【連載】『大舞台での逆襲』 第7回 岡村猛監督

野球

今季は岡村猛監督(昭53二文卒=佐賀西)にとって納得のいくシーズンではなかった。春同様に打撃陣が低迷し、チームは秋季リーグ戦(リーグ戦)の優勝を逃した。しかし、残る早慶戦はことしで110周年を迎える。この節目の年に行われる最後の一戦を指揮官はどのような気持ちで挑むのか。その心境を語ってもらった。

※この取材は10月25日に行われたものです。

「ふがいない結果」

早慶戦を前に厳しくチームについて語る岡村監督

――リーグ戦も残すところ早慶戦のみとなりました。これまでのリーグ戦を振りかえってみてどうでしょうか

4カード終わって、勝ち点2。非常に不本意、ふがいないない結果であると思っています。

――春はこの段階で勝ち点1でした。そういう意味では成長したと言えますが、今季は春よりも勝てる試合が多かったからこそより悔しいということでしょうか

もっと勝てると思っていましたからね。春よりも、もっといい成績で早慶戦に臨みたいと思っていたので、そういう思いからすると思惑とは違っているという状況です。

――現在のチーム状況を教えてください

法大戦が終わって2日ほどオフを取って、今日の午前中から時間帯別練習を再開しましたので、選手たちがいまどういう気持ちなのかというところまで、まだ詳細には把握できていないですね。

――春が終わってから秋に向けて、軽井沢合宿や夏季オープン戦など行われました。それらを通してチームとして一番成長したと思うことを教えてください

成長というのは、あくまでも結果を見て、どの部分が成長したって言えると思うんですよ。そういう意味で言うと、4カード終わって勝ち点2というのは春より成長したと言えるのかもしれませんが、それ以外は何が成長したのかと改めて問われると、特にないですね。

――アンケートにもありましたが、リーグ戦開幕は有原航平選手(スポ3=広島・広陵)や小野田俊介選手(社3=東京・早実)などケガをしている選手が多い中、不安はありましたか

有原、小野田っていうのは投打の柱ですからね、この二人が万全の状態で開幕を迎えられなかったというのは不安がありました。その影響がどうしても投手のローテーションや打線の得点力といったところにダメージを受けたかなと感じますね。

――それは有原選手や小野田選手がいない開幕前の期間がいまの結果に影響しているということでしょうか

結局有原については開幕になんとか投げられる状態になっていたということですよね。開幕前のチームの力っていうのを上げていかなければいけないところで彼がいなかったというのがあるし、小野田にしても同じですよね。そういった部分が多少は影響したのかなと思いますけどね。しかし、本来チームというものはそこを誰かがカバーして乗りきっていかなければならないというのが、あるべき姿だと思うけど、それをカバーしきれなかったということですよね。やはりチーム力、チームの層の薄さを露呈したということですね。

「勝ちたいという意欲」

勝利を懸けて采配を振るう

――昨季優勝した明大とのカードでは1戦目、3戦目で敗北を喫してしまいました。この2試合で先発した吉永選手は立ち上がりがスムーズにいかない部分が目立ちましたが、それについて何か吉永健太朗選手(スポ2=東京・日大三)とお話をされましたか

いや、特にはしていないと思います。ミーティングをやっていますし、その中で個別の投球であったり、守りや打撃のことをしながら話をしていますのでね。あえて個別に話すということはしていないです。まあ、翌日の試合であったり、3戦目の試合前には個別でちょっと話しますけど、改まったかたちで何かを話すということはないですね。

――試合後のコメントで「先行する」ということをよくおっしゃっていましたが、そういう意味でも明大2回戦は投手が抑え、攻撃でも先行できたことが勝利につながったと思いますか

先行するというよりも、守りは3回まで無失点に抑えて、3回までに攻撃は得点すると。序盤、中盤、終盤と9イニングを3つに分けて攻めと守りということを話していますのでね。そういった意味で全体の試合、9イニングを通して常にリードをして試合を進めていくということをテーマにやってきていたので、そういう話をする際に先行ということは多分よく出ていたんだなと思います。なかなか打線が十分機能するとは言えないので、やはり逆転する力がないということが、常に先行して逃げ切るということになるんでしょうね。

――逆転できない、ということですが、やはり試合の終盤での得点力ということが今季の課題であったかと思います

それはやっぱり打線がね、あまり活発邪なったというのがあります。ヒットが出ても単発、散発ということだし。あまり序盤、中盤、終盤という意識はないけど、全体的に得点力というのは非常に低いんじゃないでしょうかね。まあ春もそうだったかもしれないけど、春も秋も打力が弱い、得点力が低いっていうのは数字でも出ているんじゃないかな。ただ防御率が春よりも上がって良くなっているので、おそらくそれが勝ち点の差になって表れているんじゃないかと思います。でもその防御率っていうのも有原一人で上げているということになってるんじゃないんですかね。

