【連載】春季早慶戦直前特集『宿命』第5回 佐藤晋甫主将

野球

 佐藤晋甫主将(教4=広島・瀬戸内)にとって、この2カ月は試行錯誤の連続だった。東京六大学リーグ戦(リーグ戦)開幕後に打撃不振に陥り、期待に応えられず焦りは募るばかり。主将として、主軸として、自分の果たすべき役割は何なのか――。大きなカベにぶつかった時に支えてくれたのは、側にいた人たちだった。これまでの軌跡を振り返る。

※この取材は5月19日に行われたものです。

不振から復活へ

真剣なまなざしで語る佐藤晋

――リーグ戦が開幕してから約1カ月半が経ちましたが、あっという間でしたか

 そうですね。いろいろなかなかうまくいかないこともあったんですけど、あっという間でした。

――あらためてここまで振り返っていただきたいのですが、開幕戦となった法大戦は投打がかみ合い連勝しました。ここで勝てたのは大きかったでしょうか

 勝てたのは大きかったですね。いいかたちで勝てて、そこで勢いにのることが大事だと思ってずっとやってきたので。ただ、それ以降はなかなかこの勢いを出し切れなかったなと反省しています。

――勢いを出し切れなかった要因はありますか

 明大戦に限って言えば、バントミスであったり、守備もちょっとミスがあったりしたので、そういったところがちょっと生かし切れなかったかなと思います。

――明大戦では犠打の失敗が多かったということですが、翌週の東大戦を迎える前に犠打を集中して練習されたのでしょうか

 そうですね。今までもバッティングの最中に横でやっていたりしたのですが、それじゃ足りないということで。ブルペンでもピッチャーが投げたボールでバッターがバントを練習するとか、シート打撃でバントを入れてみるとかそういった対策はいろいろとやりました。

――全体的に犠打の失敗や守備での小さなミスは減ってきていますか

 東大戦はちょっとあったんですが、それ以降は守備のミスも目立ったものはなかったと思いますし、バントもほとんど決まっているので改善はできているのかなという印象です。

――立大戦は相手の好投を前になかなか打線がつながりませんでしたが、理由として考えられることはありましたか

 チームで徹底して何かを狙う、何かを捨てていこうといった感じではなく、個人個人でやってしまった部分がちょっとあったのかなと。そこは反省していますね。

――ご自身のこともお伺いします。開幕戦では本塁打が飛び出しましたが、なかなかチャンスで打てず、また明大戦では無安打に終わるなど苦しい時期も続いたと思います。そういう現状に焦りはありましたか

 そうですね。チャンスで回ってくることが多くて、そういったチャンスをつぶしてしまうというのは非常に悔しい思いと焦りもありました。

――焦り、もどかしさ、悔しさ、どの言葉が一番近いですか

 明大戦に限って言えば、自分が打っていれば追い付いていたという場面もあったので、そういった面では焦りというよりもどかしさもありました。

――早慶戦直前アンケートにて、打てなかった原因に「ボールに合わせて体が並進してしまう」と書かれていましたが、それは打ちたい思いが強かったからでしょうか

 打ちにいこう、打ちにいこう、あと当てたい、バットに当てたいという気持ちからちょっと自分のポイントに待ち切れなかったのかなと。

――ボールが見えていなかったというわけではないのでしょうか

 そういうわけではないかな、と思いますね。

――ただちょっと打ちたいと

 はい。気持ちがはやってしまって。

――打ちたいという気持ちはご自身が主将だからここで打たないといけない、という気持ちも含まれていますか

 それもありますね。キャプテンだからってわけではないですけど、キャプテンとしてなんとかしたいという思いはあったので、そういった面では焦りというのもあったのかもしれないです。

――打ってチームに貢献したいという思いも強かったですか

 明大戦まではそうしなきゃいけないと思っていたのですが、「それよりもキャプテンとして試合を盛り上げていくというのが大事なんじゃないか」といろんな人から言われました。そういった面でちょっと周りが見えていなかったかなというのはキャプテンとして反省していますね。

