【連載】『~挑戦~ 逆襲への第一歩』 第9回 岡村猛監督

野球

 あと一本が出ないもどかしさに苛まれた昨年のワセダ。結局、春はまさかの4位、秋も3位と3季連続で優勝を逃す結果に。逆襲を期す岡村猛監督(昭53二文卒=佐賀西)はこの苦難に何を思うのか。そして就任と同時にワセダに入学してきた4年生への思いを語ってもらった。

※この取材は2月12日に行われたものです。

『一球入魂』の野球

ワセダ野球について語る岡村監督

――新チームがスタートして数か月。ここまでの雰囲気はいかがでしょうか

雰囲気は悪くないと思います。ある程度この時期は学生に任せていますので、できるだけ学生主導でやらせるようにしています。

――春季リーグ戦(リーグ戦)開幕が近まるにつれ、監督が指示されることも多くなってくるのでしょうか

大学野球の場合はできるだけ、学生が自立してチーム運営を進ませる方が、好ましいかなと思っています。高校野球とは違うのでね。全て僕が全面に出て、リードするものではありません。そこは必要に応じて、僕がリーダーシップを発揮しようかなと考えています。

――昨年を振り返っていかがでしょうか

ここ一番という場面で力を発揮できなかったという印象です。特に秋は投手陣はある程度頑張ってくれていたというものの、ここ一番というところで踏ん張りきれませんでした。まさに力のなさを投打共に痛感したという一年でした。数字的には昨秋の投手陣の防御率は非常に良かったのですが、それは有原(航平、スポ4=広島・広陵)を中心に数字を残ったというだけであって、一人一人を見てみるとまだまだ盤石の状態にはありませんでした。

――どういったことが必要になってくるでしょうか

走攻守すべてにおいてレベルアップしなければ、なかなか天皇杯は遠いでしょうね。

――昨年で一番成長したと感じた選手と挙げるとどなたでしょうか

やはり武藤(風行、スポ4=石川・金沢泉丘)ですかね。有原も結果を残しましたが、彼の持っているポテンシャルを考えるとあれぐらいはやってもらわないと困ります。武藤は初めて春にベンチ入りし、秋は先発メンバーに名を連ね3割をキープしたというところですね。ある程度の経験が重要な位置にもかかわらず、クリーンアップとしてよくやってくれたと思います。

――昨年のチームと異なる部分を感じることはありますか

昨年の今頃というのは、非常に危機感があり(監督自身が)強烈にリードしていた部分がありました。かといって「笛吹けど踊らず」というとこともあるので、そういった部分を学習して、できるだけ学生に任せたいと思っています。ただ、方向性だけは明確に示しながらやっていきたいです。

――それはことしが主力に4年生が多く、集大成の年ということなのでしょうか

僕と3年間共にやってきているわけですからね。でもきょねんよりは4年生の主力が多いですが、そんなに例年と違った印象は持っていません。絶対数は多いですが、4年生が全面に、中心にという意識はきょねん以上に持っていると思います。

――昨冬の藤枝キャンプでも「4年生にもっと引っ張っていてほしい」とおっしゃられていました。

ポイントはそこですね。先輩方にリーダーシップであったり、ワセダ像であったり、我々が背負わなければならないものをお話ししてもらっていて、内面ではそれらの重要性を感じてはいますが、それがまだアウトプットとしてグラウンドで出し切れていません。どうやってそれを出していけばいいのかということが見えていないのではないのかな。そこで、ポジション無関係の8、9名の小グループを作って、その中で話し合うようにと僕のほうから指示を出しています。そして、その答えを2月いっぱいの2週間で出してくれと頼んでいるので、それをキャンプやオープン戦といったところで実践してみて、その結果をリーグ戦で生かしていければと思います。そんなに簡単にはできないですね。

