【連載】早慶戦直前特集 第1回 髙梨雄平

野球

 昨季はわずか1勝と悔しい思いをした左腕エース・髙梨雄平(スポ3=埼玉・川越東)が先発のマウンドに帰ってきた。3年目となるシーズンの幕開けは、完全試合達成という歴史的快挙だった。その後も激動なシーズンを経験している髙梨に、パーフェクト達成から今季のこれまでの戦いを振り返ってもらった。

※この取材は5月24日に行ったものです。

「大変なことをやってしまったんじゃないか」

完全試合の投球が再び求められる

――開幕前、どのような気持ちでリーグ戦に臨みましたか

(春季)オープン戦で調子が良くて、また昨季は1勝しかできなかったので今季頑張って結果を出したいという気持ちで開幕を迎えました。

――3年目のシーズンとなりましたが、気持ちの変化はありましたか

自分の中では初心を忘れないでやっていこうという思いはあります。でも1年生の時は怖さを知らないまま投げられたんですが、いまは野球の怖さを感じつつやっているとも言えます。良いことだとは思いますけどね。

――オフには手術をしたと聞きましたが

そうですね。手術をして万全な状態で開幕を迎えられました。今は試合が続いてきて6、7割くらいの状態だと思います。

――沖縄キャンプではどのようにレベルアップを図りましたか

手術してからそんな時間が経っていなかったので、軽く走ることから始めて徐々に状態を上げていこうという感じでした。ランニングをやるのと同時に、しばらく投げていなかったのでフォーム作りもやっていました。

――いよいよ開幕。第2戦の先発の座を勝ち取りましたが

そのつもりで手術もしましたし、練習もしてきました。先発を任すと言われた時は正直嬉しかったです。

――緊張などはありましたか

久しぶりだったので少し緊張はしました。

――昨季は先発での登板がなく、わずか1勝止まりと悔しいシーズンだったのでは

昨季から左足首を痛めていて、投げるためには手術しないといけない状況でした。だからこそ今季巻き返そうと思いました。

――東大2回戦。どのような気持ちでマウンドに上がりましたか

チームが勝てるようにとりあえず投げられればいいと思っていました。あとはマウンドを楽しもうという気持ちでした。投げられる喜びを手術してから感じることができるようになりました。

――投げる前の状態はどうでしたか

しっかり調整もできていたので、問題なく良い状態で臨めたかなと思います。

――この試合で完全試合を達成されました。達成した時のお気持ちは

実感がありませんでしたね。報道陣がたくさん来て、その時やっと大変なことをやってしまったんじゃないかという気持ちになりました(笑)。最後三振を取った時も「やっと1試合終わったな」という感じでした。

――投げていて調子が良いなと感じていましたか

いつも通りでしたね。オープン戦からしっかり投げられていたので、普段通りという感じでした。できれば9回投げられればとは思っていました。

――試合中、チームメイトから多く声をかけてもらったそうですが

完全試合とかのときは普通声をかけないものだとは思うんですが、意識させてきました(笑)。「完全試合だからやれよ」っていう感じでみんな言ってきました。

――6、7回から意識していたそうですが

そうですね。周りの人の声もありましたし、5回終わってスコアボードを見た時にまだ打たれてないなと思って徐々に感じていました。8回くらいから球場の雰囲気がおかしくなってきて意識せざるをえなかったです。

――9回のマウンド、とても緊張したのではないですか

先頭打者に粘られたんですが、四死球で終わるのは面白くないのでどうにかストライクゾーンに投げようと。その先頭を打ち取ることができたので、そこからはリズム良く投げることができました。

――最後の打者はスライダーで空振り三振。グローブを叩いて喜びを表現しましたね

「よし!」っという感じでしたね。あんまり派手目なガッツポーズはどうかと思ったので、普通に喜びました(笑)。

――ご自身では達成できた要因はなんだと思いますか

制球が冬場に磨かれたというのがまずあると思います。でも1番は野手の人たちがしっかり守ってくれたことです。

――六大学リーグ史上3人目、左投手では初という快挙ですが

左投手で初とかはあまり意識していないですけど、いままでタイトルとか何もないので、1つ肩書きがついたことは自分の野球人生にとっても良かったんじゃないかなと思います。

――多くの好投手を輩出してきた早大投手の中ではノーヒットノーランも含めて初の達成ですが

1番に思ったのは自分でよかったのかという疑問です。別に有原(航平、スポ3=広島・広陵)とかみたいにすごいボールがあるわけでもないですし、歴史に名を残すようなことを自分がしちゃってよかったのかなという思いはありますね(笑)。それと同時にもちろんうれしさもあります。

――これまでの野球人生の中で最も大きな日となったのではないですか

今季その試合以降全然勝てていないので、あまり完全試合の大きさというものを意識できていないんですが、後々振り返ったときには大きかったと思えるんじゃないかと思います。

――メディアからの注目度も一気に上がったと思いますが

どこに行ってもこの完全試合はついて回るものだとは思うので、それはそれで良いと思います。今まで注目されたことがなかったので、注目していただけることはありがたいことだと思いますし、それを重荷にしないで力に変えていきたいです。

