ドラマは最終回に待っていた! 土壇場での逆転サヨナラ勝利で賜杯奪還に王手/慶大1回戦

野球
TEAM
慶 大
早 大 2ⅹ
(早)加藤、香西、〇伊藤樹―印出
◇(二塁打)熊田2、尾瀬、吉納

 『逆転のワセダ』ここにあり。晴れやかな秋空の下、東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)最終節、華の早慶戦の火蓋が切られた。勝ち点を奪った方が優勝という大一番。早大・加藤孝太郎(人4=茨城・下妻一)、慶大・外丸東眞(2年)による手に汗を握る投手戦となったが、両エースが降板し、1点リードで迎えた9回、守備のミスも絡み、逆転を許す。それでも9回裏、無死満塁の好機から尾瀬雄大(スポ2=東京・帝京)小澤周平(スポ2=群馬・高崎健康福祉大高崎)の連続適時打で逆転サヨナラ。今季各カード初戦で無敗だった慶大に土をつけ、6季ぶり47度目の優勝に王手をかけた。

サヨナラ勝利を決め喜ぶ一同

 両校とも優勝が懸かった頂上決戦。今季も安定感抜群の投球を続ける加藤が初回の慶大の攻撃をゼロで抑えると、対する外丸も1死一塁からのエンドランを封じ、初回を無失点で抑える。その後も加藤がノビのある直球を低めに丁寧に集めて凡打の山を築けば、外丸はピンチを招きながらも、粘り強いピッチングで後続を封じていく。互いにエースが持ち味を発揮し、両チーム無得点のまま、試合を中盤を迎えた。

 試合が動いたのは5回。先頭の中村将希(教4=佐賀・鳥栖)がボテボテの三塁ゴロで激走し、内野安打をもぎ取ると、リーグ戦初スタメンの田村康介(商2=東京・早大学院)の犠打、島川叶夢(スポ4=熊本・済々黌)の死球で1死一、二塁とする。9番・加藤は三振に倒れるも、続く尾瀬の左中間に落ちる適時二塁打で早大が均衡を破った。

好投を見せた加藤

 しかし、慶大の大黒柱・外丸はそう簡単に崩れない。2番・山縣秀(商3=東京・早大学院)は投ゴロで抑えられ、この回を最少失点で切り抜けられると、6、7回は2死から走者を出すも、得点にはつながらず。援護をもらった加藤も危なげない投球で7回までを無失点で抑え続け、1点リードを守って降板。しびれる投げ合いで一歩も譲らず、先発の仕事を全うした。

 8回は中継ぎとして今季ブレークした香西一希(スポ1=福岡・九州国際大付)が登板。先頭の村上真一朗(4年)を左飛で打ち取るが、続く外丸の代打・佐藤一朗(4年)、吉川海斗(4年)にフルカウントまで粘られ、連続四球を与える。1死一、二塁となったところで小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)はここまで先発で3勝を挙げていた伊藤樹(スポ2=宮城・仙台育英)を投入。強気の投球で2番・廣瀨隆太(4年)を投飛、3番・本間颯太朗(3年)を遊飛に打ち取り、慶大打線を押し切った。

今季初安打を放った森田朝陽主将(社4=富山・高岡商)

 9回も伊藤樹が続投したが、『陸の王者』は簡単には勝たせてくれない。先頭の栗林泰三(4年)に左前打を許すと、宮崎恭輔(4年)の三塁ゴロは二塁封殺と思われたが、二塁・山縣の足が離れたという判定で無死一、二塁となる。続く代打・村岡龍(1年)が犠打の構えから転がした打球は一塁・島川が処理するも、一塁への送球が逸れ、打者走者・村岡とベースカバーの山縣が交錯。ボールがこぼれた隙に栗林泰の代走・古野幹(3年)が本塁を陥れ同点に。7番・水鳥遥貴(3年)が犠打で送り、1死二、三塁となると、前の回の守備から入った8番・上田太陽(1年)に甘く入ったカットボールを左前に弾き返され、痛恨の勝ち越し点を献上した。最終回の大逆転に湧く三塁側のスタンドとは対照に、目前にしていた勝利が一気に遠のいた一塁側のスタンドには重苦しい空気が漂っていた。

 しかし、勝利の女神は早大を見捨てていなかった。伊藤樹が後続を抑えると、裏の攻撃で先頭の田村が遊撃の頭上を越える安打で出塁する。続く島川がバスターで三遊間を破り、無死一、二塁。伊藤樹の代打・茅野真太郎(教4=東京・早実)が冷静に四球を選び、無死満塁とこれ以上ない好機を演出する。打席には第3打席で先制適時打を放った尾瀬。尾瀬はこの回からマウンドに上がった谷村然(4年)の2球目を振り抜くと、打球は二塁・上田の頭上を越えて右前へ。尾瀬のこの日2本目の殊勲打で早大は土壇場で同点に追いついた。そしてここで小宮山監督が動く。今季数々の代打策を的中させてきた小宮山監督は、今季途中からスタメンを外れた小澤を打席に送り込む。「準備はできていました」という小澤は初球を右中間に運び、島川の代走の三塁走者・梅村大和(教3=東京・早実)が生還。気まぐれな勝利の女神は、最後は早大に微笑んだ。

