【連載】秋季リーグ戦開幕特集『アゲイン』 第6回 木田大貴

野球

 早大は東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)の3連覇を目指していたが、最終成績は勝ち点2の5位。チーム打率は2割3分4厘と低迷した。しかし、その中でリーグ4位のハイアベレージを記録した選手がいる。三塁手の木田大貴(商4=愛知・成章)だ。ことしからレギュラーに定着した『守備職人』が、バットで飛躍的な成長を遂げた理由とは――。秋季リーグ戦のキーマンに迫る。

※この取材は8月26日に行われたものです。

『間』を追求した打撃

――まずは春季リーグ戦についてお聞きします。8番・三塁手で起用された開幕戦を振り返ってみていかがですか

 開幕戦ということもあって多少の緊張はありました。ただ、それ以上に神宮に立てた喜びやうれしさがあったので、ガチガチになるというよりもその雰囲気をしっかり味わえたと思います。

――緊張もされたというお話がありましたが、打席ではどのように気持ちをコントロールされたのでしょうか

 自分でももっとガチガチになるくらい緊張すると思っていたのですが、(気持ちを)コントロールするほど緊張しませんでした。普段通り、自然にできた感じがします。

――普段通りのプレーができたのは、開幕前までにしっかりと準備をすることができたからなのでしょうか

 自分のやるべきことはやったので、開幕に向けてしっかりと調整ができました。不安もありませんでしたし、いいかたちで(春季リーグ戦に)入れたと思います。

――東大2回戦では2安打を放ちましたが、開幕から2カードは12打数で6つの三振を喫してしまいました。原因は何だったのでしょうか

 打席の中で「こういうふうに打ちたい」とか「こうしたい」といった自分のイメージ通りに振ることができませんでした。相手の投手に合わせて打席に立ってしまい、自分の間で打つことができなかったのが一番の原因だと思います。

――春季リーグ戦直前のインタビューでは、「レギュラーかどうか決まったわけではない」とおっしゃっていましたが、打撃で結果が残せず焦りはありましたか

 後ろに控えている選手は何人もいましたし、自分がどうしても結果が出ないという中で不安もありましたね。

――その中で法大1回戦では2安打を放ち、結果を残しました。ご自身の中で何か取り組まれていたことはありますか

 次のカードに臨むにあたって、1週間に映像を見る回数を増やしました。どの投手が来てもファーストストライクから自分のスイングができるように、タイミングをとることを意識していました。今までは投手に間を合わせてしまった部分を、「いかに自分の間にボールを入れてくるか」「自分のスイングができるようにするか」を1週間しっかりと準備できました。自分の中である程度、こういうふうにやっていけばいいというのが分かってきて、それが結果的に安打につながったので良かったと思います。

――タイミングを合わせるために、始動を早くしたということでしょうか

 始動を早くするのはもちろんですが、足を上げるタイミングなどが投手によって投げてくるまでの間が違うので、全部同じタイミングで打っていると合わなくなってきます。投手に合わせてしっかりとタイミングをとることを意識してやっていました。

――一方、その試合では髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)からは「走者を置いた場面で1本が欲しい」というコメントがありました

 セットポジションというのが、自分の中で一つ課題としてあります。走者がいるかいないかというよりも、ワインドアップとセットポジションで投手のタイミングが違うことが問題です。自分はどちらかというと足を上げてゆったりと打つタイプなので、投げてくるまでのタイミングが早いセットポジションだとどうしても時間が足りなくなってしまいます。 準備ができない打席が多くて、現時点でも投手がセットポジションで投げるときの打撃を課題としてやっています。

――それを克服するために取り組まれていることは何でしょうか

 投手がワインドアップのときとセットポジションのときでタイミングの取り方を変えています。どちらでも対応できるように足を上げないタイプも試しています。

――同2、3回戦では失点につながるエラーを犯してしまいました

 今まで守備を評価されていたので、自分はエラーをしていけない立場だと思っています。自分のミスが直接勝敗に関わっていた部分もあったので、それは自分の中でも引きずっていて反省点も多かったですね。

――いずれも送球がそれましたが、原因は何だったのでしょうか

 確実にアウトにできるというのが捕った段階で分かって、そこで「普通に投げればいい」と少し余裕を持ちすぎてしまいました。油断ではありませんが少し安心してしまい、自分の送球までのリズムが狂ってしまいました。

