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大学アーチェリー唯一の団体戦・全日本学生王座決定戦(王座)が、今年も静岡のつま恋リゾートで開催された。地区予選敗退で戦いにすら挑めなかった昨年から一転、早大アーチェリー部男子は予選を難なく通過し、決勝ラウンドへ。初戦で予選順位が一つ上の長崎国際大を5-3で撃破し、準々決勝で昨年の王者・近大と対戦した。強豪相手に奮闘したが、詰め寄ることができずに0-6でストレート負け。早大は8位で戦いを終え、4年生の集大成となる大会を締めくくった。
主将としてチームを引っ張り続けた中野
昨年、まさかの関東予選敗退となり、王座出場を逃した早大。今年は関東2位の成績で堂々と乗り込んだ。し烈な部内選考を勝ち抜いて選ばれたメンバーは、全員が4年生。2年前の王座にも出場した浦田大輔(基理=東京・早大学院)、中野勇斗主将(商=東京・早大学院)、そして初出場の杉田蒼月副将(教=東京・麻布)、山本治輝(スポ=奈良学園)だ。雨の中行われた1日目の予選ラウンドは、エース浦田が全体11位に食い込んでチームを引き上げ、9位で通過した。
安定した行射でチームトップの得点を記録した浦田
決勝ラウンドが行われる2日目は前日から打って変わって、蒸し暑さも感じられるほどの晴れ模様になった。初戦の長崎国際大との戦いは浦田の射から始まり、山本、杉田も好調な滑り出しを見せる。決勝でも見劣りしないレベルの54点を出して2ポイントを先制したが、負けじと相手も高得点を重ね、勝負は最終第4セットまでもつれ込んだ。ここで1番手・浦田が10点を射抜き、早大に流れをもたらす。最後に放った杉田の射は焦りから6点となったが、40点と崩れた相手に対し早大は52点と安定感を発揮。見事な勝利を収め、次のステージに進んだ。
笑顔でチームを盛り上げた山本
続く準々決勝の相手は、過去30回の優勝を誇る強豪・近大。トーナメントの組み合わせ上、思いのほか早い対戦となった。第1セットは双方に硬さが見られ、常に高得点を連発する近大が50点とやや精彩を欠く。ここで同点以上に持ち込みたい早大だったが、中心付近に矢を集められず44点に。痛い2ポイントと流れを相手に献上した。第2セットは3番手・杉田の高得点もあり50点を取り返したが、ミスを引きずらないのが近大。55点と突き放された。第3セットも早大は食らいつこうと全力で盛り上げる。しかし結果は、早大の49点に対し近大は58点。完敗だった。強豪の壁はやはり高く、王座での戦いは準々決勝で幕を閉じることとなった。
10点を射抜きポーズを決める杉田
近大との戦いが終わった直後、浦田と杉田の目には涙が浮かんでいた。一方、中野と山本は晴れ晴れしい笑顔を浮かべていた。この表情が、61代の集大成を物語っているだろう。出場が当たり前だったはずの王座に進出できない状況から1年間、中野主将の強いリーダーシップのもと、部は確かな成長を遂げてきた。王座では、そのチームを引っ張った上級生が、これまでの鬱憤(うっぷん)を晴らすような最高の笑顔で戦い抜いた。選手だけではない。3年ぶりの有観客開催で、部員やOB・OGが一丸となって会場で応援し、チームを後押しした。その結果、全員の力で8位という成績をもぎ取ったのだ。目標の王座制覇はまだ遠かったかもしれない。しかし、誇るべき8位は最高のスタート地点だ。下級生はここから先輩たちの大きな背中を追い、再びこの地で早大の名を輝かせる。
(記事 朝岡里奈氏、写真 朝岡里奈氏、田島璃子)
結果
▽予選ラウンド
男子団体 9位 1823点
▽決勝ラウンド
2回戦 ○早大5-3長崎国際大
準々決勝 ●早大0-6近大
▽最終成績 8位
コメント
中野勇斗男子主将(商4=東京・早大学院)
――2年ぶりの王座となりましたがいかがでしたか
最後の王座を存分に楽しめたなと思っていて、予選ラウンドではふがいない結果に終わってしまいましたけど、チームメイトを最後まで信じて決勝ラウンドを4人目として戦えたので、すごく幸せでした。
――ご自身の予選ラウンドを振り返っていかがですか
ふがいないのその一言に尽きるのですが、点数的にも精神的にも技術的にも全然足りなくて、まだまだ未熟なところを最後に痛感させられたなと思いました。元々の課題として取り掛けの滑りがあって、雨が降ったり止んだりという気候によってより滑ってしまってその対応に追われて、苦しいアーチェリーになってしまったと思います。
――予選ラウンドのチームの順位を振り返って
