【連載】早慶戦直前特集『Strikin’ Back』 最終回 髙橋広監督

野球

 首位で迎える伝統の一戦。指揮官・髙橋広(昭52教卒=愛媛・西条)はこれまでのリーグ戦を振り返ると共に早慶戦の先をも見据えている。リーグ戦優勝、早慶戦での勝利という目標に突き進む名将の考えをひも解く。

※この取材は5月20日に行われたものです。

「普段の努力」

春季キャンプから、髙橋監督自らノックを打っている

――初のリーグ戦ですが、これまでの戦いぶりを監督はどう感じておられますか

 いや、上出来でしょうね。私自身の問題ではなく、選手が頑張ってくれていますのでね。非常に良い結果が出ていると思います。

――オープン戦が終わってから懸念されていた、六大学の舞台で早大の野球が通じるかという部分には自信を持てましたか

 まあある程度、慶大以外とは対戦しましたのでね。どれぐらいのレベルで、どの位置にあって、どれだけの戦力なのか。まあ六大学の野球をおおまかに、イメージ的にわかってきたというとこですね。

――「打は水物」と監督はいつもおっしゃっている中で、打撃好調ですが

 あくまでね。やっぱり明大の1回戦みたいに、相手の投手が良ければ点は取れないし、3回戦だって実際は1点しか取れてないわけですからね。だから良い投手に当たったら、安打の本数は打っていますが、点が必ず取れるかと言ったら、そういうわけではないからね。1回戦は2-1で負けて、3回戦は2-1で勝って、良い試合になってくるとそういうスコアに思うんですよね。そこら辺のしのぎで明大3回戦みたいに勝てたりする展開が理想だと思いますけどね。

――そういう場面では、犠打といった基本的なことが重要になりますか

 やっぱり犠打というのは大きいですよね。明大は同点のスクイズを決められた。早大は1点取って、追加点のときに犠打ができなかった。そこで1-1というのが出てくるんですよね。そのあと石井がサヨナラ本塁打を打ってくれましたが、より好機の場面で送り犠打を決めてくれたほうが例えば2点目とか3点目が入っていれば、9回裏の攻撃はなかったわけですからね。必ず2点、3点が入っているとは限らないですけど、必ずそういう形は作らないといけないと思います。犠打で送り、1死二、三塁にしたけど入らないなら仕方ないですね。

――打率、打点、本塁打と主要3部門でリーグトップですが、選手たちの好調ぶりの表れですか

 普段の努力じゃないですかね。まして茂木(栄五郎、文構4=神奈川・桐蔭学園)はきょねんの首位打者で実績もあるので、いまの彼の2位というのは納得できるんですけど、丸子(達也、スポ4=広島・広陵)も道端(俊輔、スポ4=智弁和歌山)もレギュラーとして臨んだシーズンは初めてですからね。特に丸子は4番で臨んでくれて、非常に良い結果を残してくれていますよね。世間的にもクリーンナップ、特に4番が不在だと言われていた中で、私も最初から彼しかいないと使って、期待に応えてくれているのでね。

――特に4年生陣が打撃を引っ張ってくれていますね

 明大戦が始まる前は(打率ランキングの)ベスト10に6人入っていましたからね。

――またイニング別得点では7、8回が非常に多いように思いますが、集中力を切らさずにプレーできているということでしょうか

 そうですね。それもあるし、相手方の先発陣をたたいたときは向こうも2番手、3番手となってくると少し力が落ちると得点力は高いですよね。相手の先発に完投されるとロースコアになりますよね。

――併殺打が13と多いような気もしますが何か原因はありますか

 無死で打たせて、併殺というのはあまりないと思いますが、1死のときに多いと思うので、右打者に逆方向とか意識させてはいますが、相手も良い投手が多いので、ゲッツーを取らせるよなゴロを打たせる投球をしますのでね。打率を考えたらやっぱり併殺なくいけるわけでもないですしね。

――殊勲打を河原右京主将(スポ4=大阪桐蔭)や川原孝太(文構4=静岡・掛川西)選手が多く打っています

 彼に失礼かもわからないけど、相手バッテリーに強力なイメージがないので、意外と安心しているのではないかなと(笑)。例えば、立大戦で大竹(耕太郎、スポ2=熊本・済々黌)が犠打の構えからツーラン本塁打を打ったじゃないですか。あれも向こうのエースが「絶対バントだ」と思って、全力で投げてないと思うんですよ。まして投手で、私は大竹も打撃が良いので、元々打たせるつもりで、犠打の構えをさせて、彼も起用でうまいので、本塁打は求めていませんでしたが(笑)、犠打よりは良いだろうと打たせたらああいう結果になってね。向こうの投手も全力で一球目から投げてきたのではないと思いますよね。投手で犠打やらせようと思って、100パーセントでは投げてないでしょうね。

