【連載】春季早慶戦直前特集『宿命』第4回 宇都口滉

野球

 2年前の東京六大学野球リーグ戦(リーグ戦)の春夏連覇の瞬間をベンチから見届けたメンバーの一人、宇都口滉(人4=兵庫・滝川)。あの感動を、今度は自分たちの手で――。早くからそのセンスを見込まれながらも機会に恵まれずラストイヤーにようやく大輪の花を咲かせた苦労人に、この早慶戦への思いを伺った。

※この取材は5月19日に行われたものです。

「ワセダのユニホームに憧れがあった」

取材中に笑顔を浮かべる宇都口

――今季は完全にレギュラーに定着し、スタメンとしてリーグ戦を戦ってきましたが、ここまでの手応えはいかがですか

 開幕前に自分がイメージした通りにはできていると思います。

――事前アンケートで「今試合がすごく楽しい」とおっしゃっていましたが、いかがでしょうか

 3年生までずっと試合に出れてなくて悔しい思いをしてきたんですけれど、今ほぼフルで出れていてそれがすごく楽しいです。

――プレッシャーを感じているというよりは、楽しんで試合に臨めているのですね

 はい、プレッシャーとかはあまりなくて、のびのびできています。

――やはり神宮でプレーしたいという思いで早大へ進学したのですか

 それもあったんですけれど、ワセダのユニホームに憧れがあって。かっこいいなと小さい頃から思っていました。

――いつから早大への憧れがあったのですか

 中学生の時です。当時所属していたクラブチームのOBの人が早大の卒業生で、それでワセダの試合を見るようになって、それからです。

――では、中学、高校生の時から早慶戦もご覧になっていたのですか

 そうですね、見ていました。

――野球はいつからされているのですか

 もう、物心ついた時からボールを握っていました。家が野球一家で、
お父さんが野球でお母さんがソフトボールをやっていたので。物心ついたら野球をやっていましたね。

――兵庫県には野球の強豪校もありますが、その中で滝川高校を選んだのはなぜですか

 中学生の時からワセダに憧れていたので、塾の先生にも相談したら「ワセダに行きたいなら滝川が近いんじゃないか」ってアドバイスをもらって。それで練習にも行ったりしてみて、それでいいなって思ったので滝川を選びました。

――それでは早大への進学形態は一般入試か指定校推薦ですか

 指定校推薦です。

――高校時代は早大への進学を見据えて、学業、野球共に取り組んでいたのですね

 中学、高校では勉強も頑張った方だと思います。家から高校まで1時間半くらいかかったので、その間に勉強したりして、毎朝学校のテストがあったのでそれも受けて、授業があって、その後練習という毎日でした。オフがなかったので週7の練習も大変だったんですけど、高校1年生の時からワセダの指定校の枠を狙って勉強も頑張っていました。

――早慶戦への憧れもありましたか

 そうですね、あんなに満員の球場で応援を受けながらやることはあんまりないと思うので、いつかやってみたい気持ちはありました。

――では昨年の春の早慶戦に代打で出場した際のことは印象に残っていますか

 投手が加藤さん(拓也、現広島東洋カープ)だったんですけど、だいぶ緊張しました。最終回で最後のバッターになってしまったんですけれど、鮮明に覚えていますね。神宮での2打席目だったのもありますし、相手が加藤さんだったのもあって緊張しました。

――早大野球部には高校時代の華やかな実績を持つ選手も多い中で、早くからベンチ入りを果たしていました。ご自身ではどのような点を評価されてのベンチ入りだったと思いますか

 やっぱり周りに比べて体が小さい中でどうやって生き残っていくかって考えた時に、売りは守備かなって思って。あとは足と小技だと思ったので、そこを周りの先輩方以上のレベルに持っていけるように練習することで生き残っていけるのかなと考えてやっていました。

