【連載】秋季早慶戦直前特集『掉尾』【第11回】小宮山悟監督

野球

 今春は開幕から5連勝するも、その後失速し4位に終わった早大。慶大に屈辱の大敗を喫するなど、悔しいシーズンだった。それでも、今秋は明大戦こそ勝ち点を落とすも、ここまで7勝2敗、勝ち点3で優勝の可能性を残す。今季について指揮官・小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)に振り返っていただくとともに、早慶戦への熱い思いを伺った。

※この取材は10月22日にオンラインで行われたものです。

「ここまではよくやっている」

挨拶からベンチに戻る小宮山監督

――今季ここまでを振り返っていかがですか

 明治戦で勝ち点を落としたけれども、考えて野球ができていると思っています。 1勝1敗で迎えた3戦目、プレッシャーに負けたのかわからないですけど、打線が本当にどうにもならないぐらい、思うようにならなかったというところがあって。その敗戦を受けて、そこから、立教、法政といいかたちができています。ここまではよくやっていると思います。

――今季、チーム防御率はリーグ1位となっています

 ある程度能力のある選手がいるということがまず重要なことです。南魚沼で、オール早稲田戦としてOBの社会人連合チームと試合をした時に、こっぱみじんに打ち込まれて。なんとかしなきゃという中で、開幕直前のENEOSとの試合で、これまた同じように大量失点ということがあって。それを受けて、じゃあどうすれば点を取られずに、どうすれば打たれずに済むかっていうことも、 それぞれが「こうすればいい」というところを見つけて、今の投球になっていると思っています。

――この夏の大敗がうまく生かせているということでしょうか

 はい。

――第2先発に定着した伊藤樹選手(スポ2=宮城・仙台育英)についてはいかがでしょうか

 能力が高い投手で、足りなかったのは体力面。長いイニングを投げるだけの基礎体力が備わってませんでしたから、 それをこの夏のオープン戦でなんとかかたちにして、リーグ戦に突入しました。本人には、直接「卒業した後、プロの世界に行ってしっかりとしたピッチャーになりたいのであれば、この秋、本当の意味で一本立ちしないとだめだぞ」と個別に発破をかけたので。いいかたちになっているんだろうと思います。圧倒的な投球をしてもらわないと困るピッチャーですが、ところどころ多少気持ちが抜けているような投球があるので、そこは卒業までの間に完璧なピッチャーになれるように仕向けたいと思います。

――中継ぎの投手陣では、昨季までリーグ戦の登板経験がなかった澤村栄太郎選手(スポ4=早稲田佐賀)や、前田浩太郎選手(スポ4=福岡工)の4年生のピッチャー登板を続けていると思います

 本当に、頑張ってくれてるなとは思います。箸にも棒にもかからないような感じで、くすぶっている時にかなりきつい注文をつけたりしてね。歯を食いしばって頑張れるかどうかっていうところで。ベンチには入ってないですけども、黒島飛来(スポ4=早稲田佐賀)、若松天(スポ4=東京・城東)といった未経験の4年生が、夏、本当に頑張っていたので、その頑張りがかたちとなって、 神宮球場の舞台で好投につながっているのが何よりです。

――1年生の香西一希選手(スポ1=福岡・九州国際大付)は、重要な場面を任されるようになっています

 元々U18の代表のピッチャーですから。世代の中でも優れた投手です。早稲田に来て、最初はちょっと体調不良で肩が思わしくなかったので、春は無理をさせることができなかったですけど、ある程度治療を終えて投げられるようになりました。こちらとしては、これ以上ないピッチングをしてくれています。他の投手にはない、いいものを彼は持っている。まだ1年生ですけれども、これから卒業まで、早稲田を背負って立つピッチャーになってくれると信じていますので、この秋、早慶戦でも頑張ってもらいたいと思っています。

――続いて、打線についてお聞きします。先程あったように、明大戦など中盤ではあまり当たりがなかった中で、ここ数試合では徐々に当たりが出てきています

 打つ方に関しては、「打てる時もありゃ打てない時もある」っていうのは理解しているので。なおかつ、たまたま僕はピッチャーだったので「打てなくて当たり前だ」って思っていますから。打たれまいとして気持ちが入ったボールを、そんな簡単には打ち返せるものじゃないので。だからといって、手をこまねいていてもいけないので、なんとかこじ開けないといけないっていうところで言うと、徐々にではありますけど、かたちにはなりつつあります。チャンスを確実にものにできるような、そういう集中力、執着心、 そういったものを、最後、早慶戦の舞台で発揮してもらえればなと思っています。

