緊迫の投手戦制するも、あわやリンゴ事件の再来か!?/早慶6連戦 3回戦

野球
TEAM
早 大
慶 大
(早)○安藤―野村
◇(二塁打)伊田、安藤

 リンゴ事件。1933年秋の早慶3回戦で発生した大騒動のことだ。8回に慶大・水原茂が審判の判定に抗議したことで、熱戦にヒートアップしていた三塁側・早大スタンドがますます興奮状態に。すると早大1点リードで迎えた9回表、三塁の守備に就いた水原の元にリンゴなどの果物が投げ込まれる。そのうち大きな食べかけのリンゴが守備位置近くに飛んできたため、水原はそれをファウルゾーンへ放り出した。これが早大スタンドからはこちらへ投げ返されたものと映ると、さらにその裏慶大が逆転勝利を収めたことで早大応援団が激高。慶大ベンチや応援席になだれ込んで謝罪を要求する大騒動が起こり、ついには警官隊が出動する事態となったのだ。それから27年が経ったこの日の早慶3回戦、あわやリンゴ事件の再来か、という乱闘騒ぎが発生する。

 1回戦は早大、2回戦は慶大が勝利を収め、1勝1敗で迎えたこの一戦。優勝に王手をかける慶大は清澤忠彦を、何とか食い下がりたい早大はエース安藤元博を先発のマウンドに送った。初回、早大は先頭の伊田保夫(政経3=大阪・明星)が死球で出塁すると、末次義久(商2=熊本・済々黌)がきっちりと犠打を決める。さらに3番・石黒行彦(3=宮城・仙台一)が安打でつなぎ、1死一、三塁の好機で4番・徳武定之主将(商4=東京・早実)を迎えた。ここで徳武の打球はセンターへのやや浅い飛球だったが、伊田はタッチアップで本塁を狙いクロスプレーに。するとその衝撃で相手捕手・大橋勲のミットからボールがこぼれ、早大は幸先よく先制点を手にした。

 その後は安藤、清澤の両先発が白熱の投手戦を繰り広げ、両軍のスコアボードに0が並び続ける。しかし8回に早大が適時失策で1点を追加すると、9回にもこの回から登板した丹羽弘に対し1死三塁の好機をつくる。ここで事件は起こった。6番・野村徹(政経4=大阪・北野)がショートへのゴロを放つと、三塁走者の徳武が本塁へ突入する。完全にアウトのタイミングだったが、徳武が大橋のミットを目掛けて強烈なスライディングをし、ミットごとボールを弾き飛ばしたのだ。ここで徳武がすんなりとベンチに帰っていれば何も起きなかったのだが、危険なプレーに反省の念を覚えた徳武が再び大橋の元へ。これが慶大サイドには何か文句を言いに来たかのように映り、特に主将の渡海昇二はセンターの守備位置から駆け寄って徳武の胸を突いた。これで騒然とした雰囲気となり、本塁付近に集結した両軍の選手が一触即発の状態となる。コーチや監督らがいさめてこの場は収まったものの、球場の雰囲気は殺気立ったまま。その裏徳武が三塁の守備に就くと三塁側の慶大スタンドから、罵声怒号だけでなく果物やゴミまでがグラウンドに飛んできた。あわやリンゴ事件の再来か――。

 するとここで、本来ベンチで指揮を執るはずの慶大・前田祐吉監督が三塁コーチスボックスに立つ。実は前田監督は、問題は徳武よりも大橋にあると考えていた。初回にもクロスプレーでボールをこぼしていることから考えても、大橋のタッチ技術が甘かったのだという。慶大スタンドもさすがに自軍の指揮官がいる方向にものを投げ入れることはできず、事態は沈静化。敵将の機転に救われた早大は安藤が粘りの投球を見せ、無死一、三塁のピンチを切り抜けて3-0で完封勝利を果たした。これにより、早大と慶大は9勝4敗の勝ち点4で同率首位に。賜杯の行方は翌日の優勝決定戦に持ち越されることとなった。

優勝決定戦の記事に続く(5/3更新予定)

(記事 池田有輝)

※学部は判明者のみ記載、名前と学年は当時

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