【連載】春季リーグ戦開幕前特集『勝利への渇望』 第10回 加藤雅樹

野球

 打率3割7分5厘。昨年の東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)で、首位打者のブロンズ像を手にしたのは、確かに、この男だった。それが一転、秋季リーグ戦では5試合目まで無安打。打率は辛うじて2割に届くかというところ。チームもまさかの最下位に沈んだ。そんな加藤雅樹(社3=東京・早実)が春季リーグ戦へ向けて掲げた言葉は「絶対勝つ」。ワセダの大砲、起爆準備は整った。

※この取材は3月31日に行われたものです。

新化

不振に陥った昨季からの再起を誓う加藤

――では、冬場から振り返っていただきます。冬は何をされましたか

 冬場は打撃フォームを根本から変えて、一から見直すということをやりました。強くて確実なスイングを目指してきました。体の面では、すごく鍛えてスピードや肩の強さ、飛距離につながるようなトレーニングをしてきました。

――打撃フォームの改造は具体的にどんなことをされましたか

 今までは力が入ってトップが高かったので、まずは脱力して、ちょっとトップを下げて、自然なかたちでバットが出てくるようにしました。

――試合中の打席での変化は出てきていますか

 練習で常に打ててる打球が徐々に出始めているなというのはすごく感じているので、自然体というのは段々かたちになってきていると思います。

――どんな打球ですか

 左中間だったり右中間だったり。その二つですね。そこに打球がきれいに飛んでいくときは、自分の状態がいいときなので、それは常に目指しています。

――沖縄キャンプはいかがでしたか

 沖縄キャンプは個人的に出だしが良かったです。本塁打も出たりして。最初の状態はすごく良かったんですけど、徐々に崩れていったというか課題に直面しました。調子は落としちゃいましたけど、もう少しこうした方がいいなということが出てきたので、そういう意味では良かったかなと思います。

――どんな課題ですか

 やっぱり、体が突っ込んで軸が定まらないというか。状態がいいときは勝手に定まるんですけど、常に軸を定めることは意識しないといけないかなと思いました。そこから打撃フォームも、もう一回練り直すという感じにはなったと思います。

――沖縄での思い出はありますか

 宿舎に卓球台があって、夜中、ちょっと卓球やったりして、それは結構おもしろかったです。白熱しました。自分弱いんですけど、結構楽しかったです。

――どなたが強いんですか

 (隣で対談していた早川投手を指して)早川(隆久、スポ2=千葉・木更津総合)とか。(向かい側で対談していた吉澤選手を見て)吉澤は自分より弱いですね(笑)。

――キャンプでは、足が速くなったり、肩が強くなったとのことですが、何を取り組みましたか

 ストレッチや筋力のトレーニングですね。30メートル走のタイムが伸びたり、送球が低い高さにいくようになりました。今までやってないことも取り入れて、冬の期間に一気に良くなったという感じです。

――新体制対談で、秋に打てなかった理由が分かってきたとおっしゃっていましたが、これまででつかんだことはありますか

 そうですね。秋はどうして駄目だったかというのは、今は分かっているつもりです。ただ、打撃は難しくて、要因は一つじゃないかもしれないです。ただ、すごく簡単なことで言えば、体が開いたりとか、バットが外から出たりとか、それはもう確実に違うよねということです。そういうすごく基本的なことで間違っていた部分があったなと思っています。

――相手チームからのマークには苦しみましたか

 まあ、秋は春とは(投手の攻め方が)明らかに違いました。あと、春はなんとか迷惑をかけないように、しがみついていこうという感じだったんですけど、秋は4番で「頼むぞ」という部分が大きくなったので、気負いもあったんじゃないかなと思います。相手の攻め方も変わって、そこに対応できる技術がなかったというのはもちろんあるんですけど、精神的にも改善できる点があったというか、駄目だったなと思います。

進化

――春季オープン戦の話に移ります。最近では、課題だった好機での一本が出てきているように見えます

 うーん。まあ、チーム全体として一本が出ないということがあって、自分は、前に比べたら出るようになったなと思っています。でも、オープン戦なので、結果だけにとらわれてると駄目な部分もあると思います。初球からちゃんと振れているかとか、振る球は間違ってないかとか。そういう部分に焦点を当てたら、もっと改善できる点はあるかなと思います。

