【連載】秋季リーグ戦開幕特集『アゲイン』 第1回 髙橋広監督

野球

 東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)5位に沈んだ早大。5位となったのは実に10季ぶりのことで、リーグ戦3連覇を目指したチームにとっては屈辱のシーズンであっただろう。就任後初の低迷期に、髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)はこの夏『競争』をテーマに掲げ、チームづくりを行ってきた。チームの現状やこれからの展望について、開幕を目前に控えた指揮官に迫る。

※この取材は8月26日に行われたものです。

「全体を見ながら競争させる」

――きょうは先発の大竹耕太郎投手(スポ3=熊本・済々黌)が序盤に打ち込まれてしまいましたが、どのようにご覧になっていますか

 良くないですよね。きょうだって全く制球もない、キレもない。少しフォームも変化しているんですよね。ああいう投球ですからいいところはないですよね。あと2週間ということを考えると、状況的には非常に厳しいですよね。それでは困りますけどね。

――もし先発から大竹投手が抜けるとなると厳しいのではないでしょうか

 そういう想定はしていないのでね。2週間あるといえばあるわけですけれども、早くいい状態に戻していってくれないと困りますね。オープン戦の最初の頃はそれほど悪くなかったですけれどね。

――不調の原因は何か考えられるでしょうか

 こういう暑さですから、登板機会が増えると蓄積疲労のようなものがあるかも分からないですけどね。

――夏季オープン戦はどのようなプランで戦われているのでしょうか

 固定観念にとらわれず、メンバーを固定せず、基本的には打順も調子のいい人をということで。全体を見ながら競争させて、積極的にポジションを取りにいく姿勢、気持ちを持たせて、結果を残した人が現状残ってきているという状況ですね。

――特にオープン戦を通して目立っている選手はいますか

 きょうは調子が悪かったですけど、4番の木田(大貴、商4=愛知・成章)は東北楽天ゴールデンイーグルス戦でも1軍の投手から左翼、右翼へ2本、本塁打を打って。安定して好調な状態ではありましたけど、きょうの状態を見ると少し心配ですよね。

――木田選手の好調の要因はどのあたりにあると思われますか

 やはり春(春季リーグ戦)の自信でしょうね。早慶戦あたりで打って、打率はワセダの中で真鍋(健太、スポ4=東京・早実)と木田が3割を超えて、木田はベスト10にも入って。そういう自信から来るものではないでしょうか。

――また1年生の富田直希選手(教1=東京・早実)、小藤翼選手(スポ1=東京・日大三)の起用も目立っています

 捕手は吉見(健太郎、教3=東京・早実)で安定しているとは思いますけど、送球などの面で少し小藤の方が上回り始めたので、いい意味で競争になってくると思いますね。

――今後を見据えた上で、2人の選手を併用していくのか、またはどちらかに絞っていくのかどのようにお考えですか

 現状では両立ですね。春は吉見一本でいきましたけど、結果が出ませんでしたので。彼も初めてだったので、秋に向けては経験というところでは吉見はあるので、その時の状態ですね。2週間まだゲームをやりますので、両方の状態を見つつ、また捕手に関しては投手の意見も大事ですからね。

――オープン戦期間中、かなりの試合数をこなしている印象を受けますが、何か狙いや意図などはあるのでしょうか

 いろいろな選手の出場機会をつくらないと、競争心理も生まれないので。打順も固定せずに、いろいろと変化をさせてきて、実際はまだ固定できてはいないですけどね。それでも最近は石井(一成主将、スポ4=栃木・作新学院)や中澤(彰太副将、スポ4=静岡)が少し(状態が)上がってきたから、中軸を打つようになっていますけど、一時は下位を打っていましたから。4年生でもあるし、経験者でもあるので、打撃では引っ張ってくれないと困りますけどね。

――打順の模索が続いている中で、何か見えてきた点などはありますか

 まだ分からないですね。それほどパンチのある打線ではないですから、長打を求めず、つないでつないでというところで、走者を置いてからの打撃というのがね。もちろん相手の投手もいいですけど、そういうところで一本の適時打が出て、それを守り切れるような試合をしないと、いまのワセダは打って打ってという大量点は望めないと思いますから。

――打順を組む際には、まずは何番から決めていくなどあるのでしょうか

 ケースバイケースですね。例えば木田がこのまま好調であれば4番で出ていくし、また石井と代わることもあるでしょう。1番も固定されていないですからね。真鍋の故障も大きいですけど、やっとここへきて試合に出場できるようになってきたような状態で、まだまだ完治ではないですし。予定していた加藤(雅樹、社1=東京・早実)を打線の一角にと思っていましたけど、ケガで戦列を離れていますから。

