スタッフが大きく入れ変わり、心機一転した早大野球部。新体制になり、優勝を一度も経験したことがない代になった。米田圭佑(人4=愛媛・松山東)もその中の一人である。現在では代打での出場が主な役割になっているが、優勝への思いは変わらない。打席でも結果を残し、ベンチワークにも力を入れている米田。チームのために尽力するこの男に、今春への思いを伺った。
※この取材は4月3日に行われたものです。
追い込まれてからの『粘り』
取材に応じる米田
――4年生となりましたが何か変わったことなどはありますか
自分のことだけじゃなくて下級生も見なきゃいけなくて。下級生もフレンドリーなので、先輩づらはしていないですが、見るようにはしてます。
――昨年までいた黒岩駿氏(平31スポ卒)のイメージがあります
それはありがたいですね。すごくありがたいです。
――チームのムードが悪い時はどう対処しますか
下級生も(試合に)出ていますが、加藤(雅樹主将、社4=東京・早実)や檜村(篤史副将、スポ4=千葉・木更津総合)、福岡(高輝、スポ4=埼玉・川越東)などと仲良くしているのですが、彼らに冗談半分でふざけたり鼓舞したりしています。
――冗談っぽくというのは具体的に
「俺代わろうか」みたいな(笑)。
――昨年はどのような練習をしてきましたか
ずっと一軍というかメンバーの練習に入らせてもらって、苦手な守備に時間を割いていたような気がします。
――その効果が表れてきた時期などはありますか
沖縄キャンプ行くまではやってきて良かったと思ったのですが、沖縄行ってからちょっと…(元の状態に戻ってきている)。小宮山監督(悟、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)、田中浩康さん(平17社卒=香川・尽誠学園)、鈴木太郎新人監督(スポ4=静岡)に特訓してもらってます。
――沖縄で調子が悪くなった原因は分かっているのですか
完全に東海大(●1-4)との試合前にボール回しでエラーしてからですね。そこから悪くなってきてますね。
――田中コーチは、プロでも守備を武器にやってこられた方だと思います。アドバイスとは具体的にどのようなものなのでしょうか
田中コーチは選手目線でやってくれて。「投げることだけではなくてステップも意識しろ」って言われますね。それはみんなに、檜村とか金子(銀佑、教3=東京・早実)とか吉澤(一翔、スポ3=大阪桐蔭)にも言ってます。
――一度沖縄で練習を拝見した時、守備では基礎的なことを重点的にやっていると感じました
守備は基礎的なことが大事なので、基本に忠実にやっていることで応用につながるということがあるので。基本的な遅いゴロをとってステップみたいなのはよくやりますね。
――打席に入る前などルーティンはありますか
右バッターなので右足で土を蹴り上げています。
――それはなぜですか
去年3年生の時に佐藤助監督(孝治、昭60教卒=東京・早実)から「おまえ、そうやっていた時は下半身が安定していいぞ」と言われたので(笑)。試しにやってみています。
――では試合前のルーティンは何かありますか
最近なのですが、福岡のお母さんからもらった野球神社のお守りを握り締めていますね。
――それは福岡選手のお母様が全員に配ったものなのでしょうか
違います。福岡、檜村とは1年生のころ同じ寮だったので、なぜか僕もお母様とも仲良くてして、こないだくれました。
――早大野球部にどのような印象をお持ちですか
伝統を重んじつつも、新しく変わっていっているチームだと思います。
――小宮山監督が就任されて、一般のメディアでは「厳しい雰囲気になった」と報じられていますが、見ている限りは和気あいあいとしている印象があります。実際はいかがですか
厳しいところは厳しいというか。でも髙橋前監督(広、昭52教卒)の時と比べると、私生活面ではある程度自由が与えられている印象がありますね。
――監督によって変わったところは私生活面ということですか
緩くなったというよりは、個人の自由に任せるよということですね。
――監督交代を経ても変わらない早稲田らしさはありますか
粘り強いというか、終盤に強いというところですかね。去年の早慶戦とか特にそうだと思うのですが、そういう粘り強さは伝統あるからこそだと思います。
――目標としている選手などはいますか
