【連載】秋季早慶戦直前特集『雪辱』第3回 小島和哉

野球

早慶戦を残し、ここまで1勝3敗。小島和哉(スポ3=埼玉・浦和学院)はエースとしてチームを勝たせる投球ができずにいる。立大1回戦、法大1回戦はともに8回途中まで好投したが、粘り切れずに敗戦。好投しても報われず、もがき、苦しんだ今季。小島はそこに何を感じ、こうした現実をどう捉えているのか。その胸中に迫った。

※この取材は10月18日に行われたものです。

「なんで勝てないんだろうって今すごく悩んでいます」

今季の苦悩を語る小島

――今季ここまでを振り返って、ご自身の投球を簡潔にどう捉えていますか

 自分が投げた試合は1点差で負けてしまうことが多くて、1回戦は相手もエースをぶつけてくる分、1点の重みを痛感しました。

――点数をつけるとすると何点ぐらいになりますか

 30点程度ですね・・・。自分に勝ち負けがつく、まあ自分に勝ちがつくことに関してはあまり気にしてはないのですが、取られてもいい点と絶対に取られてはいけない点が試合の中にあって。それなのにもかかわらず、どうしても取られちゃいけない場面で最後粘りきれずに取られてしまうかたちが多くて。実際チームが試合に勝てていればそうした過程もある程度は許容できると思うのですが、結局それで勝てていないので、そうしたところから30点ですね。

――その取られてはいけない点というのは、立大1回戦の8回や法大1回戦の8回ですよね

 そうです。特に立大1回戦のあの場面は、最悪1点取られるのは仕方ない場面でした。ただ自分は相手投手と打線のことも考えると「1点も取られちゃいけない」と思っていて、その結果一塁ランナーまで返ってしまい逆転されてしまった。法大戦もそうですけど、点を与えちゃいけない場面で許してしまっているので・・・。

――その立大戦にはかなり強い気持ちで臨んでいたようですが

 実際そうですね。明大戦は勝ち点を落とした上に、自分でも納得いくピッチングができなかったので、絶対にチームを勝たせたいという強い気持ちをもって臨みました。

――それだけに味方のミスがあったとはいえ、試合後はかなり悔しそうな表情が印象的でした

 気持ちをいつも以上に入れていた分、試合後は悔しい気持ちが大きかったです。何より打線が勝ち越してくれていましたからね。味方のエラーも助けられるようになりたいです。

――試合後の話では、打たれた球に関して「打たれても後悔しないように真っすぐを投げた」ということでした。それはここぞの場面での変化球の制球に不安があったということですか

 いや決してそういうわけではなくて。前の打席を内角の真っすぐで打ち取れていて、自分の中でいいイメージが持てていたので投げたのですが、結局甘く入ってしまいました。

――では確率を考えての選択だったと

 そういうことです。

――今は悪い部分というのを主に挙げていただきましたが、一方で良い部分もあると思います。それはどういった点でしょうか

 明大戦もそうですけど、調子が悪いなりにも試合はつくれるようにはなったかなと思います。ただその中でもさらに突き詰めなきゃいけない部分も当然あるとは思っています。

――次は春と比べての話になりますが、春は攻め方、配球の部分で髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)がバッテリーに苦言を呈する場面がありました。一方で秋は、外すところは外す、勝負どころでは勝負といった割り切りがはっきり見られるようになりました。その点はやはり監督や捕手との意思の疎通ができているということでしょうか

 自分は「やることやって打たれるなら仕方ない」というふうに考えるようにしていて。法大1回戦で初回から4番の中山選手(翔太、3年)を敬遠したのも監督からの指示があったにしろ、共通理解の上でしたことです。あの場面は一発のリスクを背負うよりも、歩かせた方がゲッツーを狙えて守りやすいし、次で勝負した方が打ち取れる確率が高くなるということだったので歩かせました。結果的にその後を抑えて点を取られなかったので、それでいいのかなと。確率のことに関しては春から監督に言われてきて、その考えが浸透してきているのかなと思います。

――ピンチの場面でも慌てる素振りを見せず落ち着き払って投げているイメージですが、そうした場面ではどういったことを考えて投げていますか

 例えば1死三塁とかであれば、1つアウトを取って2死三塁になれば、打たれたら点を取られるという意味で2死二塁と同じ、という考え方をしています。なので2つのアウトをどう取るかを冷静に考えています。今までであればそこで気合いだけでいっていた部分があったので。そこを冷静に考えることで「このカウントはスクイズがありそうだ」と頭に入れながら投げたり。当たり前のことではあるんですが、その当たり前のことにもう少し意識を置いて投げるようにしています。