――明大戦の後に「周りが見えていない」と言われたということですか

 そうですね。

――どなたからですか

 トレーナーの方もそうですし、学生コーチの佐藤厚志(スポ4=茨城)であったり、熊田(睦、教4=東京・早実)であったり。いろいろ言ってくれる人はいっぱいいました。

――今は周りを見ることを意識しているのですか

 そうですね。意識しているんですけど、立大戦も少し見えていないぞといろいろアドバイスをもらいました。まだまだ改善できていないかなという部分はありますね。

――早慶戦直前アンケートで、体がボールに合わせて並進するのを防ぐために、置きティーなどをしてポイントを近くして練習していると書かれていました。この練習を始めたのは明大戦以降でしょうか

 明大戦以降ですね。トレーナーの方にアドバイスをいただいたりして、とにかく並進しないようにポイントを近くしてというのを意識していました。

――東大2回戦では6回にようやく適時打がでました。その修正の成果が出たのでしょうか

 あの試合はあんまり自分の中でいいバッティングができている感じではなかったのですが・・・。ただ明大戦よりもいい打球が打てていたので、まあなんとかなるかなとは思いながら打席には立てていました。最後一本出て吹っ切れたかなと。

――今もそのポイントを近くする練習は続けられていますか

 はい、ずっと。

――立大1回戦では、これまでの3番、5番から8番に打順が下がりました。それに関して髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)から伝えられたことはありましたか

 いや、監督さんからは何も伝えられていないです。学生コーチからきょう8番と聞きました。

――8番になった悔しさはありましたか

 そうですね。まあ打率残していないので、当然と言えば当然の結果だと思っていたのですが、それでも8番に落とされたという事実は悔しかったです。

――打てていない時に打率は気になりましたか

 バックスクリーンに打率が映って、見ないようにしているんですけどやっぱり見えちゃうので。気になってしまいますね。

――立大1回戦では決勝打となる適時打が出ました。この日はきょうこそはという気持ちがありましたか

 8番というのもあったので、開き直って気楽にいこうと思って。チャンスで回ってきたので、ここをなんとかしたいなと、絶対に打ちたいなと思いで打席に立ちました。

――打った後はものすごく笑顔でしたね

 はい(笑)。ベンチのみんなも喜んでくれて、ここでしっかり喜んでおこうと。

――ベンチに戻った後や試合後に、一緒に練習していた方から声を掛けられることはありましたか

 メッセージきたりとかしました。「貢献できたみたいだな」と。

――素直にうれしかったですか

 はい、素直にうれしかったです。

――髙橋監督は佐藤晋選手が不振に陥っても、佐藤晋選手への信頼は変わらなかったように思われますが

 試合中に「力抜いていけよ」と言われるくらいで、バッティングに関してはほとんど言われないので、そういった面では監督さんからのプレッシャーとかは感じることはないです。そういった意味ではやりやすいという反面、そうやって期待されているので、やらなきゃなと身の引き締まる思いです。

――守備についてもお伺いします。一塁に打球が来ることが多い試合もありましたが、一、二塁間の打球の処理に関してもう少しできることがあると思うことは多いですか

 多いですね。ポジショニングもいろいろ考え直さないといけないかなと。宇都口(滉、人4=兵庫・滝川)の守備範囲も広いので、そこの連係ももう一回確認しないといけないかなと思います。

主将として模索する日々

――ランメニューでも常に先頭を走り、一塁からも頻繁に声をかけていらっしゃいますが、主将としての意識の表れですか

 そうです。ファーストはピッチャーに一番近いので、僕が声を掛けてピッチャーを少し楽にできたらなと思うのと、キャプテンなのでしっかり引っ張っていかないといけないなという思いがあります。

――早川隆久選手(スポ1=千葉・木更津総合)など1年生で出ている選手には、積極的に声を掛けようと思われますか

 そうですね。まあでも早川はすごく堂々としていて、僕が声掛けなくても堂々と投げてくれるので安心しています。それでも1年生として緊張もあると思うので、そういった面で僕がしっかり声を掛けていこうかなというのはずっと思っています。

