【連載】『WASEDA is all in』 第8回 中村奨吾主将

野球

 打線は好調を維持する中、不振に沈むのはリードオフマンを務める第104代主将の中村奨吾(スポ4=奈良・天理)。優勝をかけた大一番へ向け、このままで終われない。不調のトンネルを抜け出すべく、試行錯誤を重ねる中村主将の思いとは——。

※この取材は5月24日に行われたものです。

苦難のシーズン

主将としての目線からチームについて語る中村

——個人として今季を振り返ってみていかがですか

シーズン前に思い描いていた内容とはかけ離れていると思います。

——結果が出ず、やはりとまどいがあるということでしょうか

いろいろと試行錯誤も重ねているのですが、それがまだ結果にはつながっていないなという感じです。

——試合が終わるごとに取り組みもいろいろと変えてきたのですか

いろいろ考えて練習しているのですが、まだ自分の力不足もあって結果は出ていないかなという感じです。

——マークの厳しさもあるのではないでしょうか

やはり1年生の時から(試合に)出してもらっているので、そういうのはあると思うのですが、そういうところ(厳しいマーク)も超えていかなければいけないと思うのですが、やはり自分のバッティングができていないので対応しきれていないのかなと思います。調子がいいときの自分とは違う点はいっぱいあります。

——やはり感覚の中での違いは力みなどから生まれているのでしょうか

力みもあると思うのですが、これという理由はなくて、目に見えない理由もあるのかなと思います。

——では、もどかしさもありながら試行錯誤しながら結果が出るのを待っているのですね

ずっと結果を出したいとは思っているのですが、なかなか出ないといったところですね。

——チームとしての振り返りをお願いします

きょねんにはない粘りがあって、一番始めの法大戦を2回戦で粘って逆転して、二戦で勝ち点を取れたのは良かったです。きょねんはそういった逆転で勝った試合がなかったと思うのですが、そういう試合がオープン戦からできていて、リーグ戦でもしっかりできたということで乗っていけたと思います。自分たちの目指していた粘り強い野球ができたので自信になったのかなと思います。

——やはり練習から、接戦で必要となる集中力を持って取り組めていたということでしょうか

一人一人が意識を持ちながら取り組んでいった結果が試合にもつながったんだと思います。

——アメリカでの遠征でも相手の勝利にこだわる姿勢を学んだとおっしゃっていましたが、やはりオープン戦でも手ごわい相手と戦う中で勝ちへの意識を高めてこられたのでしょうか

そうですね、アメリカではそういった姿勢も学べましたし、日本に帰ってきても気の抜けた試合はなかったですね。社会人相手でも、勝った試合は少なかったのですが、気持ちで負けずにしっかり攻めていけたのが一人一人力が付いた要因なのかなと思います。負けた試合も意味のある負け方が多かったり、内容としてはオープン戦からよかったと思います。

——実戦に入ってすぐ結果が出ていたのはやはり冬場の個々人の取り組み方が良かったということでしょうか

はい、そうですね。

——競った展開での戦い方で、意識の面で変わることができた要因などは思い当たりますか

チームとしてもチームバッティングなどを心掛けているのですが、個人が「自分はどういったことをすればチームに貢献できるか」とかをみんなが考えることができたと思うので、それがチームにとってプラスにつながってきたんだと思います。

——試合中も4年生を中心にまとまりと活気が感じられます

4年生が引っ張っていくことは一番いいことだと思いますが、そこに1年生も2年生も3年生も付いてきてもらわないといけないので。4年生が引っ張れとは監督さん(岡村猛監督、昭53二文卒=佐賀西)にはよく言われているのですが、自然と4年生がそういう意識を持って、役割を果たしてくれているのでそこがいいのかなと思います。

——4年生が引っ張っているのを見て下級生も付いてきてまとまりが生まれたということでしょうか

そういうのもありますし、3年で試合に出ていたメンバーというのも、自分が引っ張るというぐらいの気持ちでやってくれればチームとしても上に向いていくと思います。

——いい雰囲気が保てている要因は

やはり勝つことで一番雰囲気が良くなるので、チームとして結果が出ているのが一番の要因ですね。

——チーム本塁打数も二桁に上りました。長打力を上げる取り組みなどはあったのですか

特に長打力を意識してきたわけではないのですが、バッター一人一人が低くて強い打球を意識した結果しっかり(球を)叩けるようになりました。

——茂木栄五郎(文構3=神奈川・桐蔭学園)選手や小野田俊介(社4=東京・早実)選手の復帰でますます打線に厚みが増しました

彼らが戻ってきてベストメンバーと言われていると思うのですが、戻ってくるまでにしっかり代役の選手も頑張っていたので、そこがチームとして層の厚さがましたと思います。小野田がいないから(戦力が)落ちたとかではなく、そこまでカバーしてくれていたので、戦力が落ちることなくここまで来られました。

