大混戦の中、抜け出せるチャンスはあったはず――。髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)は悔しさをにじませる。春季オープン戦期間から相次いだ故障、コンディション不良の影響を受けながら開幕戦を連勝し、幸先の良い滑り出しに見えた。しかし、そこから先は投打がかみ合うようでかみ合わない。敗れた4試合中3試合が1点差、もう1試合は2点差。いずれも無駄な失点を重ね、終盤の追い上げも及ばなかった。優勝の可能性はついえたが、ここまでの反省点を洗い出し、早慶戦ではなんとしても勝たねばならない。一体どこに改善の余地があるのだろうか。
※この取材は5月19日に行われたものです。
「やらなくていい点をやっている甘さ」
今季の戦いを厳しい表情で振り返る髙橋監督
――残すは早慶戦のみとなりましたが、ここまでの戦いを振り返っていかがですか
やっぱり負け試合に1点差の試合が多くてね。最後は2点差ですけど、やっぱりワンプレーや1点に対するこだわりが弱いかなというのが勝敗を分けてるような感じしますね。
――粘りを見せてはいるものの、最後に追いつき勝ち越せないのは弱さでしょうか
いや、逆ですね。粘り強く追い上げているとは言っても、ディフェンスの方でそれまでにやらなくていい点をやっている甘さがありますよね。バッテリーが特に。
――バッテリーですが、投手陣のコンディションが万全とは言えない中でリードする捕手の役割が大きいと思います
やらなくていい1点、防げた1点があると思うんで、それがなかったら。打撃陣はそれなりに点取ってますからね。3点以上取って勝てないというのは完全にバッテリーの責任ですね。
――先日の立大3回戦後にもおっしゃっていた、歩かせるところは歩かせるというところでしょうか
そうですね。春の台湾から今シーズンこんこんと言ってるんですけど、徹底しないというか。立教なんて2死一塁で加藤(雅樹、社2=東京・早実)を歩かせましたよね。加藤は打率からして2回に1回は打つわけですから。そういう慎重さがバッテリーにない。分かってるはずなのに徹底しない。そういう点が大きいですよね。
――はっきりと外せということですね
そうそう。なぜ微妙なところに投げるのか聞くんですよ。ボール1個分外れても、大きく外れてもボールは同じなのに。歩かせるんだからハッキリ外せばいいんですよ。なぜそこ(際どいコース)に投げるのと。
――捕手では昨秋の小藤翼選手(スポ2=東京・日大三)に代わり、岸本朋也選手(スポ3=大阪・関大北陽)がマスクを被り続けています
今シーズンは岸本のバッティングが良かったから。じゃあ守りで小藤が絶対的に上かと言ったらそこまでの遜色はないのでね。二人同じくらいの力だと判断して、バッティングに力のある岸本を優先したということです。ところがリーグ戦中盤になって、特に立教の田中投手(誠也、2年)を全く打てなくなって。それもあるし、第1戦に関しては小島(和哉、スポ3=埼玉・浦和学院)をうまくリードした。でも第2戦ではそういうさっき言った不徹底とバッティングが落ちてきたんで、途中から小藤に代えました。打たないんだったら小藤と変わらない。二人を併用できるからぜいたくと言えばぜいたくですけど、慶大や立大のように一人に決め手がないのがね。
――正捕手というと、おととしの道端俊輔選手(平28スポ卒=現明治安田生命)の存在が大きかったと思いますが、道端選手は扇の要としてどの点が素晴らしかったですか
連覇しましたけど、その時も投手陣がそんなに調子いいわけじゃなくても大竹、小島あたりをうまくやりくりして。完投能力があったのは大竹と小島だけですから。それを何とか。一年間で明治に3敗しただけで負けがなかったわけですから、そういう点は道端が一年間を通してのMVPだったと思いますよね。春だって打ち勝ってますけど、やりくりしながら勝ち切ったのは捕手の力が大きかったですね。
――強いチームにはいい捕手がいると
そうそう。いいキャッチャーがいるから、強い。
――主戦の小島投手は『エース』という言葉が本人の口から出るようになりました。エースとしての自覚が芽生えてきているとは思いますか
十分やってくれてるとは思うんですけど、結局明治戦の故障を尾を引いたかたちが。本人も隠しながらやってはいたと思うんですけど、自覚がないですね。明治戦も4点取ってるわけですから、小島の本来の調子ならあの試合は4-2か4-3で勝ってると思いますから。5点目も取ったわけだし。普通に小島が投げてれば勝てた試合を落としてそのまま勝ち点を落としたというのが。全体的にはよくやってくれてるとは思いますけど、不可抗力とはいえそれによって1敗落としただろ、東大戦も投げられてない。ということは自分本人の勝ち星も減るしチームもそれだけ優勝から遠ざかるぞと。よく立教戦に間に合いましたけど、その前に明治、東大と2勝はしなきゃいけない。明治戦以外の投げた試合は合格ですけど、東大戦で投げられなかったというのが、故障と言えば故障なんですけど。法政戦は投げられてるわけですから、ここまで4勝はしておかなければいけない。
