【連載】春季早慶戦直前特集『七転八起』第3回 山下拓馬

野球

 東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)では、開幕戦から好救援を見せ、最高学年、そして救援の中心核としての威厳を示した山下拓馬(法4=埼玉・早大本庄)。しかし、第6週の明大1回戦では今季初失点を喫し、掲げていた目標の『無失点』とはならず。後輩のため、チームのために何ができるのか。早慶戦に懸ける思いと共に伺った。

 

※この取材は5月23日にオンラインにて行われたものです。

「悪循環が続いて勝てていない」

質問に答える山下

 

――まず、今季の振り返りをお願いします

 そんなに良くはないというのが、個人としてもチームとしても思っています。

――具体的に、自身の成績を振り返って

 まず、ストレートがあまり走らなくって、それに伴って変化球も見切られることが多くて打たれてしまうので、早慶戦まで1週間もっと詰めてやっていきたいなと思います。

――チーム全体は山下選手から見ていかがですか

 チームとしては、ピッチャー陣は相手チームに多く打たれて、打者もいいところで一本が出ない、という悪循環が続いて勝てていないので、それを変えるようにピッチャーからやっていこうということで頑張っています。

――3年時より、試合の最後での登板が増えたと思います。心境の変化はありますか

 勝っていたり、点差がない状態で登板したりすることはあまりなかったのですが、そういう場面で登板の機会が来たら、緊張します。自分が抑えれば勝てるかな、と思って気持ちを作っていました。

――今季、印象に残っている試合は

 良い方と悪い方で2つあります。自分の中で良かったと印象に残っているのは、開幕戦で前のピッチャー、飯塚(脩人、スポ2=千葉・習志野)と原(功征、スポ3=滋賀・彦根東)が初登板で思うようにいかなかったときに、ここで打たれたら2人が立ち直れなくなってしまうのではないかと思いました。後から出ていって抑えることができたので良かったかなと思います。悪かったところは明治戦の1戦目に点差が開いた状態での登板だったのですが、気持ちがちょっと切れている部分があって、自分のバントのミスから始まり、点を与えてしまって、無失点という目標がそこで途切れてしまったので、すごく苦い、悔しい思い出として残っています。

――前回の対談では、球速も目標に挙げていました。意識されていることはありますか

 いやー(笑)。最初は150キロ投げたいなと思っていたのですが、今はそんなこと考える余裕がないくらいの状態なので、140キロ前半でも良いから抑えようとしか思っていないです。

――今のベンチの様子はいかがですか

 最初の方に比べたら雰囲気自体はいいと思います。打って盛り上がるのはもちろんなのですが、ここぞという場面で三振してしまったバッターに最初はため息交じりのことも多かったのが、最近はそういうことがなくなってきて、「大丈夫、いけるぞ、いけるぞ」といういい雰囲気が出てきています。

――それにはきっかけがあったのでしょうか

 学生コーチの占部(晃太朗新人監督、教4=早稲田佐賀)とキャプテン丸山(壮史主将、スポ4=広島・広陵)、岩本(久重副将、スポ4=大阪桐蔭)が中心となって、法政戦の前くらいに「雰囲気が悪くなることがあるから、そういうところはしっかり。ベンチが下がっていたら、勝てるものも勝てないから。」と話があって、そこからチームみんなが意識するようになりました。澤田(健太朗、文4=福井・高志)とかが入っている時は、一生懸命ベンチなどで盛り上げてくれたので、それがいい雰囲気にはつながっているかなと思います。

――ブルペンでの雰囲気は

 去年登板していない人たちがほとんどで、まだ慣れていないというのが伝わってきて緊張している人は緊張しています。油断して投げないだろうと思っている人たちも分かるので、そういう人たちをどれだけ準備させて投げるとなったときにいい結果が出せるようにするのも、去年から入っていた自分とかの役割だと思っています。春はあと早慶戦だけですが、秋もあるのでそういうところを意識してやっていきたいなと思います。

