賜杯奪還を目指したチームは開幕戦で勝ち点を落とすと、そこから勝ち点はわずかに1にとどまり、現在5位。大差で敗れる試合は少なく、春に続き接戦で勝ち切れていない。就任してから6度目のシーズンとなった今季は苦しいものとなっている。ここまでチームを率いてきた髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)は何を思うのか。
※この取材は10月20日に行われたものです。
「明大3回戦に悔いが残る」
今季の戦いを厳しい表情で振り返る髙橋監督
――今季は明大戦からのスタートということで、ここで勢いに乗れなかった印象です
やっぱり第3戦がね。勝てる試合だっただけに非常に悔いが残りますよね。10回に勝ち越されて同点に追い付いて、まだ1死満塁だったわけですからね。そこでサヨナラ勝ちできなかった。それからそのあとに12回に2死から点を取られた場面。2カ所の勝てる場面と防げる場面があったんで、非常に悔いが残りますね。あの試合で1勝できていれば勝ち点も2になっているわけですから、非常に大きいですよね。
――開幕戦の明大1回戦は秋季リーグ戦の入りとしてはいかがでしたか
小島(和哉、スポ3=埼玉・浦和学院)も悪くはなかったんですけど、0-3で完封されて。齊藤くん(大将、4年)も良かったですから打てなかったことは仕方ないと思うんですけど、第2戦をとれたんで、第3戦が非常に悔いが残りますね。
――1回戦では打ち取った打球でアウトを取れず、記録に出ないミスもありました
結果論ですね。ベストの状態で入っているわけですから、仕方ないですよね。
――3回戦では継投でよくしのいでいたと思いますが
もちろん。でも相手のピッチャーも中1日で延長を投げ切ったわけですからね。
――先に好機をつかんだのは早大でしたが、リードを奪うことは結局ありませんでした。後悔などはありますか
いや、それはないですね。あと一本出るか出ないかの問題ですからね。要は加藤(雅樹、社2=東京・早実)が打ってれば軽く勝ってる試合ですから。10回1死満塁の場面が究極になりますけど、あそこまで行くまでに加藤が打ってれば。立教の1回戦もそうですけど。
――その加藤選手は春の大活躍から一転、不振に苦しみました。それでも変わらず4番で起用し続けましたね
代えるという方法もあったんですけど、2年生から4番を打ってるわけですから。加藤を押しのけるような4番が出てくればチームとしてはいいですけど、基本的には彼が卒業するまで4番を打ち続けるんだから、ある程度は乗り越えなければいけないカベだと思って起用し続けましたね。
――技術的な面でしょうか
相手は研究しますからね。春はルーキーイヤーだったので相手のウィークポイントが分からないし、お互いに研究しますんで、そういう点でのびのびできて結果も出たと思いますけど、この秋は研究されてましたんでね。本人も怠慢とか慢心ではないと思うんですけど、人間ですから春活躍すれば秋も打てると思いますよね。そういうところがあったのか、相手の研究が上回っていたんでしょうね。
――落とせない状況で迎えた立大戦も、1回戦に悔いが残ったのではないでしょうか
でも打ててないですからね。要するに加藤が打っとけばというところです。
――あの試合は小島投手が好投しました
あーそうか、1点勝ち越した後に檜村(篤史、スポ2-千葉・木更津総合)のエラーが大きいよね。何でもないショートゴロを。
――小島投手は粘り切れていないご自身の投球に不満を感じているようですが
やっぱそこで抑えられるかどうかでしょうね。ただ、ロースコアなんで。法政戦もそうでしたね。1-1でいって最後に粘り切れない。まあでも1、2点の勝負ですから、ピッチャーが全てではなく打線が打てばどうってことないんですけど、それが接戦になって1点勝負になるとそこで粘り切るかどうかですね。
――1点差で落とした試合ばかりです
何か足りないんでしょうね。