――守備に関しては中澤彰太(スポ3=静岡)選手がファインプレーを見せて盛り上げてくれていますね

 法大戦でしたかね、3本ぐらいバックスクリーン際のあわや三塁打みたいなのを捕球して、大きいですよね。

「いままで通りの野球」

選手へアドバイスを送る髙橋監督

――守備からの盛り上げが早大の強みでもあると思いますが

 まあエラーも出ていますが、神様が守っているわけではないですからね。100パーセントはね。守備というのは100パーセントに近いほど良いんですけど、やっぱりね、その数字というのは100にはできないので、極力100に近いような守備力、チーム状況にしたいと思うんですけどね。

――エラーが絡むと流れが悪くなりピンチになる試合が多いですね

 得点を取られているのは大体そうじゃないですかね。

――チーム防御率も好調ですが、道端捕手のリードのおかげもあるのかなと思いますが

 やっぱりレギュラーとして、彼は初シーズンですが、非常に落ち着いてますし、どっしり構えていて、ここに来て甲子園5回出ているという実績が何か浮かび上がってくるというかピンチでも落ち着いていますよね。

――監督自身、捕手出身として道端選手へアドバイスなどはされますか

 正月から捕手が入れ替わって、バッテリーが弱いとか言われていたし、戦力的にも捕手は厳しいかなと思って、送球とか捕球の面ではうるさく指導してきましたけどね。ただインサイドワークなどは任せっきりで、試合の中で打たれ出したら「何投げ出したか。それは違うだろ」と指摘はしています。

――正捕手の確立が急務と開幕前に思われていた中で、道端選手は真価を発揮していると思います

 上出来じゃないですかね。盗塁もやっぱり殺せるようになっていますし、そんなに走られてないですからね。それは早大の投手、特に右投手はけん制が上手いんですよね。左はそうでもないんですけど、大学野球にしてはけん制刺が多いんですよ。吉永(健太朗、スポ4=東京・日大三)は2つ3つ刺していて、登板イニング数から考えたら、けん制刺の確立はすごく高い。普段から見ていても吉永は非常に良いけん制をしますよね。

――安打で相手に流れが行きそうなときにしっかりとカバーができている

 投手のけん制は技術力だから自分の身を助けますよね。逆に相手が早大の捕手は弱いから盗塁したり、エンドランで動かしてこようとしているところにけん制が上手く利いているのかもしれませんね。

――捕手の弱点を投手が生かせている

 バッテリーだからそれで良いんですよ。だから道端がすごい送球をしていたら、相手側ではそういった作戦を取らないですよね。それ関係なくエンドランにして何とかというところを投手が上手くけん制してくれている。9試合していて、5つぐらいありますよね。なかなか殺せないでしょ。小島(和哉、スポ1=埼玉・浦和学院)はリリーフで登板して何回かありましたからね。投手自身の持ち味で、すごく助かっていると思いますね。

――投手陣では大竹、小島、吉野(和也、社3=新潟・日本文理)選手が支えてくれていますね。大竹投手はどのような点を監督としては評価していますか

 一番安定していますよね。制球も良いですし、マウンド度胸も良いですよね。たまに超スローボールを投げるでしょ。投手に度胸がないとなかなか投げられないんですよ。打者にしたら、スローボールが来ても変に力が入って打てないんですよ。大竹はそこまで球は速くないですけど、速くなくてもスローボールのおかげで、130キロの球が140キロぐらいに感じるんですよね。非常に緩急というのが生きていますよね。明大の髙山(俊)は最後2回セーフティバントしてきたでしょ。よっぽど焦ってたでしょ。きょう絶対に大竹タイミング合わないとか打てないとか。あれぐらいの打者なら1球セーフティバントを試みて、相手方がわかったらもうやらないじゃないですか。早大の打者でもありますよ。私はサインを出さないのに、タイミングが合っていない選手はセーフティをしようとします。打者の心理ですよ。大竹は立派だなと思いますね。髙山はリーグを代表する安打製造機ですからね。

――秋リーグに対しても苦手意識を付けられて良かった

 大きいですね。ビデオを見たり、いろいろな作戦を立ててくるでしょう。明大も今回早大戦を落として3試合目などは勝てそうな試合だったわけでしょ。あそこで良かったのはスクイズで同点にされてから、吉野が三塁で殺したでしょ。あれも大きいですよね。

――あれは投手力というよりは守備力ですよね

 2死二、三塁だったら、心理が違うじゃないですか。例えば道端にしたら、落ちる球は使いにくいわけですよ。

――吉野選手はそういった機転の利かせ方が上手いですか

 上手いですよ。それであのサイズなのにけん制とかフィールディングとか上手いんですよ。普通あのサイズになると鈍くさいやつが多いんですけど、吉野は上手いんですよ。サイドとかアンダースローの投手は盗まれやすいんですけど、まず彼は盗まれないですよね。

