【連載】秋季早慶戦直前特集『ラストゲーム』 第4回 竹内諒

野球

 竹内諒(スポ4=三重・松阪)が勝てる投手になった。今まで鳴らしてきた力強い直球だけでなく、緩い変化球を用いることで生まれた緩急、さらには守備陣にとって守りやすいリズムでの投球が身に付き、勝てる投手へと成長した。夢だったプロへの道は一旦閉ざされてしまったが、学生生活の集大成となる早慶戦への勝利に気持ちは向かいつつある。運命のプロ野球ドラフト会議(ドラフト)から一夜、最後の大舞台を前にした今の心境に迫る。

※この取材は10月21日に行われたものです。

「打たれても単打で抑えられていることが春からの成長」

東大戦では自身初完封。早慶戦での活躍にも期待が掛かる

――ドラフトから一夜、今のお気持ちは

 指名されなかったのは自分の実力が足りなかったということなので、すごく悔しい気持ちでいっぱいです。

――今後は社会人で野球を続けられるということですが

 まだ早慶戦が残っているので、まずはそちらを頑張りたいです。しっかりと自分の投球ができるようにということを考えています。

――ホンダ鈴鹿というチームを選ばれた理由は

 やはり地元で野球ができるということが良かったですね。その点で選びました。

――今回のドラフト会議でも、ホンダ鈴鹿からは複数の選手が指名されていました

 そうですね。毎年プロ野球選手を輩出しているチームなので、そこは良いのかなと思いました。

――同期の石井一成主将(スポ4=栃木・作新学院)が北海道日本ハムファイターズから2位指名を受けましたが

 そうですね、2位という順位にはびっくりしました。同期がプロに行くのは素直にうれしかったです。

――ことしは投手の指名が多かったと思いますが、気になっていた選手はいますか

 やはり慶大の加藤拓也投手(4年)や明大の柳投手(裕也、4年)、星投手(知弥、4年)だったり、あとは立大の田村投手(伊知郎、4年)や澤田投手(圭佑、4年)はオランダでも一緒にやって、そういう人たちがプロに行くのはすごくうれしかったですし、そこで自分が呼ばれなかったのはすごく悔しい気持ちがありました。

――さて、学生としては4年生の秋学期ということですが、今はどのような生活を送っていますか

 午前中は練習をして、午後は自由な時間があるので練習に充てたり、自分の好きなことをしたりしています。

――卒業研究にも手をつけられていると思いますが、どのようなことに取り組んでいらっしゃいますか

 まだあまりできていないのですが、球速と身体の使い方の関係性についてを研究していこうと思っているところです。どの部位が強ければより速いボールを投げられるのかだとか、まだあまり考えてはないんですけど。

――練習中や練習後によく話す同期や後輩はいますか

 基本的には全員と話しますが、どうしても投手陣が多いですね。

――普段のキャッチボールは柳澤一輝投手(スポ3=広島・広陵)と一緒にされていることが多いように思いますが

 そうですね。柳澤と気が合うということもあるのですが、キャッチボールを含めアップは一緒に行うような感じです。

――今季は夏のオープン戦での好調さを買われて開幕投手を任されましたが、5回途中6失点というまさかの内容でした。試合後のインタビューで「身体の使い方がおかしかった」というコメントもありましたが、具体的には

 テイクバックが少し大きくなっていたと感じています。

――テイクバックが大きくなってしまったのは、より球速を出そうとしてしまったからですか

 そうですね。ちょっと力んでしまった部分がありました。

――気持ちの面での反省点はありましたか

 少し気持ちが入り過ぎたのかもしれません。もう少しリラックスして投げられればよかったかなと思います。

――続く立大2回戦では課題を修正し勝ち投手となりましたが、勝てたことは大きいですか

 やはり勝ちがつくのとつかないとでは全然違うので、ここから少しずつ乗ってきたというのはあります。

――投球の内容自体はいかが振り返られましたか

 5イニング目に2アウトを取ってから3連打で2点を取られてしまったので、そこは防げたかなと思います。それ以外はよかったと思います。

――今季の印象に残っている場面として、この試合の岸本朋也選手(スポ2=大阪・関大北陽)が同点適時打を放った場面を挙げられていましたが

 そうですね。あの場面はリードされていて、自分の負けが下級生の一打をきっかけに勝ちに転じたので、すごくしびれたというか。岸本とは一緒のジムに通っているのですが、その一打がうれしくて自分としてはすごく印象に残っています。