――そういった部分は大学のみならず、どこの段階の組織においても重要になってくるのでしょうか

やはり4年生は水平展開していかなくてはなりません。そして3年生以下が間近で見ているわけですから、そのアクションが可視化というような形で今度は垂直に展開することが重要です。水平展開と垂直展開を上手くミックスさせながら、チーム内に4年生がこうしたいということを伝えていってほしいです。僕が思っていることよりも、僕が考えていることを4年生が実際に具現化することが大切だと思います。

――それがうまくいけば優勝も見えてくるのでしょうか

結果はわからない、結果は神のみぞ知ると思います。我々の目標はそういったことを目標にはしていますが、そういったプロセスをそれぞれが経験していくことが、チーム、個々人の成長に繋がっていくのではないかと。その結果として優勝という二文字が付いてくれば一番素晴らしいと思っています。

――プロセスがうまくいっても結果が伴わないこともあるということでしょうか

結果さえ良ければ、そのプロセスはどうでもいいというわけではないと思います。優勝しましたと言っても、その中身は全くないとなぜ優勝できたか分からないということよりも、勝敗は別として、ワセダらしい、ワセダとしての野球だったのかということを僕としては重要視したいです。それで相手がそれ以上の野球をしたのならば、それは仕方がないと思っています。本当にワセダらしい野球ができれば、勝つ自信はあります。僕さえ失敗しなければね(笑)。

――ワセダらしい野球は一言で表すとどういったものでしょうか

一言では表せないですね。一言でどうしても表せというのならば、『一球入魂』の野球。では『一球入魂』の野球とはどういったものなのか。そう言われても分からないでしょう。100年以上の歴史の中で醸し出されるものは言葉で表すことはできないと僕は思います。それぞれの一人一人の気持ちの中にそういった匂いであったり香りであったり、感じ取ることができるものがあると思います。どこでみんなが感じてくれるかは分からないね。これは選手にも聞かれるんですよ。でもいつも「自分で考えなさい。そのヒントはグラウンドにある」と言っています。いままで培ってきた中にそれは隠されている。それを見つけるのは選手自身であり、チームとして見つけていくものです。明治、大正、昭和、平成とそれぞれの年代のワセダの野球はそれぞれに良さがあると思うし、ワセダらしさがあったと思います。ことしの4年生がどういったかたちで見せてくれるのかということは非常に楽しみですね。

「国際的な視野で物事を見る」

――中村奨吾主将(スポ4=奈良・天理)は昨年の東條航前主将(平26文構卒=現JR東日本)に比べるとどういった主将でしょうか

それは試合をしてみないと分からないね。やはり彼も努力をしていると思うし、自分なりのスタイルをこれからつくっていくと思います。これまでの人生で主将経験はなかったんじゃないかな。だからそのスタイルは僕がこういった風につくってくれというのではなく、大学生でもあり、成人した大人でもあるので、やはり中村なりのキャプテンシーを発揮してもらえればいいなと思っています。そこはもう信頼しています。

――ことしはロサンゼルス遠征も予定されています。どういった目的意識を持って望まれるのでしょうか

国際的な視野で物事を見る、野球を通してそれを行うということが、我々の野球部活動としての大きな意義として捉えています。そういう考え方で試合をしてほしいです。そしてそれはアメリカだけでなく、以前行った韓国のチーム(高麗大)との試合でも交流を図りながらやってきました。大学生だけではなく、台湾の社会人のチームとも一昨年に試合を行っています。人間的な成長、社会に出てからの貢献という意味でこういった国際交流をしています。二次的に成長はあるかもしれませんが、あくまで必ずしも競技力をつけるために海外遠征にいくわけではないです。

――ロサンゼルス遠征から帰った次の日から宮崎遠征が始まりますが

一息入れてしまうと、その時差のダメージが出て、緊張していたものが一気に解けてしまう。それからもう一回緊張感を持ってやってくれとなると相当な時間が必要になってくるなと思います。ならば一気にやってしまおうという意図です。これまでのアメリカ遠征でも2週間程やっていたのを1週間に切り上げて宮崎に行くわけですから、1次キャンプ地から2次キャンプ地に移動するだけのことという認識です。