――明大1回戦では、第2打席に同点に追い付く貴重な本塁打を放ちました

 あの本塁打はたまたまです(笑)。その前の打席は、相手の柳投手(裕也主将、4年)が真っすぐで攻めてきたところをなかなか捉えることができずに左飛でした。ただ、初球から自分のスイングができたことが第2打席に大きく響いてきたと思っています。自分が打撃で一番大事にしているのは初球から積極的に自分のスイングをすることで、それが第2打席でもできました。変化球にもうまく反応することができたので、一番自分がやりたいようなスイングができた試合だったと思います。

――本塁打を打った柳投手にはどのような印象をお持ちですか

 真っすぐが速いですよね。捉えたと思ったのが全部ファールになってしまいます。スピンがかかっているので差し込まれました。第1打席は自分のスイングができていても打てませんでした。真っすぐを打てないとダメだと思うので、秋は結果を出します。

――公式戦では初めてとなる本塁打でしたが、打ったときのお気持ちを教えてください

 打った瞬間は入るとは思っていなくて、二塁まで全力で走っていました(笑)。走っている途中でスタンドが沸いていて、それで入ったことが分かりました。びっくりしたのが一番ですね。

――周囲の反応はいかがでしたか

 「あいつが打ったよ」みたいな感じで、チームメートが一番びっくりしていたんじゃないですかね(笑)。温かく迎えてくれました。

――同2回戦では2安打と1犠打を記録し勝利に貢献されましたが、慶大が敗れたため優勝の可能性はなくなりました。そのときはどのような心境でしたか

 もちろん悔しいという気持ちはありましたが、法大戦で勝ち点を落としてしまうなど自分たちがやりたいことができず、だからこそ優勝がないというのがよく分かりました。優勝がなくなった段階で秋につなげなければいけないという話し合いをチームでしました。そのミーティングでは、自分たちのペースで野球をすることがいかに大事か分かりました。

――モチベーションを維持するのは難しかったと思いますが、いかがでしょうか

 優勝をずっと目指してやってきたので最初は引きずったのですが、残りの試合もあったので切り替えました。

――慶大戦ではコンディションが整っていなかったと伺っています

 体調的なコンディションはあまり良くなかったですね。

――具体的にはどのような問題があったのでしょうか

 ケガというわけではないのですが、明大戦ごろからちょっと腰に違和感があって、それが(慶大戦まで)残っていました。

――その中で、1回戦の第2打席から翌日の2回戦の第3打席まで7打席連続安打を放ちました

 早慶戦に初めて出て、あの大観衆とすごい応援団の中で試合ができて自然と自分の中で思い切りよくできました。応援に後押しされた部分があって、あの試合は迷いが一切なかったです。打撃だけでなく走塁や守備でも迷いなくやれたのが一番大きかったと思います。

――2回戦では高校時代まで慣れ親しんだ1番での起用でした

 もちろん7番や8番よりも1番を打った方がいいと思いますし、自分としてもうれしかったですね。

――「勝たなければ意味がない」とおっしゃっていた慶大戦で、勝ち点を取ることができました。振り返ってみていかがでしょうか

 優勝がなくなっても早慶戦というのは自分たちの中でも特別です。最低限、勝ち点を取ることができたので面目は保てたと思います。それでもやっぱり悔しいシーズンでしたね。

――ここからは春季リーグ戦を通していくつかお話しを伺いたいと思います。まず、勝ち点2、5位という結果をどのように受け止めていますか

 5位という結果は悔しいですが、これが現状だというのが一番にあります。自分たちの実力は5番目で弱いチームだということを素直に受け入れるところから、秋に向けた練習が始まりました。

――一番大きな課題は何だとお考えでしょうか

 野手は他のチームと比べて打てていないので、まずは打撃が第一の課題としてあります。投手も13本の本塁打を浴びていて、抑える力がありませんでした。野手だったら打撃ですし、投手も比較的打たれていた試合も多かったので、そこは反省したいです。

――シーズンを終えてリーグ4位の3割3分3厘というハイアベレージを残しました

 自分もまさかこんなに打てるとは思っていなかったのでびっくりしています。たまたま早慶戦で固め打ちができて打率が上がっただけなので、全体を通してもっと打たなければいけない試合はあったと思います。早慶戦がなければ2割台だったと思うので、打率に対して満足していません。3割を打ったことで秋はそれ以上に打たなければいけないなという責任を感じています。