――今季全体を通して、吉納翼選手(スポ3=愛知・東邦)がかなり勝負強さを発揮しています

 入学した時から相当なポテンシャルの選手だというのは分かっていました。あとはどこで覚醒するかっていう、それだけの話で。キャリアを積んでいくうちに、自分の能力を把握した上で、相手のピッチャーと戦ってるような感じがします。なおかつ、その優れた投手に対しても負けないぐらいのものを発揮できるようになっています。 ちょっとしたアドバイスが、彼の中で目から鱗が落ちたのか、「これ!」っていうような感じになったんでしょう、 おそらく。本当に力強いスイングをしてくれているので、期待したいと思います。

――3番を打っている熊田任洋副将(スポ4=愛知・東邦)も、今季も安定して高打率を残していますが、クマダ選手についてはいかがでしょうか

 もちろん、経験を積んでいくうちにコツみたいなものをつかんで、春も活躍して、そのおかげで日本代表にも選ばれました。実績で言えば、下級生の時はちょっと恥ずかしい数字でしたけど、(今は)しっかりとした数字になっていますので、(早稲田を)背負って立ってくれているなっていう感じはします。

――打線の方でも、ラストシーズンを迎える4年生が執念を見せて活躍をしていると思います。4年生についてはどのように見ていますか

 最後だからどうっていうのも、どうかなとは思いますけど(笑)。「8周目の早慶戦、最後の戦いがチームとしての完成形になるように」っていうことは、春先から日々の練習で言っていいます。春の苦渋をなめたあのシーズンを糧に、夏を乗り越え、秋の開幕カードから始まって、 最終5カード目の早慶戦で、本当にいいかたちでシーズンを終えられるようにという、そういう ことでやってますので。4年生がもう早稲田のユニを脱がなきゃいけないシーズンになるので、そういうところでの頑張りというのは、3年生以下よりは期待してみているところはあります。

――続いて、各カードごとに振り返っていただきたいな思います。まず、2連勝で終えた東大戦はいかがでしたか

 誰が見ても力の差は歴然なので、勝って当たり前という戦いなんですが、最初のカードなので、少なからず、変な緊張感っていうのがついて。そういう中でも、しっかりとした野球をしなきゃいけないっていうことで言うと「可もなく不可もなく」でしたね。本当だったら、もっと打って打って打ちまくって、っていう野球をしないといけない相手ですから。 そうはいうものの、明治が苦戦もしたという、2週目だったので、連覇中の明治でも苦戦するような感じの手ごわさみたいなものも、余計なインフォメーションとして入りましたので…。とりあえず、完勝にはなっていますけど、物足りなさはあった最初のカードですね。

――明大戦では1勝を挙げましたが、勝ち点獲得には至りませんでした

 初戦、競り合いをものにして、いいかたちで取ったんですけども、1勝を挙げただけで優勝したかのような喜び方をしてしまっていましたので、2戦目、3戦目、不安にはなっていました。2戦目、越井(越井颯一郎、スポ1=千葉・木更津総合)を先発に据えたというのは、奇策といえば奇策だと思うんですが、そういう中で、もう少し粘れただろうっていうところが多々ありました。その辺のところでの、課題みたいなものがあって。3戦目、 「まあなんとかなるだろう」ぐらいのつもりで、試合が進んで、ところが、打線がもう全く機能しませんでした。力のなさを改めて思い知らされた3試合目でした。そこから、「もう落とせない」と、残り全部勝てば逆転優勝の可能性があるということで、選手たちにも葉っぱをかけて、練習に打ち込みました。

――結果的、去年の秋に取れなかった1勝をこの秋に取ることができて、それが今生きてるのかなと思いますが、 そこについてはいかがでしょうか

 星勘定は、戦う前からありとあらゆることをシミュレーションして、準備はしているので。去年の8勝2敗で、本来だったら優勝してもおかしくない数字だけど、 優勝できなかった理由は、やっぱり連敗したところ。こんなのはもう誰が見ても分かるので。それで言うと、もちろん、明治、強い相手に1つ目取れたので、ほっとしたわけじゃないけど、去年の秋のああいうことはないと、残り全部勝てば、っていうみたいなところも、多少みんな頭をよぎってたとは思います。だから、連敗したわけじゃないとは思うけど。他力であるとはいえ、優勝の可能性が最後まで残るっていうのは、ある程度把握できてますから。 そこで、1つ勝つことで「頑張れた」というのは、頑張れましたかね。

