【連載】早慶戦直前特集『Strikin’ Back』 第3回 茂木栄五郎

野球

昨季5割1分4厘という驚異的な打率で首位打者に輝いた茂木栄五郎(文構4=神奈川・桐蔭学園)。今季はさらなる進化を見せ、これまでの確実性のみならず長打力も発揮している。三冠王、さらにはシーズン本塁打記録の更新。決して万全とは言えない中でも、その打棒でワセダを引っ張る男は6季ぶりの優勝を前に何を思うのか――その胸中に迫る。

※この取材は5月20日に行われたものです。

ここまでの自己評価は50点

闘志あふれるプレーでチームに勢いを与えている茂木

――優勝が近づき学内での注目度も増していると思いますが、学部の友人などから声をかけられたりはしますか

仲のいい友達はメールをくれたり、頑張ってねと声をかけてくれます。

――明大戦から慶大戦までは1週空くわけですが、現在チーム全体としてはどのような練習をされていますか

きのうがオフできょうは(個人で)分かれての練習なので、別れての練習はいつも通りのノックをしたり、バッティングをしたりという練習です。全体ではどういう練習をするのかはまだ分からないのですけれど、多分変わりなくいままでやってきたことをできるようにというように練習をすると思うので変わりなくですかね。

――茂木選手個人としては早慶戦までどのような点に力を入れて取り組まれていきたいと考えていますか

いまは調子自体が普通かそんなによくない感じです。結果が出ているのでそれを継続するのではなくて、まだ1週間あるのでもう一段階上のレベルへ持っていきたいなという思いで練習しています。

――今季のご自身のここまでの成績を振り返っていかがですか

結果は出ていると思うのですが、もっとできるのではないかなとは思います。

――点数をつけるとしたら

うーん。まだ終わっていないのでなんとも言えませんが、いままでで(点数を)つけるとしたら50点くらいですかね。

――そのマイナス50点というのは

自分が打ちたいと思う場面で打てなかったり、自分がやりたいようなバッティングなり、プレーというのができなかった場面が数多くありました。そういうところができるようになれば、もっと自分でも評価できるのかなとは思います。

――現状の1位という順位に関してはどのように捉えていますか

正直できすぎかなと思っています。全チームからいまのところ勝ち点を取れているので、すごく驚いているっていう状況ですね。

――具体的にリーグ戦の試合を振り返っていただきたいのですが、開幕カードの東大戦はケガの影響で代打での出場となりました。この起用に関しては高橋広監督(昭52教卒=愛媛・西条)からはどのように伝えられていたのですか

ケガをした当初は東大戦に間に合わせてくれということをずっと言われていて調整をしていました。自分としても出れるかなとは思っていたのですが、チーム状況であったり自分の調整の遅れというのは自分が評価するものではないので。監督が評価してやはりまだだなということを言われたので、とりあえず次週の立大戦に合わせられるように代打でなら行けるかと言われたので、行けますと伝えてスタメンではなく代打ということは言われました。

――ケガでどのくらいの期間練習を離れることになってしまったのでしょうか

3週間くらいは本当に何もできなかったです。3週間くらい経ってやっとジョグなどを始めて、東大戦の週になって初めて全体練習に参加したという感じなので。結構急ピッチで合わせたような感じですね。

――復帰後は時間のない中、実戦に向けどのような点に力を入れて調整されましたか

実戦感覚がやはり大切で、その実戦感覚で何に一番影響が出るかと言うとバッティングです。ピッチャーの勢いのある球をどれだけ見て目を慣らすか、実戦感覚を取り戻せるかということに重点を置いて調整はしてきました。

――他のチームメイトがリーグ戦に向け仕上げていく中で、ご自身は練習ができずに焦りはありませんでしたか

チームの状態もすごくよくて、正直自分がいなくても全然試合に勝てますし、いい状況だったので自分が入った時に自分のやるべきことさえやればチームのプラスになるのかなと思っていました。焦りというのは特にありませんでした。自分が出られるような状況を自分で作っていかないといけないなと思い、自分の中での調整ということだけを考えていたので、特に焦りというのはなかったです。

――そんな中で初戦から非常に大事な局面で起用されましたが、どのように打席へ送り出されたのでしょうか

1点負けているチャンスの場面で出していただいて、何と声をかけていただいたのかは忘れてしまったのですが、とりあえず自分が打ってやろうという気持ちで入りました。結果的に四球になってしまいましたが、その後に同点、逆転につながったのでよかったかなとは思っています。

――翌日に出た今季の初安打は本塁打となりました。調整不足の中で早々に本塁打というかたちで結果を出せたことには安心感や手応えもあったのではないでしょうか

実戦感覚がない中で、久しぶりに打席で振った打球が本塁打になったという結果はすごくプラスでした。でもまだまだ自分の目指しているバッティングというか内容には近づいていませんでした。そこは新しい課題かなとは思いましたね。