自分がいつも通りの点数を出していればもっともっと上にいけたと思いますし、実力を考えたらもう少しだなといったところなのですが、初めから予選の順位は気にせずにいこうということは話していました。決勝ラウンドでまくればいいと考えていましたので予選の順位というのは特段気にせず、今日の決勝ラウンドに臨めたと思います。
――4人目に回ることが決まった時、どのような気持ちでしたか
悔しかったですが、メンバーの3人を支えることができる4人目は自分だけしかいないと思っていたので、全力でチームのサポートをしようと思いました。
――決勝ラウンドを振り返って
終始雰囲気はすごくよくて、楽しくできたのは本当によかったなと思います。2戦目で近大に当たって、そこはチャレンジャーとして戦うべきポイントではありました。チャレンジできたとは思いますけど、もう少し善戦できてれば、もっと面白い結果になっていたのかなと思います。ベスト8でうれしい気持ちはありつつ、王座制覇を目標としていたので、まだ悔しさの方が大きいかなという感じです。
――決勝ラウンドではチームを盛り上げている姿が印象的でした
特段こういう風にチームメイトが思ってくれればいいなということはなくて、自分が楽しんで、それがメンバーに伝播すればいいなと思っていました。今まで4年間やってきたメンバーだったので、そこは変に計算せず、こういう声掛けしようとかは考えず、素の自分で応援できたのかなと思います。
――女子の結果について
同じチームとしてすごく誇らしいです。王座制覇を目標としていたので、それにあと1点2点というところで負けてはしまいましたけど、終わった後女子の4人が笑顔だったので、男子主将としてすごくうれしかったですし、いいチームだなと客観的に見ても思いました。
――決勝はどのような気持ちで見ていましたか
優勝してくれという強い思いは持っていましたけど、結果は楽しんだ先についてくるというのが点数は気にせずに楽しんでもらえればいいなと考えていたのでポジティブな声掛けをして盛り上げました。
――最後の円陣ではどのような気持ちで話しましたか
今までも円陣で話すことは何度もあったのですが、後輩に言い残すというようなことはしてきませんでした。今回は最後ですしなにか後輩に響くものがあればなという気持ちで話しました。
――中野選手にとって王座とは
一つの人生のゴールであり、スタート、一区切りだなと思います。自分の学生生活は高校からずっとアーチェリーに没頭していたところがあるので、そのアーチェリーを終えるということは自分の人生の中でも一つの大きなゴールだと思います。また明日から違う人生がスタートするような、そんな気分です。これからの人生を歩んでいく上でも王座というものの存在感の大きさみたいなものはどんどん思い出していくようなものなのかなと思います。
――後輩にエールをお願いします
個人的には悔しい思いが強く、後輩にはそのような思いはしてほしくないです。悔いのないように引退まで過ごして欲しいというのが素直な思いです。苦しい瞬間もたくさんあると思うのですが、きっとこの世はハッピーエンドで終わると自分は信じているので、ポジティブな気持ちで最後まで諦めずに王座制覇を目指して欲しいと思います。
杉田蒼月副将(教4=東京・麻布)
――戦いを終えた今の気持ちは
やりたいことはやれたので、すっきりした気持ちの反面、もっと試合がしたかったなという、悔しいなという思いがあります。
――3番手という順番はどのように決められたのですか
おのおの得意なものをやろうということで、自分は3番手が得意で。僕はここで入れたいなという集中力はあるのと、早く射たなきゃいけなくて射型が整える時間がなくても、ある程度抑える能力があるのと、1、2番手だと逆に後ろの人に時間を残そうとして焦ってしまうので、どしっと構えて最後射つしかないという方が自分の性格的に合っていて。国体などでも3番手で出ていて、慣れているというのもありました。
――試合を振り返ると、初戦は5―3で勝ちました
やはり1エンド目は本当に緊張していて、結構ぶるぶるだったんですが、後ろの応援もあったので楽しみながら射つことができました。最後の1セットで、1射目は10点に入れたんですが、もう1射は緊張して6点に外してしまって。でもそこは浦田くんが20金してくれていたので、ありがとうという感じでした。
――たしかに苦笑いで戻ってきていましたね
10点射って、これいけるなと思ったら、めちゃくちゃ緊張して。時間ない、やばいと思って射ったら6だったっていう(笑)。ただ浦田くんが20金してくれてたのでセーフでした。
