新生ワセダ始動!記念の日を勝利で飾る

野球
TEAM
全慶大
全早大 ×
(早)竹内、○奈須、田中-土屋、吉見
◇(本塁打)熊田(二塁打)東條、熊田

 『四冠』達成にあと一歩のところまで迫りながらも、わずかに及ばず涙をのんだ明治神宮大会決勝戦。敗戦の悔しさもまだ残る中、早大野球部初代部長・安部磯雄氏の生誕150年を記念し、両チームのOB選手を交えての全早慶戦が行われた。序盤は全慶大に先制を許し、主導権を握られるが、5回に熊田睦(教2=東京・早実)のソロ本塁打で1点差に詰め寄る。続く6回には熊田が今度は勝ち越しとなる適時二塁打を放ち、勝ち越しに成功。8回にも相手のミスから追加点を挙げた新生ワセダが初陣を勝利で飾った。

 新チームの船出に先発マウンドを託されたのは竹内諒(スポ3=三重・松阪)。完全復活を期する左腕だったが、この日も不本意な投球を見せてしまう。初回に安打を集中され、あっさり先制点を許すと、4回にも追加点を献上。そして、毎回のように走者を背負い、守りのリズムができないまま迎えた5回には最大の試練が待っていた。四球と連打で二死満塁のピンチを招くと、鋭い打球が左翼を襲う。しかし、これを長谷川寛(社2=宮城・仙台育英)がダイビングして好捕するビッグプレーが飛び出し、3点目は許さない。6回からは奈須怜斗(社2=宮崎・延岡学園)が登板。力強い直球と鋭く曲がるスライダーがコースに決まり、打者6人を無安打に抑える好投を見せる。最終回に3番手の田中龍之介(人3=兵庫・滝川)が1点差に詰め寄られるも、巧みなけん制球で一塁走者を刺しゲームセット。少ないリードを守り切り、宿敵との接戦を制した。

勝ち投手となった奈須

 序盤は全慶大先発の中林伸陽(JFE東日本)の前に打線が沈黙。スコアボードにゼロが並んでいく。しかし、5回に代わった投手の出鼻をくじくかたちで反撃を開始。この回先頭の熊田が引っ張った打球は一直線に右翼ポール際に飛び込むソロ本塁打となり、まずは1点を返す。それまで安打すらなかなか出ない中で沈んでいた一塁側ベンチが大いに沸き、球場に詰めかけた多くのファンも歓声を上げる。続く6回には1死二塁から佐藤晋甫(教2=広島・瀬戸内)が右前にしぶとく落とす適時打で同点とすると、1死後にまたしても熊田が右翼線を破る適時二塁打を放ち、勝ち越しに成功。2打席連続で勝負強さを発揮し、塁上で思わず白い歯がこぼれる。その後、8回にも四球の走者が暴投で生還し4点目を挙げた。

安部磯雄記念球場第1号本塁打を放った熊田

 リーグ戦の春秋連覇に加え、大学日本一の座に登り詰め『四冠』達成に限りなく近づいたことしのワセダ。その原動力は紛れもなく引退した4年生だ。その4年生が抜け、入れ替わったメンバーで戦う初戦に苦しみながらも勝利してみせた。「ことしは4年生のおかげで良い経験をすることができた。今度は自分たちが引っ張っていかなければいけない」(石井一成、スポ3=栃木・作新学院)。今後は経験者の石井を始めとする3年生を中心に、一から強いチームを作っていくことが求められる。また、この日は『安部球場』の名が復活した記念の日。ワセダの野球の礎を築いた先人に勝利を報告し、ワセダは次の時代へ新たなスタートを切った。4年生が残した財産と、最後の最後に味わった悔しさ。それらを受け継ぎ、さらに強くなったワセダの野球を見せてほしい――。安部先生もそう願っているに違いない。

(記事 郡司幸耀、写真 川浪康太郎)

☆伝統の重みを感じる一日に

祖父・磯雄氏について語る安部幾雄氏

 この日は全早慶戦と共に、生誕150年を迎えた早大野球部初代部長・安部磯雄氏に関連した催しも開かれた。試合前の講演会には多くのOB・選手が参加する中、安部幾雄氏らが登壇。安部磯雄氏の人生や、いまもなお脈々と受け継がれている教えなどについての講義が行われた。また、その後には早大東伏見グラウンドの名称を新たに『安部磯雄記念野球場(通称・安部球場)』と変更する命名式も行われ、正式に『安部球場』の名が復活を遂げた。1901年(明34)の野球部創部直後から早大は、戸塚球場を本拠地として活動。映画にも描かれた『最後の早慶戦』など、球史に残る試合もここで行われた。その後、名称は安部球場に変わっている。しかし、1987年(昭62)に練習の場を東伏見に移転した際、野球部の寮である『安部寮』は名前を引き継いだものの、球場名は継承されることはなく、そのまま30年近い時を過ごすこととなった。そして、ことし安部氏の生誕150年を記念し名称が変更。生まれ変わった球場で新チームのスタートを切ると共に、いま一度110年以上にわたる早大野球部の歴史を再認識する機会となった。

