4季ぶりの宿敵撃破 深く刻まれた『10』の雄姿/2018年春季リーグ戦

野球

 70年ぶりの最下位に沈んだ前季からの逆襲を期して臨んだ2018年の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)。しかし、開幕カードでは勝負弱さが露呈し連敗スタートとなる。昨季から数えて並んだ黒星は6と長いトンネルから抜け出せずにいた早大に、光をもたらしたのは吉澤一翔(現副将、スポ4=大阪桐蔭)だった。2カード目となった明大1回戦。1点ビハインドで迎えた8回表、1死一塁で吉澤は直球を迷いなく振り抜く。すると高々と舞い上がった打球は左翼席へ突き刺さった。「最高の結果になって良かった」と劇的な一打で逆転勝利を挙げた。

明大1回戦で逆転2ランを放つ吉澤

  だが、2回戦では先発の早川隆久(現主将、スポ4=千葉・木更津総合)が試合をつくれず大敗。続く3回戦も星を落とすと早くも賜杯は絶望的となってしまう。東大戦では何とか勝ち点を手にしたものの、早川は2回戦で今季3本目となる本塁打を浴び5回3失点。入学以来、未来のエースとして期待を寄せられる大器は、防御率4.80、0勝2敗ともがき苦しんでいた。「まだ技術が足りない」。試合後の取材にはそう応じたが、実は春先の沖縄キャンプから左肩を故障していたのだ。「自分が投げなきゃいけない」との責任感のもと、痛み止めを飲みながらマウンドに上がっていたが、体に限界を覚え指揮官と相談。東大2回戦を最後にマウンドに姿を現わすことはなかった。

  早川の離脱により第2先発を失った早大は、法大2回戦を2メートル左腕の今西拓弥(スポ4=広島・広陵)に託す。今西はここまで5試合に中継ぎ登板し無失点を誇っていたが、リーグ戦初先発となったこの日は法大の粘りの打撃を前に苦戦。「いつも以上にバテている感じがあった」と振り返る。救援として確かな手応えをつかんだ一方で、依然としてスタミナ不足が課題となった。

連投となった慶大2回戦で力投する小島

 優勝の可能性がすでに消えていた早大にとって、伝統の一戦の最大の目的は塾の完全優勝を阻むこと。しかし、初戦は打線が沈黙し敗北。連敗を喫するとチームは5位に沈むという中、先発のマウンドに上がったのは、前日に136球を投じた小島和哉(当時主将、平31スポ卒=現千葉ロッテマリーンズ)だった。異例ともいえる連投は小島自らの志願によるもの。エースとして、そして主将として、チームを思う気持ちが小島を突き動かした。一心不乱に腕を振り続ける背番号『10』を援護すべく、打線も意地を見せる。両者無得点で迎えた3回。シーズン中盤以降不振に陥っていた吉澤がアーチを描き、貴重な先制点を挙げる。若き大砲の一振りで流れを手探り寄せると、その後も追加点を重ね白星を手にした。続く3回戦では全員野球で延長戦を制した早大。実に4季ぶりとなる宿敵撃破を遂げた。

 「あれができてエース」。今西は小島の連投をこう振り返る。決死の覚悟でマウンドに上がった背番号『10』の雄姿は、ベンチから見守った早川の脳裏にも深く刻まれたに違いない。そして2年後の現在、背番号『10』を背負っているのは、苦渋の時を越えたエース早川だ——。

(記事 望月清香、写真 岡田静穂氏、松澤勇人氏)


早大打者成績(早川世代のみ掲載)
名前
今西拓弥 7 1 0 0 0 0 0 0 0 .000
金子銀佑 1 0 0 0 0 0 0 0 0
柴田迅 3 0 0 0 0 0 0 0 0
瀧澤虎太朗 3 4 0 2 0 0 1 0 0 .500
早川隆久 4 4 0 0 0 0 2 0 0 .000
吉澤一翔 13 44 5 8 3 7 13 2 0 .182
早大投手成績(早川世代のみ掲載)
名前
今西拓弥 7 1 1 12 10 8 11 2 3 1.50
柴田迅 3 0 0 3 2/3 6 2 3 3 3 7.36
早川隆久 4 0 2 15 15 6 19 8 11 4.80
2018年東京六大学春季リーグ戦星取表
順位 チーム 勝ち点 勝率
慶 大 .692
立 大 .667
明 大 .538
早 大 .538
法 大 .455
東 大 10 .000

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