昨季6季ぶりにリーグ優勝、全日本大学選手権優勝を成し遂げた早大。大学球界の頂点に立ったチームにおいて、外野に君臨する3人の選手がいる。今春から外野手に挑戦しスタメンの座をつかんだ左翼手・川原孝太(文構4=静岡・掛川西)、広い守備範囲を誇り好守でチームを助ける中堅手・中澤彰太(スポ3=静岡)、リーグ随一の俊足を飛ばし敵陣をかき乱す右翼手・重信慎之介副将(教4=東京・早実)。早大を支える三選手に、春季の振り返り、秋季リーグ戦(リーグ戦)への思いを伺った。
※この取材は9月3日に行われたものです。
満開の春
不動のリードオフマンを務める重信副将
――外野手3人での対談となりましたが、この組み合わせを聞いた際の率直な感想を教えてください
重信 お~って感じですね(笑)。
――この春はリーグ戦の優勝と全日本大学選手権(全日本)の優勝を成し遂げられましたが、よりうれしいと感じたのはどちらの優勝でしょうか
重信 どちらがうれしいかというのはないですね。両方とも目標にしてやっていたことなので。もちろん日本一になれてすごくうれしかったですが、リーグ戦で優勝しないと日本一にもなれないですし。どちらもうれしかったです。
川原 うれしいのは(どちらも)同じですが、リーグ戦と全日本の優勝でうれしさの違いはあった気がします。リーグ戦に賭けていた思い入れと全日本に賭けていた思い入れでも違うものがありましたが、それ相応のうれしさはありました。
中澤 自分は大学に入ってリーグ戦の優勝も大学日本一も経験したことはありませんでしたが、その二つを経験できたことは自分の中で大きい出来事だったと思います。
――重信選手は以前、外野から胴上げの輪に入るのは遠かったとおっしゃっていましたが、お二人はその点いかがでしたか
川原 若干(盛り上がりが)冷め始めの時でしたね(笑)。
中澤 そうですね、遠いです(笑)。
――重信選手は胴上げの際に一番高い位置でジャンプされていましたが
重信 あれはいつも狙っています(笑)。
川原 1年の時もそうでしたし、(重信は)だいたい高い位置にいます。
――話は少し変わりますが、内野陣がタイムで集まったときは外野手の方々は何をされているのでしょうか
重信 特には何もしていないです(笑)。集まるときはだいたいピンチのときなので、ランナーに気を付けようなど真面目な話はしています。
中澤 そうですね。両翼に指示を出した後は、スタンドを見たりしています(笑)。
――川原選手はことしから外野手を始めましたが、戸惑いなどはありましたか
川原 (春季)オープン戦の期間は中澤に聞いたりしながらやっていました。リーグ戦に入ったらある程度の慣れはあったので、自分で考えながら動けました。中澤も指示を出してくれるので、そこは絶対に従っています。
中澤 重信さんとはずっと外野を一緒にやっているので、重信さんがどう動いているかなどはだいたい分かっています。
――中澤選手は早慶1回戦で優勝を決めるフライを捕られましたが、その時の気持ちはいかがでしたか
中澤 最初はセンターが捕るかセカンドが捕るか微妙な打球だと思いました。最後はキャプテン(河原右京主将、スポ4=大阪桐蔭)がつかむべきだと思って自重はしていましたが、案外センター側まで打球が飛んできてしまったので、交錯みたいになってしまいました。捕れたのはうれしかったですが、複雑な気持ちもあります。
――川原選手はその試合、犠牲フライで先制点を挙げられましたが、その場面を振り返っていかがでしたか
川原 その打席は監督さん(髙橋広監督、昭52教卒=愛媛・西条)が、自分がネクストバッターズサークルで待っている時に「スクイズあるぞ」とおっしゃっていました。それで中澤がつないでランナーが三塁に進み、スクイズかと思いながら打席に立ちました。そうしたら「打て」とサインが変わって少し困惑しました(笑)。それでも打てと言ってくれたので、とりあえず点を取ることしか考えていませんでしたし、結果的には犠牲フライとなって丸子(達也、スポ4=広島・広陵)も生還してくれたので良かったです。
――重信選手は早慶戦2試合で4安打3盗塁と大暴れでしたが、早慶戦というのは得意ですか
重信 そうですね、結果だけ見ればとてもいいですね。『一戦必勝』と言ってはいますが、(早慶戦は)お客さんもたくさん入りますし、両校の意識も違い、別物な感じはあります。試合に対するモチベーションも若干違いますし、早慶戦は楽しいなと思います。そういった違いが、結果にもつながっているのだなと思います。
――昔から注目されると活躍されるタイプなのでしょうか
重信 野球をやっていて、9回2死満塁で打順が回ってくることもよくありますが、そういったときは結構打ちます。
――中澤選手と川原選手はいかがですか
中澤 注目してもらった方が気持ちは入ります。
川原 気持ちは入りますが、自分は逆にそういった場面は緊張するタイプなので。早慶戦も始まったら関係ありませんが、始まる前や始まってすぐの時は緊張しています。二人はどうなの?
