【連載】春季早慶戦直前特集『New Drama』 第9回 加藤雅樹主将

野球

 第6週が終了した時点で、早大の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)優勝の可能性は、完全に消滅した。しかし今季の早大の、チーム打率2割9分7厘は暫定リーグトップ。『打棒ワセダ』復権、その中心にいるのは加藤雅樹主将(社4=東京・早実)だ。ここまで打率、本塁打、打点の全てでチームトップの成績をたたき出し、4番の仕事を全うしている。そんな男は今季、何を感じ、何を思ったのか。いよいよ迎える早慶戦に向けての心境を含め、お話を伺った。

※この取材は5月23日に行われたものです。

明大戦での連敗と、チームに起きた変化

取材に応じる加藤

――ここまでのチームの戦いぶりを振り返っていかがですか

 入りの東大戦は良かったんですけれども、その後はなかなか、勝てそうで勝てない試合が続きました。『たられば』になってしまいますし、どの大学も同じだと思いますけれども、「あそこでああすれば良かった」というような試合が多かったです。ただ明大戦で連敗して以降は勝ち点を取れているので、そこはチーム力が上がっていると捉えてもいいのではないかと思っています。

――やはり明大戦での連敗は、チームにとって大きな出来事となったのですね

 そうですね。あそこで連敗した時点で、一気に(優勝するためには)もう負けられないという状況になったので。向こうが上だったということなんですけれども、なんとか勝ち点を取らなければいけないところで、チームとしての未熟さが出てしまったと思います。

――試合後には「勝てる試合だった」とも口にしていました

 2試合とも先制した後、追加点が奪えずに、終盤逆転されたというかたちだったので。打線として反省しなくてはいけないですし、(試合の)後から出てきたピッチャーも学ぶところがあった試合だったと思います。

――『中押し点が取れない』ということは今季の大きな課題となっていると思います

 油断があったというわけではないんですけれども、具体的な策を立てられていなかった部分はあると思っています。先制してから、「こういうことを徹底しよう」というような心構えが少なかったかもしれない、と。「なんとか1点ずつ」と思っているんですが、心のどこかの「まだ勝っている」というおごりが、そういう結果につながってしまったのかもしれないと考えています。

――敗戦はチームにとって痛手でしたが、得た教訓も多かったということなのでしょうか

 そうですね。投打ともに、反省しなければいけない部分がすごく多かったです。でも初回の攻撃はすごく良かったし、ピッチャーも終盤の気持ちのつくり方が良くなっているし、そういう部分は成長なのかな、と。優勝は遠のいてしまいましたけれども、チームとしては前進できているのだと思います。

――その次カードの立大戦への入り方で、気を付けていた点はありますか

 気迫を前面に出すことです。実力はもう、どのチームも互角くらいだと思うので。(勝敗を分けるのは、)いかに気持ちで上回って、いかに隙を見せないで、いかに万全に準備をして、という部分だと思います。そこは口を酸っぱくして伝えました。

――試合への準備について、特に気を付けていたことはなんでしたか

 打線に関しては、1点の取り方です。『その状況では何が最悪で、何が最低限で、何が最高か』ということを全員が分かっていないといけないと思うので。「ここで当てただけのゴロは最悪だよね」「ここはボテボテのゴロでも1点入るよね」というような部分です。

――いかに打線につながりを持たせるか、というテーマでの練習ということでしょうか

 そうですね。いかに1点ずつ得点を重ねるか、ということをすごく考えていました。

――リーグ戦終盤は、その成果が表れた試合が増えたように思います。振り返っていかがですか

 立教(2回)戦で負けて優勝が厳しいという状況になって、少し吹っ切れたということはあったかもしれないです。そこで肩の力を抜いて「自分たちができることをやる」というメンタルになったんだと思います。

――1回戦で得点が奪えない展開が多いように思いますが、4番として振り返っていかがですか

 相手も良いピッチャーですし、こっちも先発は早川(隆久、スポ3=千葉・木更津総合)なので。いつも競った戦いになるんですけれども、それも(大事なのは)準備だと思います。いかに準備しているかで、試合で打てるかどうかも変わるので。

