【連載】春季早慶戦直前特集『宿命』第7回 岸本朋也

野球

 初めて正捕手として東京六大学リーグ戦(リーグ戦)に臨んだ岸本朋也(スポ3=大阪・関大北陽)。打撃では中軸に抜てきされるほど上々の活躍を見せたが、捕手としては勝ち切れない責任を背負い、1点、1球の重さに苦悩した。酸いも甘いも味わった今季、彼は神宮の舞台で何を思ったか。そして、何を思い早慶戦の舞台へ立とうとするのか。その心境をうかがった。

※この取材は5月19日に行われたものです。

気持ちで勝つ

攻守両面を振り返る岸本

――初めて正捕手をの座を獲得したリーグ戦でした。開幕戦の1回裏に守備位置へ向かう心境はどういったものでしたか

 一番は楽しみというか、「やってやろう」という気持ちが一番にあったんですけど、いざ立ってみると緊張もしましたし、ただその緊張がうまくいい感じのほうの緊張に変えていけたかなと思います。

――固まってしまうのではなく、うまく集中できたと

 そうですね。

――2回表に迎えた最初の打席はバント失敗でした。初めにつまづいた感じになりましたが、あの場面振り返って、やはり緊張があったのでしょうか

 それはまあ自分の技術不足というか練習不足で失敗してしまったので、そこについてはこれからも課題になってくるかなと思います。

――バントはあまり得意ではないのでしょうか

 そうですね。あまり得意ではないです。

――大学まではする機会もあまりなかったのでは

 大学入ってから増えてきていますが、高校まではほとんどやっていなかったです。ただそれも言い訳にすぎないので、しっかりできるようにやっていきたいです。

――それでもその試合では2安打。最終回には長打で打点を挙げ、試合を通してみると幸先良いスタートになりました。「やれる」という感触もあったのでは

 初戦では打点も長打も出て、自分の入りとしてはいいかたちで入れたかなと思います。

――法大2回戦でも貴重な先制打を放つと、明大戦からはクリーンナップでの起用になりました。「そこで使うぞ」というのはいつ伝えられるのですか

 明大1回戦で5番になるときは前日に言われました。2回戦で3番になるときは本当に試合直前になってですね。

――伝えられたときはどう思いましたか

 やることは変わらないので、いつも通り自分のバッティングをしようという心持ちです。状況に応じたバッティングというのは何番でも変わらないので。それは日ごろからやっていることなので、心境としての変化は特になかったです。

――そしてその明大1回戦でも先制打と中押しの適時打。どちらも二死でした。「ここで一本」という場面で結果を出せている要因は何か挙げられますか

 打席に入る前からネクストからしっかりこういう球を打とうとか、前のバッターも見て絞っていた部分もあるんですけど、最後はやっぱり気持ちで打とうというのがあって。それは高校のときに特に言われていて、最後にピッチャーより打ちたいという気持ちが勝っていると打てると自分でも思っているので、準備もしっかりできたと思うんですけど、その辺の気持ちの面でピッチャーに勝てたかなと思います。

――走者なしと好機の場面。どちらのほうが力を出せると思いますか

 自分はチャンスの時のほうが集中力もあがっているなと実感しています。

――その明大戦ですが、結局2試合とも接戦をものにできず敗れています。ここは捕手としてどう振り返りますか

 1点差というのはどこかで防げた1点があったと思いますし、2回戦は3点取られて2点追い上げた試合で、どこかの1点を防いで2点に抑えていたら、とか。いろいろ反省点はあるので、そのあたりは配球だったり野手のポジショニングの指示だったり投手への声掛けっていうのが足りなかったかなと思います。

――1回戦では7回裏のソロ本塁打で勝負が決まりました。振り返って打たれたのはどんなボールでしたか

 インコースのボールが少し高く浮いて、という感じでした

――カウント1-1の3球目でしたが、ボールの意図としては

 ストライクを取りに行ったストレートでしたね。

――打たれた大竹耕太郎選手(スポ4=熊本・済々黌)が試合後、「配球の面で考えなきゃいけない」と言っていました。その場面について大竹選手と何か話はされましたか

 大竹さんは右バッターのインコースに投げることが少なくて、1球前にインコースに決まったボールに打者の反応が悪かったのでもう1球続けたんですけど、長打を打たれてはいけない場面だったので外で勝負するべきだったという話はしました

――その他にも配球の難しさを感じたシーズンになったのでは

 そうですね。立大戦も明大戦も、配球ひとつで勝てた試合でもあるのかなと自分では反省していて、そこはまだ早慶戦があるので、そこで生かしてやっていきたいと思います。

――先制点を取られた試合はすべて負けています。そのあたりについてどう思いますか。

 立大戦なんかは歩かせて勝負するとか、そういうところをしっかりやっていれば、と思います。

――配球に正解はあると思いますか

 結果として打ち取れたらそれが正解だと思います。結果として抑えるのに一番確率の高い球を選択して出すのが一番の正解だと思っています。

「応援を自分のものに」

好調の打撃ではクリーンアップも担った

――明大戦から切り替えて東大戦では2連勝。そして先週の立大戦に臨みました。負けられない試合が続く中で、1回戦は小島和哉選手(スポ3=埼玉・浦和学院)が完封勝利。捕手としてもしびれる試合だったと思いますがいかがでしたか