――次節の立大戦からスタメンに戻られ、3回戦では自身初と語るバックスクリーン弾もありました。今季の打球の速さや強さには目を見張るものがあるように思えますが、その点に関してはいかがですか

自分としては別にパワー、力がついたとは思っていなくて、ケガ明けで変な力が入っていなくていい力感でできているというのが第一です。その中で、いかに自分の打てるポイントのところで力を出せるかを考えていた結果が、そういった打球につながったのではないかなと思います。

――以前の対談で昨季の打撃好調について打球の飛ばす位置というか、ヒットゾーンに飛ぶバットの角度が自分の中でわかったといった話がありましたが、それとは感覚的に今季の好調とは違うものなのでしょうか

秋の時点では本当にヒットを打つコツというのがわかりましたが、その反面長打がないなと自分では捉えていました。それでは怖さがないなと思ったので、今回はヒットではなくて長打を打てるようなバッティングというのを心がけて練習してきました。そういう面に関したら、飛ばすコツというのは自分の目指してきたことなので、そういう感覚が全部わかったという訳ではありませんが、以前よりかは(打球を)飛ばせるようにはなったなと思いましたね。

――同じく開幕前に今季のテーマとして、甘い球を長打にしたいとお話しされていましたが、それが徹底できているということでしょうか

できていない打席も多いです。たまたま今季は甘い球が来ることが本当に多いので、その確率の分長打が出ているのが多いのだと思います。

――今季に関して長打を打ちたいという思いが強くなったのは、昨季までのクリーンアップの方々が抜けたという点が大きいのでしょうか

いや、きょねんの(クリーンアップの方々)3人がことしもいたとしても、自分の中でヒットだけで落ち着いたらまずいなという気持ちがありました。別に(3人が)抜けたからどうこうというよりかは、自分のバッティングを変えたいという気持ちが強くて、長打を打てるようにと練習に取り組みました。

――法大戦は首位攻防戦となりましたが、結果としてチームの勢いを感じさせる大差での連勝となりました。このカードに関してはいかがですか

法政はすごく勢いがあって明大も慶大も負けていますし、法大とやる時は明大、慶大のどちらも自分たちの野球ができていないで負けたなという印象がすごくありました。なので、とにかく自分たちの野球をしようと。それで負けるのであれば仕方ないなと思っていました。多分自分たちのやってきた野球を出せないで負けるのが一番嫌だったので、自分たちの野球ができるようにと心掛けて臨むようにしていました。

――法大1回戦では本塁打を含む2安打がありましたが、翌日は3つの空振り三振など今季スタメンに復帰してから初の無安打に終わりました。この2試合の打撃の内容を振り返られてみていかがでしたか

1回戦も本当に直球にタイミングが全然合っていませんでした。その中でのヒットとホームランだったので、状態としてはあまり良くない中で結果が出て、それを自分の中で別に状態は悪くないと思ってしまいました。そのまま2回戦に臨んだ結果、ああいった結果に終わってしまったので、勘違いしてしまった面では自分のことをまだ理解できていないのかなというようにすごく感じました。

――法政戦あたりから調子が下がっていったのですか

立大戦でも直球には全然タイミングが合っていなくて。その中でヒットにはしていましたが、そういう中でヒットが出ていることに満足していて自分の弱さに気付けなかったというのはすごくありましたね。

――結果の面から言えば法大2回戦、明大1回戦で打撃が思うようにいかなかった頃には、打席での迷いが見受けられたように思えますが

普段だったら思い切っていくような場面でも(ボールを)見ていくことがありました。第一にタイミングが合わないことが多かったので、そこは打てなかった要因になると思いますね。

――タイミングが合わなかったというのは、好成績の茂木選手に対して投手が攻め方を変えてきたのか、茂木選手の中で打撃のリズムが狂ってしまっていたのかどういったものだったのでしょうか

自分の問題ですね。自分がタイミングを合わせきれなかったというだけで、相手はその日その日で変わるので、そこを言っていたらきりがないです。ただ単に自分の合わせる技術というか、調子といいますか。その辺りがよくなかったというだけですね。

――この時期には球を見た結果だとは思うのですが、三振の少ない茂木さんが三振を喫する場面が非常に多くなってしまった点に関してはいかがですか

きょねんの秋やその他のシーズンに比べて、本当に今季は三振の数は自分でも多いなと感じています。改善していきたい点ですね。

――そんな中で迎えた明大2回戦では1試合2本塁打で復調が感じられました。ご自身の中でそれまでの結果の出なかった試合とこの試合で変化を感じる点は何かありましたか

その試合に関しては初球から振っていけたというのがすごく大きな点です。もう一度初球から自分のタイミングで強く振るということを考えてできたので、今シーズンを通して明大2回戦というのが内容としては一番良かったのかなと思っています。

