【連載】秋季早慶戦直前特集『全身全霊』第6回 西垣雅矢

野球

 今季ここまで防御率0.64と好調な西垣雅矢(スポ3=兵庫・報徳学園)。一年春から先発、救援としてチームを支えてきたが、特に今季はフォームの試行錯誤によりスライダーのキレが増し、安定感のある投球をみせている。「早慶戦では任せられた場面でしっかり自分の役割を全うしたい」。早稲田の10季ぶりの優勝がかかる早慶戦。チームの頼れる右腕として慶大打線を封じ込む。

※この取材は10月30日に行われたものです。

「準備」

笑顔で取材に答える西垣

――事前のアンケートで今季での安定感のある投球の一番の要因は「準備」だと仰っていましたが、それは具体的にどんなことをされるのですか

 データを見たりだとか、自分の体の準備などいろいろな準備を含めてそう書きました。

――先発とリリーフでは行う準備も違ってくるのでしょうか

 そうですね、先発だと始まる時間もある程度決まっていて、自分でそれを逆算してできるのですが、リリーフだといつ投げられるかわからないので、そういう面で別々の準備、臨機応変に対応しています。

――特に体の準備という面で、リリーフと先発でアップを変えたりはするのでしょうか

 試合前にやるアップはあまり変わらないのですが、リリーフの時は試合が始まってから肩のインナーをやったり、試合中に体を冷やさないようにというのを心掛けています。

――試合前の準備はどういったものをされていますか

 一週間での準備でいうと、木曜日に大体シートバッティングかピッチングをして、二日前にブルペンに入れるのですが、それが最終の投げる準備になっています。後はリーグ戦中はとりあえず決まったトレーニングのメニューがあるので、それをこなしています。試合当日では、最近アップで動きすぎないことを意識しています。以前は動きすぎていたかもと思うところがあって。今年は肩のトレーニングを重点的にやっています。

――試合当日のルーティンはありますか

 早川さんのように決まったものはないのですが、しいて言うなら当日にコーヒーを飲むことですね。神宮に向かうバスではいつも寝るのですが、そのバスから降りてロッカールームに入った時やアップの時にコーヒーを飲みます。

――コーヒーお好きなのですね。以前もコーヒーメーカーを買ったと仰っていました。

 そうでしたね。授業が始まってからコーヒーを飲み始めました。

――相手の研究というのはキャッチャー陣と話してという感じでしょうか

 そうですね、ミーティングの際にデータ班の方から資料を頂くので、それを(試合)前日の寝る前に目を通しておさらいするというのをやっています。

――今年特に力を入れた準備は何でしょうか

 肩の準備ですかね。心の準備というのはそこまで変えてはいないのですが、身体がしっかり準備できていることが心の安定にもつながっていると思います。

――肩のトレーニングというのは、アップであまり投げすぎない、走ったりしないで、静的なトレーニングをするという感じでしょうか

 チューブを使ってやったり、肩を安定させるようなトレーニングがあるのですが、そういうのをやっています。前までは、動いて、ダッシュして、というように体をあっためるトレーニングがメインでした。もちろん今もそれはやっているのですが、それよりも肩の安定性を高めるトレーニングに重点を置いてやっています。それをやっているから抑えられているというわけではないのですが。準備として取り入れたのはそれですね。

――準備の大切さは誰かから影響を受けてやり始めたのでしょうか

 特にそれはないです。しっかり準備ができていた時は大丈夫だと自信をもっていけるのですが、何かやってないなと思うと自分が弱くなったような気がして、マウンドの上での不安材料になることがあったり、打たれてしまった後にあれをやっていれば、と思うことがあったりするので、そういった後悔を無くすためにも試合前までにそういう不安材料はなくして、試合に入れたらなと思って、準備をしっかりやっていくことを始めました。

――以前の対談でフォームを見つめなおしたと仰っていて、実際に試合を見て腕の位置が変化したと感じたのですが、具体的にはどのように変えたのですか

 高校時代と比べると、だいぶフォームが変化したというのは周りの人からもお声を頂くことが多いのですが、自分なりに投げやすい投げ方をしていたら勝手に腕が下がってしまったというか、もう少し上から腕を振った方がいいのかなと思う時もあるのですが、今はこれがはまっているという感じでやっています。