――「何か」に心当たりはございますか
突き詰めていけばやらなくていい1点とか。バッターが打つに越したことはないけど、なかなか打てないですからね。となるとやらなくていい1点。ただこっちもキャッチャーの暴投なんかでもらってるわけですから、そういうラッキーを守り切れるかどうかですね。
――守り切れないというのが弱さということでしょうか
それが今の実力でしょうね。
――2回戦は先発の大竹耕太郎投手(スポ4=熊本・済々黌)を2回で代えました
落とせない試合なんで、どんどんピッチャー代えないと仕方ないですね。
――状態は悪くない中でしたが
相手の打線とかその日の調子によるのと、ピッチャーを代えないといけないしね。柳澤(一輝、スポ4=広島・広陵)なんかも良かったけど、負けてる分代打送らないといけないから。例えば同点や勝ってる場面なら続投させられるんですけど。継投しているとどうしてもその日の状態がいい人と悪い人といますから。そういうめぐり合わせが悪いですね。相性などその場にならないと分からないのでね。負ける時ってみんなめぐり合わせ悪くて、逆に勝つときはめぐり合わせがいい。
――開幕から2つ続けて勝ち点なしということで、チームの雰囲気も良くなかったのでは
それは当然ね。それからしたら東大戦はよく勝ったと思いますよ。東大は他には勝ってるけどワセダだけ東大にきっちり勝てたんで。
――1回戦では宮台康平投手(4年)から八木健太郎選手(スポ4=東京・早実)がリーグ戦初本塁打を放ちましたね
それが大きかったですね。どの試合も先制点というのは大きいですね。この間の法政の第2戦のように先行してるんだけどすぐに追い付かれるとなると良くないですね。
――法大戦は2試合続けて接戦で競り負けしまいました
ピッチャーが踏ん張れるか踏ん張れないかの差ですね。中2日で投げさせて向こうは勝負掛けてきているわけですから、菅野(秀哉、3年)で。
――雨により2日中止をはさんでの試合になりましたが、こちらは小島投手を先発に送ることは考えませんでしたか
柳澤の信頼度からして小島を無理して投げさせるというのは。向こうは他のピッチャーで落としてタイになるより、と思ってぶつけてきましたけど、雨が降って二日流れたののも大きかったですね。雨がなかったら、これなかったでしょうね。
――この法大戦は菅野投手に連続完投を許し、菅野投手にやられましたね
東大戦では全然でしたけどね。4、5日ですごく立ち直りましたよね。こんなに早く立ち直るとは。東大に勝ち点を落として法政も奮起したというか、元々菅野投手もいいピッチャーで、私も東大戦の菅野投手は悪かったけど、選手には絶対に悪いイメージでは入らないように、ベストピッチをイメージして入るように言っていました。そういう油断とかなめてるとかそういうことはなかったと思います。元々点は取れないので、最後に1点出るか出ないかの差ですね。
――となると、最後に1本出ないのは
実力ですね。最終的にはそうなるんじゃないですか。
――順位は最下位も現実味を帯びる厳しい現状ですが
いやあ、これは仕方ないですね。今からどうにかなるものでもないし。
――常に優勝争いをしてきた早大としてこの屈辱をどう受け止めていますか
接戦で負けてきているわけだから、それ以上は何もないですね。
――最悪に近い状況に置かれましたが、選手の士気はいかがですか
どうでしょうね。今の選手って結構淡々としてますから分かりにくいですね。喜怒哀楽が分かりにくいというか、すごい盛り上がってたり、すごい落ち込んでたりするようなことは見受けにくいですね。
「最後の早慶戦で有終の美を飾る」
このユニフォームを着ている限り簡単には負けられない
――ここまでこのチームでやってきた一年間を振り返っていかがですか