――次の東大2回戦では入学後初の完封勝利を挙げます

 あの試合は自分の中で今までで一番リズム良く、テンポ良く投げられたかなとは思っています。

――105球と投球数も少なかったですが、これは意識されていたことなのですか

 いえ、球数は意識していなかったです。結果、少なかったかなという感じで。

――いつものインタビューで「試合をつくる」とおっしゃられていますが、具体的な数値や特に意識されていることはありますか

 うーん。5回を投げて1失点か2失点だと良いかなというくらいですかね。もちろんゼロだったらいいんですけど、点を取られてもその都度最少失点で抜けられるようにと思っています。

――続く明大1回戦は今季のベストピッチングとも言える投球でしたが

 そうですね。しっかりと気持ちが入っていたと思いますし、絶対に負けないという気持ちが出ていたと思います。

――球数を多く投げさせるような攻めが見られたと思いますが

 打者の技術が高いと思いますね。追い込まれても簡単には三振をしないなと。すごく球数を投げさせられたので、結果として、今まで野球をやってきて一番投げたと思います。

――たしかに162球という数字は多いですね

 いつも球数は意識していないのですが、試合後にチームメイトに聞いて、少しびっくりしました。

――今季は昨季に比べて、被安打は増えた一方で被本塁打は5本から1本と減っています。このあたり、「最終的にゼロで抑えればいい」という理想の投球ができているのではないでしょうか

 本塁打を打たれていないということは、そこまでボールが甘くないということだと思うので、打たれても単打で抑えられているというのは春からの成長かなと思っています。

――明大3回戦は162球の熱投から中2日、さすがに疲れが出ていましたか

 そうですね。試合前の投球練習から少し体が思うように動かなかったので、抑えられるかなと不安なまま試合に入ってしまいました。ボール自体は悪くなかったのですが、打者からするとボールが見やすいフォームになっていたと思います。

――あの試合は継投策でいくというような指示は出ていたのでしょうか

 いえ、おそらく(内容が)良ければいけるところまでいったと思います。良くなかったので、すぐに代わりましたが。それは結果として、ですね。

――3失点を一気に奪われてしまいましたが、きっかけは投手である柳裕也主将への四球でした。もったいなさなどは感じられたのでしょうか

 そうですね、やはり。柳選手への四球があの試合(で早々に降板してしまったこと)の全てだと感じています。

――テンポが良くなったことが今季から変わった点として大きいと思いますが

 テンポはいつも意識していたつもりですね。やはり前はどこか遅くなってしまっていたところがあったのですが、今季から特別に意識し始めたことではないです。

――アンケートには「走者が出るまではテンポ良く」と答えられていますが、走者が出ると一つ一つの動きを集中して行うということですか

 はい。やはり(走者がいないときと)同じテンポで投げてしまうと打者にとっても合わせやすいですし、そこで一つ間を空けることで打者に合わせないように投げるようにしています。

――今季からバッテリーを組むことになった小藤翼捕手(スポ1=東京・日大三)へ投げやすいと答える投手も多いですが、どういった面で投げやすいとお考えですか

 まあ、1年生ではない(ような選手)ですよね。キャッチングもそうですしリードもそうですし、投げやすいというよりは信頼できるというニュアンスに近いと思います。リードにしても、小藤の出すサインを見たときにちゃんとした意図があるように思えますし、考えが自分とほとんど合うのでやりやすいと感じていますね。

――小藤捕手の肩力に関してはいかがですか

 そうですね。強いと思います。走者を出してしまっても(盗塁された際に)刺してくれると思って投げています。

――余談ですが、9人目の打者としてご自身の打撃に関してはここまでいかがでしょうか

 打てないですね・・・(笑)。

――打率としてはここまで3割という好成績を残されていますが

 いやあ、打てないですね。(投手の)球が速いです。なかなか自分のスイングができないです。

――今季の3安打も内2安打は内野手の前に転がった打球が内野安打となっているもので、外野への当たりではないですね

 そうですね。(安打になっているのは)たまたまです。

――小島和哉投手(スポ2=埼玉・浦和学院)も適時打を放たれたりと、投手陣の打撃も好調ですが

 そうですね。ピッチャーが打つと盛り上がるので。そういう意味でも勝ちに貢献できれば。

――アンケートで、投手が打ち込まれながらも野手に助けられているという試合が多いとの回答もありましたが

 そうですね。本当に助けられて自分も立教戦で勝ち星が付きましたし、打撃だけでなくて守備にも助けられてここまで来ていると思います。投手が足を引っ張っている試合が多いと思うので、早慶戦は投手が野手を引っ張って勝ちたいと思います。