――加藤選手を打線に組み込む場合、どこで打たせたいというプランはあったのでしょうか

 それは状況ですね。彼がオープン戦を消化して、どれくらい打つかなということで最終的には決めようと思っていました。中軸近くを打たせようかなという気はありましたけど、全くオープン戦も出られていないですから、リーグ戦も無理だと思いますね。

――故障者が多い中で、選手起用の面で頭を抱えてしまうこともあったのではないでしょうか

 いやもう、使える選手が限られていますからね。加藤に関しては、期待していたけど実際は期待値に応えていないかもしれないですしね。ずっとやっていて結果が出せなくて、ベンチから外れていた状況があったかも分かりませんし。あくまでこちらの期待値ですから。

――激しいポジション争いが繰り広げられている中、二塁はどの選手が中心になっていくのでしょうか

 基本的には真鍋で、と思っていますけど、彼が間に合うかどうでしょうかね。

――投手起用については、小島和哉投手(スポ2=埼玉・浦和学院)を先発と救援の両方で起用されていますが、今後の方針はあるのでしょうか

 大竹の今後の2週間の状態次第でしょうね。大竹を後ろへ持っていくよりかは、小島が一番後ろの方が安定していいように思えますけどね。右の北濱(竣介、人3=石川・金沢桜丘)と黒岩(佑丞、スポ3=早稲田佐賀)に関しては、セットアッパーでしょうね。

東京六大学選抜では早大の選手は端役

チーム再建へ、その手腕が試される

――ことしも東京六大学オールスターゲームが行われました。髙橋監督はベンチでどのような役割をこなされていたのでしょうか

 バッテリー担当で、投手の状態を見ていました。(登板の)順番も決まっていますのでね。

――他大の中で目を引く選手はいらっしゃいましたか

 他大の投手は安定していますよね。この間(オランダ・)ハーレムにも六大学選抜で行ってきましたけど、残念ながらワセダの選手は脇役どころか端役ばかりですもんね。主役には誰もいなかったですよね。

――秋に向け警戒すべき選手などは

 やはり投手陣は明大の柳(裕也主将、4年)、星(知弥、4年)。慶大も非常に良かったですね。打者は法大の金子(凌也、4年)、森川(大樹主将、4年)の2人は良かったですよね。法大は投手でも菅野(秀哉)が良かったですね。

――夏には甲子園、また高校日本代表との試合もございましたが、高校生で注目の選手はいらっしゃいますか

 甲子園で活躍した選手ばかりでしたからね。ただ、甲子園に出ていなかったけど良かった選手は3番を打っていた鈴木(将平、静岡高3年)ですね。打撃では鈴木と4番の九鬼(隆平、熊本・秀岳館高3年)は良かったですね。

――早大2軍ともオープン戦で戦いましたが、あの試合の結果(●4-5)については

 まあ、あれは新人の試合ですからね。ベストメンバーではないので。私が監督をしていた2年前に比べると、ことしの方が注目されている選手が多いですよね。報道陣も多かったですしね。アジアだったら十分勝てる選手がそろっているので、楽しみですね。

――猛暑が続いていますが、髙橋監督ご自身も体力的に厳しい日々なのでしょうか

 そうですね。照り返しがあるんですよね。ベンチに座っていても、人工芝からの照り返しで直射日光が当たっていないのに焼けて、顔が火照る感じがありますね。一定の気温ならそうでもないんですけど、オランダに行ったり、そこから帰ってきて3日でソウルに行ったり。この夏いろいろあちこちに行って、気温の差が激しいんですよね。オランダは最低気温が14、5度で、1日の中でも気温差が10度くらいあるんですよ。その中で帰ってきて、ソウルに行ったらまた高温で。体調管理も難しいですね。

――オランダはやはり相当違うのですか

 違いますね。22時過ぎまで日が沈まないので、19時からナイターといっても昼の状態でずっと試合ができるわけですからね。22時半くらいになったら少し暗いかなという感じですね。日が昇るのは日本と一緒くらいですからね。

――ではこの夏は世界各国を転々とされて多忙だったということですね

 たまたま日程的にそうなってしまったんですけどね。オランダに2週間行って、帰ってきて3日間日本にいて、また3日間ソウルに行って(笑)。結構いろいろ行きましたね。4、5日徳島にも帰りましたね。

「一戦必勝。それが優勝につながっていく」

――秋季リーグ戦に向けてもやはり『守り勝つ野球』というのが根底にあるのでしょうか

 理想はそうですね。そんなに攻撃力、得点能力がないので、つないでつないで2、3点取って、それを守り切るという野球をしないと勝てないと思いますね。春はそういう歯車がかみ合わなくて。投手が抑えた時は打線が打てなくて、打線が4、5点取ったときは投壊してしまって、というゲームが多かったですね。逆の現象が起これば昨年のように勝てるんですけど、ことしはかみ合わせが悪かったですね。でもそこには何か原因があるはずなのでね。基本的には2、3点を争うロースコアの状態で勝っていくという試合をしないと。得点能力は他大に比べるとかなり落ちると思いますね。