——結果が出ない中で周囲から声を掛けられたりはしましたか

いろいろOBの方でも声を掛けてくださった方もいましたし、「自分が何とかしないといけない」という思いもありますが、他の人がしっかりカバーしてくれているのでそこはありがたいです。

——いつも一緒に練習されている直原大典学生コーチ(人4=高知・土佐)も中村選手について「正念場が来たらやってくれる」とおっしゃっていました。やはり周囲の期待も感じますか

そうですね、打てないからといってどうこうと言われてもいませんし、それだけ自分をみんな見てくれているのかなと思いますね。

——ここまでで印象的な打席はありますか

立大3回戦(3−3の7回)で、1死一、三塁で回ってきたときに、ダブルプレーを取られたのですが、それが一番悔しい打席でした。それからずっとその場面を想定して練習してきました。

——やはりこのチャンスで絶対打ちたかったからこそ印象にのこっているのですか

そういう思いもありましたし、何とかすれば1点は入る場面だったのですが、最悪のゲッツーだったのでそれが一番悔しい打席でしたね。チャンスもいっぱいつぶしているのですが、やはりこれが一番印象に残っています。

——昨季から得点圏での結果が良くないのは力みでしょうか

きょねんもことしもそんなに調子は良くないので、そういうわけではないのですね。調子が良くない中でもやはり1点は確実に取れる場面で取れなかったのが悔しいですね。

——キャプテンとして戦う難しさは

自分はチームをまとめる意識とかはありませんし、みんながしっかりやってくれていますし、4年生も言うべきところはしっかり言ってくれているので、キャプテンとしての仕事というのは特にしていないですが、一番声を出そうという意識は持ってやっています。

——4年生の存在は大きいのですね

サポートもしっかりしてくれますし一人一人が引っ張るという意識を持っているので自分も引っ張るという意識はありますが、特別何かをするということではなくて、みんなが自然とまとまってくれているので自分が「ああしろこうしろ」ということはないです。

——では印象に残った試合はありますか

特にこれといった試合があるわけではないのですが、2、3戦目ですね。1戦目いい勝ち方をしていて、楽な展開ではないですが、しっかり有原が投げてくれてバッターが打ってという試合ができています。一方で2、3試合目と苦しい展開が続いていてその試合をしっかり取れているというのが、自分としてはいい試合ができているのかなと思います。チームとして戦えているかなという印象ですね。

努力で切り開く

——一番練習されているという話を聞きましたが、どのくらいされているのですか

特に決めていないのですが、練習が終わって19時くらいから再開して、21〜22時くらいまではやっていますね。

——いつも最後まで残っているのでしょうか

特に最後まで(練習場に)いようという意識はないのですが、自分のしっかりやるべきことをやって上がるという感じです。

——これまでの3年間と比べても練習量は増えているのですか

多くやろうという意識はないのですが、自然ともうちょっと打ちたいなと思うときとかは多くなっている気がします。

——共にチームを引っ張っていく選手として挙げられていた有原航平選手(スポ4=広島・広陵)は勝利数、防御率でリーグトップと圧巻の成績ですが、投げているのを後ろから見ていていかがでしょうか

頼もしい存在なので、1戦目はそう大崩れすることもないので、有原がしっかり気持ち良く投げられるように自分たちがしっかり守っていこうという意識がありますし、どんどん引っ張っていってくれているのでありがたいと思う反面、自分の情けなさというのも感じます。

——1、2戦でやはり戦い方の意識としても変わってくるのですか

やはり2戦目はピッチャーのレベルも落ちるので、自分たちもカバーできるところはカバーしなければいけないという思いはあります。とにかくテンポ良く投げてくれれば何とかなるかなと思います。

——2戦目のように下級生中心となってくると普段より声を掛けることも多くなるのですか

そうですね、有原が投げるときはピンチのときくらいしか声は掛けないのですが、普段からしっかり声を掛けて「周りを見るように」と言ったりはしています。

——打者陣では茂木選手や中澤彰太選手(スポ2=静岡)に成長を感じられます

茂木はもともとチャンスに強いバッターだったのですが、しっかり(バットを)振れるようにもなっていますし、クリーンアップに回せば何とかしてくれるという感じがあります。武藤(風行、スポ4=石川・金沢泉丘)が打てなくても茂木まで回れば何とか1点は取ってくれるのではないかという思いもあります。中澤も今季からフル出場するようになって、3番になってしっかり結果も残していますし、チャンスメークであったり、きょねんあまりなかったタイムリーもしっかり打っているので、結局は自分や(2番の)重信(慎之介、教3=東京・早実)がいかにクリーンアップにつなぐかというところだと思います。

——チームトップの成績を残されている武藤選手については

きょねんもそうなのですが、ことしも結果が出ているのでバッティングに対して普段からいろいろ取り組んでいますし、一打席一打席に対する集中力が見ていてすごいなというふうに思います。