重信 当然緊張はしているよ(笑)。
――緊張をほぐすためのリラックス法などはありますか
川原 集中してはいるので、一点だけを見てしまうと逆に力が入ってしまいます。なので、いろいろなところを見るようにはしています。
重信 極度に緊張しているなということはないので、緊張するというのはそれだけしびれる場面だったりします。そういうときは楽しくなるので、(緊張を)あえてほぐそうとはしないです。
中澤 自分はあまり緊張しないタイプです。
――試合前の中澤選手の様子から緊張は見受けられませんか
川原 緊張しているなと思うことはあまりなく、集中していると思います。
――全日本大学選手権も優勝し、晴れて日本一のチームになったわけですが、日本一になった実感などはありますか
一同 ないです。
重信 優勝直後も実感が湧かないなと思っていて、しばらくしたら湧くかなと思いましたが、それでも湧きませんでした。なぜだろうと思い自分なりに出した答えが、リーグ戦の優勝はもちろんでしたが、OBの方々から日本一になれと言われていてずっとやってきました。ここ6季はリーグ戦も優勝できていなくて結構低迷している状態でした。でもOBの人からすれば優勝するというのは当たり前のことであって、早大野球部は日本一だというのを自負しています。やっとリーグ戦優勝しました、日本一になれましたということがやっとOBの人たちにとっての当たり前という立ち位置に僕らがようやく並べただけなんだなと感じました。監督さんにも言われますが、日本一になったからといっててんぐにもなりませんし、おごることもありません。ここから四冠が懸かっていますが、あとの二冠も手に入れれば、少しは実感も湧くかなと思います。
川原 すごく考えているね。優勝しちゃったんだって感じだ(笑)。いまは秋への気持ちの方が強いです。周りからおめでとうと言われるより、選手間同士で秋も優勝してタイトルを取るんだというモチベーションの方が強かったので、日本一になった実感はさほどだったのだと思います。
――3年前の優勝とはやはり異なりますか
重信 それは違います。(3年前も)代走で出場はありましたが、ベンチにいることの方が多かったので、今回の方が自分たちで勝ったんだなという実感はあります。
外野手というポジション
ことしから外野手に挑戦している川原(左)、快足を生かした好守でも勝利に貢献する中澤
――全日本大学選手権が終わった後に少しオフの期間があったと思われますが、どう過ごされましたか
中澤 自分は地元(静岡)に戻って、中学や高校でお世話になった監督さんたちにあいさつをしに行きました。
重信 僕も同じような感じです。オフは2週間ありましたが、初めの1週間はあいさつ回りで、残りは練習していました。日本一になったということで両親には感謝していますし、実家にも帰りました。地元の友達も応援してくれたので、彼らにも感謝を伝えました。
――重信選手は毎試合ご両親が観戦に訪れていらっしゃるとのことですが
重信 毎試合楽しみにして観戦してくれますし、負けるより勝てて良かったです。調子が悪いときでも連絡をくれますし、うるさく言ってくれることも含めて感謝しています。
――川原選手と中澤選手のご両親は観戦に来ていらっしゃるのでしょうか
中澤 自分の親は毎週来ていますね。
重信 どこから観ているの?
中澤 ベンチの上あたりです。自分がネクストバッターズサークルにいるときは、いつも両親を見てから打席に入ります。
川原 両親共に普段は仕事がありますが、早慶1回戦に来てくれました。
中澤 自分の親はだいたい同じところにいるのでわかります。
――みなさんは別々のキャンパスに通っていますが、他のキャンパスでうらやましいところはありますか
川原 ない。
中澤 所沢うらやましくないですか?
川原 ない。行きたくないもんあそこ(笑)。
――所沢キャンパスに行く機会は少ないですか
川原 全然行かないですね。
重信 トレーナー(押川智貴学生トレーナー、スポ4=長野・諏訪清陵)の研究の手伝いをするために1回B地区に行ったことがあるのですが、やばかったです。
――B地区とはどこですか
重信 所沢キャンパスまでバスで行くのですが、そこからまたさらにバスに乗って。大学院生とかがいる研究所みたいなところがあって行ったのですが、本当に何もなかったので絶対に行きたくないです。
――押川トレーナーは普段そこにいらっしゃるのですか
重信 押川も先輩の研究を手伝っていて、その手伝いを頼まれて行きました。
――川原選手、重信選手は大学で内野手から外野手に転向されましたが、どちらが好きですか
重信 どちらが好きとかはあまりないですが、たまに内野用グローブをはめたときに「野球ってやっぱりこれだよな」と感じますね。
川原 ずっと内野をやっていたら、外野をやったときに「外野楽しい」となって、外野をずっとやっていたら「やっぱり内野楽しいな」ってならない?