――助けられているなと特に感じる野手はどなたでしょうか

 木田(大貴、商3=愛知・成章)ですね。自分が投げている時もそうですけど、あいつが捕ってなかったらピンチが広がっていたり負けていたりという試合が何個かあるので。ここ一番で良いプレーをしていますし、自分としてはすごく助けられている部分が大きいですね。

――木田選手を含め内野手の皆さんは、投げている際に声を掛けてくださりますか

 そうですね。特に誰がということはなく、全員が声を掛けてくれます。

「先発したなら最後まで投げ切りたい、投げ合っている投手に負けたくない」

――今季の慶大の印象はいかがですか

 一発長打があって、甘いところに投げてしまうと痛打を打たれてしまうのではないかと思っています。

――2年時の早慶戦では優勝の懸かっている試合の中、2回途中で降板し慶大に優勝されてしまったと思いますが

 そうですね。悔しい思い出としてあります。初めて早慶戦で投げたのがそのときで、その喜びとそこで実力が出せずに降板して慶大に優勝を奪われてしまったという悔しさとどちらもあるので、すごく印象深くて思い出のあるシーンですね。

――その年の秋は3回戦に先発登板されて見事に抑えられたと思います

 そのシーズンの早慶戦では1、2回戦はリリーフとして3回戦は先発として投げて、大観衆の中で3試合も投げられて幸せな気持ちになりましたし、当時の4年生の最後の試合だったので4年生をしっかり送り出せるようにといいピッチングを心掛けていました。

――4年春での完投は今まで目指してきたものだったと思いますが

 そうですね。完投というものはずっと目指してきたものでしたし、その目標がかなってうれしかったですね。チームが勝ってよかったと思います。

――慶大はどちらといえば得意ですか、苦手ですか

 苦手です。各シーズンを通して得意ではないですね。

――打撃に関しては、早慶戦ではどのような目標がありますか

 なんですかね。まだ自分はホームランを打ったことがないので。毎試合狙っているんですけど、出ないですね。

――慶大の選手で親しい方はいますか

 加藤選手(拓也、4年)と沓掛選手(祥和、4年)ですね。加藤はオランダ遠征の際に2人部屋で同じ部屋だったので、すごく親しくなりましたし、沓掛ともよく話しますね。

――このままいけばその加藤拓投手と投げ合うこととなりますが

 どうですかね、まだ誰が(1回戦で)投げるかは分からないので。

――沓掛選手とは対戦があると思いますが、どんな打者だと思っていますか

 バッティングに関して、レベルの高い打者だと思っています。

――慶大打線のキーポイントはどのあたりにあるとお考えですか

 やはり山本瑛大(4年)がよく当たっているので、その前に走者を出さないように意識してやりたいと思います。

――早慶戦での目標が「最後までマウンドにいたい」とのことですが、最後までマウンドにいたい理由とは

 うーん、なんでですかね。やはり先発したなら最後まで投げ切りたい、投げ合っている投手に負けたくないという思いがあるので、最後まで投げ切ってチームを勝たせたいと思っています。

――最後に、早慶戦の具体的な目標を教えてください

 そうですね・・・。目標というよりかは、チームが勝てればいいと思っているので、その中でチームの勝利に貢献できるように最低限やることは頑張ってやるつもりではいます。

――ありがとうございました!

(取材・編集 菖蒲貴司)

大学四年間最後のマウンドを悔いなき投球で締めくくりたい

◆竹内諒(たけうち・りょう)

1994年(平6)7月2日生まれ。180センチ。84キロ。三重・松阪高出身。スポーツ科学部4年。投手。左投左打。四年間でのベストピッチを問うと、「どの試合も良い思い出で選べない」。「逆にどれだと思いますか」と聞いてくださったので、「2年秋、立大3回戦でのロングリリーフだと思います」と答えたところ、「それも良かったですね、それがベストかもしれない」と、どこか選びかねる答え方をされていました。1年時より神宮で投げている竹内投手ですが、「思い出」と言ってしまうほどに過去の好投が昔に感じられているようでした。最後の「思い出」は良いものとなりますように・・・