――そんな中、ベンチ入りはしつつもスタメン定着とはならない時期が続きましたが、これまでの三年間を振り返ってみていかがですか

 2年生の時は茂木さん(栄五郎、平28文構卒=現東北楽天ゴールデンイーグルス)、右京さん(河原、平28スポ卒=現トヨタ自動車)、丸子さん(達也、平28スポ卒=現JR東日本)、石井さん(一成、平29スポ卒=現北海道日本ハムファイターズ)と、すごい内野手がいっぱいいて、お手本になるような選手ばかりだったので非常にいい経験ができたのかなと思っています。3年生からは試合に出れると思っていたんですけどそこでスタメン取れなくて。この一年間は非常に悔しくて、一番苦しかったです。

――ではラストイヤーとなる今シーズンへの思いは人一倍だったと思います。今シーズンに向けてどのような準備をしてきましたか

 チームで絶対的な存在というか、守備だったらみんなが二塁に打球が行けば大丈夫だと思ってくれるような存在になれるように心掛けていました。打撃ではチームバッティングというか、自分の欲に振り回されないようにチームや試合の状況を見ながらプレーができるようにと意識していました。

――開幕前に「神宮で活躍するイメージを鮮明に持って練習している」とおっしゃっていましたが、実際ここまでのリーグ戦を振り返っていかがですか

 立大戦まではイメージ通りできていたかなと。立大戦ではチームに貢献できなくて申し訳なかったです。

――開幕前のオープン戦では出場機会が少なかったですが、どのように調整を行っていましたか

 実戦の感覚を忘れないように、投手の球を見たりと工夫をしていました。

――ケガの影響もあったと思いますが、開幕前に試合に出場できないことに対する焦りなどはありませんでしたか

 ケガの治りが良くなくてあまり出れませんでしたね。あんまり焦りとかはなくて、リーグに合わせていければいいと思って。リーグ戦に向けてわくわくする気持ちの方が大きかったです。

――では開幕前からスタメンに入ることは分かっていたのですか

 自分の中ではそうだと思っていました。

――ここまでのリーグ戦を振り返って、まず守備面ではご自身のプレーをどのように評価していますか

 開幕前に自分で立てた目標は『失策ゼロ』だったんですけれど1回明大戦でやってしまって。そこは自分のツメが甘いなと思いました。

――『失策ゼロ』の目標に向けて特に意識してきたことはありますか

 バウンドを合わせることを一番に意識しています。ただセカンドなのでバウンドが合わなくても最悪前に落とせば間に合うと思っているので、バウンド合わせることは考えているんですけど合わなくても必ず前に落とすことを心掛けています。

――他の内野手との連携はいかがですか

 良く取れているほうだと思います。試合中もコミュニケーションを取れていると思います。

――少し抽象的な質問になりますが、どんな二塁手でありたいと考えていますか

 セカンドに打たせれば大丈夫とみんなに思われるような安定感のある二塁手になりたいと思っています。

――そのためにどのようなことに重点を置いていますか

 打球に反応する一歩目の早さと、むやみに前に出ずタイミングを合わせることです。

――練習において、守備と打撃にかける比重はどのくらいですか

 日によるんですけれど、守備6、打撃4くらいです。監督さん(髙橋広監督、昭52教卒=愛媛・西条)もいつも言っているんですけれど、やっぱり守備が一番なので。

「一球一球を大切にする」

守備だけではなく、打撃でもキーマンだ

――続いて打撃についてお伺いします。現在打率もリーグ上位で好調だと思いますが、打席で心掛けているのはどのようなことですか

 タイミングと、積極的に打ちにいくことです。立大戦では消極的になってしまって初球からいけない場面が結構あってやはり打てなかったので、そこは反省点です。

――消極的になってしまったというのは、積極的に振れない状況があったのか手が出なかったのか、どちらでしょうか

 どちらかというと、手が出ませんでした。

――東大1回戦や明大2回戦では特に打撃が好調でしたが、こういう固め打ちができる試合は他とどのような違いがありましたか

 そういった試合では初球から振りに行けていたんですけれど、打てなかった試合では初球を見てしまっていました。タイミングを合わせるのは打席に入る前にやっておくことなんで、準備不足です。