プロ野球はあまり見ないので、人間的な面で言うと西岡さん(寿祥、平31教卒=現パナソニック)ですね。あの人はよくしてくれて、少し怖いのですが、野球の面では尊敬できるところが多くて西岡さんみたいな人になれたらなと思います。
――よくしてもらったというのは
私生活ですね。ご飯連れて行ってくれたりなど1年生のころからお世話になっていて。守備を教えてくれる時もあるのですが、怖いのであまり聞かないですね(笑)。
――3年時までのご自身のプレーはどう評価していますか
1、2年生のころは試合に出ようという気持ちが今考えたら弱いなと。でも徐々に入りたいなと思うようになってきました。今は一球で仕留めるということを意識していて、2ストライクからの粘りというのは沖縄からオープン戦にかけてできていると思うので、それは良かったと思います。
――高3時の取材に対して「はい上がってレギュラーに入りたい」と答えていた記事があったのですが、早大に入った当初はどのような気持ちでしたか
高3の時は希望を抱いて入ってきたのですが、挫折というか、思ったより上下関係が厳しくて、1年生のころはいっぱいいっぱいになってましたね。その辺の(弱い)メンタルを直したいですね。
――代打で出場することが多いと思いますが、代打の際の心構えはありますか
自分は2年上の先輩・尾崎さん(資樹氏、平30スポ卒)に教わったのですが、その人も3連覇、4連覇した先輩から教わったと言っていたのですが、「代打で出る時ってレギュラー陣が打てない時だから、『絶対打たなきゃ』ではなく『レギュラー陣が打てないなら、しょうがないから出てやるよ』という気持ちで行け」と言われましたね。なかなかそこまで思い切れていないのですが、それを思い返すと気が楽になりますね。
「知らぬ間にファーストに」
新体制発足以降、1軍帯同が続く米田
――続いて高校時代についてお聞きしたいと思います。出身校の松山東高は難関であるとお聞きしたのですが、勉学との両立はいかがでしたか
指定校推薦だったので。結構頭良かったんですかね(笑)。勉強に関しては厳しかったのですが、塾に行けという風土ではなかったので授業で完結させて部活も両方頑張るという学校でした。ですので、授業は集中して宿題もきちんとしようという感じでした。
――21世紀枠でセンバツに出場し、東京の強豪・二松学舎高や優勝候補・東海大四高に勝利しました。東海大四高戦で放った本塁打は
公式戦初ですかね。
――本塁打を放った時はどういう気持ちでしたか
1回表だったのであまり感動は…。甲子園って狭くて、地元・愛媛県に坊ちゃんスタジアム(松山中央公園野球場)っていうのがあるのですが、それはフェンスも高いし、とても大きいので。(センバツでの本塁打は)ライナーで一番ラッキーなところに入りました。絶対入らないと思って、二塁ベース回るまで気付いていなかったですからね。全速力で走りました(笑)。
――守備について。2年時に捕手から一塁手に転向されていますが、それはなぜでしょうか
正確に言うと、2年生になりかけの時ですね。4月からフレッシュリーグ(東京六大学春季フレッシュリーグ戦)というのが始まって、その時チームにファーストがいなくて。当時自分はバッティングの状態がとても良くて、大島さん(俊輝氏、平30人卒)というコーチに「フレッシュだけファーストやってみないか」と言われてやりました。でもフレッシュ終わってもキャッチャー戻ることはなかったですね(笑)。知らぬ間にファーストでした。
――捕手に戻りたいと思ったことは
キャッチャーってとても楽しいポジションなので戻りたいと思うことはありますが、小藤(翼副将、スポ4=東京・日大三)、岩本(久重、スポ2=大阪桐蔭)がいるからいいかなと(笑)。
――捕手と一塁手では、どんな違いがありますか
キャッチャーは小学校1年生からやっていて、どのプレーにもかかわるので、その点に関してはファーストはあまり面白くないかなって。でも守備があまり得意ではないので。今は「飛んで来い!」という気持ちで臨んでいますが、(試合が終わって)一回も飛んで来なかったら良かったなと(笑)。準備はちゃんとしています!
――現在、捕手の練習は全くされていないのですか
練習みたいなのはしてないですね。この間神宮(社会人対抗戦)でもブルペンキャッチャーをしに行って、同志社戦(早同定期戦復活第6戦)でもやったくらいなので、受けるぐらいだったらいつでもできます。あ、自分らの代で一番キャッチングうまいのは自分です(笑)!