――ここまで2回戦全てで先発登板している柳澤一輝投手(スポ4=広島・広陵)はいかがですか
うーん・・・彼なりには良くなってますけど、3点は取られるピッチャーですよね。3点というと打線も必ずとれるかと言ったら難しいんでね。だから、その3点にやらなくてもいい点が入ってるんですよ。
――ある程度の失点は覚悟しているのでしょうか
いやそれはもちろん。実際取られてますからね。東大は完封しましたけど。
――真っすぐではなく変化球を痛打されているイメージがあります
制球が甘いですよね。精度がないんだと思います。
――ルーキー早川隆久投手(スポ1=千葉・木更津総合)の投球は1年生ということを抜きにしていかがですか
ボール、それからプレートさばき、度胸は申し分のない。ただ、ちょっと私を含め本人以外が球速に期待しすぎた。誤魔化されてたというか、真っすぐ主体になりすぎよね。本来彼はどちらかといったら変化球ピッチャー。球速が出るから、真っすぐ一辺倒になっていたというのはありますよね。真っすぐで空振り取るピッチャーではなく、コンビネーションで打ち取るピッチャーですよね。今後本格派になるかは分かりませんけどね。本人以外が真っすぐに頼りすぎですよね。1年生だから首を振りづらかったというのもあるんじゃないですかね。早川については、球速が出てるからどうしてもそっちに流れてしまうのも仕方ないと思うんですけど、それ以外の失点ですよね。見てみて思うでしょ?ここは歩かせたら、とか。
――そうですね。春先にも同じようなお話を伺って、実際にその次の打者を打ち取れているので、「歩かせていれば」というのは説得力があります
立教の第2戦だって8番にライト前打たれてバックホームで刺しましたけど、怒ったんですよ。次が9番でピッチャーなのになぜ勝負するのと言ったんですよ。それでピッチャーに打たれたら仕方ない。で、その次の打席でまた同じことをやったんですよ。それで(岸本から小藤に)代えました。結局1点差でしょ?その1点なかったら同点ですから。最終回も追い付きましたけど、追い付いたということはその1点がなければ勝ち越せたわけですから。となったら9回の裏は小島を投入できたんですよ。同点止まりでは延長戦もあるから投入できなかった。最悪のケース(3回戦)も考えたしね。
――大竹耕太郎投手(スポ4=熊本・済々黌)は復帰したものの、勝負どころで痛打を浴び、2試合で負け投手になっています
明治戦にしても立教戦にしても彼に2敗ついてるわけだからね。期待に応えてくれてないですよね、4年生なのに。ベストではないけど悪くはないですね。良くもないですけど。もう奮起と言う段階ではないですね。
――春季オープン戦で得点力不足が懸念された打線は、リーグ戦に入ってから奮起していると思います
よく打ってると思いますよ。一番打ってない試合が2-3(明大2回戦)ですよね。だから、あとの試合は3点取れてるわけで。立教では1-0で勝った試合もありましたけど、それにしてもよく打ってくれてますね。加藤が調子いいですし。
――その加藤選手ですが、オープン戦に比べ遥かに状態がいいと思います
やっぱり三冠王に近いわけですから。特に宮台(康平、東大4年)から打った2本は本人も自信になってると思いますよ。法政の熊谷(拓也、法大4年)からも初っ端で打ってますかね。能力はあるんでしょうね。不動の4番です。
――開幕から好調だった八木健太郎選手(スポ4=東京・早実)ら上位打線が機能していない印象です
最初良かったんですけど、八木が落ちてきてますよね。上位1~4番が安定して打てていたんですけど、岸本もここにきて落ちてきますよね。打順もここにきていろいろ入れ替えています。
――打順の組み換えということですが、立大3回戦では2番に檜村篤史選手(スポ2=千葉・木更津総合)を置きました
向こうが左ピッチャーで来るのは分かってたから、それを加味して打率順に並べましたけど、檜村は打率高くないけどバントとかうまいですから。その前は長谷川を2番に置いたんですけど、左を考えると右を2番に置いた方がいいかなと思いまして。晋甫(佐藤、教4=広島・瀬戸内)は上がってきたから3番に戻して、打率のいい宇都口を5番にしました。