――準備とはどのような準備ですか

 相手投手を見て、どのタイミングで足を上げるかとかを考えています。投手の間合いも人によって違うので、その辺を逆算してタイミングをつかんでから打席に入るようにしています。

――アンケートで打撃が好調な理由として「一球一球を大切にする意識」だとおっしゃっていましたが、一球一球を大切にするというのは具体的にどのようなことですか

 練習で疲れて雑に取りに行ったり雑に振ったりということがあると思うんですけれど、そういうことがないように、極力なくせるように、一球に気持ちを込めて練習に臨むようにしています。

――ここまで三振が3と他の打者に比べても少ないですが、その理由としては何が挙げられますか

 三振だと何も起きないので。当てたら何かが起こる可能性もあるので、(三振は)もったいないのでないように意識しています。自分はあまり長打を打つタイプではないので、大振りせずに当てるようにする方がチームにとってもいいと思うのでそう心掛けています。

――以前に右方向への打球を意識しているとお話していましたが、実際に安打も中前、右前が多いと思います。なぜ右方向を意識しているのですか

 引っ張ろうとすると体が開いて外の変化球などに対応できなくなって空振りも多くなってしまうので、そうならないため、三振しないための意識付けですね。

――打撃における課題は「チャンスの場面でのバッティングとバント」だとおっしゃっていましたが、その点はいかがですか

 チャンスでどうしても一本打ちたいと思ってしまうので、そこでいかに打ち急がず、一球に集中して甘い球を仕留められるかが大切だと思います。たぶん一打席に一回あるかないかだと思うんですよ、そういう甘い球って。それを仕留められるか仕留められないかが、一球一球を大切にするところにつながっていると思います。

――実際にリーグ戦でも何度かチャンスの場面で打順が回ってくることもありました

 立大3回戦では初回に一点取られてその裏で2死一、二塁で回ってきたのに打てなくて。たぶん打点もまだ1とかで少ないので、チャンスで打てないというのは悔しいです。普通に凡打するより悔しいです。まだ自分の中でそこが課題です。

――2番打者として、攻撃の起点になることも多いと思います

 リーグ戦序盤は八木(健太郎、スポ4=東京・早実)が良くて結構塁に出ていたのでそれを送るという感じだったんですけれど、八木がちょっと落ちてきたんで初回に八木が凡退したら自分が何が何でも出塁するという意識というか、何としてでも出ないといけないという使命感を持っていました。

――実際にその役割は果たせていたと思いますか

 立大戦までは結構できていたと思います。

――やはり立大戦がご自身の中で心残りな結果だったのですね

 はい。チームに貢献できなかったという思いが強いですし、チームとしても悔しい結果でした。

――その立大戦では、いつもの2番ではなく5番を任される場面もありました。クリーンアップを担うに当たって、気持ちの面で違いはありましたか

 たぶん自分は長打を期待されて5番になったのではないと思っていて、どちらかというと長打を狙うのではなく、つなげる5番という感じでいこうと自分でも思っていたのですが、慣れない打順に適応できず変な感じで打ってしまいました。

――4番の加藤雅樹選手(社2=東京・早実)が投手に勝負を避けられることも多いということも影響はありましたか

 5番にとってこれって結構プレッシャーなんですよね。バッテリーも加藤は(塁に)出してもいいやという気持ちで来ていると思うとやりづらいです。たぶん加藤の後ろの5番はみんなプレッシャーだと思います。

――東大2回戦ではケガの影響もあり守備のみでの出場となりました。リーグ戦途中でのアクシデントでしたが、どのように調整や気持ちの整理を行いましたか

 ずっと出ていて急に出れなくなってしまったのでチームに迷惑を掛けて申し訳ないという気持ちはありました。でも、それでもチームは一丸となって戦っていると思うので、カバーし合いながらやっていけたと思います。