結局一年ずっと1点差で負けた試合が非常に多かったですね。まじめで元気もあるんですけど、結果が伴わなかったという。練習はうそをつかないと言うけれども、本番でのメンタリティといか、まじめな人ほど固くなったりするしなかなか難しいですね。今シーズンを見てるとキャプテン(佐藤晋甫主将、教4=広島・瀬戸内)が故障で出られいない。春は4発打ったのかな。そこらへんも中心を打つ選手ですからね。
――その佐藤晋主将のリーダーシップはいかがでしたか
本来まじめな人間ですから、率先垂範でまじめにやってたんじゃないですかね。彼がお手本を示すことがチームを引っ張ることになりますよね。そういうことをほとんど彼がやってくれたと思いますけどね。
――それだけに、故障と言えど最後に出させてあげられないもどかしさもあるのでしょうか
故障だから仕方ないんですけどね・・・。本当なら出したいのはもちろんです。本人が一番悔しいでしょうね。
――やはり、まだ出せる状態ではないと
厳しいかな。まだベストな状態じゃないと思いますね。
――佐藤晋主将は卒業後も野球を続けられると思いますが
慢性的な故障ですから、まずは直すことが一番でしょうね。
――このチームも最後の試合を迎えますが、そこで期待するものは
最後の早慶戦を勝ってもらって有終の美を。終わりよければすべてよしですからね。どんなかたちでも早慶戦に勝って勝ち点を挙げてもらいたいですね。
――カギを握るのはやはり小島投手でしょうか
小島だと思いますね。抑えないと勝てないと思いますね。打ち合いになったら向こうもよく打ちますから。
――これまでの取材からも小島投手への期待の大きさを感じます
エースとしての今の位置付けですよね。勝ち投手にはなってないけど、1点勝負の試合は一応はしてますから。
――エースと位置付けるその理由は
現状での力ですね。逆に言えば他の連中にはないわけですから。
――来季以降は大黒柱としてさらなる期待が掛かりますね
いやあ、もうそうですよね。本人だって将来のために頑張らないと自分の進路にも響いてきますよね。
――今季の慶大の印象はいかがですか
よく打ちますよね。
――特に警戒している選手は
岩見でしょうね。一発がありますし、本人もホームラン記録が懸かっているし。技術的にも反対方面に打てていて今までなかったことですから、技術的にも上がってきているように感じますね。
――早慶戦に勝つためにキーマンになる選手は
ピッチャー、小島じゃないですかね。彼が抑えるかでしょう。
――優勝争いとはまた別に早慶戦は特別でしょうか
それはもうリーグ戦の順位関係なくワセダとしての意地もありますし、絶対に早慶戦には勝ちたいという思いは強いですね
――慶大は春に続き優勝の懸かった早慶戦ですが、目の前での胴上げを阻止したいという思いは強いですか
優勝を阻止というかそんなんじゃなくて単純に早慶戦には負けられません。相手の順位は関係ないです。
――慶大の投手陣の方は複数投手が小刻みに継投してきます
慶大も読めない中で次々といいピッチャーが出てきて難しいですね。向こうも主戦になるピッチャーがいないから早めの継投になるんでしょうけど、逆に捕まえにくいですね。慣れないうちに1イニングずつ代えられて、それがみんな完投能力がないにしても力は持ってますからね。全然実績がなくて名前のない子なんかもポッと出てきて抑えますからね。付属から来ている子が多いからなんでしょうけど。
――ここまでは苦しい戦いが続きましたが、最後に早慶戦だけは勝って終わりたいですね
もちろん。4年生には、彼らも最後の早慶戦ですから有終の美を飾ることが大事だということはよく言ってます。
――優勝はない状況ですが、早慶戦は変わらずあります。その早慶戦へ向けてお願いします
優勝はないんですけど、伝統の一戦でワセダとしての意地を見せたいし、早慶戦にぜひ勝利して期待に応えたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 郡司幸耀)
◆髙橋広(たかはし・ひろし)
1955年(昭30)2月4日生まれ。愛媛・西条高出身。1977年(昭52)教育学部卒業。早大野球部第19代監督。