投手陣が奮闘しています

 (原は)来年最終学年になるということで、こちらからのリクエストをきちんと伝えてそれをしっかりと意識して取り組んだ結果だと受け止めています。ただ、原も含めて他のリリーフ全員がここまで抑えるとは思っていませんでした。この秋のブルペンの成長は来年以降の楽しみになると思っています。

――野手陣では今井選手が目下三冠王の活躍です

 春のリーグ戦の開幕前にした故障が癒えて、春の早慶戦で打って、チームの骨格部分が出来上がったということで夏場のオープン戦もよく打っていましたので、かなり期待をしていました。首位打者になれるというのは本人にも伝えていて、バッティングに関しては抜けているので、普通に考えれば首位打者を取れる。本人が変な色気を出さないでやれば首位打者になれると思っていたので、それを聞いてどう思ったかわからないけど、その気になってくれていたのだろうと思います。立教戦に関しては開幕前の練習で看過できないことがあったので、これは監督として、早稲田大学野球部として、そういう選手に早稲田のユニホームを着せて神宮の舞台に立たせるわけにはいかないということで外しました。そこから大いに反省をして、丸山がもう一度今井にチャンスを与えてくれということで言ってきたものですから、キャプテンの言葉は重たいので、丸山の思いをしっかりと受け止めて今井にもその話をしてとにかく丸山の思いに応えろということで、その後の神がかっているバッティングなので、それはそれで良かったと思っています。

――今井選手の成績に関しては

 できすぎです。できすぎなんだけど、ある程度結果が伴ってきていますので、史上最高打率を超えた三冠王を取って卒業することがあればおそらく、誰にもそんな記録は破られないと思います。慶応の廣瀬くん(隆太、2年)がホームランを2本打っていて、打たれなければホームラン数も一位確定ですし、打点も慶応の連中の成績を見たら、今井の14を超えるのはなかなか難しいと思うので、ここも大丈夫だろうと。あとは史上最高打率の5割3分5厘(2001年秋、慶大の喜多隆志)の数字をもし今井がクリアして三冠王を取れば、もう万々歳というところです。

――今春はけがで思うような結果が出せなかった福本選手も打率4割超えと好調です

 元々これくらいの選手なので。春は本当に期待していたら、故障で出られないという状況でしたので、つらかったと思いますよ。レギュラーしか入れない寮で、試合に出られない生活を送っていたので。毎日毎日来る日も来る日もリハビリで、思うようにならないというところから、ようやく戻ってきて何とか夏のオープン戦でしっかりとしたものを残してくれたので、あそこまで打つとは正直思ってなかったんだけれども、才能のある選手で期待はしていたので、想定以上の働きをしてくれています。最後も頑張ってくれると思います。

――中川卓也選手も自己最高の成績を収めています

 結果としてこのように打っている印象ですが、普段の練習の時から同じような感じなので。1年生の春からこういう感じの選手というふうに受け止めていたので、それが試合の時に思うようにいかなかっただけなので。そうは言うものの、結果が全てではあるので、本人は相当苦しんでいたと思います。ここに来てようやく(結果が出ている)という感じなので、卒業まで何試合できるかわからないですが、1年生の時からの低調ぶりを覆すくらいのバッティングはしてくれると思います。

――一方で、丸山選手、岩本選手は本調子とは言えないように思います

 明大1回戦の2人のタイムリーは逆転した後でおまけみたいなものでね、あの後映像を見返すと岩本が泣きながらね、感極まった感じでしたが、あの時打席に行く前に仲間に感謝しろと言ったんですね。4番から6番に下げて本人は納得してたんだけど、その時にとにかく4番として背負い込みすぎていたので、結果を出さなくちゃと相当苦しんでいて、なかなかバットが出てこないという中でその試合も苦しんでいました。逆転して楽な場面で打席を回してくれた仲間たちに感謝しろと。ここでお前の能力を見せつけろと。ということで送り出して、素晴らしいレフトオーバーのライナーを打って本人もすかっとしたんじゃないですかね。そういうのもいろいろあって感極まったのだと思います。あの試合は今井が神がかっていたので、まさかそういう試合になるとは、という中での一本なので、誰も覚えていないと思います。岩本が打ったことを(笑)。