――主将としてミーティングなどで話す機会は多いと思いますが、多くの人の前で話すことは得意ですか

 いや、得意じゃないですね。いろんな人から「抑揚がない」とか、「カタコトじゃない?」とよく言われるので、あんまり得意じゃないですね。

――自分の言いたいことがうまく伝えられないことは

 ありますね。うまく表現できないというか・・・

――伝えたつもりでも伝わっていなかったということもありましたか

 たまにありますね。

――早慶戦直前アンケートに、主将に就任されてから悩んでいた時に「お前の情熱や弱いところも全てぶつければいいんだ」というアドバイスをいただいたという話を書かれていましたが、これはいつ頃のことでしょうか

 これは結構前です。2月とか3月だったと思います。

――どういった経緯でしたか

 もっともっとチームに向けて、思っていることをキャプテンから発信していいんじゃないかと、学生コーチの厚志や投手コーチの脇(健太郎、社4=早稲田佐賀)に言われました。その頃は、自分のことでいっぱいいっぱいだった時もあったので、そうじゃなくてもっと周りを見て、お前が思うことをしっかり言っていけばいいんじゃないかと言われました。

――人に発信する余裕がなかったのか、背中で見せていきたいからそんなに発信する必要もないかなというのと、どちらが大きかったですか

 どっちもじゃないですかね。プレーで見せたいというのはあったので。

――背番号『10』の重みは感じる時もありますか

 いろいろな方から声を掛けていただいて、声援もいただきますし。そういった意味で非常に責任のある背番号だなというのは常日頃から感じています。

――主将の重圧やプレッシャーに押しつぶされそうになったことは

 どうですかね・・・どっちかと言ったらプレーに対して一生懸命やっていて集中している部分もあるのでプレー中はそういったことはあまり考えないですね。

――普段の取材からは「自分がこういうミスをしたらダメだ」という責任感の強さが感じられます

 そういう思いはありますね。ただそれが裏目に出ちゃって、気持ちを下げてしまう。自分の気持ちもそうですし、チームの気持ちも士気も下げてしまう部分もこれまであったので・・・ちょっと反省ですね。

――周りから真面目だと言われることも多いということですが、その真面目さが裏目に出ることもありますか

 ありますね。もっと気楽に考えればいいんじゃないと言われることも多いです。

――思い詰めやすいのでしょうか

 それはありますね。

――そういう時は自分で解決されますか、それとも誰かに相談されるのでしょうか

 自分で解決できる時もありますけど、だいたいいろんな人から声掛けていただいて、相談にも乗ってもらってという感じです。

――チーム内の方に相談されることが多いですか

 チーム内が多いです。

――チームのことについては、学生コーチと話すことが多いですか。4年生の間でもチームのことを話されたりはしますか

 最近だったら、八木(健太郎、スポ4=東京・早実)とか三倉(進、スポ4=愛知・東邦)とかとも話したり。学生コーチとも話しますね。

――どういったことを話されますか

 練習内容だったり、試合終わって次の週はどういうことをやっていくということであったり、練習メニューどうするということとか、どういう取り組みをやってくとかそういう話をしますね。

――試合中早大のベンチは盛り上がっていますが、スタンドも応援が盛り上がっています。ベンチ内外問わず、一体感が感じられるように思います

 一生懸命応援してくれて、すごく声援とかも聞こえてくるので、非常にうれしいなと。やはりそういった声援に応えられるように僕たちはもっともっとやっていかなきゃいけないなというのはものすごく感じます。

――以前チームの強みは粘り強さとお話していましたが、ベンチの盛り上がりがそれを後押ししていますか

 そういう部分はやはりあると思います。ただ、立大戦の3試合目の時は、ちょっと応援し切れなかったかなというか、ベンチが熱くなれなかったかなというのはありますね。僕自身もみんなを乗らすことができなかったので、そういう意味ではちょっと反省しています。しかし、点差が離れていても最終回でしっかり追い付こうという姿勢はあります。これまで大差が負けていることはなく全部1点差、2点差まで追い上げていて、ただもう一つ勝ち切るというのができていないんですけど、そこまで追い上げているという意味では、ベンチの盛り上がりも1つの要素だったかなと今思っています。