——中澤選手とは毎試合一緒にキャッチボールされていますが、いつも決めているのでしょうか

そうですね、きょねんから試合前は一緒にキャッチボールをしていて、その流れでことしもやっています。

——中澤選手は特に中村選手に対してすごく尊敬されている様子が見受けられますが、いかがですか

そう思ってくれているのはありがたいです。うれしいです(笑)。

——普段からお話などもされているのですか

いろいろ野球の話とかを話していますね。中澤だけじゃなく試合に出る選手とかは仲がいい選手が多いですね。

——試合前などに決めて行っていることはありますか

いろいろありますが…そうですね、試合の前の日は打席を想定して直原に投げてもらって、自分と有原で打席が回ってくるシチュエーションを想定しながらバッティング練習をしています。あと有原も実戦を想定しながら軽めのピッチングをして、自分がキャッチャーをやって直原が審判、バッターはそのとき室内にいる誰かを捕まえて1イニングをやったり、という感じで練習を終えています。

——有原さんも次の日に向けて想定しているのですね

そうですね。サインとかは自分が勝手に出しているだけですが(笑)。

——一緒に二遊間を組む相手が石井一成選手(スポ2=栃木・作新学院)から河原右京選手(スポ3=大阪桐蔭)に代わったことで何か変化はありますか

いや、自分の中では特に変わらないのですね。オープン戦でも石井と組むことが多かったのですが、それまでも右京とプレーしていたときもありました。石井にとってはずっとショートで(試合に)出るシーズンは初めてなので、まだちょっと硬さはあったのですが、試合経験を積む中でそういうのもなくなってきました。右京もきょねんまではあまり声を出さずに自分のプレーを淡々とやっている選手だったのですが、ことしからは意識が変わったのかは分かりませんが声も出ていますし、周りに指示も出すようになりました。なので、自分はどちらが来ても変わらずにプレーできますし、本人たちもずっと試合に出るぞという気持ちでお互い刺激しながらプレーしていると思うので、それはいいことですね。

——その二人は競争の中で伸ばしあっていると

そうですね。練習の時はどちらかがサードに行く時もありますし、茂木も含めて3人で高め合いながらやっているのかなという印象を自分は受けました。

自分たちは勝つだけ

大舞台で本領発揮となるか

——早慶戦の話に移りたいと思います。今季の慶大の印象はどのようなものでしょうか

きょねんや一昨年に比べると、勢いもありますし明大などにもしっかり粘って勝ってきているのでしっかりとした野球をしているなというイメージです。

——投手としては

慶大はピッチャーのイメージがあまり分からないのですが、三宮(舜)は防御率がいいですよね。加嶋(宏毅)や加藤(拓也)も勝っているということはやはりいいものを持っていると思うので警戒していきたいですね。

——打者の印象は

長打が多いバッターが多いので、しっかり低めに集めて長打さえ出させなければ、ワセダにチャンスは来るんじゃないかなと思います。

——加嶋投手とは相性がいいように感じられますが、いいイメージで試合に入れるのではないでしょうか

あのシーズンもあまり調子が良くなかったので何とも言えませんが、チームにも迷惑をかけているので、相手がケイオーというのもありますがそこも意識しすぎずに自分たちのやってきた野球ができれば、ワセダのペースに持っていけると思います。

——4年目ですが、やはり早慶戦に対して特別に感じたりはしますか

特別違うという気持ちは持たないのですが、やはり観客がいっぱい入ったり、独特の雰囲気はあるので違うなと思う部分はあります。

——甲子園も経験されていて、観客が多い中で野球をするのは慣れていますか

やはり楽しいと思いますね。ありがたいことですし幸せなことだと感じます。

——今季最後のカードへの思いは

優勝もかかっていますし、優勝を懸けた早慶戦というのも自分たちにとって初めてなので、早慶戦ということもありますが、自分たちは勝つだけなので一生懸命やっていけたらいいなと思います。

——やはりこのままでは終われないという思いもありますか

自分の成績も良くないので、早慶戦までの1週間でしっかり練習を積んで結果が出せれば、チームの勝利に貢献できればいいかなと思います。

——どのような打撃を

チームの得点に絡んだり、ランナーがいたら打点を挙げる。とにかく自分らしい打撃ができればいいのですが調子が上がらなくても何かしら相手に嫌な印象を与えられたらいいなと思います。

——意気込みを

みんなここまでいい雰囲気でやってきましたし、最後は早慶戦ということで、早慶戦で優勝できればいろんな方に見てもらえると思いますし、そういった舞台で(野球を)できる幸せな気持ちも持ちながら、しっかりいいかたちで勝って優勝してリーグ戦を締めくくりたいと思います。

——ありがとうございました!

(取材・編集 盛岡信太郎)

中村主将

◆中村奨吾(なかむら・しょうご)

1992年(平4)5月28日生まれ。180センチ80キロ。奈良・天理高出身。スポーツ科学部4年。内野手。右投げ右打ち。他の部の試合では、ラグビーとアメフトを観戦したことがあるという中村選手。盛り上がったもののルールはあまり分からなかったそうだ。今度はルールを覚えてリベンジしてみてください!