――試合の立ち上がりの安定、そして先行するというのを求めて、立大戦からは有原選手に第1戦を任されたのですか

なかなか有原が3戦目に期待通りのピッチングができていなかった今春もそうだし、去年の秋もそうだしと、非常に3戦目というのが彼の中でのテーマの1つだったとおもうんですよね。それはスタミナなのか、スタミナというのは肉体的なスタミナなのか精神的なスタミナなのかと。まあいずれにしても3戦目の勝ち星がないという状況の中で、じゃあ1戦目と3戦目をどうやって取るかということを考えて吉永という案もあったんですよね。ただ吉永も立ち上がりが不安ということがあって、立ち上がりが不安ということは立ち上がりの、序盤の攻撃が難しいと。いいリズムで攻撃に入れないということを考えたときに、じゃあ立ち上がりがスムーズな有原を1戦目に起用することにしたと。まあ開幕前にケガで万全じゃなかったんでなかなか難しかったんですけど、明大戦が終わって大分安定した投球ができていたんで、1戦目を任せることにしました。

――その1戦目は有原選手が好投、リリーフの横山貴明選手(スポ4=福島・聖光学院)も得点圏にランナーを進めても粘り強い投球で抑えるといった必勝リレーを確立できたと思いました。

そうですね、ただ内田(聖人、教2=東京・早実)がいなかったというのが(有原、小野田に続く)3人目のケガ人として非常にダメージが大きかったですかね。

――有原選手と横山選手の二人で勝てる試合以外で、春の内田選手の活躍が必要な試合があったということですね

よければ(内田には)先発もと思っていましたからね。それが誤算といえば誤算ですかね。あと攻撃力が弱いというところで言うと茂木(栄五郎、文構2=神奈川・桐蔭学園)も故障でね。法大戦には出しましたけど、やっぱり万全じゃなかったというのがあって。まあこの4人がけがであったり、出遅れたりしたということは投打にわたってダメージが大きかったですね。

――立大3回戦は両校投手陣の投げ合い、最後はサヨナラ勝ちでしたが、この勝利、そしてカードを取ったことをどのように感じていますか

この時点では、3カード終わった時点では非常に大きな意味があったと思うんですけどね。法大戦で連敗してしまうと、そういった勝利も無に帰すということになりますね。やはり法大戦に勝って早慶戦に臨むからこその一戦であったと思います。4カード終わって、じゃああの勝利はなんだったんだというと、よく頑張ったよねというだけ、になりますね。本当に、本当に意味があるのであれば、その勝利を一つのターニングポイントにして、反転攻勢の試合にならなければならないところが、なりきれていないということですからね。まあそこで、一息ついたというだけでしか意味がないということだと思います。

――先ほども言われていた法大戦にかけて、打線が低迷しました。この点に関しては春と同様の事態だと思われますが、いまだから思う共通している点などはございますか。

得点できないということは共通しているんだけど。ヒットは出るんだけどタイムリーが出ないっていうことですね。攻めるんだけど、攻めるんだけどタイムリーが出ない、というのが共通していることですね。なぜなのかということは、僕にもまだ分からない。原因は何でしょうね。技術的なことなのか、精神的なことなのか。勝ちたいという意欲が足りないということなのか。その複合したものが要因。

――これ、という要因は限定できないけれど、そういったいろんなことがタイムリーが出ない、得点できないということにつながったということでしょうか

あえて言うならば、勝ちたいという意欲が足りんということでしょうね。

――その勝ちたいという意欲というのは、相手と自分たちとでその意欲の違いというものを岡村監督自身が感じられているということですか

いや、負けたということがそうだと思います。他大と比べて大きな戦力的な差があるかと、大差ないと。となれば後は、勝つという意欲が強い方が強い方が勝ってくるわけですよね。それはボールには絶対手を出さない、バットには何としてでも当てるというような個別の意欲が表れるか。それが結局勝敗の差になって出てくるのではないかと思います。その意欲が強いのが明大であると。だからトップに立っているんでしょうと。(明大は)ヒットは打っていない。でも得点をしている、なぜなんだと。それは絶対にフライを上げない、何とかバットに当てるという表れが何なのか。勝ちたいから、負けたくないから。そういう気持ちの強い表れが一つ一つのプレー、執着心となって出てるんじゃないのかなと。ワセダが淡泊であると、簡単に三振すると、簡単に三人ともフライを上げるというのは技術的なことではないんじゃないと思いますけどね。

――そういう意味では、明大の岡大海選手は四死球でも何でもいいから出塁するという気持ちが出ていると。4番という打順は関係なく、そういったチーム一人一人の「勝つ」という気持ちがワセダには足りなかったと岡村監督はそう思われているのですか

そうですね、そこを何とかしようよとテーマではあったんですけどね。なかなかその課題は解消されないまま、現在に至るということですね。まあ、要は課題が山積しているということですよ。技術的なことではなく、勝つという精神的なものだと思います。じゃあその思いっていうのはどこから出てくるのと。それはもう日々の練習でしか培えない。試合の時にはやりますよと言っても遅い。日々の練習の厳しさかと思います。その厳しさが足りないということだと思います。