――ではピンチの場面では冷静にそのときの状況を見渡せるようになったと

 そうですね。勢いだけじゃなくて、ちゃんと考えるようになりました。だから「どれだけ塁が埋まっても、0点に抑えればいい」という気持ちで投げています。

――開幕前の話では「今季はメリハリをつけた投球を意識していく」ということでしたが、こちらから見ていても、初球から2球カーブを続けたり、時には内角の厳しいコースへの直球から入ったりと、大胆な攻め方をしていると思うのですが、ご自身ではどう感じていますか

 割合的にいえばもう少し遅い球を増やせるかなとは思うのですが、実際に投げてみてバッターの反応を見ながらタイミングが合ってるか合ってないかを見極めて、それ以降の配球を組み立てたりするので、うまくできているところもあればできていないところもあります。その点に関してはもう少し勉強が必要かなと思います。

――今季は良い投球をしても勝てない、という試合が多いですが、勝てないというある種のカベのようなものに当たった経験というのはこれまでの野球人生の中でありますか

 高校野球では1回負けたら終わりなので、今のようなリーグ戦とは異なりますが、高校も大学入学後も自分が点を取られてもその分取り返してくれる状況だったので(こうした経験は)初めてです。なので自分でも「なんで勝てないんだろう」って今すごく悩んでいます。

――毎試合のように「何かが足りない」ということを口にしていますが、その『何か』は現状わかっていない状況ですか

 自分が点を取るわけでもないし、かといって1点も取られなければ負けることはない、と考えたとしても、なかなか簡単にできることでもないし・・・。ただ、点を取られないということにもっと貪欲にならなくちゃいけないなと。うーん、1点差の試合とかも本当に少しの差だと思っていて、そこをもう少し突き詰められるように、あとは気持ちの面でもっと上に行かなきゃなとかいろいろ考えたりするんですけど、今の段階ではあまり明確には分かっていないというのが現状です。

――来年は最上級生になってチームを引っ張る立場になります。そして次のステージで野球を続けるとなると、現状自分に足りていない部分はどういった点だと感じていますか

 技術、体力の面でもう1つ2つぐらい上のレベルにならなきゃいけないですし、ただそれ以外にもすべての面でレベルアップしないと上ではやっていけないなと痛感しています。

――少し話を変えて、練習のことについて伺います。今季は試合のない期間というのは主にどういったメニューに時間を割いていますか

 投げ込みよりも走りをメインでやっています。

――具体的にはどのぐらいですか

 今はポール間走を50本とかですね。他の投手陣とは別でそういった練習をしています。

――投手陣と別でというのはどういうことですか

 ランニングと体幹のメニューがあるんですけど、その間に自分はポール間を走っています。体幹やランニングは後で自分ひとりでもやれるので。

――今季は思い悩むことも多いと思いますが、そうした気持ちをどう切り替えていますか

 好きな音楽を聴くのもそうですけど、真面目に負けた原因を考える時間も多いです。野球はミスの多いスポーツですし、守りでミスが出るのも当然のことだと思うんです。また打って援護してもらうこともあるので、味方のミスを助けてあげるピッチングができるのが大事だなと。

――では結構考え込んでいると

 起きてしまったことはしょうがないと思うようにはしてますけどね。

「やっぱり最後は勝って終わらせたい」

勝ちに恵まれない日々が続くが、1回戦の先発からは譲らない

――再びリーグ戦の話に戻りますが、現状チームが最下位に沈んでいるという中で、「第一先発の自分が勝っていれば」という気持ちはやはり大きいですか

 実際本当に簡単に考えれば、自分が勝てばチームも勝ち点を取れると思っていて。自分が勝ち星を積み重ねれば自然とチームも優勝できると思うし、自分が勝てなければチームも沈んでしまうというのは痛感しています。実際自分が現状1勝3敗なのも、4カード終わって、東大に勝って勝ち点挙げた以外は、全部自分が負けたらそのカードも勝ち点を落としているので。その週の入りの試合でチームを勢いづけられないのが悔しいです。