――加藤選手自身が『準備』というテーマにおいて、気を付けている点はなんですか

 自分は外野手で、守備で貢献する機会が少ないので、やはり打つしかないと思っていて。プランというか、どういう考えで打席に立つかということを考えています。試合になったら頭の中はクリアにするんですけれども、色んなパターンを考えながら、試合前は過ごしています。

――昨年度主将の小島和哉投手(平31スポ卒=現千葉ロッテマリーンズ)は、打者の傾向を分類して配球の引き出しをつくるとおっしゃっていました。それに近いことでしょうか

 「こっちの球が多いからこういう意識で」とか、「こう張っていてこっちに来たらこうしよう」とか。ちょっと抽象的ですけど、色んなパターンを考えておくようにしています。

――主将として振り返って、今季のチームで出た大きな課題は何だったと思いますか

 取るべきところで点を取る、ということができていない。ヒット自体はすごく出ているので、もっと点が取れる打線だと思いますし、得点力という部分が低いかなと思います。走塁や小技も含めてですけれども。

――そんな中、法大3回戦では打線がつながりました

 そうですね。1イニングに4点入るというようなことは、シーズン中あまりなかったことなので。そこは自信にしていいと思いますし、早慶戦でもそういう攻撃ができたら良いと思います。

待望の『4番復活』その理由

名実ともに、打線をけん引する存在へと再起を果たした主砲・加藤

――改めてご自身の今季の打撃を振り返っていかがですか

 初回に打てていることが多くて、先制打もそれなりに打てている実感があるので。自分が(打順の)4番目にいるのは初回のためだと思っているので、そこでそれなりに役目を果たせているのは、すごく良いことかなと思います。

――現在自身が残されている成績については、どう思っていらっしゃいますか

 良い結果が残っているな、というのが率直なところです。

――2度目の首位打者が狙える位置にいることについては、どのように考えていらっしゃいますか

 前の時(2017年春)は(打率)2位の人ともずいぶん差がありましたし、そういう意味では今とは全然状況が違います。でも2年前の反省があるとすれば、前は首位打者を意識して、打てない度に落ちていく打率を見て落ち込んでいたので。それだけはやめようという気持ちでいます。

――檜村篤史副将(スポ4=千葉・木更津総合)が打率上位にランクインしていますが、首位打者について話されることはあるのでしょうか

 そういう話はしていないですね。打率は変動もありますし、そういう話をすることは気持ちの面にも関わるので、自分としては打率の話はあまりしたくないと思っています。

――開幕前に最もこだわりたいと口にされていた打点に関して、手応えはいかがですか

 打点が一番大事だと思いますし、それを稼げるように心の部分でもオープン戦から取り組んできたので、成果が出ていることはすごくうれしいです。

――心の部分、というのは

 打点は今まで、打率とホームランを稼げば付いてくるものだと思っていたんですけれども、そうではないかもしれないと思い始めているので。チャンスでも、「打ってやろう」となるのではなく、平常心で。「いつも通りやれば大丈夫」ということを、意識しています。

――最も手応えを感じている成績は打点だと

 そうですね。今年の成績の3つ(打率、打点、本塁打)の中で一番手応えがあるのは、打点です。

――アンケートに『結果を恐れると迷いが生まれる』という言葉がありました。振るわなかったシーズンと比べて今季はいかがですか

 今シーズンに関しては、たまたま(開幕カードの)東大戦でいいかたちで入れたので(2回戦で1試合2本塁打)。今までは良いスタートが切れずに、一打席一打席「打たなきゃ」という気持ちが大きくなっていくというか。「次は打たなきゃ、次は打たなきゃ」という、『一打席が重くなっていく』感覚がありました。それで思い切りがなくなっていく悪循環だったんですけれども、今年は開幕カードでたまたま打てたので、そこで吹っ切れたのかなと思います。