同点打を放ちガッツポーズをする尾瀬

 ここまでの7勝中4勝を逆転でつかみ取った今季の早大を象徴する一戦となったこの日の試合。4年生の踏ん張りに下級生が応え、試合を重ねるごとに高まっていったチーム力が存分に生かされた戦いぶりを見せた。悲願の賜杯奪還までついにあと1勝。しかし、昨季の早慶戦では1回戦を先取しながら、連敗で勝ち点奪取を逃したことが記憶に新しい。さらに今季は優勝が懸かるプレッシャーもあるだろう。それでも、ほろ苦い春を糧に成長を果たし、土俵際で踏ん張る粘り強さを身につけた稲穂軍団なら乗り越えられるはずだ。数々の逆転劇を演じてきた今季を逆転優勝で締めくくる舞台は整った。『一球入魂』の精神で宿敵を打破し、栄冠をつかみ取るのみだ。

(記事 星野有哉、写真 田中駿祐)

                黄字は打点付き

        

早大打者成績
打順 守備 名前
1 (中) 尾瀬雄大 5 2 2 .262 一ゴ   左飛   中二   左飛   右安
2 (二) 山縣秀 4 1 0 .200 左安     投ゴ 投ゴ     二ゴ  
  小澤周平 1 1 1 .226                 中安
3 (遊) 熊田任洋 4 2 0 .371 空三     左二   右飛   右二  
4 (捕) 印出太一 4 0 0 .235   遊ゴ   左飛   三ゴ   中飛  
5 (右) 吉納翼 3 1 0 .379   中飛   左飛   右二   四球  
6 (左) 中村将希 3 1 0 .206   右飛     三安 右飛      
  松江一輝 0 0 0                  
  野村健太 1 0 0 .400               投ゴ  
  石郷岡大成 0 0 0                  
7 (三) 田村康介 3 2 0 .750     左安   三犠   遊飛   左安
8 (一) 島川叶夢 2 1 0 .259     投犠   死球   見三   左安
  梅村大和 0 0 0 .222                  
9 (投) 加藤孝太郎 2 0 0 .000     空三   見三        
  森田朝陽 1 1 0 .143             左安    
  香西一希 0 0 0                  
  伊藤樹 0 0 0 .333                  
  茅野真太郎 0 0 0                 四球
早大投手成績
名前
加藤孝太郎 6 2 1 7 4 1 2 0 0 1.88
香西一希 5 1 0 0 1/3 0 2 0 0 0 0.00
伊藤樹 6 4 0 1 2/3 2 0 1 2 1 1.75
 
東京六大学春季リーグ戦星取表
順位 慶 大 明 大 早 大 法 大 立 大 東 大 勝ち点 勝率
慶 大 〇5-2
●0-1
●5-0
●2-3 〇8-2
●4-6
△0-0
〇5-4
〇11-1
〇10-4
〇3-2
〇11-7
.727
明 大 〇5-2
●0-1
●5-0
●3-5
〇5-2
〇2-0
〇5-2
●5-9
〇4-2
〇3-0
〇3-1
〇7-2
〇3-1
.692
早 大 〇3-2 〇5-3
●2-5
●0-2
〇4-2
〇10-1
〇6-0
〇6-2
〇5-4
〇4-1
.800
法 大 ●2-8
〇6-4
△0-0
●4-5
●2-5
〇9-5
●2-4
●2-4
●1-10
〇6-1
●2-4
〇8-2
〇3-1
〇7-0
.462
立 大 ●2-3
●7-11
●2-7
●1-3
●4-5
●1-4
●1-3
●0-7
〇9-2
〇4-2
.200
東 大 ●1-11
●4-10
●0-3
●1-3
●0-6
●2-6
●1-6
〇4-2
●2-8
●2-9
●2-4
10 .091
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コメント

小澤周平(スポ2=群馬・高崎健康福祉大高崎)

――ベンチスタートが決まった時はどういった気持ちでしたか

 1週間前ぐらい前から大体分かっていたのですが、その中で自分の仕事を果たそうという風に1試合ずっと集中してベンチにいました。

――勝負どころでの代打起用が予想されましたがどのような準備をしていましたか

 3回ぐらい代打や守備の交代という場面があったのですが、流れで自分の場面がそこ(サヨナラの打席)になりました。そういう場面で来るだろうなとは思っていたので準備はできてました。

――最終回の打席にはどういった気持ちで臨まれましたか

 冷静に周りが見えていたと思います。

――サヨナラの一打は初球を振り抜きましたが、振り返ってみていかがですか。

 冷静にセンターにはじき返すだけだと思ってました。ストレートが来るだろうなと思って待ちました。

――最後に明日への意気込みをお願いします。

 明日もどんな場面で出番が回ってくるか分からないので、自分のできることをしっかりして最後、4年生たちと笑って優勝できるように頑張っていきたいと思います。

尾瀬雄大(スポ2=東京・帝京)

―― 今日の試合を振り返っていかがでしょうか

 いろいろあったんですけど、最後勝てて良かったなと思います。

―― 優勝を懸けた初戦でした。球場の雰囲気はいかがでしたか

 いやもう最高でした。

――9回の同点打の打席を振り返って、いかがでしょうか

 あの打席はノーアウト満塁で回ってきて、「うわ、なんか自分持ってるな」と思って。「あざっす」って感じでいきました。

――打席に入る前に、どなたかから声は掛けられましたか

 監督(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)が来て、「普通にヒット打ったらサヨナラだから行ってこい」みたいな感じで言われて。それは分かっていたんですけど(笑)、それぐらい冷静だったので良かったかなと思います。

――逆転された直後は、チームの中でどんなことを話していましたか

 1点差でしたし、絶対勝つ気で試合に臨んでいたので、もう絶対点取って勝とうっていう声が出ていました。

――最後に、明日への意気込みをお願いします

 もう絶対明日決めて優勝したいと思います。