黄字は打点付き

全早大打者成績
打順 守備 名前
(三) 東條航 .500 四球    右2    空振    四球      
(二) 真鍋健太 .000 三ギ    遊ゴ    一ゴ    四球      
(遊) 石井一成 .000 見振    一ゴ       四球 中飛      
(中) 大野大樹 .000 投ゴ      二ゴ    一ゴ    四球   
(一) 佐藤晋甫 .333    三失    遊ゴ    右安    一ギ   
(左) 長谷川寛 .000    捕邪    中飛    見振    空振   
(指) 熊田睦 .667    左飛       右本 右2    四球   
  走指 小野寺旭 .—                        
(捕) 土屋遼太 .000    遊ゴ       右飛            
  宇都口滉 .000                二飛         
  吉見健太郎 .000                      遊飛   
(右) 八木健太郎 .000       一ゴ    二失    空振      
全早大投手成績
名前
竹内諒 3.60
奈須怜斗 0.00
田中龍之介 4.50
コメント

髙橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)※囲み取材から一部抜粋

――きょうの試合の意義をどのようにお考えですか

新チーム同士の戦いということで、お互いにまだ戦力も安定していないですし、先輩も入った全早慶戦でしたが、安部磯雄記念球場が命名された時に勝てたということは、験がいいと思います。

――きょう出場した選手は、髙橋監督が期待している選手が中心だったのでしょうか

そうですね。熊田(睦、教2=東京・早実)が本塁打を打ってくれたりね。慶大も準備する時間はあまりありませんでしたし、まだまだこれからの段階ではありますが、出だしの記念すべき試合で勝てたということは意義があると思います。

――来年度はどのようなチームにしていきたいですか

主力が4年生だったので、メンバーが入れ替わります。きょうのように走者を進めては、バントをして点を入れていくというね。現状のチームでは得点はあまり望めないので、守りを中心にして、この前の明治神宮(明治神宮大会)の決勝(亜大戦)はものにできなかったので、あのような接戦を守り切って勝ち切れるようなチームにしていきたい、野球をしたいと思います。

――来年だけではなく、それ以降の早大野球部にどのような道を歩んでいってほしいとお考えですか

やはり何年たっても守りが中心だと思いますね。ステージが上がるほど1点の重みは厳しくなり、難しくなってくると思うので、そういうところで最後は1点勝ち切れる、粘り切ってでも1点勝ち切れる野球をずっと続けていけたらいいなと思います。

ゲームキャプテン石井一成(スポ3=栃木・作新学院)※囲み取材より一部抜粋

――きょうの試合を振り返っていかがですか

試合をしてみて、チームを運営するにあたり、やらなければいけないことがまだまだたくさんあるなと感じました。

――ゲームキャプテンとして気持ちが引き締まる部分もあったと思います

そうですね。ことしは4年生のおかげで良い経験をすることができたので、自分たち最上級生が引っ張らなければいけないという思いが強くなりました。

――来年のチームをどのようにしていきたいですか

最上級生が引っ張らないことには何も始まらないですし、そうしないとチームもいい方向に向かないと思うので、自覚を持ってやっていきたいです。

熊田睦(教2=東京・早実)※囲み取材より一部抜粋

――きょうは本塁打を放たれましたが、打席にはどのようなことを考えて立ちましたか

左投げの良い投手でしたが、真っすぐが少し遅く感じたのと、1打席目にヘッドが出ずに詰まって左フライだったので、しっかりたたこうというイメージで(打席に)立てたので、結果的に良かったなと思います。

――打った球種は何でしたか

真っすぐです。

――安部磯雄記念球場第1号本塁打となりました

それは光栄なことですし、まさか打てると思っていなかったのですごくうれしく思います。

――来年に向けて良い弾みになったと思います

これからオフシーズンに入って、打撃も守備も向上することができればいいと思います。

――来年の目標は何ですか

まずはベンチ入りを目指したいです。

――打撃はご自身のアピールポイントでもあると思います

そうですね。結果として長打になることはありますが、ボール球を振らないことを心掛けて、簡単に終わらない打者になりたいです。