【連載】『真の王者への道』 最終回 東條航

野球

 伝統あるワセダの背番号「10」を背負うこととなった東條航(文構4=神奈川・桐光学園)。立場は変わっても、勝利のためにつなぎ役に徹する姿勢は変わらない。そんな東條主将にチームの現状や自身の目標に加え、ラストイヤーとなる今季にかける思いを聞いた。

※この取材は2月13日に取材したものです。

「チームのために徹している姿を見せたい」

自身の主将像を語る東條

――今日はどのような練習をされていたのですか

強化練習が先週終わったのできょうは実戦的な練習を中心にやってきました。強化練習はひたすら体を強くするとか量をこなす練習だったんですけど、今は質を求める練習に変わりつつあります。

――現在の調子はいかがですか

良くもなく悪くもなく…ここから上げたいなという感じです。

――チームの雰囲気は

藤枝(静岡)で一回早めにひとつになれたというのはあるので、一体感としては去年に負けないぐらいのものがあるんじゃないかと思います。

――静岡キャンプではどういった練習が行われたのですか

とにかくひたすら量をこなすというか、心身の強化を図るというのと、メンバーのなかには寮生以外の人もいるのでそういった人ともしっかりコミュニケーションを取って、一体感を早めにつくることができました。

――きつかったですか

きつかったです。一日が長かったです。ひたすら振り込みしたり、量を打ったり取ったりしていました。

――ワセダでのラストイヤーとなりましたが、何か心境面で変化はありますか

やっぱり一番上になると責任感が去年とは違うものがあります。うまく言葉では言えないんですけど…。

――早大野球部で3年間過ごして、何か成長したなと感じる部分はありますか

自分ではあまり分からないんですけど。キャプテンになってからまだ3か月しか経ってないんですけど、特にその3か月がすごく濃いなと自分で思っていて、やっぱりみんなに見られているというのがあるので、この3年間過ごして伝統があるワセダ野球部の重みというものがわかってきました。自分が成長したというよりもそこの重みが分かったというのがあります。

――主将に就任されましたが、いかがですか

一人でやっているというような感じはないので、みんなに助けられながらやっているようなキャプテンなので、特に苦もなくやっています。まだ実戦もそんなに入っていないので。

――決まった瞬間の心境というのは

ちょっと自分でいいのかなというのはあったんですけど、他の先輩からも「自分でいいのかじゃなくて、言われたんだから自信持って精一杯やれ」と言われたので、思いきって一年間やってやろうと思いました。

――主将となるにあたって今までと気持ちの面で何か変化はありますか

とにかく下からも見られているので…そんなに見られてないかもしれないですけど見られているという思いが前より強くなったので、特にメリハリを大事にしなくちゃと思っています。やるときはやる、楽しくやるときは楽しくやるというメリハリを意識してやっています。

――その肩書きによるプレッシャーはありますか

そんなにはないんですけど、自分の前がまだ102人しかいないのでプレッシャーというよりは今は誇りに思っています。

――これまでの野球人生で主将を経験したことは

少年野球でしかないです。高校野球は副キャプテンでした。

――大野大樹(社4=東京・早実)、横山貴明(スポ4=福島・聖光学院)両副将の存在は心強いですか

心強い、と思いたいです(笑)。まだそんなに実戦も入っていないんですけど、やるときはやってくれる二人ですし、普段から仲も良くてなんでも話せる存在なので、ああしろこうしろとか言うんじゃなくて普通に会話しながら「こうやっていこう」とか言えるので、心強いですね。もともといい関係だったのですごくやりやすいです。

――スローガン「人間性を高める」はどうやって決められたのですか

あれは自分が発案しました。去年から監督さん(岡村猛監督、昭53二文卒=佐賀西)がずっと「野球というのは人間性が出るスポーツだ」と言われていたので、あと自分が見てても人として足りていない部分が部員に多かったので、私生活からもっとワセダ野球部として誇らしいものをつくりたいなと思って、発案しました。

――人間性を高めるために、何か具体的に取り組んでいることはあるのですか

まず寮がきれいになりました、すごく。人間性を高めるという意味では私生活からなので、きれいになったのが一番かなと思います。寮は寮全体できれいにしようという意識で、みんなで一回掃除をしました。

