例年よりも多くのOB・OGが見守る中、平成28年度早稲田大学航空部幹部交代式および新入部員部章授与式が行われた。今回の式では新幹部からのあいさつ、決意表明があり、この日から4年生から3年生へと正式に幹部は交代。また、1年生は部章を受け取り、チームの仲間入りを果たした。新しい世代へとバトンが渡された航空部は、次の一年へと動き始めた。
航空部はことし10月、大会中に起こった事故により、当時主将であった明妻祐也さんを亡くした。共に活動し多くの日々を過ごした仲間を失い、悲嘆に暮れる部に必要となったのは、一からの体制の立て直し。幹部交代式では、新主将となった佐々木昇吾(基理3=愛媛・宇和島東)、新訓練主任となった大庭康聖(基理3=神奈川・山手学院)をはじめとした新幹部から、次年度の活動方針が語られた。グライダー競技は常に危険と隣り合わせだ。今回の出来事で安全の大切さを痛感したことにより、今後の訓練は今まで以上に安全面に重きを置いたものにしていかなければならない。しかし、マニュアルやルールを新しく対応させたとしても、代を重ねて年を経るごとに、この記憶は風化してしまう恐れがある。「さらにしっかりとした危険意識と、それを忘れない仕組みを作っていかないといけない」(浦西雄哉前副将、政経4=東京・海城)。全員がグライダーの危険性を再確認した今、今後にもつながっていく体制を作るべく、組織の基盤づくりから徹底し、新幹部を中心に一丸となって部の再生に取り組む。
新しくなった幹部
続いて行われた新入部員部章授与式。小林哲則部長から部章を手渡され、17人の1年生がこの日から正式に部の一員となった。例年、訓練の厳しさ、合宿回数の多さなどから部を辞めてしまう者も少なくないが、ことしは多くの1年生を迎えることとなった。さらに、新入部員からの決意表明では、来年4月の新入生歓迎活動に向けて力強い意志を聞くことができた。これまでとは違った雰囲気の中で始めることとなり、新歓方法を模索しながらではあるが、積極的な姿勢を見せている。意欲あふれるたくさんの新入部員の姿に「僕たちにはかなりプラスになる」と佐々木も期待を寄せる。これからの航空部の未来を共につくっていくこととなる新入部員たち。その存在は、立て直しを図る部にとって心強い支えとなるに違いない。
力強く決意表明をする新入部員
「一歩一歩焦らず進んでいく」(椙田秀斗主務、政経3=埼玉・早大本庄)。部は一度、立ち止まることを必要とした。しかし、ここから再び少しずつ進み始める。新しく仲間となった新入部員の1年生。今回の式に駆け付けた多くのOB・OG。そうした多くの支えも借りて、もう一度走りだすのだ。4年生からそのバトンを託された新幹部を柱として、次へとつながる基盤を固める。ふさぎ込んでも仕方がない。悲しい出来事も、先輩たちとの思い出も、受け継いだ伝統も。さまざまな思いを受け止めながら、未来へ向けて歩みを始めた航空部。また新しい歴史をここからつくっていく。
(記事 冨田千瑛、写真 坂巻晃乃介)
駆け付けたOB・OGとともに
※早稲田大学航空部よりお知らせ
「現在、早稲田大学航空部はホームページやブログなどを閉鎖しています。日頃から航空部を応援してくださっている皆さまには、10月10日以降私たちの様子・情報をお伝えすることができず申し訳ございませんでした。飛行再開に向けてブログを順次再開致します。何卒ご了承ください。(早稲田大学航空部 主務 椙田秀斗)」
コメント
浦西雄哉前副将(政経4=東京・海城)
――昨年の活動方針について、ことしと違った点を教えてください
部の活動方針についてですが、覇者ワセダとしての伝統の継承というのが大きな活動方針でした。それに付随する目標として、全ての大会に勝つ、安全第一、あと人を育てるという3つのことを目標としてやってきました。去年の主将の掲げた目標を達成できるような目標を各主任が設定しますが、ことしは事故があったのですべての係が安全というキーワードを標語に入れて、全員にそれを意識づけるために安全という言葉以外使わないほどになっています。でも去年は例年通り先ほど言った3つの目標でやっていました。
――新しい役職はどのように決められましたか
次に中心となるのは3年生なので、3年生を中心に話し合って決めました。4年生はほとんど関与していないです。
――役職ではどのようなことを成し遂げましたか
僕は副将と訓練主任という立場だったのですが、副将は主将がいるとほとんどやることはないのでどちらかというと訓練主任という立場でした。訓練主任としてやったことは全て技量アップにつながってくるので、どうやったらグライダーに興味を持ってもらえるかということを常に考えてやってきました。常に次に達成するべき目標を与え、部員が前向きに進んでいけるようにしました。あと、座学に関しても、それまで足りないところを断片的に補うという形でしたが、それを網羅的に教えるような仕組みを作って教えていくというシステムを作って教えてきました。