――その次、立大戦では、初戦をサヨナラ勝ちで取ることができ、そのまま勢いがついたと思います

 その後の法政も含め、今、こうして優勝争いの中にいられるのも、9回の同点タイムリー、篠原(篠原優、社4=東京・早大学院)のあの一振りで、息を吹き返した感じです。梅村(梅村大和、教3=東京・早実)のサヨナラヒットは勢いで打ったようなものなので。何よりも、ツーアウトのあの状況で、篠原のレフトオーバーのタイムリー、あれが全てだと思います。

――2連勝で終えた直近の法大戦についてはいかがでしょうか

 もちろん、(法大は)いい選手がそろっているチームです。そして、お互い優勝するには負けられないという状況の中での戦いになりました。とは言うものの、われわれが春、5連勝の後、つまずいてズルズルいった相手ですから、とにかく連勝して、いいかたちで、という思いで臨んだ試合でした。やっぱり春の悔しさがあるので、選手が頑張れたんじゃないですかね。

――今季のリーグの中でターニングポイントを1試合あげるとすれば、やはり立大戦ですか

 そうですね。本当だったらああいうかたちじゃなくて、スムーズに勝ちたかったけれども、リードを許した状況で、最後粘ってひっくり返して勝てたっていうのは、やっぱり大きかったと思います。

――法大の2回戦や立大の1回戦など、代打の選手が結果を残しています

 戦う前に、いろんなところまで考えに考えて、対策を練ります。そういう中で、野球って確率のスポーツなので、「確率を、どうすることが一番いいんだ」っていうのを常に考えながら、采配しています。起用に応えられるかどうかっていうのも、選手の能力ですから、その選手の能力を、十分に把握した上で「いける」っていう判断をしているので使っているのであって、その起用に応えてくれてる選手たち、これがまず頼もしいです。 彼らが、本当に自分の力をよく理解した上で「じゃあ今、与えられた仕事、何すりゃいいんだ」ってことをきちんと理解した上で、自分のできることをしっかりとやってくれてるということなので、代打に限らず、 今シーズンここまで、本当にみんなよく頑張ってくれていると思います。

「逆転優勝、それだけ」

森田朝陽主将(社4=富山・高岡商)に声を掛ける小宮山監督

――早慶戦についてお伺いします。今季の慶大のイメージはいかがでしょうか

 強い。これは強い。OBの方々からいろいろとお言葉を頂戴した時に、昭和34年の春、同じ状況で優勝した時の先輩から伝え聞いたのですが、その昔、飛田先生(飛田穂洲元監督)が学生に向かって「勝たなきゃいけないって思ったら勝てないんだ。負けるもんかっていう気持ちで立ち向かいなさい」と。本当に染みる言葉でした。われわれの方が下に位置してるわけですから「なんとか慶応を引きずり下ろして」「勝たなきゃいけない」っていう気持ちはおこがましいわけですよ。慶応の方が強いんだから。だから、その慶応相手に「負けるもんか」っていう気持ちで立ち向かうっていう、そこを大事に戦いたいと思います。

――慶大のエースの外丸東眞選手(2年)は、今季も安定した投球を続けていますが、外丸選手についてはいかがでしょう

 今一番打たれていないピッチャーですから、それはいいに決まってるんで、 われわれも打てないだろうなという想定でゲームに入ります。ただ、だからと言って「全く無理でした」ではいけませんから、なんとかこじ開けて、1点でも多くもぎ取って勝たないといけないわけですからね。なんとかします。

――早大の選手で早慶戦のキーマンになるのは、どの選手だと思っていらっしゃいますか

 図式は慶応の打線対早稲田の投手陣みたいな、そんな見立てでしょうから。 そういう中で言うと、やっぱり投手陣がどれだけ抑えられるか。三冠王が懸かっている選手がいるわけですからね。そんなに毎年毎年、三冠王なんか出しちゃいけないと思ってますから、三冠を阻止して、慶応の打線を封じ込める。早稲田のバッテリーが最終的に勝ちどきを上げるという、そういうのでいいんじゃないですかね。

――早慶戦では、どのような試合にしていきたいですか

 春の日曜日の第2戦の、 長い長い歴史のある早慶戦の史上最多失点、最多得点差、 この屈辱を晴らさないといけないと思ってます。とにかく2つ勝って、逆転で早稲田が優勝して、春の屈辱を跳ね返したいと思っています。

――最後に、早慶戦への意気込みをお願いします

 21年秋の引き分けで終わった、煮え切らない感じ、あれが、ようやくスカッとした勝ち方で、喜べる状況になりましたので、2連勝でものにして、喜び合いたいと思っています。逆転優勝、それだけです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 田中駿祐)

◆小宮山悟(こみやま・さとる)

1965(昭40)年9月15日生まれ。千葉・芝浦工大柏高出身。1990(平2)年学教育学部卒業。早大野球部第20代監督。