『二刀流』への挑戦

――次の登板となった明大2回戦では緊張やプレッシャーなどはありましたか

意識しないようにとは思っていたんですが、そのように思っていた時点でもう意識していたということになりますね。肩に力が入ってしまった感じはありました。

――四死球が多かったように見えますが

明大打線には自分も良いイメージを持っていないので、厳しいところを突こうと思っていたんですが四死球に結びついてしまいました。

――勝ち点獲得を懸けた明大4回戦。1回を持たずに降板する悔しい結果となってしまいましたが

先頭打者に四球を出してしまったのが1番大きかったです。安打は最後の1本しか打たれていないので、もったいない形で点をやってしまったなと。チームにも申し訳なかったです。

――立大戦では野手としての出場でした。監督からはどのように話がありましたか

ワセダの打線が点を取れない状況だったので、そこをどうにか打破してくれと言われました。刺激を野手の方に与えてほしいということでした。

――そのときの心境は

正直ピッチャーがやりたかったので1回断りました。でも監督の方から君の力が必要だと言ってもらえたので、そこまで言われたら自分もやるしかないなと思いました。

――練習も急きょ野手としてやっていたのですか

そうですね。全体練習は完全に野手の方に入ってやっていました。ピッチャーの練習は全体練習が終わってからやるくらいでした。

――チームは逆転負けでしたが、髙梨選手の犠飛で先制点を挙げました

点を取るために野手として出場したので、打点を挙げられたことは良かったかなと思います。でもピッチャーをやっている立場としては1点じゃ足りないなとわかっていたので、早く2点目を取ってあげたかったですね。最後逆転負けで本当にピッチャーに申し訳なかったです。

――野手として出場してみて何か新たな発見はありましたか

ランナーがたまっている中で守ることのプレッシャーですね。ピッチャーとして投げている時には分からないグラウンドのプレッシャーを感じられたのは今後に生かせるかなと思います。

――立大戦で勝ち点を落として優勝の望みが消えましたが、そのときの心境は

やはりショックが大きかったです。自分もあまり打てなかったので悔しい思いは大きかったです。

――法大戦では再び先発でした。気持ちの切り替えが難しかったのではないですか

切り替えられてはいると思ったんですが、チームの優勝もなくなり重苦しい雰囲気に少し飲まれてしまったかなと。試合に入りこみづらくどこか浮ついてしまっている感じもありました。

――この日も1回を持たずに降板してしまいましたが

野手もやってピッチャーもやってという風に岡村監督に信頼されているのがわかっていたので、どうにかして結果を出したかったです。万全な調整をして勝負していかなければ、いまの自分の実力では抑えられないことがわかった試合でした。

――何が課題だと思いますか

スタミナですね。明らかに体が動いていなかったです。いま考えるともっとこう投げてれば良かったと思うことはあるんですが、やはりスタミナが足りていないと思います。

「良い経験をさせていただいている」

――今季は完全試合から始まり、野手としての出場もあったりと非常に濃いシーズンとなっているのではないですか

普通に野球をやっていればできないような経験をさせてもらっています。自分にとってとても意味のあるシーズンになっていると思います。

――投手として今季振り返ってみてどうですか

結果が出ていないというのが1番頭にあります。もう1回練習し直して秋は先発の座を勝ち取りたいです。

――打撃に関して今季振り返ってみてどうですか

野手として出場してから、何とかして打たなければいけないと肩に力が入ってしまって思うようなスイングができていません。ピッチャーとして打席に立つ時は気楽に打てていたんですが、野手には野手の難しさがあるなと感じました。

――残すのは早慶戦のみです。ことしの慶大の印象は

チームとしては4位、5位争いをしているのでうまくいっていないのかなという印象です。でも打者一人一人を見ていくと、一発や長打がある打者が多いので注意しなければなと思います。

――早慶戦でご自身に求められる役割は何だと思いますか

早慶戦に勝つことは順位に関係なく大事なことなので、勝ちにつながるようなプレーをとにかくしたいです。

――ワセダの二刀流として、期待も大きいと思いますが

自分の中では二刀流といってもどちらも中途半端になってしまっているので、何とも言えないですね(笑)。この六大学野球のレベルで両方をやらせてもらえることはなかなかないので、良い経験をさせていただいているなとは思います。今後二刀流をやっていくか分からないんですが、やはり先発へのこだわりはあります。二刀流どうこうということよりは、先発をやりたいです。

――髙梨選手にとって早慶戦とは

歴史もあって注目度もアマチュア野球の中では高いと思いますし、すごく大事な試合です。それに恥じないようなプレーをしなければなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 依田萌)

◆髙梨雄平(たかなし・ゆうへい)

1992年(平4)7月13日生まれ。175センチ、75キロ。スポーツ科学部3年。投手。左投左打。オフの日の過ごし方を尋ねると、髙梨選手よりも先に、隣で取材を受けていた東條主将が「髙梨はずっと『パズドラ』をやっていますよ」と答えてくれました。髙梨選手も「まあそうですけど」と認めざるを得ないようでした。