――では春季オープン戦はそういった点の方を意識していましたか

 そうですね、もちろん。オープン戦は、捉えた捉えないの話以外の部分で大事にしたいと思っています。

――ここまでの調子はどのように分析していますか

 調子は、いいと思います。(少し考えながら)自分の中では、ためができているというか(球が)よく見れているなという感覚はあります。いいと思います。

――社会人チームと対戦して、どんな感覚や感想を持ちましたか

 隙がないというのが一番(の感想)ですね。打つ、打たないとか守るとか投げるとか、そういうところにも多少の差はあるかもしれませんが、それ以上に、隙です。隙を見せない、隙を突くというのは全然違うなと思います。隙があればどんどん走ってきますし、ワセダにはそういう部分がまだ足りないなと思います。

――きょうの試合(Honda戦)はいかがでしたか

 社会人のチームの中でもすごい強いチームでした。2-1という点差以上に、隙を突く走塁などで差が出たかなと思います。

――右翼に強めの打球が多く飛んできましたが

 そうですね。右翼にすごい飛んできました。社会人のチームはおっつけて(流し打ちして)くるチームが多いので、たくさん飛んできたなという感じです。いい練習になったなと思いました。

――右翼手の守備はもう慣れましたか

 打球の感じとか捕った後投げる感覚とかで、どちらかというと右翼手の方が守りやすいかなと思います。左翼手の守備で一番難しいのは、左打者の切れる打球で、バックハンドで捕らないといけないんです。右翼手はフォアハンドで捕れるので、自由が利いて捕りやすいです。あとは、捕ってから投げるのに、三塁までや本塁までに角度的に入りやすいなと思います。

――沖縄では竹内諒投手(平29スポ卒=現ホンダ鈴鹿)から本塁打を放ちました

 (笑顔を浮かべて)あ、はい。そうですね。竹内さんは1年の時の4年生で、リーグ戦も投げていて、尊敬する先輩の一人なので、打てて良かったですね。成長した姿を見せれたんじゃないかなと思います。

――ここまでで、新しく挑戦したことや技術的に変えたことはありますか

 新しく変えたこと?(少し考えて)スライディングキャッチ(笑)。外野経験が浅いというのもあるんですけど、あんまりしたことがなくて。だんだんと外野の守備に慣れてきて、余裕を持ってプレーできるようになってきましたし、低くて難しいライナーとかは目と近い場所で捕った方が確実です。スライディングキャッチはキャンプでもすごく練習して、できるようになったなと思います。

――野球全体や打撃、守備、4番に対してでもいいですが、考え方が変わったと思うことはありますか

 今までは、結構、打った打たないの結果で一喜一憂してました。でもそうじゃなくて、成長を感じることができれば、自分の努力は無駄じゃなかったと思えるんです。結果ばっかり追っていると、どうしても、無駄だったとか、あの努力は間違っていたというようになってしまいます。自分の成長に焦点を当てていれば、必ず努力とイコールになるので、その考えを持てたというのは、自分の中で大きく変わったと思います。だから、結果が出なくても我慢して辛抱強くやれているかなと思います。

――加藤選手から見たチーム全体の状態はどう考えていますか

 本当に明るくて、みんなでどうやったら勝てるかというのをちゃんと考えています。なかなか勝てていないですけど、その雰囲気はすごく好きですし、なんか、勝てる気はするなと思っています。

――明るさですか

 そう。明るくて、ミスが出てもへこたれない感じはあります。まあ、あと、もうちょっと、もうひと踏ん張りというか、もう一つそれが上がればもっといいチームになると思います。

――話が変わりますが、プロ野球が開幕しました。元チームメイトの清宮幸太郎選手(北海道日本ハムファイターズ)とは連絡は取っていますか

 あー、取ってますよ。最近体壊したじゃないですか。それはちょっと心配したんで連絡しました。

――他にプロに行った選手とのつながりはありますか

 知り合いだったら、オコエ(瑠偉、東北楽天ゴールデンイーグルス)とか。オコエは中学の時から知ってるんです。プロテインの種類とか聞いたことありますけどね(笑)。あとは、成田(翔、千葉ロッテマリーンズ)とか。マウスピースの話とか聞いたことあります。

――最近の息抜きやプライベートでやっていることはありますか

 最近は、メジャーリーグの映像を見るのが好きで。それも全部野球なんですけど(笑)。でもそれが自分の中で息抜きにもなっていますし、技術にもつながっています。バッティングとか練習方法とか、もうそればっかりですね。

真価

一回り成長した姿で、4番の使命を果たす

――春へ向けての話に移ります。いつも意識されている軸をぶらさずに打つという点での調子はいかがですか

 でき始めたかなと思います。だいぶずれていたんですけど、きょうの試合とかは特に良かったかなと思います。

――また、軸を意識し過ぎると左半身に体重が残り過ぎてしまうから、右半身への体重移動との両立も大切というお話もされていましたが、今はいかがですか

 そうですね。それを意識していたら、どんどん前にいき過ぎてしまって。(少し考えて)でも結局、多分、実際に打つ時は絶対に前には少しいってしまうので、左側に(体重を)残すという意識で今はやっています。秋は、それがエスカレートし過ぎて、右足が浮いちゃうというか、右足がグラグラするような状態になっていたので、そこまでならないぐらいに左足に(体重を)残したいですね。