――早慶戦前の最後の試合となる明大3回戦も2安打と、状態としては上向いてきていると考えていいのでしょうか

悪くはない状況ですが、もっともっとできると自分では思っています。調子がよくなってきているというのは事実ですけれど、まだまだいけるとは思っています。

――この試合は後輩の石井一成選手(スポ3=栃木・作新学院)のサヨナラホームランで幕引きとなりました。早慶戦へ弾みのつく勝利だったのでは

石井があの場面で打ってくれたというのはすごく大きなことです。9回の表に1-0で勝っている場面で1点追い付かれているので、そこはやはりことしのワセダの弱さではないかなと。守り切れない弱さというのはありますね。

チームが勝つことが第一

現在、三冠王も視野に入れている

――今季は打線を見るとここまでの実績が少ない選手が多い中でチームの打率、打点、本塁打が全てリーグトップという状況ですが、このことに関してはどのように考えていますか

すごくできすぎという面は大きいなと思っています。でも(監督が)高橋監督(昭52教卒=愛媛・西条)に代わられてからバッティングの意識が抜本的にすごく変わったので、その結果ではないかなと思いますね。

――高橋監督になって打撃に関して変わった点というのは具体的にどのようなところですか

いまはバッティング練習でも逆方向、右バッターならセカンド、左バッターならショートの頭の上を狙って打つような打撃練習がすごく多くなりました。調子を崩す選手が少なくなり、比較的いい打球を飛ばす選手が増えました。その点が好成績につながっているのではないかなと思います。

――茂木選手は実際に試合では引っ張りの打撃スタイルが売りであると思いますが、練習の時は流す打球も打つことで打撃に対してプラスになったりするものなのでしょうか

自分の場合は結構自由にやらせてもらっているので、そういった意識ではあまり打っていないです。自分は右中間にも左中間にもそこに飛ばしたいと思って打っているのではなく、振った結果そこに飛んでいるというようなバッティングなので、あまりそこは意識してやってはいないですね。

――開幕前茂木選手がワセダのカギとして挙げられた先発を筆頭とする投手陣は、下級生が活躍する一方で上級生はケガや不調に苦しんでいます。投手陣の現状に関してはどのようにご覧になっていますか

1戦目に大竹(耕太郎、スポ2=熊本・済々黌)がすごく頑張ってくれていて援護できないことも多いのですけれど、大竹がすごく踏ん張ってくれているので、すごく助かっていますね。あと吉野も頑張っています。そしてやはり小島(和哉、スポ1=埼玉・浦和学院)がいいです。正直小島が後ろにいるのといないのでは全然違うので、小島の存在というのはすごく心強いですね。

――守備面に関しては河原右京主将(スポ4=大阪桐蔭)の故障の影響もあり三塁手での出場が続きますが

二塁手で出たいといった気持ちはすごくあります。でもチーム状況を考えて、自分も出していただけるだけでありがたいと思っているので、その与えられたところでしっかり自分のプレーを全うしたいなと思います。

――経験豊富な三塁ではここまで無失策ですが、今季の守備の手応えはいかがですか

比較的飛んでくる回数が少ないので、その面で無失策につながっていると思います。ずっと守ってきたポジションですし、神宮の芝も変わったということで新鮮な気持ちでできています。それでまだ集中も切れておらず、エラーがないといういまの状態だと思います。

――芝が変わった影響というのは内野手として何か感じていますか

前まではすごく打球が早く来る印象がありました。芝が変わっても速い打球はありますが、前ほどの速さはないです。打球を見て判断して取る時間が前よりも少しあるなと思うので、そういった面に関してはすごく足が使えて守りやすくはなったと思います。

――ここまでシーズン全体を振り返っていただきましたが、一番印象に残っている試合というのは

チーム全体としてすごく印象に残っているのは法大2回戦の(河原)右京の走者一掃の逆転の三塁打ですね。立大戦でも満塁ホームランを打ちましたし、打ってほしい場面で打つなとすごく思います。自分の前で打っているのでさすがだなと感じますね。

――その河原選手が主将となってここまで戦ってきましたが、主将になってから変化を感じるところなどは何かありますか

普段もしっかりやっていますが、すごくチームを引っ張ろうとしていますし、言葉でもプレーでもその両方で(チームを)引っ張ろうとしているのがすごくわかります。自分がやらないといけないという思いで練習にも取り組んでいるのがすごくわかります。これまでがそうではなかったとは言わないのですが、より自覚が芽生えて、引っ張るという気持ちを持ってやっているなというのをすごく感じますね。