――1週間に切り上げた理由はどういったことでしょうか

やはり少ない人数で不慣れな、言葉も通じない土地で合宿を行うよりも、国内で行った方がチームづくりの上では有効だろうということです。

――では宮崎キャンプの目的はどういったことになってきますか

まさにチームづくりですね。ロサンゼルス合宿に行くのは選手20名程になる予定です。20名という人数で試合はできますが、どれだけの練習ができるかわかりません。チームをつくる上では、試合と練習を上手くミックスさせながらやっていくということが必要ですので、宮崎にはロサンゼルスに行かなかった国内組とロサンゼルス組が合流し、そこでチームづくりということです。

――ロサンゼルス遠征に連れて行く選手たちはどういったことがもとで選ばれるのでしょうか

まずけがなくコンディションがいい選手を連れて行きます。それがまだできてない選手は国内に残り、宮崎に備えてもらいます。

――監督がロサンゼルス遠征に行っている間、国内組を指導されるのはどなたでしょうか

学生コーチと徳武定祐特別コーチ(昭36商卒=東京・早実)、八木茂特別コーチ(昭52卒=現秋田・明桜高監督)にお願いする予定です。

「ケガなく開幕を迎えたい」

試合前には自らノックを打つ

――やはりライバルとなるのは明大、法大あたりでしょうか

そうですね。(特に)ターゲットとなるのはその2校となるでしょう。ただ昨年は立大が非常に投手陣を軸に安定した戦いを見せていたので、その2校だけには絞れませんね。慶大も打線に力がありますし、東大も毎年着実に力を付けてきていますし、どこもターゲットです。

――ドラフト候補と言われている明大の山﨑投手、法大の石田投手といった強力な左腕を打ち崩すためにどういったことをお考えでしょうか

策があるとしたら、基本通りに攻撃するしかないですね。センター中心に甘いストライクを狙っていくだけです。攻略するチャンスや糸口は必ず見出せると思いますし、そこで物にできるかが勝負です。また投手陣、守備陣が失点をしないようにということがカギになるので、攻略できるかというよりも、ミスのない野球をした結果、1点差でも勝てればいいと考えています。簡単に打ち崩せるとは思えないので、ロースコアの試合になるでしょう。ミスしたほうが負けるということです。

――新戦力についてはいかがでしょうか

投手では大竹耕太郎(スポ1=熊本・済々黌)、柳澤一輝(スポ1=広島・広陵)には期待していますが、まだまだ体づくりの段階なので、焦らずけがしないように調整してくれればと思います。もちろん間に合えば、3月のオープン戦に登板するのが一番ですが、間に合わず開幕にいきなり登板させるのは難しいでしょう。

――ことしは比較的社会人チームとのオープン戦が多く組まれていますが、社会人チームとの対戦で得られるものを教えてください

社会人は短期決戦のトーナメントの大会が多く、集中力と執着心が重要視されるレベルなので、そういったものを対戦で学んでいけたら有効だと思います。学生にはない力強さやたくましさを学んでいきたいです。

――開幕までのこの期間の目標を教えてください

ケガなく開幕を迎えたいと思います。

――やはりケガはチームの指揮官としては一番気にしていることなのでしょうか

ケガをして思うようにプレーができないということは、選手自身が一番苦しみますし、チームとしても痛いです。

――最後にことし一年のテーマをお聞かせください

ワセダらしい野球をしたいと思います。

ありがとうございました!

(取材・編集 井上義之)

岡村監督

◆岡村猛(おかむら・たけし)

1955年(昭30)4月1日生まれ。佐賀西高出身。1978年(昭53)第二文学部卒。ことしの初めに東伏見・稲荷神社に初詣に行かれ、「ケガなく優勝を目指して頑張ります」とお願いをされたそうです。それでも「優勝は神様に頼むものではなく、自らつかみ取るもの」と復権へ向けて改めて決意をあらわにされていました。