【連載】春季早慶戦直前特集『宿命』第2回 早川隆久

野球

 1年の春から神宮のマウンドに上がり、チームに欠かせない存在となっている早川隆久(スポ1=千葉・木更津総合)。抑えに先発に、置かれた場所で与えられた役割を果たしてきた。そんな今季の自己評価、今週末に控えた大舞台への思いとは。ルーキーの心中に迫った。

※この取材は5月19日に行われたものです。

「勝利につながるような投球ができていない」

初めてのリーグ戦を振り返る早川

――開幕戦ではピンチの場面(4点リードの8回、1死満塁)でのデビューとなりましたが、今振り返るといかがですか

 投手コーチ(脇健太朗、社4=早稲田佐賀)には塁にランナーがいない状態から投げるよと言われていて、その逆パターンの満塁からということになって。実際投げてみて、1点取られたもののその後しっかり最少失点で切り抜けられたので、そういう面では自信につながった初登板だったのかなと思います。

――想定していた場面とは違っていたわけですが、動揺などはありませんでしたか

 逆に自分にとってみたらなおさら「抑えてやろう」という気持ちになりましたし、いい経験、いい場面だったなと。

――リーグ中盤からは小島和哉選手(スポ3=埼玉・浦和学院)の乱調、離脱がありました。どのような気持ちでしたか

 いつでも自分がカバーできるような状態ではあったので、小島さんが崩れても自分が投げられるという準備はできていました。準備していたなりの結果が出たので良かったかなと思っています。

――小島選手が抜けたことで東大1回戦の先発デビューがありました。完投を目標にしていたとのことですが、8回途中降板という結果については悔しい気持ちが大きいのでしょうか、それとも課題が見つかったという前向きな気持ちの方が大きいですか

 自分が目標にしていたのは完投完封だったのですが、その中でも自分らしいピッチングができなかったなという面で、あらためて六大学のレベルの高さを知りましたし、課題の多く残った試合だったなと。自分にとっては良かった試合だったと思います。

――後半に乱れた原因としてスタミナ不足が挙げられると思いますが、「六大学のレベルの高さ」とは相手の強さもあったと考えているのでしょうか

 相手の強さに耐える忍耐力も必要ですし、投げる体力も必要ですし、練習だったり経験だったりを積み重ねていかないとこなせないことなのかなと。

――小島選手の復帰後はまた中継ぎの起用になりましたが、立大戦では踏ん張り切れない場面もありました

 立大戦の2戦目の柳澤さん(一輝、スポ4=広島・広陵)の後に投げさせていただいて、あそこで自分が0点でしっかり抑えていればまた変わっていたのかなという場面もあって(3回2失点)。その後は本当に悔しくて、帰ってきてから何がいけないのかと振り返って自主練をして、その結果3回戦ではしっかり抑えられました。高校時代の自分を振り返らされた登板だったと思います。

――具体的に、高校時代の自分とは

 立大2回戦はマウンドに上がった時に気持ちが緩かったというか、絶対に抑えてやろうというよりは「抑えられるでしょ」という気持ちでいってしまって打たれて、というかたちで。逆に3回戦では絶対抑えてやるとおう気持ちで抑えられたので、初心に帰らされた一戦だったかなと。

――課題として挙げていたスタミナ強化は進んでいますか

 だいぶ両方(ロング、ショートイニング)投げられる状態にはなっているので、また先発できる機会があれば完投できるピッチング、自分らしいピッチングができればいいのかなと。その目標が達成できるようにやっていければと思います。

――取材時には『投球術』という言葉が頻繁に聞かれますが、具体的にどのようなことですか

 投げるタイミング、足を高く上げたりクイックみたいに投げたりだとか、2ストライクで追い込んでから打者に考えさせるように長い間をつくるだとか、そういう投球術が必要なのかなと考えています。高校の時からの課題で、大学にはいい投手がたくさんいるので、しっかり盗んで自分の力にしていければなと思います。

――ここまで打ち取るというより三振が多い投球内容になっていますが、自分ではどう考えていますか

 高校と違って三振が多くなっているなとは自分でも実感していて、タイプが変わったのかなと正直迷っていて。迷いながらもまだ体つきはまだ高校生なので、まだ打ち取っていけるピッチングを目指しています。

