1打席も経験していなかった昨季までとは一転、今季は橘内俊治(教4=東京・早実)にとって、躍進のシーズンとなった。春季オープン戦から好調を維持し、開幕後は東大2回戦でリーグ戦初打席に立つなど、4試合で代打を任された。さらに、明大1回戦ではリーグ戦で初めてスタメンとして起用される。迎えた第2打席、対するは明大の先発・竹田。「失うものは何も無いので」と振り抜くと、打球は左前へ。これがリーグ戦初安打となった。第4打席でも安打を放ちマルチ安打を達成すると、その活躍にベンチも沸いた。
飛躍の裏にはたゆまぬ努力があった。下級生のころは身体が小さく、力不足が課題だった。しかし、ウエイトトレーニングなどで大学レベルの体格を手に入れた。さらに、大学入学後の3年間で練習への取り組み方も変化したといい、課題を明確にした上で臨むようになった。心身ともに成長を遂げ、ラストイヤーを迎えている。
そんな橘内が一番の武器として自負するのは、安定感のある守備だ。ここまで「小さなミスがたくさんあった」と謙虚に振り返るが、エラーは無く、その盤石ぶりを存分に発揮している。ハイレベルな打者が並ぶ中で、「今までと同じ感覚ではうまく守れない」。しかし、そのような環境での守備にやりがいを感じている。守備には高校時代から多くの時間を割いてきた。金子銀佑(令3教卒=現明治安田生命)から学んだ、相手を思いやるキャッチボール。先輩投手との特訓で習得したジャンピングスロー。当時から積み重ねてきたものが現在の堅守に結びついている。
橘内の堅守に注目だ。
打撃については、インコースの直球への対応という課題が見つかった一方、徐々に手応えを感じている。明大戦以前は代打としての結果を求めて小さなスイングになっていたという。しかし明大戦では、スタメンで複数打席に立てるということもあり、楽な気持ちで打席に立つことができた。そのため躊躇(ちゅうちょ)なく振ることができ、初安打につながった。安打が出たことがまた自信につながり、打席での思い切りの良さが好循環を生んでいる。
「どれだけ思い切りやれるかが勝負の分かれ目」と話す早慶戦。その大舞台でも、思い切ったプレーを貫くつもりだ。「慶応に負けるわけにはいかない」と気合は十分。初打席に初スタメン、初安打とまさに『初』尽くしだった今季。その締めくくりを飾るのは、自身初めての早慶戦出場、そして勝利だ。
(記事 是津直子)
◆橘内俊治(きつない・しゅんじ) 1999(平11)年8月13日生まれ。179センチ。85キロ。東京・早実高出身。教育学部4年。内野手。右投右打。自分に付けたい野球ゲームの特殊能力という問いに「アベレージヒッター」と答えてくれた橘内選手。早慶戦では、勝負が懸かる場面での一打に期待しましょう!