救世主。まさにここまでの小島和哉(スポ1=埼玉・浦和学院)の活躍はそう呼ぶにふさわしい。どんな追い込まれた窮地でも心を乱すことなく、冷静な投球でチームを救ってきた。小島は鮮烈デビューを飾った今季どう振り返り、そして目前に控えた大舞台に何を思うのか。その胸の内に迫る。
※この取材は5月20日に行われたものです。
『点を取られない』ために
ここまで5試合に登板している小島
――今季これまでの自己評価は
この大会で投げるにあたって、『点を取られない』ということを自分の中で一番のテーマにしていました。1点も取られないという目標を立てながら、この前の試合(明大2回戦)では点を取られてしまったので、そこは反省するところかなと思っています。勝ったので良かったとは思うのですが。
――一番良く投げられたと感じた試合は
この前の明大2回戦は、吉永さん(健太朗、スポ4=東京・日大三)が1回で交代して。自分も完璧ではないのですが、ブルペンで肩を全然つくることができなかった状態でも、マウンドに上がってからいつも以上に一球一球集中して投げることを意識して投げられました。多少球が甘い部分はありましたが、丁寧に投げられたかなと思います。
――逆に良くなかったと思う試合はありましたか
平均的に見て悪い試合はなかったかなと思います。
――今季はピンチでの登板が多かったです
そうですね。ピンチで出るということは多少なりとも期待してもらっているというのもあると思います。なのでそこは上級生には出せない1年生らしさというものを自分は売りにできると思うので、その部分で、一球一球全力で投げていることが結果につながっているのではないかと思います。
――「1年生らしい投球」とは具体的にどのような投球でしょうか
フレッシュ感だったり、相手も(自分の)データは何もないので、自分の投球をすれば抑えられるのではないかと思っています。
――今季の早大は打線が好調ですが、その打線に後押しされる部分はありますか
そうですね。自分が高校の時もそうだったのですが、上級生が打ってくれて守備でもしっかり守ってくれるので、自分のことだけに集中して投げられています。すごく頼りになります。
――以前高校と大学の違いはという質問に、試合期間が長い分調整しやすい部分としにくい部分が両方あると答えられていましたが、具体的にどのような部分でしょうか
調整しやすい部分は、例えば1週間ごとにリーグ戦は区切れているので、多少調子が悪くても次の試合までの1週間、ピッチングフォームの細かい修正などをする期間があります。その部分は高校までと違って大学ならではの部分なので、すごく助かるというかありがたいです。それと、調整しにくい部分は同じ相手と何度も戦って期間が延びると、体力的にもうまく調整が合わないと疲労が溜まってしまったり、逆に(体が)軽すぎてしまったりするので、そういうところは気にかけています。
――体が軽すぎるとどのような投球になってしまうのですか
自分の感覚なのですが、腕だけで球を投げるような感じになってしまいます。自分の中では多少下半身には少しハリがあるくらいが一番良いかなと思っているので。土曜日の試合に合わせて、それまでの日をうまく使って調整しています。
――疲れが残りすぎるのも良くないと思いますが、疲労を残さない工夫はありますか
一番はたくさん寝ることです。あとは高校の時から少し栄養のことに関しては気にかけているので、試合が終わったすぐ後には甘いもの、糖質のものを食べたりしています。
――今季リーグ戦では1年生で唯一のベンチ入りですが、そのことは自信につながりますか
春の大会が終わってから振り返ってみてそれが自信になると思うので、やはりいまは目の前の試合で一生懸命投げることだけ考えてやっています。
――リーグ戦前のオープン戦でも登板し無失点でした。手応えはいかがですか
オープン戦の最初は力みすぎてしまって自分の思う球が投げられなかったです。7、8割で力を抜いて投げる球が一番良いと思うのですが、やはり(大学に)入った当初は相手も大学生ですし、少しいつも以上の力を出そうとした部分もありました。ですがだんだんと大学野球にも慣れてきて、だんだん自分のピッチングができるようになってきたのではないかと思います。
――大学野球にはどのようなイメージをお持ちでしたか
どのチームもピッチャーがすごく良いというイメージがありました。打つ方よりもピッチングの方が良いと思います。点数があまり開かないイメージが強かったので、1点の重みが一番大事になるのかなという風に思います。