――3年生になるという学年的な立場で意識していることはありますか

 もう上から二番目の代ですし、引っ張っていく側になるので。それは声…じゃないか。声で引っ張るんじゃないと言うのもおかしいですが、声だけじゃなくて、背中、言動とかが大事になってくると思います。

――これからのプレーでの役割、4番としての役割はどう考えていますか

 優秀な打者が1、2、3番にいますし、5番も優秀なので、自分はいる走者を返すということと、後ろにつなぐこと。自分で決めようというおごりは一切なくて、がむしゃらさは忘れずに持っていきたいなと思います。

――守備面ではいかがですか。鷺宮製作所戦では好返球で本塁で刺しましたね

 そうですね。あの日は二回いい送球がいって、自分としても手応えをつかみました。でもまだ安定していないので、その安定性が出ればいいかなと思っています。

――最下位になった次のシーズンという重圧はどれぐらいありますか

 ちょっと怖さの方があるというか。自分も開幕から全然打てなくて、チームも最下位という感じだったので、その怖さというかトラウマはちょっとあります。まあ、それを払拭(ふっしょく)したいと思って今まで頑張ってきたので、楽しみというか絶対やってやるぞという気持ちもあります。

――初戦は立大戦ですがどんなイメージを持っていますか

 投手が去年と全く変わっていないので、手強い相手になるかなと思います。だから、いかに打つかということだと思います。去年のイメージから言うと本当にコントロールがいいので、しっかり準備しようと思います。

――特に田中誠也投手(3年)の制球力はどう見ていますか

 本当に、もうノーチャンス。そういう打席もあったりして。本当に本当にすごい際どいところに3球来たりします。だからそれをカットとかで逃げて甘い球を待つという、がむしゃらさがないと崩せないと思います。もう何がなんでも、という気持ちでやりたいなと思います。

――加藤選手が考えるチーム内でのキーマンは誰ですか

 そうですね。(少し考えて)ずっと言ってるんですけど、早川。本当に実力はすごいです。みんな知ってることだと思うんですけど、自分が打席に立っても思います。ただそれが、去年は結果として表れなくて、本人も悔しい思いをしたと思います。投手陣を引っ張っていってもらいたいなと思います。

――他大学で特に対戦したい選手や気になる選手はいますか

 じゃあもう、森下(暢仁、明大3年)ですね。ジャパン(U18日本代表・大学日本代表)でしたし、自分の世代を代表する投手の一人だと思います。あんまりちゃんと打ってないので、もうしっかりとしたものを打ちたいと思います。自分はジャパンに入れなかったので、負けたくない気持ちが強いです。

――では、個人目標を教えてください

 去年の春を超える数字を残して、三冠王です。三冠王というのは、東京六大学のなかでも確か13人(戦後)しかいないので、それを達成したいというのはあります。去年悔しい思いをしているので、ことしは必ずやってやるぞという気持ちでいます。

――打率、本塁打、打点のうち、どれを重視しますか

 それは打率かなと思います。打点ももちろん大事ですけど、それは他大学と比べちゃうと、チーム事情とかもありますし。打点はついてくるもので、伸ばそうと思って伸ばせないと思います。そして、自分は本塁打を意識すると打てなくなっちゃうタイプなので、打率を残すイメージで打っていければ、他の二つはついてきてくれるものだと思っています。そういう気持ちでいきたいなと思います。

――最後に、読者へ向けてアピールするポイントや見てほしいところ、ここが進化しているという点があればお願いします

 去年とは一味違う打者になったと思ってもらえるように。あとは、当てにいくような姿勢はワセダの4番じゃないと思うので、しっかり振り切って強い打球を打てるようにしていきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 吉岡篤史)

昨春を上回る大活躍を期待しています!

◆加藤雅樹(かとう・まさき)

1997(平9)年5月19日生まれ。185センチ、87キロ。東京・早実高出身。社会科学部3年。外野手。右投左打。優しい笑顔で快く質問に答えてくださる加藤選手。負けたくない選手として明大の森下投手を挙げたとき、語気を強めて話す姿からは、秘める闘志を感じました。取材後には、色紙の文字をとてもかっこ良く書いて頂き、「色紙には慣れてるんですか」と聞くと、「そうですね」と書いた色紙を惚れ惚れしく眺める姿は印象的でした!