――同期はみなさん仲が良いですか

仲良いと思います。うるさいです、自分たちの学年は(笑)。明るいやつが多いというか、うるさいですね、いい意味で(笑)。

――東條選手が考えるワセダの主将像は

今までのキャプテンとは自分は少し違うと思っています。今まではプレーで引っ張る人が多かったと思うんですけど自分はそれとは違うと思うので、ワセダの主将像というのにこだわるのではなくて、自分らしく、主将という主役みたいな形でやってますけど野球のプレーにおいては主役を張れないので、チームのために徹している姿を見せたいなと思っています。

――佐々木孝樹前主将(平25スポ卒=現JR東日本)から何か感じることはありましたか

キャプテンて「印象」なんだなと思いました。法大の建部(賢登)さんも桐光学園の先輩でよく見ていたんですけど、佐々木さんも春に優勝を決める一打があって、正直もうあの一打でキャプテンの仕事終わったなという気がしたくらい数字じゃなくて一本の印象というか、建部さんも数字はそんなに残っていなくてもここという場面で決めていたので、そこがすごいなと思いました。

――練習中に主将として特に意識していることはありますか

さっきも言ったんですけどメリハリですかね。やるときには自分がやるぞという意識を見せないといけないので。抜いていい練習というのはないんですけど、ここというときに全員が一つになれるようなそんな姿を見せたいです。

「印象に残る一本を打ちたい」

打撃での存在感に期待

――東條選手から見て今年のチームの特徴は

野球面でいうと投手が残っているので、投手陣を中心とした守りのチームかなと思います。

――どのようなチームを作っていきたいですか

どの人がインタビューされても恥ずかしくないような、一人一人が自立したチームをつくりたいなと思います。

――主将に就任して、岡村監督とお話しされる機会も増えましたか

めっちゃ増えました。何かあれば自分にくるので、最近は一日練習なのでそんなに話す時間は多くなかったんですけど、授業期間は時間があるので面談は何回も何回もしましたね。

――具体的にどのようなことをお話しされるのですか

体罰とかもメディアでいろいろ取り上げられていたのでそういうことが絶対ないようにという確認と、人間性をテーマにしているだけあって、具体的にというのはないんですけどいま行っているこういう行動はどうなのかといった話し合いはありました。

――昨年度から積極的に周囲に声をかけられていましたが、そのような

精神的な面でさらに変えていこうと思う部分はありますか

監督さんから、守備の面では捕手が抜けたんですけど自分と中村(奨吾、スポ3=奈良・天理)の二遊間が残っているので、その二遊間でグラウンドをコントロールできるようになれと言われました。

――それは二遊間で声をかけあうといったことが多くなりますね

そうですね、二遊間でも話し合いますし、二遊間から周りに広げていかないといけないので、外野は大樹に任せて内野全体は二遊間で、という感じですね。

――3月に行われる沖縄キャンプでは、チームとしてどのような部分を伸ばしていきたいと考えていますか

藤枝もそうだったんですけど、一つ屋根の下で暮らすのでチームコミュニケーションも上がりますし、チーム戦術の徹底と一体感がより出ればいいなと思っています。

――東條選手自身は何を強化していこうと思っていますか

バッティングもそうですけど…もっと存在感を出せるようにしたいですね、グラウンドにおいて。

――昨年度はオープン戦から好調、レギュラーの座もつかみました。振り返ってみてどんなシーズンでしたか

いい思いもしましたし、苦しい思いもした一年間でした。

――いい思いというのは

やっぱり春、日本一になってそれに貢献できたかなというのがあったんですけど、秋は自分に負けた試合が多くて、負けた試合は自分がかなり関わったのでそこは4年生に申し訳ないなと思いました。

――去年一年間を通して見つけた課題は何かありましたか

普段やっていることが神宮で出るので、スローガンでもあるんですけど人間性というのが出るなと思いました。秋はちょっと打てなくて、春はずっと試合を振り返るビデオを見ていたんですけど、秋はその打てなかったときに嫌気がさして見なかったらどんどん調子が落ちていってすごく後悔しているので、同じことはしたくないなと思います。

――昨年度で一番印象に残った試合は

いい意味でも悪い意味でも、春も秋も明大戦が印象に残っています。いい意味では優勝が決まった試合でしたし、悪い意味では秋は優勝を逃した試合でもありましたし、それも自分が大きく関わって負けた試合だったので本当に印象に残っています。