――東條航主将(文構4=神奈川・桐光学園)も取材で「日々の練習が身についていない」と監督が話されたと言われていましたが

練習はやっているんですよ。みんな一生懸命にやっているんだけども、本当に厳しさがあるのかという質の部分ですよね。練習の量っていうのにはそんなにどこの大学も差はないと思うんですよね。やっぱりやることにもそんなに差はない。でもその雰囲気や厳しさ、内容には差がある。その差って、毎日の積み重ねですからね。

――法大2回戦は救援陣が相手打線を抑えることができませんでした。特に今季の救援陣については1年生が多いです。やはり経験の浅さも抑えられなかった原因の一つでもあるとお考えでしょうか

そうでしょうね。経験もそうですし、まだ力も足りないということだと思います。でも、経験というのは経験させないとだめだし。力があるかないかというのは投げさせてみないと本人も分からない。そういった意味で、登板して経験を積んだというのは決して無駄ではなかったと思います。

――法大3回戦ではメンバーやオーダーを組み替えて臨まれましたが、投打に共に完敗を喫したという印象があります。終わってしばらく経ち、分析などを含めた上であの試合を振り返ってみてください

負けた時の試合っていうのは打てず、守れずということでしょう。あそこを簡単に負けられる状況の試合ではなかった。それを簡単に負けてしまったということは、勝ちたいという意欲が足りないからでしょうということしかないでしょうね。点をやったら負ける、じゃあ点を取れているか、取れていない。じゃあ点を絶対に与えない、何としてでも有原が投げている時に先制する。その一点の攻防に対する執着心が弱いってことですよね。1点取られたらこれで絶対抑えるというのもないし。だから2点目を喫する。そういうことじゃないんでしょうかね。

――やはり「勝つ」という意欲ということでしょうか

細かなことをいうときりがないのでね。得点したいと、何としてでも点を取るとなるとやはりその意欲になると僕は思うんですけどね。一つ一つ分析するといろいろあると思うけど、それ以前も問題だと。戦うということはどういうことなのかと。根本のベーシックな問題ですよね。安部磯雄先生も「野球という競技は平和的な闘争である」と。闘争なんですよね、戦いなんですよね。そのことは再三言ってるんですけど、なかなか出てこない。それはやはり4年生がどれだけ勝ちたいと思うのかということでしょうね。3年生が勝ちたいと思うのか、4年生が勝ちたいと思うのか。勝ちたいと強い思いはどっちにあるかと。言わずと知れた4年生ですよね。じゃあ4年生が勝ちたいのか、それをどう表現するのかと。だからその表現の1つとして(明大なら)岡大がああいう表現、姿勢と態度を出すんでしょう。彼は勝ちたいんだよ、負けたくないんだよ。そこが大事なことなんじゃないかな。4年生が試合に出てる出ていないじゃなくて、4年生がどれだけの強い思いをもって日々の練習をしているのか。そういうところの積み重ねですよ。そのちょっとした差が毎日毎日積み重なると、どれだけの差になるのか。その差じゃないのかと思います。勝ちたいという意欲の差、分析するとそう思います。

「勝って4年生を送り出してあげたい」

――では、いよいよ早慶戦です。今季の慶大をご覧になって、どのように感じていらっしゃいますか

非常に打線が活発に打ってるような印象かなと。あとやっぱり1年生の加藤くん(拓也、1年)が1戦目に先発するようになって、非常に小気味よく投げっぷりのいい投手なんで、その辺の勢いが打線全体に影響を与えているのではないかと思います。そういうのもあって非常に元気かな。そういう印象です。

――では全体的な印象としては春とは違うということですね

特に1年生の投手や2年生の投手、野手というのが多いですからね。だから1年生、2年生の選手が中心のチームですからね。非常にフレッシュで、はつらつとしたチームだと思っています。

――早慶戦110周年という記念すべき年の最後の早慶戦です。意気込みをお願いします

あのオール早慶戦での勝敗というのはリーグ戦とは違いますので、ほとんど勝った負けたという勝敗は参考にならないという風に思います。早慶戦が始まって110年、それと合わせて1943年、学徒出陣までの「最後の早慶戦」と言われた年から70年目というこれも節目の年なんですね。そういった節目の年での早慶戦ということもありますけども、残念ながら、この早慶戦をお互い優勝を懸けて戦うということができなくて大変ファンやOBの皆様には申し訳なく思っています。ただ、我々の目標がリーグ戦での優勝、そして早慶戦で勝ち点を挙げることですので、何としてもこの早慶戦で勝ち点を挙げたいと。しかも4年生にとってはまさに4年間の集大成のリーグ戦での対抗戦でもありますし。何としても勝って4年生を送り出してあげたいなと思っています。これは野球部員だけではなくて、いまの大学の4年生に対しても、早慶戦に勝って卒業したと思い出になるような試合にしたいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 廣瀬元宣)

岡村

◆岡村猛(おかむら・たけし)

1955年(昭30)4月1日生まれ。佐賀西高出身。1978年(昭53)第二文学部卒。ことし8月に佐賀県で行われた全早慶戦での勝利について聞くと「ホッと胸をなで下ろすというか、一息つけました」と安心されたそう。ご友人も多く観戦に球場まで駆けつけられたようなので、勝利で飾ることができてうれしそうでした。