――実際は直球で押して三振という場面が多いですが、理想としては打ち取る投球だと

 変化球をしっかり投げて、打たせて内野ゴロを取って野手のリズムをつくりつつ、という感じで抑えていければいいなと思います。テンポよく抑えることが自分の持ち味なので、逆に球数少なく打ち取るピッチングができればなと。

――球速は出ているものの打たれることが多い印象ですが、それは制球力の問題ですか

 そうですね。高めに浮いた球をミートされて遠くに飛ばされて、今度は低めに投げても単打で1点という悪循環が多いです。課題の一つで、フォーム修正をしてやっと低めに集められるようなフォームになってきているので、次戦の慶大戦は楽しみな一戦です。

――ミットを動かさない練習もしているとのことですが

 そうですね、コントロール重視で。受けてもらっている人の気持ちを考えると、ミットを動かさないで捕るということがベストだと思うので。試合の想定をしたピッチングができればなと思います。

――捕手の岸本朋也選手(スポ3=大阪・関大北陽)とのコミュニケーションはいかがですか

 自分の2個上ということで最初はぎくしゃくしていたのですが、岸本さんが優しく接してくれて自分もそれに甘えているような感じで。本当に話しやすくて試合中も首を振りやすくなってきていて、岸本さんなりの配球もあったり自分なりの配球もあったり、いろいろ話せているので本当に感謝しています。

――どのような言葉をかけられることが多いですか

 岸本さんは年上ということもあって、「俺がしっかり止めてやるから投げてこい」と。自分も自信を持って投げていけています。試合前に緊張していても「緊張すんな」と一言声をかけてくれるだけで気持ちが穏やかになるので、頼りになる先輩ですね。

――髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)からはどのような言葉をかけられますか

 特に何か言われるということはありませんが、ピッチングをしていて相手打者を想定する時に気を付けた方がいいポイントを教えてくださいます。その通りに投げれば勝てると思うので、早慶戦に向けて調整しています。監督に起用されている、頼られているということを感じて責任感を持って投げられればなと思います。

――入学前の取材で「与えられた役割を果たすだけ」とおっしゃっていましたが、ここまでの自己評価は

 正直な話、チームに貢献できているかと言われたらそうでもないなと実感していて。勝ちにつながる投球があまりできていないなというところがあるので、50点以下という感じです。フル稼働して、チームの勝利に貢献できるというのがベストだと思うので。

――大竹耕太郎選手(スポ4=熊本・済々黌)がここまで4戦2敗と不振とも言えますが、それについて思うことは

 2敗をしていたとしても次を抑えればいいという気持ちになってくれればなと。大竹さんが自分の前に投げていたらミスを自分がカバーできればいいなと思っているので、大竹さんや他の投手陣にも投げてもらえればなと。自分も後ろにいるので。

――ここまで全体的に振り返って良かった点としては何が挙げられますか

 あまりないのですが、ベンチワークですね。自分一人の話ではないですが、ベンチみんなで勝とう、チーム一丸となって勝ちたいという姿勢が見えているので、勝利につながればいいと思いますし、誰か一人がヒーローということでもなくチームで勝てているので、いいポイントかなと思います。

――悪かった点は

 勝利につながるような投球ができていないので、空き週で修正していければなと。

――現在も修正中だと

 今はもう修正というより調整ですね。土日があるので、早慶戦に向けて優勝できるような投球ができるよう調整していければなと思います。

――ここまで印象に残っている場面は

 初登板したあの法大戦の1死満塁ですね。その中でも自分の真っすぐが通用したにもかかわらずスライダーを投げて適時打を打たれてしまった、失点したというのが自分のレベルの低さを感じた瞬間だったなと。

――自信を持っている決め球はありますか

 平均的に全部使っていますが、主体となっているのはスライダーかなと。スライダーを主体に真っすぐを投げて三振というかたちです。

――試合で登板する前はかなり緊張しますか

 初登板の法大戦はめちゃくちゃ緊張して上がっていたのですが、投手陣には4年生が多いので、「おまえが普段通り投げれば抑えられるよ」と優しく声を掛けてくださいました。自分が1年生として開き直って全力で投げられているのは、本当に頼れる4年生や小島さんのおかげだなと。