――また1年生の小島投手は大活躍ですね

 きょねん私は日本代表で連れて行って、同じような抑えをさせていましたが、ここまで早く大学でできるとは思っていませんでした。というのは、その時の9月の最初から比べて、半年間あったわけじゃないですか。その間にすごく伸びています。大学に入ったときに力強い球を投げるなと感じました。4年生に言ったのは1年生をベンチに入れて1年生に頼るようでは困るだろうと。私は沖縄にも連れて行かなかったですし。ただ彼が3月のオープン戦では実績は残すしいつでもいける状態ではあったので、全体を見たときに入れておかないといけないだろうと感じました。最初から期待していたわけではないですけど、やはり全国制覇の投手ですよね。1年生でありながらピンチに使っても動じないし立派ですよね。高校時代の経験を生かしていますよね。

――打線では4年生主体の中で、投手陣では大竹投手や小島投手など下級生が支えているという点を監督はどう思いますか

 それはありがたいですよ。学年関係なくありがたいですけど、できれば4年生には頑張ってほしいですけどね。学年関係なく投げてくれているので、このまま順調にいってくれればと思います。

――最初はエースとして期待していた竹内諒(スポ3=三重・松阪)選手については

 練習で見る限りは悪くはないのですが、東大に点を取られて、自分がやらないとやらないと、という気持ちが空回りしているんでしょうね。心身共にという部分が一致していないんじゃないですかね。練習の通りやれば良いのに、前結果が出ていないから、ここでさらに良い結果を出さないとという空回りじゃないですかね。前投げられていなかったなら、次普通に投げれば良いのに、200パーセントで投げようとしているんじゃないですかね。そんな感じがしますね。それと大竹のほうが安定しているので、負けてはいけないみたいな。そういうところがあるんじゃないですかね。良い意味で競争してくれたら良いんだけど、ちょっと本人の気負いじゃないですかね。

――また北濱(竣介、人2=石川・金沢桜丘)選手、黄本(創星、スポ3=千葉・木更津総合)選手はブルペンでの姿が見られますが、これからの起用法はありますか

 まだ大事な場面は任せられないですね。経験がないでしょ。点が開いたときには投げさせても良いんですけど、そうすると次の日や次のカードに響くことが出てくるので、法大戦も9-2になったと1イニング投げさせて、2、3点取られただと次の日にはせっかくの勢いが切れるんですよね。だから使ってないメンバーは下級生の経験にと周りは言いますが、あまりしたくないですね。試合に負けることはないでしょうけど、抑えてくれれば良い経験ですが、3点4点取られて、勝っている試合なのに追い上げられると次の日、勝ったような気がしないで、試合に臨まないといけない。

――吉永選手が戦線離脱し、代わりには金田大志選手(教4=兵庫・明石)が入っていましたが

 4年生でもあるし、ベンチを盛り上げるムードメーカーということで。

――いよいよ、伝統の一戦ですが、いままでの慶大の戦いぶりをどう見ていますか

 最初に法大に勝ち点を落としてもここに来て調子を上げてきているのでね。明大はほとんど優勝の可能性がなかったのですが、慶大は2連勝なら同率で首位に並ぶから、当然向こうもそういう気持ちできているので、こわい相手だと思いますね。早大が有利とかではないですね。あくまでイーブンだと思います。

――明大戦のように投手戦になるのかなと思いますが

 そうですね。ただ向こうは一発が出る打者が2人いますからね。そこは気をつけておかないとね。

――相手投手陣を打開する策はありますか

 左投手に対しては、左打線ですけどそこまで苦にする打者はいないので、上原(明大)投手のような左の本格派なら打ちやすいですね。だから今回も3点以内の勝負じゃないですか。

――また慶大の特に警戒している選手を横尾俊建主将、谷田成吾選手、と挙げていましたが

 やはり一発がありますからね。2死ツーストライクで打ち取ったと思っても点を取られる可能性があるわけですからね。最後まで気が抜けないですね。

――監督自身早慶戦ではどのような試合がしたいですか

 いままで通りの野球ですね。ロースコアで投手中心にしっかり守って、打線はリズムを取って点を取ると。

――早慶戦への意気込みをお願いします

 ぜひ勝って優勝したいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 豊田光司)

◆髙橋広(たかはし・ひろし)

1955(昭30)年2月4日生まれ。愛媛・西条高出身。1977(昭52)年教育学部卒。選手時代は捕手、早大4年時には新人監督を務めた。選手の皆さんによると、「髙橋監督のアドバイスはシンプル」だそう。シンプルだからこそ伝わりやすく、実践しやすいとのことでした。