――役職を終えての感想は
終え方がちょっと、急に活動自体が止まってしまったので、終わってよかったというふうにはあまり思えないですね。ただ、主将がいなくなって副将として僕がやってきましたが、自分が前に出て何かするというのが非常事態ですし、そういう立場にいるというのが自分としてはあまりうれしくなくて。ただ、そうやって部を引っ張ってきた期間が終わって、とりあえずはほっとしています。
――部の再生に向けての思い
事故は何回も起きてしまうものです。その時にいろいろな教訓を得るんですが、時間がたつと忘れられてしまって、それを知らない人が出てきてしまいます。事故が起きた時にいた人たちは意識して対策を作っていきますが、結局それができたとしてもそういった危険意識のようなものも一緒に引き継がないと、代が替わった時にすべて一新されてしまうと思います。ルールやマニュアルは作っても、事故はそれをすり抜けて起きてしまうものだと思うので、対策は立てますが、さらにしっかりとした危険意識とそれを忘れない仕組みを作っていかないといけないと思います。
――後輩に期待することは
今の3年生は、4年生に向かってかなり(意見を)言ってくるタイプだったのですが、まぁ言う割には動かないという面がありました。彼らなりにしっかりと問題意識は持っているようなので、それを捉えて行動に移していくことをやってもらいたいと思います。あと航空部というのはいろいろな心境の人が来て、大会に勝ちたい人もいれば単純に空を飛びたい人もいて、それぞれ違う思いを持っていると思います。それをまとめるというのは結構難しいですが、何とかみんなの気持ちを部の方向に向かせて引っ張って行ってほしいなと思います。
土居原悠史前主務(人4=東京・高輪)
――役を終えてのお気持ちをお聞かせください
正直そんなに終わったという感覚はなくて。これから3年生の助けになれるかわからないですけれども、どちらかというと僕たちは反省点の方が多くて。うまくいかなかったことの方が多いし、実際うまくいかなかったので、反面教師じゃないけどそういうものを伝えられたらいいかなと思います。
――部の再生へ向けて今どのような思いでいらっしゃいますか
これだけ航空部で空を飛ぶためにみんな集まったので、卒業する前に一発だけでも飛んでというかたちを取って終われたらと思います。
――最後に、後輩へ伝えたいことをお願いします
先輩、後輩、OBの皆さまに感謝して活動してほしいと思います。
佐々木昇吾主将(基幹3=愛媛・宇和島東)
――どのような経緯で主将になられたのでしょうか
元々学年リーダーというものとして今の3年生をまとめる役をしていました。幹部になるにあたって、主将とか副将を決めなければいけないとなったときに僕がやると言って。いろいろ意見は出たのですが、それに対してそんなにもめることもなくすんなり決まりました。
――主将という立場になってみて、今のお気持ちは
大変だなと思います。やる仕事が増える訳ではないですが、精神的な面とか気持ちの面で背負うものが大きくて。明妻主将を見てきて、これくらいできるぞって思っていたところがあったんですけど、実際自分がその立場になってみるとすごく大変だなと今実感しているところです。
――これからどんなチームにしていきたいですか
元々はいろいろと理想はあったのですが。振り出しに戻るというとあれですが、こういう事態になってしまって、まずは立て直すところから始めなければいけないという状態で。活動方針の時にも言いましたが、基盤をしっかり作ろうということで。今までなあなあになっていたというか、それで進んでいたからそのままにしていたとか、やらなければいけなかったのにやっていなかったことなどがかなりあるので、計画をしっかり立てて。座学というかワークショップみたいなものを全員でやるって言っていたのに、全くやってこなかったり、訓練をやれているからそっちやるならという感じでスルーされてきた部分があるので。そういった、スルーされてきたけど大事じゃないかなというところをしっかりやっていきたいなと思っています。
――ワセダの航空部の部員数は他の大学と比べると多いのでしょうか
他の大学と比べるとかなり多い方です。毎年たくさん新入生が入るのですが、一定数辞めてしまって残るのは7、8人ほどなんですが。ことしの1年生はすごくやる気に満ちていて、自分たちも驚くほど辞めていかなくて、すごく根性があるなと思っていて。そんな子たちが下にいてくれるということは僕たちにはかなりプラスになるので、いい後輩に恵まれたなと思っています。
――このチームで大事にしたいことはありますか