――早大のユニホームに袖を通した率直な感想は

 伝統のある大学のユニホームに袖を通していることに責任感を持ちましたし、勝たないといけないという使命感がこんなに強いユニホームを着たのは初めてだったので。負けた時はものすごく悩まされますし、勝った時は一安心できるようなユニホームだと思います。本当に自分にとってはいい意味で奮い立たせてくれるユニホームなのかなと感じています。

――大学野球の難しさを感じることは

 高校と違って変化球を簡単に振ってくれないので、変化球を伸ばしていって、変化球で打ち取れればいいなと感じます。

――これからは武器を磨いていくと

 いろいろな球種を試しつつ、増やしていければなと。

――高校時代からの成長や、逆に高校時代の方が良かった点はありますか

 高校の頃の方がまだ制球力が良かったので、また高校らしくスピード重視ではなくてコントロール重視にしていければなと思います。球速は平均的に上がっているとは思いますが、その分制球が乱れているので、成長している部分はありますが退化している部分は退化していますね。

――球速が上がった原因は

 早大は本当に走り込みが多くて、そのうちにだんだんと下半身が強くなってきています。下半身を使って投げていると徐々にステップの歩幅が変わってボールが浮いてきて、スピードは上がりますがその分制球が、と。

「素敵な仲間ができた」

――仲のいい同期には誰がいますか

 やはりスポ推で一緒に入ってきた今西(拓弥、スポ1=広島・広陵)が。一緒に行動することも多くて授業も同じものを取っているので、仲がいい人は今西ですね。

――同じ寮には何人か1年生がいますか

 13人くらい入っているので結構いて、いろいろな人と話して。仲のいい同期が多いかなと思います。

――事前のアンケートで1年生のことを『素敵な仲間』と書いてくださいました

 ベンチに入っている自分と吉澤(一翔、スポ1=大阪桐蔭)をみんなで支えてベストプレーをさせようという気持ちが分かるようなサポートをしてくれています。素敵な仲間ができたと感じています。

――時間があるときはどのように息抜きをしていますか

 体を動かしたくないというのがあって(笑)。ビデオを見たり、友達とカラオケにいったりという感じで、いろいろな過ごし方をしています。

――ベンチ入りしている1年生が二人ということでどうしても上級生との関わりが増えるとは思いますが

 本当に優しい先輩が多くて、1個上の先輩方は頼れる先輩が多いので、思い切ってプレーできているかなと感じています。

――大学生活も1カ月半ほど経ちましたが、慣れてきましたか

 そうですね、徐々に慣れつつあるので、逆に中だるみしないように気を引き締めて生活していければなと。

――面白い授業はありましたか

 面白い授業・・・。特にないですね(笑)。常に授業中は必死なので・・・。楽しいと思う授業はあまりないです。

――学ぶことは多いですか

 たくさんあります。自分も教員を目指しているので、しっかり吸収して、将来教える立場になったら教えていければなと思います。

――入学前には練習と教職課程の両立が不安だとのお話もありましたが、今のところはいかがですか

 今のところは順調に取れています。まだ大丈夫ですね(笑)。

――早川選手にはたくさんのルーティンがありますが、できたきっかけは

 偶然が重なったのかもしれないのですが、試合を重ねていくうちに「この歌を聞いたら勝てる」とか「これを飲んだら勝てる」というのが自分の中で意識づけられてきました。それがルーティン化されたという感じで。前田健太投手(ロサンゼルス・ドジャース)が好きなので自分も真似してやっていることもあります。いい投手のやることを真似して自分もいい投手になれたらなと。

――ルーティンを崩すことはあまりないのですか

 やはり不安になってしまうので。一つ一つ確実にやって試合に臨む感じでやっています。精神安定剤ではないですが(笑)。

――前日の夜にスイーツを2つ食べるという習慣もあるようですが、以前の小島投手のどら焼きのように種類は決めていますか

 自分はエクレアとかシュークリームとかを食べて寝ますね。

――元から甘いものは好きですか

 好きというわけではないのですが、疲れていたら甘いものを欲しがってしまいますね。

――バスの中で聴くのは洋楽ですか

 QUEENの『I Was Born to Love You』とか『We Will Rock You』とか、テンションが上がってやる気が出てくる歌を聴いて球場に向かっていますね。