――かみ合わせが悪かった原因として、現状ではどういったことが考えられますか

 やはり大竹の不調でしょうね。

――やはりチームの柱が機能しないと状況も厳しいということでしょうか

 それを私は固定観念で持つなと言っているんですけどね。石井が4番でなければいけないとか、大竹がエースでなければいけないとか。それを外すからといってオープン戦では打順を入れ替えたりしているんですけど、彼らの中にはやはり『大竹でなければ』という感覚があるんですよね。「一番調子のいい選手がエースだよ」と言うんですけどね。

――固定観念を持たないというのは監督ご自身のポリシーなのでしょうか

 そうですね。調子の良いやつが出ればいいという考えですから。去年メンバーを替えなかったのも、替えようがなかったんですよね。例えば今回の春の中澤もそうですよね。「中澤が打てないから替えたら」と言いますけど、じゃあ中澤の守りを抜きにして誰を使うんだとなった時に誰もいないんですよ。別に打てなくても中澤が守ってくれたらいいわけですから。

――目の前の一勝と長期的な勝利、両立が難しいと思いますが

 そうですね。でもやはり目の前の一勝でしょうね。それの積み重ねですから。

――下級生の起用についてはどのように考えていますか

 やはり経験値が少ないですからね。使ってみないと分からないので。ここ(オープン戦)でできていても、じゃあ神宮でできるかといえばなかなかできないですから。できる選手もいますけど、使ってみないと分からないですね。でも今出ている富田や小藤は東京の子なので、神宮球場で戦っていますからね。地方から出てきた子に比べれば慣れはあるとは思いますけど、高校と大学でまた雰囲気も違うのでね。

――では秋もまだ固定せずに戦っていくというかたちでしょうか

 その時の状況でしょうね。ポジションにもよりますしね。中澤みたいに守りだけでもチームに貢献してくれる選手もいるのでね。みんな打つ方に期待しますけど、彼以上の守りはないですから。替えることは無理ですよね。

――秋の投打のキーマンを一人ずつ挙げるとするならば誰でしょうか

 投手はやはり大竹でしょうね。打線はどうでしょうね、難しいな。4年生の石井、中澤、木田…。一人に絞るのは難しいですね。結局ワセダは4年生が引っ張らないと駄目ですね。

――やはり気になるのは打線ですが、このまま開幕までといったところでしょうか

 木田が調子をキープすれば4番でしょうね。また石井と入れ替わる可能性もありますしね。石井も中澤もアベレージを上げていますけど、元の打順に戻るとまた下がるかも分からないし、アベレージの高い人を中心に置くかたちにはなりますね。春のように石井が4番といった固定観念は私自身は持たないし、入れ替わっているとは思いますね。

――つないでいく打線の中でキーになる打順などはございますか

 イニングが変わればみんな変わっていくのでね。軸になる人がいてくれたらいいですけど、そこまで現状では確定できる打者はいないのでね。それぞれがチャンスで打てる打者になってくれればいいですね。

――春は5位という結果でしたが、優勝に向けては何が必要だとお考えでしょうか

 やはり投手の防御率でしょうね。明大は投手の防御率が良くて、打撃は3番目くらいでも優勝しているわけですからね。打ち勝つというのは現状の打線では厳しいので、点をやらないロースコアで。1、2点の勝負になりますよね。3点は柳投手からはなかなか取れないと思います。そういう意味では、春は柳を(マウンドから)降ろしたという点で素晴らしかったですけど、そこから勝ち切れていないですよね。

――残り2週間でチームとしてはどのように仕上げていきたいでしょうか

 無駄な点はやらないとか、ミスを減らすとか。攻撃においても守備においても、まずはミスを減らすことですね。

――最後に秋の目標を教えてください

 やはり一戦必勝でしょうね。それが優勝につながっていくと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 井口裕太・中丸卓己)

『一戦必勝』。いつ何時もチームの根幹は変わらない

◆髙橋広(たかはし・ひろし)

1955(昭30)年2月4日生まれ。愛媛・西条高出身。1977年(昭52)教育学部卒業。早大野球部第19代監督。まとまった休みは年末年始のみで、それ以外は毎日のように監督業をこなしているという髙橋監督。リフレッシュは風呂、サウナに入ること。ただ夏に入り体調が優れず、最近はサウナにも入れていないそうです。これから涼しくなる季節、髙橋監督がまたサウナに復帰されることを願っています。