――リーグ戦への入りが良かったのが好調につながっていると

 そうですね。本当に緊張しましたけれども、なんとか結果を出せたので。そこから少しずつ、自分の中で思い切っていけるようになりました。

――法大1回戦では、今季初めて無安打で試合を終えられました。何か技術面の修正はされましたか

 始動が早すぎるということと、バットのヘッドが下がっていることです。自分の動画を見た限り、そう感じたので。

――今季ここまで好成績が残っているのは、どのような部分からですか

 気持ちの部分です。穏やかに、一喜一憂しないというか、自分のベストを尽くせればそれで良いんだ、という気持ちで打席に立てています 。

人事を尽くして決戦に臨む

ベンチでも積極的にナインを鼓舞する主将・加藤

――主将として、今のチーム状態をどう捉えていらっしゃいますか

 立教、法政に勝てたということは、みんなすごく自信にしていると思います。早慶戦に向けて頑張るんだ、という気持ちでみんなやっていると思います。

――チームがどんどんまとまりつつあると

 そうですね。明治戦の負けを経て、立教、法政、と。少しずつ良くなってきていると思います。

――法大3回戦の後、守備にミスが出ていることが課題だと口にしていました。その対処はいかがですか

 自分の送球ミス(右翼からの送球がそれ、走者が進塁)は大きかったですし、自分がライトにいるのは送球での貢献を求められてのことだと思うので、やるべきことをしっかりとやらなくてはいけないです。(チームとして)エラーも出ているので、それが自然となくなっていくような練習をしなければいけないと思っています。

――開幕前に「チームの『気』の充実を何より図っていきたい」とおっしゃっていました。今その手応えはいかがですか

 自分がチームのみんなに伝えたいのは、「下を向かないでいこう」ということです。そのためにも自分は絶対に下を向いてはいけないと思っているんですけれども、まだまだチャンスで三振したらがっかりしてベンチに帰ってきてしまう人もいますし、落ち込んでしまう人もいます。そうなる気持ちは分かるし、自分も以前はそうだったんですけれども、そういう部分は心掛け一つで変えられるので。技術をいきなり飛躍させるのは難しいので、早慶戦では「グラウンドで下を向かない」ということに、もう一度しっかり取り組みたいと思います。

――下を向かない、というのは加藤選手自身だけではなく、チーム全体の意識なのですね

 そうですね。チーム全体に浸透させたいので、まずは自分から変わらなければいけないと思っています。

――慶大に関して伺います。特に意識する投手を挙げるならば、どなたになりますか

 エースのボンバー(髙橋佑樹、4年)です。去年もやられているので。彼は1年生の時から1軍で投げていますし、自分もずっと対戦してきて「厄介なピッチャーだな」と思っているので、なんとか今年は打ちたいなという気持ちです。

――髙橋佑投手に関して、投手としてどのような印象を持っていらっしゃいますか

 気持ちがボールに乗ってくる、気持ちで押してくるピッチャーです。そういうピッチャーとは今まで何人も戦ってきたのですが、すごく打ちにくくて。そこに自分が『気』で負けないようにしなければいけないと思っています。

――高校時代からしのぎを削ってきた郡司裕也主将(4年)への対抗意識はありますか

 高校時代に大敗(●早実0-7仙台育英、15年夏の甲子園)しているので。去年の早慶戦では勝ち点を取れましたけれども、自分自身、すごく郡司にやられている印象が強いです。高校3年生の対戦からもう4年経つので、最後の年くらいなんとかやり返したいです。

――改めて、早慶戦に向けての意気込みをお願いします

 早稲田と慶応が築いてきた野球の歴史がありますし、国民的とも言える試合なので、早稲田の意地を見せられるように。勝たないといけないですけれども、自分たちのベストを尽くして、下を向かずにプレーできればいいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 望月優樹)

頼れる4番がチームを勝利に導きます!

◆加藤雅樹(かとう・まさき)
1997(平9)年5月19日生まれ。185センチ、87キロ。東京・早実高出身。社会科学部4年。外野手。右投左打。いつも快く取材に応じてくださる加藤主将。取材終了後に伺ったところ、好きな飲み物はスターバックスのカフェモカだと教えてくださいました。「よく行くわけではないけど、たまに行ったらそれを頼みます」とは本人談。練習熱心な加藤選手の、人間的な部分が垣間見えた瞬間でした。