――ブルペンでは1年生ながらベンチ入りしているキャッチャー、印出太一(スポ1=愛知・中京大中京)選手もいらっしゃいますが、具体的にどういう話をされますか

 印出は結構最初からグイグイきてくれたので、今はもう結構仲が良くて、からかってくるんですけど(笑)。特に真面目な話をするわけでもなく、試合の序盤とか変なこと言って遊んでいます。中盤とかになって作るとなると、あいつもしっかり切り替えてくれて、今日のこのボールが走っているのでとかちゃんと言ってくれるので、下級生ながら頼もしい存在だなと思っています。

――先発している徳山(壮磨、スポ4=大阪桐蔭)選手、西垣(雅矢、スポ4=兵庫・報徳学園)選手について、山下選手は現状どう見られていますか

 徳山は今、苦しんでいることが練習からもわかりますが、本来はすごいポテンシャルのあるピッチャーなので、そこの感覚さえ戻せば特に心配はないです。秋にしっかりやってくれることを期待しています。そうすれば、早稲田は優勝に限りなく近づくので。西垣に関してはこの春は見ている限りは調子がいいのですが、救援陣の不甲斐なさから余計なプレッシャーをかけてしまって、勝ちがついていなかったり、防御率が上がってしまったりというのがあると思います。自分たち救援陣のせいというのも大きいです。先発の足を引っ張るというのはやってはいけないと思っているので、そこは救援陣全員が頭に入れて、先発を助けられる救援陣にということでちゃんとやっていきたいと思います。

――西垣選手は細かい部分が原因で失点につながっているということでしょうか

 キャッチボールしたり、ピッチング見たりしていて、球自体は去年より全然いいのですが、相手バッターとの駆け引きの読み違いでの一球だったり、バント処理でちょっと滑ってしまってできなかったりという細かい部分で少し苦しんでいて、(さらに、)後ろに代わっても安心できるピッチャーがいないということに余計に体力が削られて甘いところにボールが入って、痛打されることが多いです。球は悪くないので、ちょっとのずれですかね。西垣はちょっと中に入るとか、出し入れできるポテンシャルを本来持っているので、そこだけよくなれば、秋は防御率を上位クラスに持っていってくれると思います。

――事前のアンケートで「プレッシャーのかかる状況を乗り切る秘訣は」という問いに、「投げる前は吐きそうになるくらい緊張しています。周りに人に話しかけてごまかしたりしています。」とお答えいただきました。実際どんな選手と話していますか

 基本関係なく喋るのですが、ブルペンにいくと尾崎(拓海、社4=宮城・仙台育英)と森田(直哉、スポ4=早稲田佐賀)以外は基本的に下の学年なので、必然的に下の学年の人と話すことが多いです。

「俺もやってやろうかな」

明大1回戦で力投する山下

――話を変えて、山下選手のこれまでの野球歴について伺います。野球を始めた時期ときっかけは

 野球を始めたのは、小学生に入る何ヶ月か前、年長さんのときです。理由はもともとサッカーをやろうと思っていて、幼稚園のときもずっとサッカー選手になりたいと言っていたのですが、父親にヘディングをしたら死ぬぞと言われたのがその時すごく怖くて(笑)。そこからサッカーが怖くなってしまって、兄が2個上で小学生に上がっているタイミングで野球をやっていたので、一緒になって始めたのがきっかけですね。

――そのころのポジションは

 小学校低学年のとき、ピッチャーは全然やっていなくて、むしろ野手、外野や内野をちょっとやっていたという感じでした。ピッチャーを始めたのは小学4年生くらいののときですかね。

――小中と野球を続けられて、高校では早大本庄に入られたと思います。早大本庄を選ばれた理由は

 それも兄が本庄に行っていて、そのまま流れで入ってしまったというのが正直なところですね。

――大学野球をされることはその頃から意識されていたのですか

 高校に入るときには何も考えていなかったのですが、ちょっとでもいい大学を出た方が就職にいいかなというのが、ちょっとしたきっかけで、兄が本庄に行っていて、兄は早稲田のユニフォーム着て大学で野球やりたいと最初から言っていたので、そしたら俺もやってやろうかなと思ったというのが目指すきっかけですね。

――高校時代で印象に残っていることは

 ピッチャーをやらなかったのが自分の一番大きなことだと思っています。キャッチャーをやっていて、そこでできた考え方というのは今に生きているのですが、ピッチャーを3年間やっていたら今はどうなっていたのかなと考えることはありますね。あとは、監督とちょっと喧嘩したり(笑)。そういう感じの思い出しかないです(笑)。