――沖縄キャンプ中のホンダ鈴鹿戦では、最終回に柳澤一輝投手(平30スポ卒)から安打を放ち、流れを引き寄せる場面もありました
柳澤さんからは(在学中に)おもちゃにされることが多くて、絶対打ってやろうと思っていました。ですが2ストライクに追い込まれて、フォークとかチェンジアップなどがいいピッチャーであることは知っていたので、ノーステップで足上げずにコンパクトに来た球を打とうと思っていました。そうしたらたまたまライト方向に飛んで行ったので、その頃からノーステップっぽく(タイミングの取り方を)小さくしています。あれがいい転機でしたね。
――軽打を意識するようになってからタイミングが取りやすくなったのでしょうか
(これまでは)タイミングがいまいち取れていなくて。足上げずに来たボールに合わせるというかたちで、(最近は)単打ばっかりですね。
――長打は狙っていないのですか
本当は大きいのを打ちたいのですが、徳武コーチ(定祐、昭36商卒=東京・早実)にも「あまり大振りしてはいけない」って言われるので軽打ですね。特にリーグ戦の代打は一本ほしい場面なので、今のところそれでいこうと思っています。ですがこの(大きな)ガタイなので、監督としては長打も打ってほしいと思う時もあると思うので、それは練習でやっていこうと思います。試合中は単打を意識しますが、いずれは長打を打てるような選手になりたいと思います。
――打撃で重点的にやっている練習などは
バッティングは、手投げ2カ所とカーブマシン(1カ所)をやっているのですが、カーブマシンはいいタイミングで打ってしまうと実戦で使えないので、(あえて)体を泳がして打つというか。2ストライクから(変化球を)投げられてタイミングが合わなかった時でも、ファウルにしようと思っていますね。あとは(練習で)ラスト1球になった時に、ヒット出るか出ないかというところで、一球の集中力というのを意識してやっています。
――それは個人的にやっているのですか
そうですね。チームというか個人的に考えていますね。
――窮屈なバッティングをすることで実戦に役立てるということですね
なかなか実戦では気持ち良く打てないので、(練習では)窮屈なバッティングで。あとはこんな感じだったらヒットだな、という感覚を磨いています。
――春季リーグ戦を前に調整はできたと思いますか
去年もこんな感じで一年間ずっとベンチに入れなかったので、まだ調整という立場ではないと思うのですが、下級生もいい選手が多いので。調整するというよりは調子を上げてメンバー入りしようと思っています。
――対戦してみたい選手などは
(自分が)リーグ戦でベンチに入るか分からないのですが、法政のアンダースローの柏野(智也、3年)ですね。彼に新人戦の時にバット折られてショックだったので、対戦したいなと思ってます。あとは慶応の佐藤くん(宏樹、3年)ですね。彼の球は速くて嫌なのですが、対戦してみたいなという気持ちがあります。
――リーグ戦でのキーマンは
やっぱり加藤じゃないですか。加藤が打ったら彼自身も乗ってくると思うし、逆に加藤が乗らないとつながってこないところもあるので。キャプテンに自分も注目しています。
――チームメートの調子が乗ってこないときは、先ほどおっしゃっていたように冗談を言ってムードをつくるのでしょうか
下級生が落ち込んでいる先輩に声を掛けることは難しいので、ベンチ入ったらできるだけそういう人をフォローしたいなと。下級生との間に入ったりするのも去年の三木さん(雅裕氏、平31社卒)や黒岩さんがやっていたようにしたいなと思います。
――後輩を見る機会が多いとは思いますが、この子は伸びてほしいなと思う選手はいますか
メンバー入っている選手だと吉澤ですかね。ポジションかぶっていてライバルと言えばライバルなのですが、多分次の早稲田を背負っていくのは吉澤が中心になっていくと思うので、この一年大事だと思うので吉澤には乗っていってほしいなと思いますね。なめてますけどね(笑)。
――なめているのですか
吉澤のタメ口は親しみがあるというか、なめている感じはなくて結局可愛いですね。吉澤自身もなめて言ってるという感じではなく、親しみを込めて仲良い先輩にという感じがするので、可愛いと言えば可愛いですね。
『一球の重み』
――続いてプライベートについてお聞きしていきたいと思います。オフは何をして過ごしますか