――オフでは何か息抜きされましたか

生まれが関西なのでそちらに帰ってゆっくりできました。家族でゆっくりして、向こうの友達とも会いました。いろいろなところで見てくれている人がいて、客観的に一般世間から見たワセダ野球部というのを知ることができたので、すごくいい機会だったなと思います。

――今季特にどのような点をアピールしていきたいと思っていますか

今まで通りチームの勝利に徹する犠牲役というか、あまり見えない地味な活躍を目指しているんですけど、欲を言えば優勝を決めるというか印象に残る一本を打ちたいなとは思っています。

――昨年度のクリーンアップ全員が抜け、打線は大きく変わると思いますが

そうですね、そのへんは自分が言えることじゃないので監督さんの考えについていくだけなので…。得点力はかなり落ちるかなと思うんですけど、でも去年の形にこだわるのではなくてことしの得点方法もあると思うのでそこをしっかり確立して、勝てるチームになりたいなと思います。

――東條選手自身はどのような打者を目指していきたいですか

特にキャプテンになったからといってそんなに変わることじゃないので、今までとそんな変わらず、大きな打球は打てないので相手に嫌がれるバッターを継続して目指していきたいと思っています。

――チーム全体の守備面に関して意識していることは何かありますか

まだ実戦がそんなに多くないので徹底してはいないんですけど、消極的なミスは投手にも響くので、前に出る攻めの守りというのをノックからよく口にはします。

――積極的に捕りにいくということですか

そうですね。「~しちゃいけない」と思うと人間けっこうマイナスに働くことが多いので、失点しちゃいけないじゃなくて、引いて引いてではなく前に出てやろうという感じでやっています。

「自分もみんなと同じように取り組んで、苦しんで、あきらめずにやっていく」

――去年は試合に臨む際は緊張するとおっしゃっていましたが、今季は

余裕を持って臨めそうですか

いやー、そんなことはないんじゃないですかね(笑)。やっぱり常に不安を抱きながらやっているので、それに負けないような強さを、自信を持って臨みたいなと思っています。

――東條選手自身の今季の具体的な目標は

とにかく優勝ですね。優勝すればおのずと数字は残ってくるかなと考えているので。とにかく優勝だけを掲げてやっています。数字を気にしていると秋ぜんぜん良くなかったので、数字はなるべく見ないように。さっきも言ったんですけど印象がキャプテンの全てだと思うので、やっぱり優勝が一番印象に残るじゃないですか。優勝だけを頭においてやっています。

――選手としてチームに貢献するためにどのような役割が求められると思いますか

やっぱり犠牲役だと思うので、自分がばーんとホームラン打って一点取れたりすればいいんですけど、そうではなくて地味なんですけどランナー二塁にいたら右方向に打つとか、とにかく後ろにつなぐ役割をしていきたいなと思っています。

――試合では主将としてどのようにチームを引っ張っていこうと考えていますか

正直まだオープン戦もやっていないのでわからないんですけど、自分としてはできないことが多いので、今までと違ってプレーで引っ張るのではなくて、自分もみんなと同じように取り組んで、苦しんで、あきらめずにやっていく姿勢を見せたいと思います。自分がやってるところを後輩も見てくれると思うので、誰がどうとかではなくてまず自分が徹底するべきことを徹底して、やるべきことをやっていきたいなと思います。

――ワセダ内でのキーマンは誰だと思いますか

新4年生全員ですかね。去年見てやっぱり4年生というのが大事な存在だったので、ことしもメンバーかメンバー外かに関係なく、4年生全員がキーマンになるかなと思います。

――ワセダ内でのライバルは誰かいらっしゃいますか

(隣にいる大野選手を指さし)いろいろ似たタイプなので。今年は似たタイプではいけないと思うんですけど。負けたくないです、大野、足立(翔吾、文構4=福岡・明善)には(笑)。

――最後に今季への意気込みをお願いします

絶対優勝、ですね。

――ありがとうございました!

(取材・編集 山田祥子)

東條

◆東條航(とうじょう・わたる)

1991年9月11日生まれ。174センチ、72キロ。神奈川・桐光学園高出身。文化構想学部3年。内野手。右投右打。オフには箱根駅伝を観戦し、日体大の3年生キャプテン・服部翔太選手の姿が強く印象に残ったそう。「すごい人が同期にいるんだなと思った」と驚かれていました。