僕が1年生の頃からずっと感じてて、3年の時に一番強く感じたことなのですが。一番上に立つ人間として、後輩の意見をしっかりくみ取ってあげるような幹部や、一番上の立場でありたいなと思っていて。どうしても自分たちだけでできてしまうので、自分たちよがりの運営になってしまいがちですが。そうでなく、1年生から3年生まで全部の意見をちゃんと聞いてあげて、その中で最善の動きができるようにできればなと思っています。
大場康聖副将(基理3=神奈川・山手学院)
――今回この役職に就いた経緯を教えてください
副将と訓練主任という役職についたのですが。1年生の頃から訓練の面で多く先輩に進言したりですとか、こういうふうにすればもっと安全になるんじゃないか、といった提案をしていたので。そういったところを同期から買われて全会一致で決まりましたし、自分でも訓練主任をやりたいと思って志望しました。また、副将に関しても自分が佐々木主将を支えるぞという気持ちが一番強いということで、やらせていただきました。
――役に就いてみて、意気込みをお願いします
訓練主任の面に関しては、きょうも(式の中で)ありましたが、10月に事故があって。全員が安全第一と声をそろえて言っていて、その気持ちは僕自身も変わらないので。訓練係は訓練をしていく上で一番大事な係だと思うので、自分がワセダの航空部を安全に復活させるんだ、そういう気概でやっていきたいと思います。
――これからどういったチームにしていきたいか、皆さんで話されたりしましたか
具体的にはないですけども、抽象的には少しありまして。幹部といえども僕たちだけの部活ではないので。1年生から4年生まで全員が同じ立場で話し合って、その中からより良いものを選んで部活の意思決定をして、全員が部員なんだと思えるような部を作っていきたいです。
――目標や、新しいチームで大事にしていきたいことはありますか
個人の意見になってしまうんですが、もちろん大会勝利というのは今まで部活をやってきた中で一番にありましたが、それ以上に安全が大事ということは痛感したので。まずはそれを確固とした安全基盤を作って、その中でそれぞれの技量を、今までの発数を追い求めるかたちではなくて、事前準備でカバーしていく。効率面でカバーしていくことによって大会勝利につなげていけたらいいなと思います。今までは安全と効率が同じ位置にあったんですが、これからは安全を第一にして。どうしても効率面の優先度が小さくなってしまうのですが、今までとは違った技量の上げ方を自分たちで考えて準備していくことによって、技量の面に関しては同じような進捗を上げていけるのではと思っています。
椙田秀斗主務(政経3=埼玉・早大本庄)
――役職は3年生の間で決めたということでしたが、役職決めの経緯について教えてください
私は2年生の頃から会計をやっていて、会計、副務とやってきたので、自然と主務が向いているという話になりました。また、4年生やコーチの方々も私が主務になるということで意見が一致し、結果的に主務の役職に就くことになりました。OBとのつながりであったり、社会とのつながりであったり、大学とのつながりであったりという縦のつながりと、部員内やワセダの他の部活、他大航空部との横のつながりをまとめていくのが主務の仕事だと思っています。責任感も伴うし、一つひとつ気遣いも必要になるから椙田が向いているのではないかという流れで私になりました。経緯としてはそうです。
――意気込みをお願いします
さっきも言った通り、縦のつながりと横のつながりをまとめるのは主務にかかっていると思うので、主務がしっかりやることで早稲田大学航空部というものが認められるというか、早稲田大学航空部はすごいね、というように魅力的な部になれると思うので頑張っていきたいなと思います。また前主務の土居原先輩(悠史、人3=東京・高輪)の下で副務として学び、土居原先輩をはじめとして多くの主務の先輩が積み上げてきた伝統を見てきたので、それを受け継いで部の再建と発展に向けてしっかり頑張っていきます。
――現体制の航空部を今後どのようなチームにしていきたいですか
今まで以上に安全を徹底した、世界で一番安全第一を考える航空部にしたいです。そして安全を確保できたその先では、今までと同じようにいろいろな人に早稲田大学航空部の魅力を伝えられるようになれればいいなと思っています。今は立て直しが本当に難しいと思っていて、一歩一歩焦らず進んでいくことが重要なので、時間はかかりますが頑張ります。
――大事にしていきたいことは
支えてくれる周りの方々への感謝の気持ちを大事にしていきたいです。そして、事故で亡くなってしまった明妻先輩の気持ちも受け継いで、明妻先輩が空から安心して見守ってくれるような早稲田大学航空部にしたいと思います。