――2戦目が近大となりましたが、どんな思いでしたか
正直、もっと高い、準決なり決勝なりで当たるのが理想でしたし、当たるかなと思っていたんですが、予選順位の結果で早かったです。やはり日本で一番強い大学で、いずれ王座制覇となれば当たるので、率直に対戦してみたさはありました。ただ、強いので身構えてしまう部分はありました。
――実際対戦してみていかがでしたか
めちゃくちゃ強かったです。ラスボスという感じでした。
――相手が気になって緊張などはありましたか
もう日本一強い大学ですし、勝つにしても負けるにしても最後なので、自分の射ちたいように気持ちよく射とうと思っていました。それで勝てればいいけど、不完全燃焼で負けるのが一番良くないので、もう自分たちに集中しようと。自分の射に集中したので、相手が気になることなく気持ちよく射てたと思います。
――近大戦では初戦より当たっている印象でした
最後の2セットが、9、X、9、Xでした。自分が当てないと負けるとはあまり思わないようにして、勝っても負けても今日が最後だ、気持ちよく射とうと思って、思い切りパシッと射ったら、入りました。一番いい射ち方だったなと思います。
――対談の時は「王座は苦い思い出」とおっしゃっていましたが、今日を終えていかがですか
でも近大の1セット目はちょっと引きずっていて。近大さんが珍しく外していて50点だったので、結果論なんですが、自分が最後10点、10点入れていたらポイントが取れていたので、ちょっと悔しいなというか。完全に苦さが払拭されたというわけではなくて、また一つ悔しいものが増えてしまいました。でも全体としてメンバーも同期で出られましたし、ずっとやってみたかった有声での王座が開催できたので、そこは非常に楽しかったです。
――最後の矢取りから帰ってくる際に涙がありましたが、どんな涙でしたか
言語化するのが難しいんですが、一つはさっきの10、10を入れていたら流れが変えられたかなというので。すごく格上とはいえ勝ちたい思いはあったので、率直に悔しいなという思いと、最終エンドの射線に入る時からずっと思っていたんですが、これで最後なんだという思いでした。
――今後の試合は出場されますか
インカレには出ようかなと思っています。
――最後に、部員の皆さんにメッセージをお願いします
面白味はないんですが、本当に4年間、みんなのおかげで楽しめた、ありがとうございました。同期、後輩、先輩、全員含めて、本当にありがとうございましたという気持ちです。
浦田大輔(基理4=東京・早大学院)
――試合が終わって、今の率直な気持ちは
近大に2回戦で負けてしまってとても悔しかったんですが、できることを全部やったかなという感じで満足というか…。いいかたちで終われたかなと思います。ただ本当に悔しいです。
――2年越しの王座、楽しみたいと言っていましたが
選考が結構し烈だったんですが、全員4年生が勝ち上がって、責任感とかあまりなくて楽しめたかなと思います。
――試合中も表情がかなり明るいのが印象的でした
そうですかね(笑)。結構緊張はしていたんですが、楽しみたいという思いもあって。応援が結構今回いたので。
――緊張はほぐれましたか
1回戦の最初はめちゃくちゃ緊張してたんですが、だんだん慣れて、近大のときはあまり緊張しなかったです。格上だったのでできることをやろうと思いました。
――射つ順番が1番手でした
高校の時も1番手でずっと射って、大学に入って2年前の王座でも1番手をやらせてもらって。1番手が一番思い切って射てるというか、早く入らなきゃとあまり思わないので。線をまたぐタイミングとか気になっちゃって(笑)。
――初戦は10点もよく出していましたね
あんまり覚えていないんですが、なんとか耐えて9や8を射って、最後10を2本入れられてうれしかったです。
――杉田選手が「浦田の20金で勝てた」と話していました
いや、そんなないです(笑)。相手の方が緊張されていたので。結果オーライかなと思います。
――近大と当たることになりましたが、どう思っていましたか
ワンチャンスあるくらいだと思っていたんですが。赤(7・8点)や青(5・6点)を射ったら絶対にそのセットは勝てないですし、黄色でも10点を多く入れないと点が取れないなと思ったので。波に乗れれば全然あると思ったんですが、あまり乗れなくて。ただ、最後は楽しく射てました。
――近大戦のときは調子はいかがでしたか
ちょっと根負けした部分はあると思います。でも最後まで諦めてはいなかったので、楽しく射てました。
――試合の最後は少し涙も浮かんでいましたね