――チームとしてはここまでを振り返っていかがですか

 負けた試合が、明大とも2戦とも1点差、立大とも負けたのは
接戦だったので、接戦をものにすることが課題というか、そこでどう勝ち切れるかが大切だと思っています。

――早慶戦でもそこがカギになりますか

 そうですね、慶大も投手がいいのでロースコアになると思うのですが、そこで勝ち切ることができればと思います。

――チームの雰囲気はいかがですか

 悪くないと思います。立大戦で負けてちょっと落ち込んだ部分もあったんですけれど、盛り返してきて慶大には絶対勝とうという雰囲気になってきています。

――特に盛り上げ役は誰ですか

 岡(大起、社4=東京・早実)ですね。やはりムードメーカーだと思うので、岡を中心に皆で盛り上がっていけたらと思います。

――打席や試合に臨む際のルーティンはありますか

 ほとんどないですね。ネクストバッターサークルでおもりを付けて振ることくらいです。逆に気にしてしまったら、うまくいかなかったときにプレーにも影響が出ると思うので。

――野球に関する道具へのこだわりはありますか

 やっぱりグラブですね。毎日手入れしています。

――ブランドなどにこだわりはありますか

 全部ウィルソンを使っていますね。ウィルソンさんが自分に道具を提供してくださっているのでそれもあって。

――攻守ともに冷静なプレーをされるイメージがありますが、試合では緊張されることもあるのですか

 結構緊張するタイプですね(笑)。あまり顔とかには出ていないと思うのですが、内心結構緊張しています。試合始まったらいいんですけど、入る前はかなり緊張しています。

――その緊張はどのようにほぐしているのですか

 その時の気分なんですけど、音楽を聞いたり。あとはチームメイトと話したりして緊張をほぐすというか、リラックスするようにしています。

――2年前は春夏連覇をベンチから見届けていましたが、その時の印象はやはり心に残っていますか

 本当に、あのときは負ける気がしなくて。大竹(耕太郎、スポ4=熊本・済々黌)、小島(和哉、スポ3=埼玉・浦和学院)が調子良く抑えて、あとは1番から4番もすごくて、負けるイメージが全然なかったです。自分は試合には出てなかったのですが、声出したり補助したりして一緒に戦ってきたという思いはあったので、これを来年、再来年は絶対自分たちでやろうって思っていました。あの感動というか、あの気持ちをもう一度味わいたいという思いは強いですね。

――チームメートへの思いは

 自分が苦しいときに声掛けてくれたり、一緒に遊びに行ったり、気が許せる信頼できる人たちに出会えたのは、本当に良かったと思います。

――早慶戦に向けて、調子はいかがですか

 悪くないと思います。

――慶大の投手陣の印象は

 菊地投手(恭志郎、3年)のボークがやっかいだなと思っています。三振が多いので、自分はしないように対策していきたいです。意識しないと相手のリズムに持っていかれてしまうので。

――慶大のチームとしての印象は

 やはりクリーンアップは怖いですね。特に郡司くん(裕也、2年)はすごく振れているんで。他の打者も乗せたら大量得点取られる危険もあります。

――宇都口選手自身はその中でどのようなプレーをしたいと思いますか

 打者に合わせて守備位置を変えたり、投手陣を助けるようなプレーができたらと思います。打撃では、三振しないバッティングです。出塁することが自分の役目だと思っているので、それを心掛けてやっていけたらと思います。

――最後に、早慶戦への意気込みをお願いします

 優勝の感動をもう一度味わいたいので、チーム全員で優勝できたらと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 久野映)

ようやく立つ晴れ舞台で『恩返し』を誓う

◆宇都口滉(うとぐち・こう)

1995年(平7)9月12日生まれ。168センチ、67キロ。兵庫・滝川高出身。
人間科学部4年。内野手。右投右打。迷わず色紙に書いた言葉は『恩返し』。お母さんへの感謝の気持ちを込めて選んだ言葉だそうです。ずっと憧れていたワセダのユニホームに身を包む最後の年。早慶戦では攻守にわたって躍動し、観客席にいるお母さんへその勇姿を届けることでしょう!