――ピッチャーではなく、キャッチャーをやっていたことに何か理由は

 チーム状況的にやらざるをえなかったですね。

――山下選手の試合前に行うコンディションの整え方やルーティーンを教えてください。

 今年から多くなったのですが、前日の練習メニューは全部一緒です。体幹も同じ体幹をやって、ハードルジャンプというトレーニングをしたり、それも同じメニューを同じ回数だけやったりしています。その後ダッシュを元々は結構な本数を走っていて、30メートルダッシュを12本と10メートルダッシュ5本と走っていたのですが、最近はちょっと変えようかなと思っていて、ダッシュに関してはちょっと今グレーですね。そこからキャッチボールもして、練習の時間終わって、そこから9時とかからウエイトするのですが、それも同じメニューを同じ回数だけやります。あとはゲームすることが1つのルーティーンみたいになっているので、ちょっとゲームして、肘に電気当ててというケアをして、長風呂してというくらいですね、自分は。

――ゲームされるんですね(笑)

 ゲームばっかりしています、自分は(笑)。

いい気分で目の前で胴上げされるのはむかつく

東大1回戦でピンチを脱し、雄たけびをあげる山下

――早慶戦について伺います。早慶戦を前に今のお気持ちいかがでしょうか

 明日、明治が勝ったら慶応の優勝が決まりますが、そっちの結果がどうであれ、いい気分で目の前で胴上げされるのはむかつくし、今後のチームを考えても2勝したいというのが率直な気持ちですね。

――チーム全体の雰囲気は

 チーム全体としては秋に向けてというのと、早稲田である以上、慶応には勝たなきゃいけないという気持ちで試合に臨むと思います。

――山下選手自身の状態は

 最初にも言ったように、真っすぐの調子がよくないと言うのが今季のリーグ戦なので、真っすぐの質を高めるというのをやっていこうと思います。あとは長いイニング投げることになると思います。ただ、そこの体力作りというか、長いイニング投げることに慣れていないので、球数を投げるというのはこの1週間、さらに次の1週間でやります。

――意識されている慶大の選手は

 去年の夏に橋本(典之、4年)に打たれていて、橋本も最近スタメンで出ているので、まず打たせない。そこで、自分の中のリベンジというか雪辱を果たそうと思っています。あとは廣瀬(隆太、2年)とか正木(智也、4年)は長打もあるし、廣瀬に関しては打率もいいので、そこを一番で打たせちゃうとチームとして慶応が乗ってきちゃうと思うので、核となるバッターを抑えるというのは意識します。

――事前アンケートで、「慶大選手に一言ください」とお聞きしたところ、大嶋駿(4年)選手へ「ラストイヤーがんばろー」とメッセージ書かれていました。親交があるのでしょうか

 今、大嶋はベンチに入っていないのですが、慶応志木と早大本庄で何回か練習試合して、顔見知りの仲なので、最後の1年お互い頑張ろうなというものですね。

――最近もご連絡とっているのですか

 とっていますね。高校の同級生の友達でもあるので割と仲良くしています。

――話を戻して、早慶戦で生かしたいご自身の強みは

 自分の強みは本来真っすぐなのですが、最近は真っすぐがあまり良くないことでチェンジアップも当てられることが多いです。慶応もそれはデータとっているので、分かっていると思うのですが、それでもチェンジアップ右にも左にも投げて、「あれ」ってバッター陣が狂う感覚があればこっちのものなので、慶応全体のバッティングの調子を狂わせたいなと思います。

――最後に意気込みをお願いします

 優勝はないのですが、早稲田である以上は慶応に勝たなきゃいけないという思いは強いので、秋に気持ちよく繋げるというのと、慶応が優勝するとしても、気持ちの良い優勝だけはさせないというのを強く思って、向かいたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 吉田美結)

◆ 山下拓馬(やました ・たくま )
2000(平12)年2月29日生まれ。184センチ、90キロ。埼玉・早大本庄高出身。法学部4年。投手。右投右打。「早稲田である以上は慶応には勝たなきゃいけない」など、どの言葉にも力強さを感じられる山下選手。強気な姿勢をそのままに、早慶戦での躍動を楽しみにしています!