――いつ頃から腕が下がってきたと感じますか

 自粛明けくらいですかね。自粛期間中にフォームのことを考えていて、自分の投げやすいポイントを探りつつ投げていたら徐々に下がっていったと思います。

――腕が下がっていったことで変化球のかかりかたが変わったり、ストレートの回転が変化したりはしましたか

 横の変化球、スライダー系のボールの曲がりのキレはよくなったと思います。右バッターが角度があることで前よりも打ちにくそうにしているなと感じます。

――今季の試合を見ていて、スライダーで空振りが取れていることが多いと感じるのですが、それはフォームの変化が影響しているのでしょうか

 もとからスライダーには自信があったのですが、腕が体から遠回りしていて、そうなると変化球が緩んでしまうことがありました。今は体の近くでリリースできているなと感じがするので、そうすると変化球の回りがよくなるのかなと思います。

――先ほど、投げやすい方法で投げていたら腕が下がったと仰っていたと思うのですが、わざと下げようとしたわけではないということでしょうか

 そうですね、いつも悪い時は(体が)開きがちになっていたので、それを改善するために監督(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)に前で(ボールを)離せと言われていたのですが、それをずっと意識していたら肘が下がっていきました。それが正しいのかはまだわからないです。

――そういったフォームだったりを試行錯誤して今季、好成績を出されていると思うのですが、うまくいっているとは感じないのでしょうか

 フォームがどうこうというのではなく、今季はマウンドでの上で落ち着いてバッターを見て投げられているというのを感じていて、それが一番押さえられている要因のひとつだと考えています。

――その落ち着けるようになったというのは、気持ちのどういう変化からきていますか

 そうですね、やっぱり3年生になったからでしょうか。経験というのもあると思いますが、これといったことはないですね。しっかり準備をして、マウンドに立って、というのをするとあたふたせず、不安材料がない状態でマウンドに立てると思っているので、それが一番大きいかなと思います。

――再度フォームの話なのですが、足の使い方も少し変化したのではないかと感じています。以前は左足を少し開いた状態から内側に入れるような感じで足を上げていたと感じるのですが、最近は直立のような感じで足をそろえてセットポジションをやられていると思います。それは何か意図があるのでしょうか

 一つあるのは、一度足を下げて投げていたのですが、その際審判さんに「そのやり方はだめだよ」と注意をされたからです。

――それはちなみにどういったルールでだめなのでしょうか

 わからないです。審判さんに聞いてもだめということで、だめならしかたないと。それでやめたのですが、やめてからの方が調子がいい気がしているので、審判さんに感謝しています(笑)。

――事前のアンケートでフォームへの手ごたえは「まだまだ」と書かれていましたが、具体的にはどこが足りていないと感じられていますか

 もっと成長したいというか、まだ自分の中でできることがあると思っています。(フォームに)ばらつきもありますし、まだまだメカニクス的に足りていないと思っているので、そのようにお答えしました。

――今季三振の数が増えていると思うのですが、それはなぜだと思われますか

 追い込んでからしっかり、腕を振って低めに変化球を集められていることが一番かなと思います。

――西垣選手はフォークやカットボールなど多彩な変化球をお持ちだと思うのですが、一番得意な球種は何ですか。

 スライダー、カットボール、フォークは結構同じくらい得意で、最近調子がいいのがスライダーですね。

――それはフォームを少し横投げにしたからでしょうか

 そうですね、以前はカットボールを中心に投げて、スライダーはあまり投げていなかったのですが、今はスライダーの割合を増やして、そうするとスライダーが結構使えるなということに岩本(久重、スポ3=大阪桐蔭)とも話していて思ったので、最近はスライダーを増やしています。

――様々な変化球をお持ちの中で、西垣選手はずっとストレートを突き詰めたいと仰っていると思うのですが、ストレートを突き詰めることの意義についてどう考えられていますか

 変化球を活かすも殺すもストレートだと思っていて、やっぱり相手バッターに西垣はストレートもいいと思わせると、その分変化球でももっと楽に空振りを取れると思っています。多分、ストレートがどれだけよくなっても変化球ピッチャーになる(と見られる)と思うのですが、ストレートを極めることでより変化球が活きてくるのではないかと思うので、ストレートを突き詰めたいですね。

