【連載】『大舞台での逆襲』 第1回 吉永健太朗

野球

 今季、春に失った先発の座に返り咲いた吉永健太朗(スポ2=東京・日大三)。しかし、待ち受けていたのは思うように勝ち星をつかめない試練のシーズンだった。苦しい戦いの中で、自分とチームの状況をどのように分析しているのだろうか。その心中を聞いた。

※この取材は10月26日に行われたものです。

「しっかり投げられるのかという不安」

質問に笑顔で答える吉永

――まずはここまでのご自身の戦いを振り返っていただいてもよろしいでしょうか

東大1回戦以外はすべて負けてしまっているので、良いシーズンとは言えないですね。

――それはチーム全体という意味でも言えるのでしょうか

そうですね。点をなかなか取れない中で、投手陣が抑えなければならないと思うのですが、自分は踏ん張りきれなかったですし、有原さん(航平、スポ3=広島・広陵)も要所を抑えているとはいえ、点数を取れない分緊張感が増して負けてしまうというところがあったと思います。雰囲気や流れもあまり良くなかった印象です。

――昨季外された先発の座を守っていることについてはいかがですか

結果が出てないのは残念ですが、この座を守っているというのは春に比べれば進歩だと思います。

――いつ頃先発復帰を伝えられましたか

東大1回戦の週ですね。

――開幕先発はご自身にとって初の経験だったと思いますが緊張はされましたか

先発する機会が少なかったので、しっかり投げられるのかという意味での不安はありました。

――しかしその後は勝ち星に見放されるかたちとなってしまいました。内容は被打率が2割ちょうどと決して悪くはない数字が出ています

四死球が多いのが課題ですね。それが減ればもっと安定した投球ができるとは思っています。

――それについては夏からずっと試行錯誤を重ねながらもまだ自分の思うような姿にたどり着けていないということですか

そうですね。意識の上で打たれたくないと思うと厳しいコースを狙い過ぎて四球ということが多かったので、立大2回戦からは多少甘い球でも腕を振ろうという考えに変えました。結果的に本塁打で負けてしまったのですが、四球が1個に減らすことができたので、そこは収穫だったと思います。

「あとは制球力をどうするかが課題」

今季は苦しいマウンドが続いている

――各試合を振り返ると、明大1回戦は初回に3点を奪われ、そのまま押し切られる形になってしまいました

立ち上がりに不安がある中での投球で、初回にやられてしまったということに悔いが残っています。しかも、打たれた場面も普通に投げれば打たれないはずの場面だったので、もっとしっかり意識をするべきだったかな、と思っています。

――その後は内容も安定して完投ということになりました。球威が落ちている様子も見られませんでしたが、やはり夏場からの練習の成果なのでしょうか

投げ抜く体力をつけるということは課題としてやってきたので、それが達成できたという実感は得られました。あとはやっぱり制球ですね。

――明大3回戦も決して調子は悪くないように見えましたが

調子は悪くなかったのですが、踏ん張りどころで踏ん張れないことが勝てない理由なのかな、と思います。

――毎年の明大戦に言えることだとは思うのですが、関谷亮太投手や山﨑福也投手といったご自身の先輩と投げ合うことが多いと思います。今シーズンのこの二人はあまり調子が良くないように見える一方でピンチの場面は切り抜ける場面が多い印象がありますが、この二人から学ぶことはありますか

明大の投手全般に言えることなのですが、どの投手もピンチでの踏ん張りが凄いです。走者がいるときといないときで、制球であったり、ボールの質であったりがまったく違うので、そういう所を学び取れたら自分も進歩できるのかなと思います。

――立大戦からは2番手に回ることになりましたが、準備の方法や、心境の変化はありますか

特にはないですね。

―― 一番手は有原投手ということになりましたが、お互いに声を掛けたりはされたのですか

2試合で終わろうという話はしたのですが、自分が負けてしまったので申し訳ない気持ちです。

――ちなみに誕生日での登板でしたが

誕生日だから勝ちたい、という思いはあったのですが勝てなかったので残念です。

――相手の先発は以前、“印象に残った”とおっしゃっていた斎藤俊介投手でした

あの日はバラつきがあって、ワセダとの相性も悪くはない選手だったのでいけるとは思ったのですが、自分が打たれた一発が響いてしまったのでやられたな、という感じです。

――あの場面ではほぼ全球直球勝負でしたが、あれにはどのような意図があったのでしょうか

外角に投げ続けられればファールになるということは分かっていたので、2ストライクまでは直球で追い込むことができました。その後の変化球が外れたところで前の打席の捕邪飛から一球内角を見せるという判断になったのですが、それが一個甘く入った所を打たれてしまいました。