――リーグ戦中は緊張が張り詰めていることが多いと思われますが、息抜きしたり、リラックスされたりしていますか

 ちょっと空いた時間に音楽聞きながらゴロゴロしたりします。あと、YouTubeでお笑いとか見ます。千鳥とか大好きです。千鳥とかの場合はコントとかよりバラエティのほうが面白いので、バラエティを見たりしています。

――ちなみに、試合の前に必ずすることはありますか

 前の日は部屋の掃除をします。落ち着きますね。やれることやっておこうかなと(笑)。

宿敵を倒すため、一致団結するのみ

『10』の存在感を示したい

――今季は現時点で5校に優勝の可能性が残るという大混戦になりましたが、こういう状況は開幕前から予想できていましたか

 毎年そうだと思うんですけど、春はチームとしてどこのチームも出来上がっていないので、それぞれにチャンスがあると思っていました。

――ご自身にとって早慶戦をどのような舞台になりますか。小さい頃に見に行ったことはありましたか

 ないんです。テレビで見たことはあったんですけど、直接神宮まで行ったことはなくて。テレビ中継もされますし、入る人の人数もすごいですし、伝統の一戦ということで憧れはずっとありました。そういった舞台でプレーができるというのはうれしいというか素晴らしいことだなというのは実感します。

――リーグ戦中にご家族が試合を見に来られることはありますか

 父親がネット中継で見てくれていますね。試合終わるたびにメッセージくれたりするので見ているんだと思います。

――細かいメッセージがくるのですか

 細かくきますね。アドバイス的な。

――励みになりますか

 そうですね。うれしいです。見てくれているというのもありますし、僕のこと考えてくれているんだなというのはすごく感じますね。

――今週末の結果がどうであれ、慶大は倒さなければならない相手だと思います。早慶戦はどんな試合になることが予想されますか

 これまでの試合を見ていても慶大は打線がいいチームなので、ピッチャーがどこまで踏ん張れるかというのと、早大の打線がどれだけ食らい付いていけるかですね。接戦になるんじゃないかなと思います。

――早慶戦でのキーマンはどなたですか

 八木です。一番バッターなので、彼が出ればチャンスメークができますし、4番の加藤(雅樹、社2=東京・早実)も調子良いのでしっかり返してくれるかなと思っています。

――ご自身が早慶戦で果たすべき役目というのは

 チャンスで回ってくることが絶対あると思うのでそこで一本、勝負強さを見せたいというのと、あとはしっかり元気を出してチームを引っ張っていくのが僕の役目だと思っています。

――早慶戦は応援がものすごいですが、普段も応援は聞こえますか

 今までの試合も応援はすごく聞こえます。「しんすけ」と呼ぶ声も、リーダーの声も聞こえていてすごくありがたいなと思っています。

――今の時点でのチームの雰囲気はいかがですか

 まだ優勝の可能性がないわけじゃないので、早慶戦絶対勝つぞとそういう雰囲気もあると思います。一致団結して頑張っていこうと思います。

――最後に早慶戦に向けて意気込みをお願いします

 早慶戦絶対2連勝するので、よろしくお願いします。

――ありがとうございました!

(取材・編集 加藤佑紀乃)

闘志を内に秘める主将が選んだ言葉は『熱く!!』でした

◆佐藤晋甫(さとう・しんすけ)

1995(平7)年6月9日生まれ。174センチ、80キロ。広島・瀬戸内高出身。教育学部4年。内野手。右投右打。早慶戦直前アンケートにて、髙橋監督が早慶戦でカギを握ると思う選手に挙げられていたのが佐藤晋選手。「良いところで必ず回ってくると思う。一本に期待したい」とのことだそう。そのことを伝えると「はい、頑張ります」と照れくさそうに笑顔を見せました。大一番での主将の一振りに注目です!