重信 うん、分かる。遊びの内野ノックとか楽しいよね。
――いまでも内野の練習をされることはあるのですか
川原 自分はします。
重信 しないです。自分は元々サードなのですが、遊びでサードにノックで入ると無理ですね。近くて怖いです。
――中澤選手も三塁手をやられていましたがいかがでしたか
中澤 怖いですよ。栄五郎さん(茂木、文構4=神奈川・桐蔭学園)とか木田(大貴、商3=愛知・成章)とかはすごいなと思います。自分は外野で楽しいのでいいんですけど。
――お互いの外野手としていいところを挙げてください
重信 中澤は守備範囲も広いですし、肩も強いですし、センターとしていい選手だなと思います。送球もいいですし、やっぱりセンターを守っているだけありますよ。かわこうは…いいフェンス際!
中澤 確かに。内野から外野に変わって春のリーグ戦はあまり期間が経っていなかったのですが、結構無難にこなしていたなと思います。
重信 そうだね。後ろの打球にも対応していたし。派手なプレーはないですが、しっかりアウトにしてくれるので安心はしています。
――重信選手についてはいかがですか
中澤 重信さんは見ての通り足も速いですし、送球もやっぱりいいじゃないですか。
重信 良くないだろ!
中澤 いいじゃないですか。いいですよね?
重信 前よりは良くなったけどさ。
中澤 重信さんもレフトからライトに転向して、自分はレフトやライトはあまりやったことはないので違いは分からないですが、無難にこなしていますし。一番自分がいいのは一緒に守りやすいことですね。気を遣うこともなく、あうんの呼吸じゃないですが、分かってくれているのですごく守りやすいです。
重信 あざす!(笑)
――川原選手はいかがですか
川原 重信は、恐怖心なく飛び込めますね。内野だと動きがそんなにないところから飛び込むのでそんなに(体を)打ったりはしないのですが、外野は走っている状況で前の打球に飛び込むことが多い中、足からではなく基本的に頭から飛び込むので、怖がらずに飛び込んでいけるというのはすごくいいなと思いますね。
――普段飛び込む練習はするのですか
重信 しないですね。
中澤 感覚ですよね。いけると思ったらいく。自分も結構スライディングとかで取りにいくのですが、結構実際はびびっているんですよ(笑)。でもレフトの人が絶対にカバーにいってくれているので自由にできます。
――ナゴヤドームで行われた全早慶戦でも飛び込んでいましたが、神宮球場と違いはありましたか
中澤 はい。本当はスライディングで取ろうと思ったのですが、芝にスパイクが刺さってしまって滑らなくてわけがわからない感じになってしまって。自分でもどう取ったか分からなかったです。
――重信選手は守備の際、ロジンバッグを持っていますが
重信 あれは夏場限定なんですよ。すごく汗をかくので。汗をかいて落ちてきて滑るのでそれを防ぐためにリストバンドをしているのですが、それでも足りないのでロジンを付けるじゃないですか。でもロジンは普通野手はポケットに入れていますが、ユニホームも濡れているので入れていられないんですよ。なので持っているというだけですね。
――重信選手は新陳代謝がいいのですか
川原 やばいですよ。汗をかく量が半端ないです。
中澤 人より動きますからね。
――他のお二人はポケットに入れてらっしゃるのですか
中澤 自分は手に砂とか土とかを付けたくないんですよ。軽い潔癖ですし(笑)、投げるときに自分の感覚以外のものが入ってくるのが嫌なので。雨とか、夏で汗をかくときもロジンは絶対に付けないです。
川原 自分は滑る感覚が嫌なので、結構付けています。夏場は疲れ始めるとやるのが癖になってしまうので、暇さえあればロジンを触っています。
――投手をやっていた時も付けなかったのですか
中澤 高2までやっていましたが、ロジンは付けないですね。滑るなと思ったらグローブで拭いていました。
準備の夏を越え、結実の秋へ
この三人の活躍が、チームの勝敗を左右する
――夏場、秋季リーグ戦に向けて集中的に取り組んでいることはありますか
川原 自分は全部です。いまのままでは全く通用しないと思っているので、バッティングに関してもリーグ戦でいいピッチャーと対戦して結果を出せるような自分の力や技術がないと秋はやっていけないと思っています。守備に関しても打球への反応や送球も含めて一からちゃんとつくり直すという気持ちで、とにかくいい選手を追い越せるようにやってきました。
中澤 自分は守備だったらセンターに飛んだら「中澤がいるから大丈夫」と思われるような守備をしていくことと、バッティングで自分の役割を果たせるように秋もやっていきたいです。
――ご自身の役割をどのように捉えていますか