――自分でも細かいなと思うルーティンはありますか

 試合で着る道具が全部一緒で、試合用のソックスやアンダーシャツ、タオルが全部決まっているので、その日には絶対着なきゃいけないという。リーグ戦だと2日連続が多いので乾燥させるのは大変なのですが、そこだけはこだわっています。自分だけこだわっているかなというのはありますね(笑)。

――オープン戦のオレンジのグラブから黒いものに変わりましたが、道具にはこだわりがあるのでしょうか

 あのオレンジのグラブは大学日本代表(との壮行試合)の時にも使っていたのですがあまりいい印象がなくて。(当時)明大の牛島選手(将太、現JR九州)に打たれたのが決定打になっていて、あまり相性が良くないなと(笑)。今の黒いものは練習用のグラブとして使っていたので、試合に出させてあげようかなという感じですね。

――打ち取った後にはガッツポーズが出る場面が多いですが、それは自然と出ているのですか

 見せ物と言えば見せ物ですね。相手を気迫で圧倒する意味でやっているのであって、別にあそこまで喜ぶ必要はないのですが(笑)。パフォーマンスみたいなものですね。

「伝統のある一戦に自分の名を刻める」

本来の持ち味を見つめ直し、大舞台での好投を誓う

――早慶戦にはどのような印象を持っていますか

 高2の関東大会の時にテレビで大竹さんが投げた試合を見て、自分も早大に行こうと決めたのですが、それが優勝の懸かった早慶戦でした。自分に刺激をくれた試合だったなと感じています。

――自分がマウンドに立つことを考えていかがでしょうか

 本当に伝統のある一戦なので、そこに自分の名を刻めるということで、ベストプレーができるように調整しなくてはいけないですし、勝たなくてはいけないという使命を絶対に果たさなくてはいけないなと感じています。

――慶大打線の印象は

 小技でやってくるというよりはパワーでガツガツ押してくるイメージです。そこでパワーで対抗したら絶対に負けるので、うまく技術で逃げ切れればなと。

――そこに向けても投球術などが必要になってくると

 必要になってくると思いますし、変化球の精度も重要になってきます。甘いところに入ったら一発でホームランということもあるので、丁寧に調整していかなくてはいけないなと。

――警戒している打者は

 3、4、5番のクリーンアップですね。あそこは本当に危ないので、甘い球を投げないように、四球でもいいくらいの気持ちで際どいコースを攻めていければなと思います。

――特に柳町達選手(慶大)を意識しているとのことですが

 自分は左バッターがあまり得意ではなくて。(柳町選手とは)高校時代も戦っていて、3打席でヒットは打たれていないのですが全部ヒット性の当たりでした。警戒する怖いバッターだなと。

――早慶戦で求められる役割とは

 勝利につながるピッチングをしなくてはいけないので、打ち取るピッチングでテンポよくベンチに帰って、バッター陣が少しでも長く攻撃できるようにするのが自分のできることかなと。

――早慶戦までに強化することは

 強化するというよりは調整、調整なので。変化球の精度と真っすぐの高さの問題だと思っています。低め低めに集めるようなピッチングをしていって、早慶戦でも投げられるようにしていければなと。

――伝統の一戦という意識とリーグ戦の一環という意識ではどちらが強いのですか

 伝統の一戦という意識の方が自分の中では強いですね。やはりNHKで放送されるということは本当にすごいことだと思うので、伝統ある一戦の舞台に立てる喜びと責任感とを両方感じつつ試合できればなと思います。

――改めて、早慶戦に向けて意気込みをお聞かせください

 自分たちにできることは2連勝です。ベストパフォーマンスができるように来週1週間やっていければなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 熊木玲佳)

自身初の早慶戦でも冷静なマウンドさばきを見せる

◆早川隆久(はやかわ・たかひさ)

1998年(平10)7月6日生まれ。180センチ、70キロ。千葉県・木更津総合高出身。スポーツ科学部1年。投手。左投左打。オフの時には極力体を動かしたくないという早川選手。この前は同期の武友開聖選手(社1=東京・早実)と『ワイルド・スピード』を見たそうです