甘いものが好きなので甘いものを食べています。
――おすすめの甘いものは
夏はやっぱり原宿のかき氷ですね。お店の名前は忘れてしまったのですが、竹下通りの路地裏にあるのお店ですね。通い詰めるほどではないのですが、気が向いたら行きますね。
――早稲田にはこんな人もいるのかと驚いたことはありますか
早川(隆久、スポ3=千葉・木更津総合)ですね。後輩なのに気を使うというか。色々自分の中でルーティンがあると思うので、試合中などもあまり邪魔しないように注意していますね(笑)。『早川さん』っていう感じですね(笑)。ハイタッチするのにも力加減に気を使ってますね。普通にいいやつなのですが、自分の中での決まりが多いイメージがあるので(邪魔しないように)。ルーティンはだいぶ高校時代に比べたら減ったそうですが。(同室で対談中の瀧澤虎太朗選手(スポ3=山梨学院)を見て)あ~、瀧澤もですね(笑)。瀧澤もひどいですよ。なめてますよ。テンション低かったら絡んでも無視とかするので、後輩には気を使わされますね(笑)。
――テンションが高い時は
テンションが高い時はタメ口みたいな(笑)。まあみんな後輩はかわいいですね。
――大学に入って学んだことは
『一球の大切さ』というのは高校時代に比べて感じていて。一球ちょっと打ち損じしたり投げミスをしたりしただけで、大きく勝敗にかかわってくるシーンが1年生の時から何回も見てきています。レベルが上がるごとに『一球の重み』というのが変わってくるなと思います。
――早稲田の好きな点はありますか
OBの方など、周りに注目されるというのは早稲田らしいというか、伝統ですね。早稲田の伝統というのはどこにでもあるものではないので、そういったところで野球できるというのは幸せなことですし、責任感もあるしやりがいもあると思います。
――ここからは今後の展望について。春季リーグ戦での目標をお願いします
チームを勝たせるような、勝利打点をできるだけ多く出すというのが目標ですね。もちろんレギュラーでも出たいのですが、それよりも代打で出たときに打点をたたき出せるような勝負強い選手になりたいです。
――現在、代打で出場した際はよく打っているイメージがあります
(打率が)3割くらいなので代打の割にはという感じですね。でもやっぱりもっと打ちたいなって。リーグ戦では代打は出るか出ないかの頻度なので、出る打席は全部ヒットか出塁できればと思います。
――今のチームに足りないものなどは
『ONE』というスローガンを立てて、一つになろうと加藤中心にやっています。ここ一番で勝っていく力はついているかなとは思いますが、ベンチワークというか声の持続性で(試合の)入りだったり中盤だったり終盤だったりで、ベンチの雰囲気が上がったり下がったりというか。そういう点を指摘されるので、試合最初から最後まで、ベンチも含めてみんなで入っていけるような持続性というものが課題かなと思います。
――では自分に足りないと思うものや強みになるものなどは何がありますか
強みは明るさで、足りないものはいいところでもあり悪い所でもあるのですが、周りを気にしてしまうところがあるので、もっと自分を出していきたいなと。周りを気にせずやっている人はうらやましいと思うので、そのくらい心臓に毛が生えると言いますか、慎重にならずに大胆になりたいですね。
――それは打撃においてですか
全ての面ですね。打撃の面であれば追い込まれるのではなく、初球から振っていきたいと思っていて。大胆さを求めていきたいですね。
――では最後に春季リーグ戦への意気込みをお願いします
入学してから一回も優勝していないので、個人の結果ももちろん大事なのですが、何よりも4年生として優勝することです。監督も常々言っているのですが、リーグ戦優勝して全日本選手権に出て、スローガンに掲げている『日本一』になるだけですね。
――ありがとうございました!
(取材・編集 江藤華)
これまでお世話になった人に、プレーで『恩返し』をします!
◆米田圭佑(よねだ・けいすけ)
1997(平9)年7月27日生まれ。183センチ、90キロ。愛媛・松山東高出身。人間科学部4年。右投右打。 対談中たくさんの選手の名前を挙げてくださった米田選手。後輩のこともよく見ており、面倒見の良さが伺えました。故郷・愛媛へ帰省した際は、瓶に入った高価なみかんジュースを吉澤選手のために買って来ることもあるそうです!