中澤 つないだり、塁に出ることです。
――自分が決めるという意識もありますか
中澤 そういう場面が回ってきたらそういう気持ちでいきたいですが、その状況や場面で自分の打撃を変えていきたいです。
――重信選手はいかがですか
重信 1年生の頃からずっと言ってきているのですが、自分の役割は塁に出てかき回すことです。「重信は足があるぞ」ということはばれていて警戒していると思いますし、ネクスト(バッターズサークル)にいるときから「次は重信だから」という意識をされるために、もっともっといやらしい選手になりたいなという気持ちがあるので、塁に出ることはもちろんですが、ファールなどでもっともっといやらしくしていきたいなということでずっとやってきています。
――川原選手、重信選手にとっては最後のシーズンになりますが、そのことについて思うところはありますか
重信 やるだけだなという感じです。最後だからといって気負いもしないですし、いままで通りのリーグ戦への準備のやり方でいまもやっていますし、変えるつもりもないです。
川原 いままで通りという気持ちも強いですが、自分たちが1年生の時に4年生だった代が春に優勝して秋は優勝できずに終わって。その時の学生コーチの方も「秋に勝てなかったら意味ないよ」と言っていたので、春に優勝したことは過去のことなので秋にしっかりリーグ優勝をして神宮大会(明治神宮大会)でも優勝するという2つを達成するためにやれることを1つでもやって、リーグ戦に入れたらいいなと思います。
――秋は六大学初の4冠が懸かっていますが、プレッシャーはありますか
重信 プレッシャーは全くないですね。他の大学でチャンスがあるところがあればプレッシャーはあるのかもしれないですが、チャンスがあるのはワセダだけなので特にプレッシャーもなくやるしかないです。先を見るというよりも、春と一緒で一戦一戦を勝つということで優勝にもつながりますし、神宮大会にもつながりますし、それが4冠になると思うので、プレッシャーはなく目の前のことをやっていこうと落ち着いています。
中澤 やってやるぞという感じです。
川原 やるしかないです。やること自体は変わらないので、4冠が懸かっていると言われますがリーグ戦に向けて自分たちができることをやるしかないとしか思っていないです。
――最後に、リーグ戦に向けて目標と意気込みをお願いします
川原 大学野球生活も最後になるので、悔いのないようにということと、どういうかたちであれチームの勝利に貢献できるようなプレーを1つでも多くしていきたいなと思います。
中澤 4年生とやる最後のシーズンなので、絶対に4冠を達成して4年生を送り出したいなと思います。
重信 中澤も言ってくれましたが、後輩とできるのも最後ですし、1年生の時からずっと卒業していった先輩たちも期待して見てくれているので、その人たちだけではなく周りのお世話になっている方やなっていた方たちのためにも優勝というかたちで恩返しをしたいです。結果でしか伝えられないと思うので、そういう気持ちで頑張りたいです。
中澤 目標ありました。最後の試合が終わった時に泣かないです。
川原 いいじゃん泣いても。
中澤 いや、泣かないです。
――きょねんは泣かれたのですか
中澤 きょねんはめっちゃ泣きましたね。号泣しました。
川原 中澤が泣いてたら泣くかな(笑)。
中澤 重信さんきょねん泣きました?
重信 いや、俺泣いたことない。でも後輩が泣いてたらもらい泣きするかも。
中澤 思い入れが強い先輩方なので、泣いちゃうかもしれないですが我慢します。
――ありがとうございました!
(取材・編集 谷口武、谷田部友香)
◆重信慎之介(しげのぶ・しんのすけ)(※写真右)
1993年(平5)4月17日生まれ。身長173センチ、体重67キロ。東京・早実高出身。教育学部4年。右投左打。東京六大学オールスターが行われた徳島で、ラーメン屋を探して食べに行ったという重信選手。ところがその店で有名だったのはラーメンではなく餃子でがっかりしたそうです。
◆川原孝太(かわはら・こうた)(※写真左)
1993年(平5)9月17日生まれ。身長180センチ、体重72キロ。静岡・掛川西高出身。文化構想学部4年。右投右打。今回の対談では中澤選手との仲の良さが垣間見えました。いじられる場面が何度かありましたが、中澤選手はかわいい後輩だから許せるそうです。
◆中澤彰太(なかざわ・しょうた)(※写真中)
1994年(平6)12月2日生まれ。身長177センチ、体重78キロ。静岡高出身。スポーツ科学部3年。右投左打。先月行われた東京六大学オールスター戦では、試合後に同学年の選手たちと食事をしに行ったという中澤選手。特に仲の良い選手は、立大で同じ外野手の佐藤拓也選手とのことです。