――2人は主将、副将としてこの1年チームを引っ張ってきたと思います

 厳しさをもとめてやっていますから、彼らがチームを引っ張ってということで、ようやく最後ここに来て少し雰囲気が出てきたかなという感じはしますね。丸山はふわふわっとした感じで、まとめようという気持ちではいたんだろうけど、今一つ的を射ていないというか、少し優しい感じの連中なので、ようやくここに来て試合を取らなきゃいけないというところの必死さみたいなものが練習中にも伝わってくる雰囲気になってきたので。もちろん勝ちたいけれども、仮にどういう結果になろうとも丸山のチームということで言うと、仕上がったと感じています。

「風は早稲田に吹いている」


マウンドで西垣(右)に声をかける小宮山監督(中央)

――他大の結果もあり、自力優勝の可能性がある中で迎える早慶戦となります

 去年は蛭間(拓哉、スポ3=埼玉・浦和学院)の一振りで奇跡の優勝で、今回は本当に正真正銘の連敗で始まって、まさか優勝できるんだ、というのはおそらく記憶にないんですよね。それで言うと、起こり得ないことが起きる。そういうことを目の当たりにできるチャンスということでね。世の中的にもコロナがまん延してこんな世の中になるなんて誰も想像していなかったと思うので、そういう中でのシーズンでなおかつクラスターで法政が試合をできなくて途中から参加するいびつなリーグ戦ということも誰にも想像できなかったことですから。また野球の話で言うと今年のプロ野球ペナントレースも昨年最下位のチームが優勝するという、そんなことあるわけないだろということが起きちゃう。そう考えると、これは野球の神様が早稲田に肩入れしてるんじゃないかなと、そんな風に思えるような展開になっていると思っています。法政の引き分け2試合0-0の状態でほぼ優勝は絶望です。絶望してたその次の試合の9回ツーアウトランナーなしから逆転で星を拾う、翌日も勝つ、そして他が混戦になって最終週連勝すると優勝できるという展開なので、普通では考えられない。これはもう明らかに、風は早稲田に吹いているとしか思えない。そういうつもりで戦おうと思っています。思い切ったことをしてもすべてが成功するんじゃないかなと思います。それぐらいの感じには今なっているので。仮にだめだったとしても、ここでだめなら、次もたぶんだめだろうというくらいの気持ちで臨んでもいいのかなと思います。

――攻めの采配をするということでしょうか

 誰も考え付かないようなことを思い切ってやってみたりとか、そういうのも許してもらえるんじゃないかなと思います。極論から言うと、人の考え方にもよるんでしょうけど、「連敗で始まって、この状況になったから怖いものなしで行ける」のか、それとも「連敗スタートでここまで来たんだから、より大事に」と考えるのか。それはそれぞれの考え方次第だと思いますが、私は前者です。こんな千載一遇のチャンスなんだからいけいけで、という話です。

――また、今年は野球部が創部してから120年の節目となります

 長い長い歴史があって、先輩方が自分たちが学生時代のことを思い出して神宮の我々の試合を観て当時といろいろなことを比較されているでしょうから、そういう意味でも歴史をとにかく大事に。今を通じて次の時代にいいかたちでつなげられればと思いますし、それが使命だと思っています。初期のいろいろなエピソードを含めてね、書物として残っていますから、そういったものを学生たちがしっかりと意識して、自分は早稲田の野球部員なんだと自覚を持って神宮で戦って、スタンドで見る者は一喜一憂し、グラウンドで戦う者は部員を含めた早稲田を応援してくれる皆さんに感激してもらえるように試合をしたいなと思います。

――早慶戦でのキーマンは

 この流れで言ったら徳山、西垣のピッチャー2人と、打線で言ったら今井でしょう。もう4年生の3人に、もちろん丸山キャプテンも、岩本も萌斗(鈴木萌斗、スポ4=栃木・作新学院)も福本もそうだし、4年生全員が最後まとまってもらいたいなと思います。

――最後に改めて、早慶戦への意気込みをお願いします

 連勝しか優勝の道はないわけですから、2つ取るためにも1つ目、何が何でも取らないといけないと思っています。とにかく初戦に全てをかけて臨みたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 山崎航平)

◆小宮山悟(こみやま・さとる)監督

1965(昭40)年9月15日生まれ。千葉・芝浦工大柏高出身。1990(平2)年教育学部卒業。早大野球部第20代監督。