――宇都口滉選手(人4=兵庫・滝川)は攻守にいい働きをしていると思いますが
そうですね。安定した働きしてますね。
――宇都口選手は春季オープン戦で出場機会が少なく、安部球場での春季オープン戦では最後の2試合のみスタメン出場でした
ケガしてたんでね。センスのある子だから、使ってたら今の働きは順当と言えば順当です。
――3番を打つ予定だった三倉進選手(スポ4=愛知・東邦)も東大戦から復帰し、立大2回戦では一時同点に追い付く適時打を放つなど存在感を放っています
長谷川も替えようと思ったらホームラン打つしね。長谷川も打率が下がってたからあのホームランなかったら。その試合で三倉もツーベース打ってます。でもホームラン打ってるし代えるわけにはいかなしね。
――三倉選手は復帰して3打席目での同点適時打でした
やっぱり潜在能力が高いですよね。でも長谷川もミスがないわけですから、ましてやホームランも打って。
――最後に粘っているということで、控え選手の頑張りも評価できるのではないでしょうか
誰を出してもそれなりの働きしてくれます。投手以外の20人くらい使って同点にした試合もありました。そんなにスター選手はいないんで、チーム力でよく戦ってくれてると思いますよね。
――春先はメンバーを固定できず、「競争でレベルが上がれば」とおっしゃっていましたが、競争によってチーム力の底上げができた感覚はありますか
それはあると思いますね。油断していたら取られますからね。高いレベルで競争できているかは分からないですけど。お互いのポジション争いで、安泰という選手が少ないと思うのでね。
――粘り強さは4年生を中心に生み出している印象です
もちろん、最後に4年生が中心となってくれてますよね。この前も熊田(睦、教4=東京・早実)がホームラン打って追い上げて。
「1点、ワンプレーへのこだわり」
バッテリーとの意思疎通やいかに
――今季の六大学は第6週時点で5校に優勝の可能性が残る大混戦ですが、いかがですか
抜け出せるチャンスはあったと思うんですけど、小島がダメだった明治戦の1敗がなければ変わっていたかもしれないし、立教戦も一つ取ってからですから。普段からワンプレー、一点、一球にこだわると言いながら・・・。慎重さやワンプレーへのこだわりがあれば現状も違ったかなと思いますけどね。ワセダがダントツで強いというわけではないですけど、勝ち点4で早慶戦に入れた可能性もありましたね。明治戦は少なくとも小島の一敗がなければ。
――現役の時から早慶戦への特別な気持ちは変わらないでしょうか
そうですね。それはありましたね。リーグ戦で優勝どうこうももちろんですけど、対抗戦ですから絶対に慶大には負けられないですね。
――当時から早慶戦に関して、慶大に対する意識付けとして印象的な言葉などありましたか
昔から、秋に優勝して秋の早慶戦にも勝って野球部を卒業するのがベストということは言われましたよね。優勝できなくても、秋の早慶戦で勝って卒業することが大事だということは言われましたよね。
――昨秋は慶大に負けてシーズンを終えてしまいました
ずっと3シーズンは勝ち点を落としてなかったですから。それが秋だっただけに、4年生を勝って送り出せなかった悔いが残りますよね。優勝は別にしても勝たなきゃいけないですよね。ワセダの宿命ですから。
――優勝の可能性は消滅しましたが、早慶戦ではそんな野球を見せたいですか
慶大のピッチャーも継投かと思いきやこの前は明治を完封したピッチャーがいましたからね。ピッチャーは分からないんで、守りでしょうね。今回も僅差で1点勝負でしょうが、ここまでエラーでやった点がないから、やっぱりバッテリーが軽率ではないけど、そこまで1点にこだわってないですよね。やっぱりそういうやらなくていい点をなくさないと。早大はうまくかみ合わないよね。かみ合ってるようでかみ合ってない。打ったらその分を取られてるからね。
――絶対的エース加藤拓也投手(現広島東洋カープ)が抜けた慶大ですが、今季の印象はいかがですか
戦力的にもっと落ちると思ったけど、しぶとく戦ってますね。投手にしても継投で。
――打線は今季も強力でしょうか
まあ、そんなに強力という感じはしなけど、コンスタントに打ってますよね。
――早慶戦への意気込を聞かせてください
絶対勝つ。それだけですね。
――選手たちに期待することは
余分な点をやらないことですね。打ち勝つより『守り勝つ』です。
――ありがとうございました!
(取材・編集 郡司幸耀)
◆髙橋広(たかはし・ひろし)
1955年(昭30)2月4日生まれ。愛媛・西条高出身。1977年(昭52)教育学部卒業。早大野球部第19代監督。