――具体的に良いと思うピッチャーはどなたですか
ワセダだったら大竹さん(耕太郎、スポ2=熊本・済々黌)だったり、今シーズンは特に吉野さん(和也、社3=新潟・日本文理)は安定してずっと0点に抑えているのはやはりさすがだなと思っています。他の大学でも柳さん(裕也、明大)だったりは、先発してずっと0で抑えられて、攻撃している側からも点を取りにくいなというイメージはすごく強いので、自分もそういうピッチャーになりたいと思います。
――早大のユニフォームに袖を通した感想は
伝統がある分重い感じはするのですが、それを重いと感じずに、逆に楽しむくらいの気持ちでいきたいです。
――春休みに大学野球に備えて準備はしましたか
自分の高校の浦和学院では、引退しても3年生が練習に出て、1個下の学年が秋の大会で勝てるようにバッティングピッチャーをしたり、ランニングなど一緒のメニューを全部やります。入寮の2、3日前までずっと休みなしで練習に出ていました。休みがない分きつかったのですがそれがいまプラスの方向に向かわせているのではないかと思います。
――入寮はいつ頃でしたか
監督が代わって、1年生の中で差が付かないように全員一緒に2月の4日あたりに入りました。
――大学生活には慣れましたか
野球関係は慣れてきました。
――部活以外で仲良くされている人はいますか
クラスで一緒になった子とか、多少は話しかけられてしゃべったりします。
――野球部内の1年生の仲はいかがですか
基本的にみんな仲が良いですね。ピッチャーと野手は別々で練習するので、特にピッチャーと仲が良いです。
――投手では先輩が多いと思います
先輩といるということで緊張感も良い意味で出て、そのなかでも吉永さんだったり吉野さんだったり竹内さん(諒、スポ3=三重・松阪)や大竹さんは、先輩はみんなそうなのですが、優しく話しかけてくれます。
――道端俊輔選手(スポ4=智弁和歌山)はどのようなキャッチャーですか
引っ張ってくれるリードをしてくれるので、ピンチの場面でも逃げないで攻める配球を考えてくれます。自分も逃げるのはあまり好きではないので、自分としても投げやすいです。
――普段からリードは道端選手に任せているのですか
そうですね。その中で1試合に1回か2回くらいはピンチのときには自分の投げたい球があるので、4年生とか1年生とかは考えずにたまに首を振ったりしています。
――ピンチでマウンドに向かう際に何か声を掛けられましたか
「思い切って行ってこい。点は取られても気にするな」ということを毎回言われて送り出されています。
憧れの舞台へ
1年生ながら、既にチームに欠かせない存在となっている
――小島選手が最も自信を持っている決め球は
インコースの真っ直ぐに一番自信はあるのですが、(明大2回戦で)その球を打たれたということは自分の力が足りなかったのかなと反省していて、やはり逃げずに真っ直ぐで攻めたいと思います。
――変化球への自信はいかがですか
いまカーブ、カットボール、スライダー、チェンジップを投げるのですが、カットボールが変化球の中では自信があります。真っ直ぐになるべく近いスピードで少しだけ落として芯を外して打ち取るという風に使いたいです。
――高校時と比べて成長した部分はどこでしょうか
高校の時は基本的にインコースをずっと攻めるピッチングだったのですが、大学に入ってからは外の真っ直ぐも使うようになって、外を意識させてインコースで打ち取るような配球のパターンが広がったと思います。
――相手打者の特徴に合わせて投球スタイルを変えることはありますか
自分のピッチングをして、自分の力を100パーセント出せれば良いと思うのですが、その中でも場面場面で、自分の自信のある球を投げるときもあれば、相手の苦手な球を投げるときもあって、それはバッターとの駆け引きというか、場面によって変わります。
――今季対戦した打者で意識した人はいますか
立大の3番の佐藤さん(拓也)は高校の先輩なので、少し意識しました。あの場面で変化球を投げたら逃げていると思われそうで、直球で攻めて真剣勝負を楽しめました。
――球筋や決め球を知っている高校の先輩は意識するのですね
そうですね。やはり上のレベルで先輩と勝負できるのは幸せなことだと思います。あと1年あるのでまた対戦したらこれからも抑えていきたいです。
――他に印象的だった打者はいますか
やはり明大の髙山さんです。一番バッティングが良いなと思いました。
――投げていて強打者に不安を感じることはありますか