――ご自身としては三冠王、さらにはシーズンの本塁打記録更新も視界に捉えている訳ですが、その点に関しては

何も意識していないですね(笑)。本当に早慶戦に勝って優勝できればそれが一番なので。そのために自分が結果を出すことが一番いいので、優勝できるように結果を出したいですね。

――きょねんの早慶戦前と現在のチームの雰囲気は比べるといかがですか

きょねんも同じようなかたちでここまで来ましたが、勝ち点を取れば優勝というところで2連敗して負けています。そういった経験がある分、おごることなく自分たちのやってきたことをやろうという気持ちではできていると思います。

――以前に1年時に優勝したチームの方が、チームとして負けたくないという思いが強く、自分たちにもその面がもう少し出てくればとお話しされていましたが、これまでのリーグ戦を経てチームの現状はいかがですか

自分は始まる前よりかはすごく勝ちたいという思いは強くなってきたなと感じています。特に出ているメンバーもそうですし、ベンチの雰囲気もすごく負けたくないという気持ちが強いです。監督さんも一戦一戦しっかり戦おうという気持ちでずっと自分たちのことを後押ししてくれているので、負けたくないという気持ちは始まる前よりすごく高いと思います。

――今季の早大の強さの要因はどうお考えですか

やはり打撃ですかね。すごく打っているので、それが勝ちにつながっていると思いますね。

――対して今季の慶大にはどのような印象を持っていますか

もともと力のあるチームで、序盤に法大に2連敗してつまづきはしましたが、着々と自分たちの力を出してきていまに至っていると思います。力もありますし、勢いも持っているので警戒しなければいけない相手だとはすごく思います。

――その中でも特に警戒する選手、意識する選手は誰かいますか

横尾(俊建)と加藤(拓也)ですかね。

――横尾選手は同じサードの選手ですが、プライベートの面で接点などはあったりするのですか

小学校の時に横尾とは同じチームだったので仲はいいです。プライベートで会ったりということはありませんが会ったら普通に話します。日本代表でも今回は一緒になるので意識してしまう面はありますね。

――加藤投手は昨年の日本代表のチームメイトですが、茂木選手から見てどのような投手ですか

直球がすごく速く力もあります。いいコースにボールが行きますし、球自体にもとても勢いがあるので、やはり苦戦するのではないかなと思いますね。

――今回の早慶戦、試合のカギはどのようなところになると思いますか

まずは自分たちが慶大の投手陣を打ち崩せるかどうかっていうところだと思いますね。

――打ち崩していく上でのポイントは

みんなが打たなくてはいけないと思うのですけれど、やはり3番4番でランナーを返さないといけないなとすごく思っています。

――昨年の早慶戦では自分がチャンスの場面で打てなかったことが敗因として大きくあると思うと以前お話されていますが、リベンジの機会が最高のかたちで巡ってきたのではないでしょうか

そうですね。春秋両方とも慶大にやられていて、その両方で自分が打っていればという場面で打てていなかったので、リベンジしたいですね。

――あと1勝で優勝ということで、いつもの早慶戦以上に重圧もあるのでは

そうは思いますが、早慶戦自体がお祭りみたいで本当に観客の声援や球場もほぼ満員になりますし、そういった緊張感というのはすごくあります。でもその緊張感を楽しみながらやっていきたいなと思いますね。

――以前自分は早慶戦に強い選手ではないと話されていましたが、今回の早慶戦にはどのような目標を持って臨まれようと思っていますか

さっき言ったことが全てですが、チームが勝つことが第一なので自分の結果がどうこうというのは気にしないです。自分が打てば正直かなり勝ちに近づくと思うので、結果は出したいです。ただ結果を出したい出したいとなってしまったらやはり自分のやってきたことができなくなってしまうので、まずは自分がやってきたことをどれだけ出せるかということに集中して早慶戦に臨みたいですね。

――最後に6季ぶりの優勝へ向け意気込みをお願いします

これまですごくいい状態なので、その勢いをそのまま慶大にぶつけてしっかり戦って優勝したいですね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 三井田雄一)

◇茂木栄五郎(もぎ・えいごろう)

1994(平6)年2月14日生まれのO型。171センチ75キロ。神奈川・桐蔭学園高出身。文化構想学部4年。内野手。右投左打。学部の話題になった際に、「自分の学部自体がそこまでスポーツに関心のある学部ではないと思うので」と少し寂しそうな表情を浮かべた茂木選手。文化構想学部からも茂木選手、川原孝太選手(文構4=静岡・掛川西)と2名の出場が予想される今回の早慶戦。普段野球を見ない方も、ぜひ球場にいらしてはいかがでしょうか?