――それ以外にも全体的に直球の割合が多くなったように思います

直球の力は付いてきたと思います。あとはそれが制球できるかがカギだと思います。

――法大2回戦は早いイニングでの降板となりましたが、次の試合での登板の可能性も考えてのものだったのでしょうか

次の試合というよりはリズムが悪かったので代わったのだと思います。

「岡部さんに対しては前から嫌な予感はあった」

――自分以外の投手陣の現状についてはどう思われますか

今の状況で言えば、高梨さん(雄平、スポ3=埼玉・川越東)の調子が悪いままで、内田(聖人、教2=東京・早実)も故障で外れていることで戦力的には落ちていると思います。先発が踏ん張らなければならない中で自分が打たれてしまっているのは低迷の一因ですね。

――打線がなかなか打てない試合が続きますが、投手陣全体ではそのことは発奮する材料になったりするのですか

2点以内に抑えよう、という意識を共有してはいます。

――対戦した中で一番手強かった大学、あるいは選手は

チームに関してはどこも変わらないのですが、選手に関してはやはり本塁打を打たれた立大の岡部(通織)さんですね。

――岡部選手とは大学以前での対戦はあったのですか

ないですね。

――現在岡部選手はいままでから大幅に成績を上げて三冠王争いのまっただ中にいます。以前に対戦した時から印象は変わっていますか

確かに今季の数字は良いですが、個人的には前々から打ち取りながらも良い当たりを打たれ続けていたので嫌な印象であったり予感はありました。

――少し話題を変えようと思います。この夏には吉永選手が高校時代に所属した18U代表が台湾でW杯を戦いましたが、ご覧にはなりましたか

少し見ました。

――当時の思い出などはありますか

楽しかったですね(笑)。

――今大会で注目していた選手は

誰が、ということではないのですが全体的なレベルの高さは感じました。自分たちとの比較に関しては、こっちはアジアが相手、あちらは世界を相手に戦っているのでできませんが、見たところでは良い選手がいっぱいいるなと感じました。

――大学生活に目を向けると今季は平日開催のゲームが多くなっています。授業や単位の心配は

試合だということを先生に言えば公休がもらえるので大丈夫だと思います。多分ですが(笑)。

――六大学野球を戦う中で平日開催が多くなることは調整面への影響として現れることもあるのでしょうか

やっぱり月曜日、火曜日まで試合をしてまた翌週にも試合ということになると疲労感は感じますね。

「最後は納得できる投球を」

――昨季は早慶戦で素晴らしい投球を見せました

結果的には良かったのですが、自分で納得のいく球は投げられなかったので、正直なところ満足はしていません。今回はここまで勝つことができていない分、納得できる投球がしたいですね。

――慶大打線は好調ですが、警戒する選手はいますか

あまり試合に出ていませんが、藤本さん(知輝)は警戒しています。本塁打を打てる選手は気をつけたいですね。

――本塁打を打たれる、ということは投手からするとやはり嫌なのでしょうか

嫌ですね。塁を一周回っていく所をずっと見ていないといけないので。

――同級生の横尾(俊建)選手も不振から脱却したように見えます

横尾はとても器用な選手なので、そのうち打つのだろうなとは思っていました。ただだからと言って意識することはないですかね。対戦したら抑えるということだけです。

――慶大投手陣についてはいかがでしょうか

加藤(拓也)は躍動感があるのでどんな投球をするのか楽しみなところがありますね。映像で見ると、球のキレが凄いので、実際にどんな球を投げるのかは気になります。

――ここまで通算9勝。早慶戦での通算10勝達成の可能性があります

それはあまり気にしていません。その数字を目標にしている訳ではないので、勝てる試合は勝つということだけを考えています。

――早慶戦に対しては慣れてきた感じはありますか

そうですね。もう緊張することはありません。普段よりもたくさんのお客さんが来ると思うのですが、そっちの方が自分としては投げていて楽しいです。

――東條航主将(文構4=神奈川・桐光学園)が早慶戦のキーマンとして吉永選手の名前をあげています。普段からそのような話はするのですか

色々言われますね(笑)。本当に色々あります。

――その後、東條主将は理由として「なかなか結果が出ていないので、最後は笑顔で終わって欲しいから」と語っています。何かそれに返す言葉はありますか

シンプルに、頑張ります。

――最後に意気込みをお願いします

優勝はないですが、2連勝で終われるように、ベストを尽くします。

――ありがとうございました!

(取材・編集 小島健太郎)

吉永

◆吉永健太朗(よしなが・けんたろう)

1993年(平5)年10月13日生まれ。182センチ、82キロ。東京・日大三高出身、スポーツ科学部2年。横山貴明(スポ4=福島・聖光学院)選手が東北楽天から6位で指名された先日のドラフト会議。寮では多くの選手が運命の時を見守るべくテレビの前に集まっていたようですが、吉永選手はあいにく外出中。寮に辿り着く5分前に指名を知ったとのことで歓喜の瞬間に立ち会うことはできませんでした。本人曰く「余韻は楽しめました(笑)」とのこと。歓喜の輪の主役になる日を待っています!