――自分が勝てていないことへの悔しさはもちろん、チームに対しての申し訳なさもあると

 そうですね。はい。

――第一先発の自分が勝てていないという現状への焦りもかなりのものですか

 焦りすぎて、気付いたら最終週まで来てしまいました。

――そうした中でも髙橋監督から小島選手への期待は取材をさせていただいている我々にもひしひしと感じてきます。そうした部分はご自身でも感じていますか

 そうですね。大竹さん(耕太郎、スポ4=熊本・済々黌)や柳澤さん(一輝、スポ4=広島・広陵)といった4年生の先輩方がいる中でずっと1戦目で使ってもらってて。自分だけは「交代かな」というときもスパッと変えられずに「どうする」というふうに聞いてくれて。そうした期待感というのはものすごく感じていますし、そうした監督の思いを分かっているからこそ結果を出せないとつらいです。

――好投した立大戦や法大戦は特にそうですが、各大学のエースと投げ合うということは自分の投球においてもかなり奮発材料になっていますか

 はい。法大戦のときも6回に代打で変わるかもしれないという状況だったんですが、相手より先に降りたくないという気持ちがあったりしたので。やっぱりそういった気持ちは強いですね。投げている相手も先輩とかではなく、同級生や後輩だったりするので余計に負けたくない気持ちは強いですね。

――次に対慶大について伺います。春の1回戦は5回までノーヒットピッチングでしたが、6回に満塁弾を浴びて敗れました

 そうでしたね。突如乱れたというわけではなかったのですが、0点で抑えていたのに、あっさりホームランで決められてしまったので。だからこそ良い投球をしても、チームを勝たせられなかったら意味がないんだなというのを痛感した試合でした。

――今季の慶大打線をどう見ていますか

 首位争いをするだけあって、個々の能力も高いし、波に乗っている分、打てていないバッターにも1本出てしまったりとか、向こうにとって良い結果になってしまったりする可能性があるので、そう意味で怖いなというのはありますね。

――入学してから3連勝の後2連敗を喫しています

 そうですね(笑)。もう負けられないです。

――やはり4番の岩見雅紀選手(4年)が一番警戒する選手ですか

 意識はしますね。ただ逆に考えればその前にランナーをためないことが重要だと考えています。

――1つ上の先輩たちと臨む最後のゲームということで、やはり特別な想いもありますか

 そうですね。1つ上ということで、仲良くしてもらったし、色々と助けてもらった部分もあり、教えてもらった部分もあったので、やっぱり最後は勝って終わらせたいなというのはあります。

――時間を共にすることの多かった投手陣、とりわけ大竹耕太郎(スポ4=熊本・済々黌)、柳澤一輝(スポ4=広島・広陵)両投手への感謝の気持ちは強いですか

 はい。一番一緒にいる時間が長かったので、すごい感謝の気持ちは強いですね。

――具体的にはどういった部分が印象的ですか

 大竹さんに関しては自分が入学したとき、大竹さんの活躍を見て「あの人を超えられるようにしたい、何かいいところを盗みたい」思いましたし、自分が成長するために目標とする存在でした。柳澤さんは自分にはないパワーやスピードを持っていて、また技術以外でも普段から食事に誘ってもらったりしていたので、そういったところが印象深いです。

――この1年チームをまとめてきた佐藤晋甫主将(教4=広島・瀬戸内)はどんなキャプテンでしたか

 結構口下手なところが多かったですけど(笑)、姿で見せるというか、背中で見せるというか。自分が人一倍やっていたのはものすごく伝わってきたので、今季はベンチにいることが多いですが、そうした時でも人一倍声出してたりとか、そういった部分は尊敬しています。キャプテンという以上に人として、すごいと感じています。

――では最後に、そんな先輩たちと臨む早慶戦への意気込みをお願いします

 慶大は優勝が懸かっている一方で、自分たちは2連敗すれば最下位という状況ですが、そんな中でも応援に来てくれる方は多いと思うので、そこで負けた姿を見せるのではなくて、自分の投球がどんなかたちでもチームが勝つことを第一に戦っていければと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 田原遼)

「粘りが足りない」とよく口にする今季。最後は粘り切ります

◆小島和哉(おじま・かずや)

1996(平8)年7月7日生まれ。177センチ、81キロ。埼玉・浦和学院高出身。スポーツ科学部3年。投手。左投左打。実は初めて会う人でも、少し話せば9割近くの確率で、その人が一人っ子か長男(女)か末っ子かを当てられるという小島選手。実際、記者も当てられてしまいました(笑)。不思議な超能力ですね!