狙っている球は初球からフルスイングしてくると感じました。なので裏をかいて投げたつもりのボールを思い切り振られると、相手が何を考えているかわからなくなることもあります。
――その部分は高校までにはなかったことですか
そうですね。その分(強打者)1球で仕留める力を持っているので、さらにその裏をかく道端さんはすごいなと思いました。
――今季は奪三振率も7.36という高い数字ですが、三振へのこだわりはありますか
いえ、全くないです。とにかく自分のピッチングをすることだけを考えているので。
――内容よりも結果が重要ということですか
(結果までの)プロセスも大事だとは思いますが、勝たないといけないので。プロセスは大会が終わった後で反省すれば良いかなと思っています。
――以前の取材で「マウンドに上がる前はすごく緊張するが、マウンドに立つと緊張しない」というお話がありました
そうですね。ラインを越えてダイヤモンドに入ると緊張しなくなります。
――昔からそうなのですか
そうですね。
――平常心を保つポイントは
高校の時はバックネット裏にコーチの方がいて、ふざけていると思われるかもしれませんが、その人をバックネット裏で探すということをやっていました。それで見つけてから投げていました。
――大学に入ってからはいかがでしょうか
スタンドや周りの景色を見渡して、見られているというより自分から見せていくという意識で投げています。
――試合前に必ずやるルーティーンはありますか
あります。試合前にはブルーベリーのジュースを飲んで、どら焼きを食べます。どら焼きのあんこと皮が良いらしくて。
――それはずっと続けていることなのですか
いえ、大学に来てからです。いまのところこれで結果が出ているので、変えて打たれてしまうとショックなのでまだ続けようと思っています。
――小島選手は早慶戦にどのようなイメージを持っていますか
自分が実際に見た早慶戦はきょねんの秋の勝った試合でした。お客さんの数がすごく多くて、他のチームと対戦するのとはまた違った雰囲気があって。自分もその中で戦いたいと思ってワセダに来ました。それがいま目の前に来て、しかも優勝が懸かっている試合で、でもだからといってあまり意識しすぎず目の前の試合に勝つというつもりでやっていきたいと思います。
――優勝へのプレッシャーはあまり感じていないのですか
そうですね。でも、自分に与えられた役割をきちんと果たして、優勝する為に勝つのではなくて、勝利した結果としての優勝があると思って、目の前の試合に集中していままでと変わらないような気持ちで取り組みたいと思います。
――早慶戦までに強化するポイントは
早慶戦まで2週間弱あるのですが、いまから強化するところはないかなと思います。逆に時間がある分土日に合わせるためにいまは下半身がばきばきになるくらい走り込んで、しっかりと体をつくりたいです。
――慶大打線の印象は
何試合か見たのですが、みんな体が大きいと思いました。力と力で勝負したら勝てないので、やはりコントロール良く自分のいままでのピッチングを心掛けていきたいです。
――特に警戒する打者は
やはり横尾さん(俊建主将)は速い球も遅い球も両方対応しているのですごく良いバッターだと思います。
――慶大打線を封じるためには何が必要でしょうか
いままでの試合で調子が悪くても早慶戦でいきなり当たることもあるので、もう一度一人一人のビデオを細かく見て苦手なところを頭に入れておくことは必要かなと思います。
――ビデオを見ての研究はよくするのですか
そうですね。高校の時から自分なりに見て、配球を出すのはキャッチャーなのですが、自分の中でも一応頭に入れておいています。
――早慶戦で求められるご自分の役割は何でしょうか
長いイニングもあるかもしれないし、短いイニングかもしれないのですが、先のことは考えないで、一人一人のバッターに集中して投げることが求められていると思います。
――早慶戦への意気込みをお願いします
いままで通り、1点も取られないように優勝できるように自分の責任だったり役割を果たしていきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 藤川友実子)
◆小島和哉(おじま・かずや)
1996年(平8)7月7日生まれ。身長175センチ、体重76キロ。埼玉・浦和学院高出身。スポーツ科学部1年。投手。左投左打。授業の合間の休み時間には学部の友達とトランプをするという小島選手。「たまたまです」と笑っていましたが、遊びのトランプでもほとんど負けないそうです。こんなところにも小島選手の勝負強さが表れているのかもしれませんね!