2年前の王座でも、日体に負けて泣いて、同志社に負けて泣いて…。王座はちょっと特別というか。始まる前も泣きそうだったんですが。王座は涙もろくなっちゃいますね。
――普段は泣かれないんですか
個人戦とかは負けても何も思わないので。背負ってる、応援してくれる人とかOBの方とか早スポの方とかいらっしゃるので、思いが強くなっちゃいますね。
――有観客、有声の試合でしたが
2年生の時からずっとコロナで、1年生の時は王座に出ていなくて。あまり有声でトーナメントの試合に出たことがなかったので、すごく緊張しました。でも楽しかったですね。
――楽しさと悔しさが両方聞かれましたが、今どちらが大きいのですか
最後に(近大に)58点とか射たれて、悔しいですけど吹っ切れたところもありますね。
――最初のエンドは相手も50点でした
こっちが全然当たっていなかったので、そのエンドは気にしてもしょうがないなと思ったので次で頑張ろうと。でも波に乗れずという感じでした。
――次の試合は
代としては引退ですが、インカレターゲットと、今回予選が自分の中では良くて全日の点数が取れたので、申請が通れば出ようかなと思っています。
――同期や後輩に向けて一言
最後全員で来られて本当によかったです。
山本治輝(スポ4=奈良学園)
――今の率直なお気持ちをお聞かせください
やり切ったという感じです。王座前の対談の際に悔いのないようにやるという風に話したのですが、もうこれ以上ないくらいやり切ったなど自分の中では思っています。
――初めての王座でしたがいかがでしたか
全員4年生だったというのもあって、王座という感じは全くしなかったです。いつもの練習のような雰囲気で昨日も今日もやることはできました。本当に全国大会に出てたのかなという感じでした。終わってみたら自分はすごい大会に出てたのだなという風に改めて感じました。
――昨日の予選ラウンドを振り返って
昨日は雨が降ったり止んだりを繰り返していたので、降るなら降るで振らないなら振らないではっきりしてくれと思いましたね(笑)。対応はしていたつもりでしたが、真ん中に入る射が少なく、自分が思ったよりも点数が伸びなかったのが本音です。浦田に点数をカバーしてもらって、チームとしては耐えたかなと思います。
――昨夜はどのように過ごしましたか
終わった直後こそ点数を言い合って反省をしていましたが、ホテルに戻ってからはいつも通り楽しく過ごしていました。女子も一緒にみんなで集まって人狼をしていました。いつもの自分たちで過ごせたという感じです。だから今日も最初からリラックスして臨めたと思います。
――長崎国際大戦を振り返って
予選の結果を見て、相手と点数帯が同じだと思いました。一人が点数を出してあと二人がもう少し出せたんじゃないかなという感じです。長国さんが8位で早稲田が9位ということで余裕で勝てることは絶対にないなと思っていました。結果的に5-3ということで熾烈な争いになったのですが、予想はできていたので、いい緊張感、集中力で臨めて、結果につながったと思います。
――近大戦を振り返って
僕が生まれる前から「アーチェリーといえば近大」というくらいの強いチームで、そういうチームとむしろ当たれてよかったと思いました。王座制覇を掲げている以上もちろん勝ち進みたかったのですが、王座という全国大会に出た以上強いチームに当たれるのは嬉しかったです。結果は完敗で、自分も今まででしたことがないようなミスをしてしまって、悔しいなという思いはあります。でも自分のアーチェリー人生の中で近大さんと当たれたということは変な話ですが、嬉しい気持ちでいっぱいです。
――笑顔が印象的でした
対談の際笑ったもん勝ちと色紙に書かせてもらったのですが、自分の役割は選手である以上点数を取ることはそうですが、みんなを明るくして盛り上げるみたいなものだと自分では思っていました。今日は選手として緊張する部分もあったのですが、笑顔で明るく盛り上げていこうという気持ちが程よい集中を生んでくれたと思いますし、みんなを盛り上げた自信はあります。
――後輩へのエールを
自分がこのチームにいて感じたのは真剣にアーチェリーをやるだけじゃなくて全員がアーチェリーを楽しんでいるなということです。その気持ちを忘れずにアーチェリーをして欲しいと思います。その気持ちを忘れなければ絶対に王座に出場して自分たちの雪辱を果たすことができると思います。男子に関しては王座メンバーが全員4年生だったので、そこは燃えて欲しいです。「次こそは俺が出るんだ」という気持ちを持って1年間過ごしてほしいです。頑張ってください!