――今季の防御率0.64についてどう思われていますか

 与えられたポジションでしっかり抑えられているというのは嬉しいですね。リリーフという立場なので、特に数字は気にしていないのですが。

――結果というよりは、投球内容ということでしょうか

 ゼロで押さえることがチームのためになると思っているので、特に数字というのはそこまで気にしてはいないです。

――アンケートで一日だけチームメイトになるとしたら「155キロを投げたいので早川選手」と書かれていましたが、球速へのこだわりがあるのでしょうか

 そうですね、自分はそんなに球が速くないので、どういう世界が見えるのだろうか、マウンドから155キロを投げる感覚はどういう感じなのかと思ってそのように書きました。

――ここから各試合の振り返りをしていきたいのですが、まず先発として登板された明大2回戦では、2巡目以降も走者を出しながらも着実にアウトを積み重ねていて、2巡目以降の課題も克服しつつあると感じたのですが、それに関してどう考えられていますか

 その日は2巡目以降、左バッターに甘く入ったストレートを打たれてしまったというのが印象にある試合ですね。この試合通じて先頭バッターを出した回が多くて、それで最終的に追い付かれたというのがあるので、流れ的に明治よりにさせてしまった責任が少しあるのかなと思います。

――法大2回戦では、4失点した徳山選手の後を継いで、4回無失点とチームの勝ち点獲得に貢献されましたが振り返っていかがですか

 そうですね、イレギュラーな登板になったのですが、自分の中で準備はしっかりできていたので、ゼロで押さえることができて、次のピッチャーにつなげることができたので、あの試合はよかったと思います。

――急に登板する時の準備はどうされているのでしょうか

 一番ベストなのは先発が長い回を投げて勝つ、ということだと思うのですが、なかなか全試合そのようにはいかないと思うので、試合前から先発が今日打たれるかもしれないなとは思わないですが、(試合中)怪しくなってきたら、いつでもいけるようにスイッチを切り替えます。ずっと気を張っていると疲れてしまうので、オンオフではないですが、切り替えは意識しています。行くぞとなった時にしっかりスイッチを入れられるように心の準備をしています。

――法大2回戦や立大2回戦での見事なけん制アウトが印象的だったのですが、けん制は得意なのですか。

 いや、高校時代はそんなに得意ではなかったのですが、最近はたまたまですね。

――東大戦での投球内容についてはいかがでしょうか

 ある程度思ったところにボールを集められていたので、調子は悪くなかったと思います。

――次に早慶戦について聞いていきます。去年秋の早慶戦では無死満塁というとてもしびれる場面での登板でしたが、今年はどのような場面で登板したいですか

 特にどういった場面で登板したいというのはありませんが、チームが勝てる投球ができる場面ならどこでもいいです。

――慶大の野手陣の中でライバル視、警戒している選手はいますか

 全員いいバッターだと思うので、特にマークするというよりも全部集中して抑えていかないといけない相手だと思うので、全員マークしていきたいです。

「自分の役割を全うしたい」

明大2回戦で三振を奪い、ガッツポーズする西垣

――今年の早慶戦は早稲田の10季ぶりの優勝が懸かっています。普段よりもプレッシャーがかかるのではないかと思うのですが、いかがですか

 自分も大学に入って初めて優勝が懸かっている早慶戦になるので、本番が始まったらプレッシャーがすごくかかると思うのですが、そこもしっかりあと一週間準備をして万全の状態で試合に入ろうと思っています。

――ご自身の今の状態はいかがですか

 変わりなくやれていて、調子は悪くないです。

――早慶戦に向けて改善していきたい点はどこですか

 打たれている球は甘く入ったストレートだと思うので、そういった球を勝負ところで投げてしまわないようにしたいです

――早川選手たち4年生と戦う最後の試合になりますが、どう思われていますか

 非常にお世話になった4年生たちなので、なんとか一緒に優勝したいという思いがあります。

――西垣選手にとって早慶戦とはどのような舞台ですか

 他のカードとは違った特別な試合だと思っています。大学同士のぶつかり合いという感じがして、高校野球にはない、早慶戦独自の雰囲気というのがあると思います。

――早慶戦への意気込みをお願いします

 早慶戦では、任せられた場面でしっかり自分の役割を全うして、最後に4年生と優勝して笑って終われるようにしたいというのが意気込みです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 倉持七海)

◆西垣雅矢(にしがき・まさや)

1999(平11)年6月21日生まれのB型。184センチ、83キロ。兵庫・報徳学園高出身。スポーツ科学部3年。投手。右投左打。コーヒーメーカーを所有し、試合前にもコーヒーを飲むという西垣選手。コーヒーのチカラでばっちり慶大打線を抑えます!