 0点に抑えるというのはピッチャーの状態もよかったですし、相手バッターにしっかり振らせないこともできていたので、そういった面では自分もうれしかったですし、良かったなと思います。

――小島選手をリードする時に意識する部分は何かありますか

 ここは甘くてもいい、ここは厳しく、とか、メリハリをつけて、常にきちっとやるのではなく、ここはカウント取りにいって、などというのをしっかり出しています。あとは小島の持ち味は強気なピッチングだと思うので、そのあたりを引き出せるようにやっています。

――柳澤一輝選手(スポ4=広島・広陵)はストレートで押すというよりは変化球も交えながら、という投球に見えます。そのあたりも柳澤選手と相談して、という感じですか

 先発になるということで変化球を増やしていこうというのはあって。真っすぐが主体にはなるんですけど、変化球もしっかり投げ切ってという配球にしています。

――冬に課題意識をもって取り組まれたというスローイングの部分については、リーグ戦でその成果が表れていますか

 そこはこれからも課題となってくるかなと思います。盗塁も刺せていないですし、暴投も1回放っているので。送球はまだ全然できていないので、これからの課題にもなってくると思います。

――序盤は打撃好調でしたが、立大戦では田中誠也投手(2年)の前に全くタイミングが合いませんでした。ああいったタイプの投手に苦手意識がありますか

 変化球でかわしてくるピッチャーはあまり得意ではないです。ただ3三振というのは試合の中で修正し切らないといけないと思うので、自分としてはどこかで三振でなくて修正してチームバッティングをするとか、しっかりやらなければいけなかったと思います。

――高校時代にも対戦経験がある投手でした。そのときは本塁打も放っているとのことですが、当時の印象と比べてどうでしたか

 高校のときはストレートとスライダーというピッチングで落ちる球がそんなにいい印象はなかったんですけど、今回対戦して落ちる球がとても良くなっていて、それにやられたなと思います。

――緩いボールに対して我慢できずに、という打席が続きました。その点については

 そうですね、落ちる球というのは結局はボール球なので、低めの変化球なのかストレートなのかというのを見極める選球眼を上げたいです。見極めればボールになってピッチャーはストライクを投げなきゃいけなくなり、そのストライクを打ってヒットになる確率も上がると思うので、選球眼というのを上げていかなきゃいけないと思います。

――結局立大戦3試合は無安打でした。状態が落ちてきているという感じは持っていますか

 1回戦ではそこまで悪くなかったのですが、あの落ちる球に崩されて、それを3回戦まで切り替えられずに引きずってしまった感じですね。

――3回戦ではクリーンナップを外れ、8番として出場しました。また、2、3回戦では途中で代打を送られています。そういった部分ではやはり悔しさがあったのでは

 悔しい気持ちはありました。自分が打ちたいという気持ちもあったんですけど、結果が結果なのでそこは素直に受け止めて、そこはこれからの課題としてやっていきたいなと思います。

――早慶戦へ向け、どこを重点的に取り組んでいきたいですか

 相手打者の研究ですね。監督さんに言われたことですが、配球面でダメだったことがあるので、そこは相手打者をしっかり研究してやっていきたいです。

――1、2年時に早慶戦を見ていた印象は

 雰囲気が普通の試合とは違うなと思いました。その応援を自分のものにできるようにやっていけたらなと。慶大の打者は岩見選手(雅紀、4年)とか郡司選手(裕也、2年)とか振れているバッターが多いので、そこをどう抑えるかというのをしっかりできたらと思います。

――スタンドの応援というのは耳に入るほうですか

 打席に入ると集中するのであまり聞こえないのですが、ネクストとかでは耳に入ってきて、これから向かっていこうという気持ちを後押しされます。

――打点を挙げて塁上で『紺碧の空』を聞く気分というのは

 うれしいですし、気持ちいいというか、タイムリー打ったというのが実感できる瞬間だと思います。

――早慶戦では大観衆が訪れます。そういった大舞台でプレーすることについてはどう思いますか

 それだけ注目してもらえるということはそれだけいい試合をしないといけないと思いますし、最後にワセダが勝つというのが大事です。自分の結果もそうですけど、チームが勝つのが1番だと思うので、それをしっかりやっていきたいと思います。

――早慶戦で初めて岸本選手のプレーを見る観客も多いと思います。早慶戦ではどんなプレーを見せてくれますか

 攻撃面ではチャンスでの一本。チームがどういう状況でも一本欲しいときに打てるようなバッティングをしたいと思いますし、守備ではピッチャーを引っ張っていけるような配球と、あとは野手への指示だとか、そういうところもしっかりやっていきたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 安本捷人)

『勝利への執念』だけは負けません!

◆岸本朋也(きしもと・ともや)

1996(平8)年9月11日生まれ。173センチ、86キロ。大阪・関大北陽高出身。スポーツ科学部3年。ラーメン二郎のファンだという岸本選手。この日もひばりヶ丘駅前店へ足を伸ばすとか。しっかりエネルギーを蓄えて、早慶戦の舞台で爆発させてください!