――意識されていたという右方向への打撃はできましたか

 リーグ戦中にも右翼方向に何本か長打が出ましたし、どういうバットの出し方をすれば逆方向に強い打球が飛んでいくのかが少しずつ自分の中でつかめてきたのは良かったと思います。

――長打も多く、二塁打はチーム2位の4本でした。長打を打つことができた要因は何でしょうか

 もちろん力は大切な部分だとは思うのですが、打撃は力というよりもどちらかといえばタイミングの方が大事だと思っています。実際、自分は力がないのですが、タイミングさえしっかりと合えば打球は飛んでいきます。タイミングがうまくとれたときに長打になって、たまたまそういう結果になったのだと思います。

――真鍋健太選手(スポ4=東京・早実)に次ぐ、チーム2位の犠打数を記録しました

 バントはチームとして課題の一つに挙がっているのですが、自分はバントに対して苦手意識はないので(サインが)出たらこなすだけです。

――一方、自信のあった守備ではチームワーストの4失策でした。ご自身の守備を振り返ってみていかがでしょうか

 打撃は思ったよりいい結果が出たのですが、守備で4失策はチームに大きな迷惑をかけてしまったのでそこを一番に反省しました。

――重視されていた捕球は安定していました

 捕るまではいいかたちができていたので、あとはここからいかに足を使って送球につなげていくのかが課題ですね。

「最高のかたちで終えたい」

夏季オープン戦では4番を任されるなど打撃面でも急成長を遂げた

――次に夏季オープン戦に移ります。打撃で結果を残していますが調子はいかがでしょうか

 結果は出ていますが、あまり自分の中で調子がいいという感じはしていません。最初は何で打てているのか分かりませんでしたし、結果が出ているとそれで満足してしまうところもありました。逆にここ数試合は安打が出ていませんが、自分の課題や「こういうふうに打ちたい」「こんなスイングをしたい」というのが見えてきて、それを思い切り試すことができています。そういう意味では充実したオープン戦だと思います。

――他の早大の選手についてはどうご覧になっていますか

 打撃の調子が上がってきている選手も多いので悪くないと思います。あとはいかに点を与えないかですね。バッテリーを含めた守備で課題が多いと思います。

――新潟で行われた東京六大学オールスターゲームを振り返ってみていかがですか

  オールスターは初めてだったのでうれしかったです。やはりレベルの高い選手しか集まっていない試合でした。他の選手たちといろいろ話をする中で、「そういう考え方をするんだ」と勉強になる部分が多かったです。

――秋季リーグ戦では何が重要になるとお考えでしょうか

 とにかく点を与えないことが大事だと思います。

――個人的な目標は何でしょうか

 まずは失策を0で抑えたいです。打撃に関しては春よりもいい成績を残したいというのはあります。具体的な数字というのはありませんが、自分の納得いく打席を増やしたいです。三振をしてもしっかり自分のスイングができた三振と、相手に合わせてしまった三振では意味が違ってくると思うので。

――他校で警戒している選手はいますか

 明大の柳投手ですね。

――ワセダでキーマンになる選手は誰だと思いますか

 それはやはりキャプテンの石井(一成、スポ4=栃木・作新学院)だと思いますね。「あいつに回したら何とかしてくれる」という頼りになる存在なので一番期待しています。

――最後に秋季リーグ戦に向けて意気込みをお聞かせください

 春は悔しいシーズンに終わってしまいましたし、ラストシーズンなので最高のかたちで終えたいです。

――ありがとうございました!

(取材・編集 渡辺新平)

悲願のリーグ優勝へ、攻守両面で活躍が期待される

◆木田大貴(きだ・ひろたか)

1994(平6)年7月18日生まれ。178センチ、70キロ。愛知・成章高出身。商学部4年。内野手。右投右打。昨年まで同じポジションを守っていた先輩の茂木栄五郎選手(平28文構卒=現東北楽天ゴールデンイーグルス)が、8月25日にプロ入り初となるランニング本塁打を放ちました。このことについて木田選手に感想を聞くと、「さすがです」とニヤリ。先輩の活躍に刺激を受けているようでした!