新エース早川誕生 瀧澤、柴田も開花するが遠い賜杯/2019年春季リーグ戦

野球

 平成から令和へ――。新元号の発表から程なくして迎えた2019年の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)。小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)を新たに迎え、7季ぶりの優勝を目指したシーズンだったが、明大、慶大相手に勝ち点を奪えず結果は3位。好機はつくるものの『あと一本』に泣き、早川世代初めての優勝はまたも持ち越しとなった。

 このシーズン、最も大きなインパクトを残したのは瀧澤虎太朗(現副将、スポ4=山梨学院)だった。2018年の秋季リーグ戦で定位置を掴んだこの男は、1番打者に定着。走攻守そろったリードオフマンとして、開幕戦から慶大2回戦まで12試合連続安打を記録するなど大きな活躍を見せた。印象的だったのは立大1回戦での本塁打。このシーズン最優秀防御率を獲得した六大学屈指の左腕・田中誠也(現大阪ガス)相手に迎えた第3打席。「(塁上にいた)早川を歩いて帰って来させることができて、一番良い結果だった」と決勝の2ランをバックスクリーン右に叩き込んだ。そして最も輝きを放ったのが慶大1回戦。1点ビハインドの場面で三塁走者だった瀧澤は、「狙っていた」と相手バッテリーの隙を突き本盗を決める。2008(平20)年春の上本博紀(平21スポ卒=現阪神タイガース)以来11年ぶりとなる早慶戦での本盗となった。さらにこれだけでは終わらない。同点で迎えた8回、2死から相手守護神・髙橋亮吾の初球をたたくと、センター方向へ打球はぐんぐん伸びそのままスタンドへ。この試合別次元の活躍を見せた瀧澤は、自身初のベストナインにも選出され、一躍リーグを代表する外野手へ変貌を遂げた。

早慶1回戦で決勝のソロ本塁打を放ち、ダイヤモンドを回る瀧澤

 瀧澤とともに野手としてレギュラーを張ったのは金子銀佑(教4=東京・早実)。開幕戦、2番・二塁手としてスタメン出場を果たすといきなり結果を出す。「挑戦的な気持ちを持って臨みたい」という言葉を体現するかのような思い切りの良いスイングで公式戦初アーチを放った。これ以上ない出だしになったものの、打撃は徐々に下降線をたどる。慶大3回戦ではスタメンを外れるなど、最終的な打率は2割を切り、失策もリーグ最多の4つを記録。確かな成長とともに、課題も多く残るシーズンとなった。

 その金子から最終戦のスタメンを奪ったのは吉澤一翔(現副将、スポ4=大阪桐蔭)だったが、吉澤はこのシーズンもそのポテンシャルを発揮できないままリーグ戦を終えた。高校の後輩である中川卓也(スポ2=大阪桐蔭)の加入もありさらに厳しいレギュラー争いとなった早大内野陣。メンバーは基本固定するという小宮山監督の方針もあり、ベンチを温め続けた。そんな吉澤が大器の片りんを見せつけたのは法大3回戦。9回に代打で出場すると、貴重な追加点となる約1年ぶりの一発を放った。「このままじゃ終われへんとずっと思ってやっていました」と意地の一打でこのカードの勝ち点獲得に貢献。慶大3回戦では初スタメンを飾り二塁打も記録したが、このシーズンの安打はこの二本のみ。誰もが望むこの男の覚醒はまたもお預けとなった。

 一方の投手陣では、早川、柴田迅(社4=東京・早大学院)、今西拓弥(スポ4=広島・広陵)の3人が獅子奮迅の活躍を見せた。このシーズンは、2年生ながら守護神の座を確立した徳山壮磨(スポ3=大阪桐蔭)とともにこの3投手が屋台骨を支えるかたちになった。

慶大2回戦で力投する柴田

 優勝した明大に次ぐチーム防御率2.33を残したこのシーズン。エースは誰が見ても早川だった。前年の秋季リーグ戦では中継ぎとして結果を出した早川。『左のエース』番号である背番号18を新たに迎えたこの春、新エースとして早稲田の看板を背負う存在になった。東大1回戦で7回1失点と上々のスタートを切ったものの、次カードで早くも最初の試練が訪れる。結果的に優勝することとなった明大相手に、5回までは完璧な投球を見せたものの6回に捕まった。7回途中までに6失点を喫し、敗戦投手に。ただ、この試合での5回までの投球はリーグ戦後に「最も納得のいく投球」と振り返るなど、手ごたえも感じていた。立大、法大戦では勝ち星を挙げ、迎えた早慶戦。初戦で7回途中2失点(自責点は1)の力投を見せると、指揮官も「本当によく投げてくれた」と賛辞を送った。3回戦でも先発登板し、直球は150キロを計測するなど気迫のこもった投球を見せるが、打線が沈黙し6回1失点の好投も報われず。早慶戦での初勝利はまたもお預けとなった。

 このシーズンの3勝、防御率2.09(リーグ3位)という結果は堂々たるものだろう。しかし、「エースの役割はまだまだ果たせていない」と早川の理想とは程遠かった。エースの条件として、「完投・完封」を挙げた早川。確かに最長でも7回2/3(立大1回戦)だった。エース街道を歩み始めたこの男は、まだまだ上を見据えていた。

 早大救援陣でフル回転を見せたのは柴田と今西。早川も「後ろには絶大な信頼」と話すように、守護神・徳山とともに強力なトリオを形成した。柴田はチーム最多の10試合に投げ、防御率は驚異の0.00。今西も開幕カードこそけがで出遅れたものの、2カード目から復帰し自らの仕事を全う。慶大1回戦、同点の2死満塁で嶋田翔(4年)を見逃し三振に切った内角の直球は、まさに絶品だった。両投手とも大きな躍進となったシーズンだったが、柴田は明大2回戦で痛恨の逆転3ランを浴び(失策が絡んでいたため自責点は0)、今西はシーズンを通じて四死球が多く制球への不安を露呈していた。

 早川世代も3年目のシーズンを迎え、より一層主力としての活躍を求められた中、多くの選手が結果を残した。ただ、目標としていた賜杯にはまたも手が届かず。完敗を喫した早慶3回戦など、悔しさが残るシーズンになったことは間違いない。次の秋は未だに優勝を知らない1学年上の世代にとって最後のリーグ戦となる。主力の自覚とともに迎える2019年秋季リーグ戦を、次回振り返る。

(記事 山崎航平、写真 柴田侑佳氏、島形桜氏)


早大打者成績(早川世代のみ掲載)
名前
今西拓弥 8 2 1 0 0 0 1 0 0 .000
金子銀佑 12 46 6 9 1 4 7 5 4 .196
柴田迅 10 0 0 0 0 0 0 0 1
瀧澤虎太朗 13 58 12 21 2 8 12 3 0 .362
早川隆久 8 18 3 7 0 0 6 0 0 .389
真中直樹 1 0 0 0 0 0 0 0 0
吉澤一翔 4 6 1 2 1 1 1 1 0 .333
早大投手成績(早川世代のみ掲載)
名前
今西拓弥 8 2 0 11 2/3 5 9 12 1 1 0.77
柴田迅 10 0 1 10 2/3 6 4 15 3 0 0.00
早川隆久 8 3 2 51 2/3 46 13 49 12 13 2.09
2019年東京六大学春季リーグ戦星取表
順位 チーム 勝ち点 勝率
明 大 10 .909
慶 大 .667
早 大 .538
立 大 .500
法 大 .333
東 大 10 .000

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