全日本選手権 羽生結弦がSP110.72点で首位発進 圧巻の演技を披露

アーチェリー混合

 
 

 羽生結弦(人通=宮城・東北)が、全日本選手権の舞台に帰ってきた。グランプリシリーズからの連戦で疲労が心配される中での演技となったが、貫禄の滑りで男子SP(ショートプログラム)の首位に立った。芯の強い美しさで会場を染め上げて獲得した110.72点は、非公認ながら男子SPの世界最高得点だ。

 

全ての要素で質の高さを誇ったSPの羽生

 

 素晴らしい顔ぶれが揃う第4グループ。6分間練習でそれぞれの選手が難易度の高いジャンプを次々と決める中、羽生結弦もSPで飛ぶ予定の全てのジャンプを綺麗に着氷させた。
5番目の滑走で名前がコールされると、大声援の中登場した。「士」を刻み、合掌をするルーティンを済ませると、リンク中央に行き片手を上げ最初のポーズに。『秋によせて』の曲が始まると緊張感が漂い、ピアノとエッジの音だけが会場に響く。冒頭、4回転サルコーを無事決めると会場全体に大きな拍手が反響した。「出来栄えを意識してというのが強いです」構成を変更してトリプルアクセルと入れ替え前半に持ってきた4回転トーループ-3回転トーループ(トリプルトーループ)の連続ジャンプは2本目のトーループに両手をあげる余裕を見せ、綺麗に着氷させた。基礎点が1.1倍になる演技後半、難しい入りからトリプルアクセルを決めると流れるようにイーグルに繋げる。難易度の高いジャンプを3本揃え、最初の2本はGOEが4点を超える加点がついた。スピンでもレベル4を獲得し、ジャンプ以外の部分でも点数を伸ばした。音楽と共にステップでは一層盛り上がりを増し、跳び上がる瞬間も指先がのび、1つ1つの動きに心がこもる。繊細なエッジさばきと、体を大きく使う表現で羽生結弦の世界に会場をのみ込んでいく。最後のスピン、曲が終わる前から拍手が溢れ、演技が終了するとうなずき納得した様子に見えた。スタンディングオベーションの演技は110.72点で非公認ではあるが自身が持つ世界最高110.53点を上回る点数となった。「もう調整もできていないです、はっきり言って」。そんなことを感じさせない演技で観客をくぎ付けにした。

 
 
 
 

 演技後のインタビューで、今回の4回転トーループについて「『Origin』のときの後半の力強いトーループじゃなくて、より軽い、流れのあるトーループの方の跳び方を意識してやったのが少し挑戦ではありました」と語った羽生。どんな状況でも新しい何かに挑み続ける姿が、その強さを物語っていた。22日のFSでは珠玉のプログラム、『Origin』を披露する。名曲に乗せた高密度の演技から、片時も目が離せない。

 

(記事 岡すなを、写真 犬飼朋花)

結果

▽男子SP


羽生結弦 1位 110.72点



 
 

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コメント

 

羽生結弦(人通=宮城・東北)※囲み取材から抜粋

 

――6分間練習まではエネルギー消費を最小限に抑えてすごく冷静にやっていらっしゃいました

6分間は結構跳べました。最初の3分ぐらいで全ジャンプ綺麗に決まっていたのでよかったと思います。グランプリファイナル、NHK杯、スケートカナダとオータム(クラシック)とやってみて、どのくらいの体力の消耗の仕方でどのくらい調整していくのでいいのかっていうのが、なんとなくそのときそのときの体調によって分かってきているなっていう感じはします。多分それが試合勘というものなんだと思いますけど、今の体に合った調整の仕方をできたと思います。

 

――構成変更は疲労というより出来栄えを考慮してのことですか

そうですね、出来栄えを意識してというのが強いです。トーループ自体に不安があるっていうものじゃなくて、あの曲のところでのトーループに不安があるという感じなので。はっきり言ってしまえばフリーの後半のトーループの方が簡単だなと思いながらやっていたので、だったら基礎点的には0.57ぐらい変わるんですけど、GOE(出来栄え点)をしっかりと稼いで、稼ぐという言い方がちょっと好きではないのですが、ジャンプの出来栄え自体を良くしたい。そうするとやはりプログラム自体がもっと映えると思っているので、そういう風にしました。ただ挑戦としては、自分がアクセルの音として跳んでいたところはエッジ系のジャンプ、もっと軽やかな跳び方をしなくてはいけないという表現的に自分がすごく思っていたので、それをトーループでより軽く、(FS)Originのときの後半の力強いトーループじゃなくて、より軽い、流れのあるトーループの方の跳び方を意識してやったのが少し挑戦ではありました。

 

――グランプリファイナルからここまでどんな調整をなさいましたか

もう調整もできていないです、はっきり言って。こっちにきて最初の練習で見て分かったと思うんですけど、あれがよくあそこまで戻ってきたなという感覚でもあったので。ループもほとんど跳べていなかったです。なので、少しまだフリーに向けて不安はもちろんありますけれども、ただとにかく一歩ずつ、少しずつでもトレーニングしながら休みながらっていうことを常に心がけてやってはきました。

 

――ですが一見には不安なさそうでした

まだ氷の感触を掴みきれていないなというのは正直あるので、あしたはまたしっかり掴んで、どういう感覚でループを跳ぶのか、サルコーを跳ぶのか、あとはアクセルというものを含めてどうやっていくかというのを考えながらやりたいなと思います。

 

――最終的には今季のショートをどこまで持っていきたいという目標はありますか

そこまではまだ考えきれていないというのが正直なところです。綺麗に跳べてこそのプログラムだと僕はやはり思うんですよね。そのジャンプ自体も曲に合っていなきゃいけないというジレンマがあって、多分確率をよくするんだったらこの構成がいいのかなとか色々考えてはいました。ですが自分の中でこだわりとして、後半に4−3(連続ジャンプ)を持ってきたいということがあって、完全に吹っ切れているわけではないです。とりあえずこの試合が終わってからまた新たなジャンプも習得しなきゃいけないですし、ルッツ、ループに関しても、多分アクセルができるようになってきたらもっと確率が上がってくると思うので、いろいろな選択肢があるなと自分の中では思っています。

 

――このタイミングで構成を変えたというのはやはりグランプリファイナルでの失敗の重みを感じられてのことですか

はい。そうですね。もちろん、ある意味でコーチがいなかったからこそ自分の実力がそのまま出たという試合でもあったし、ショートで完璧にやってなんぼだというのはすごく、ソチオリンピックの頃から重々承知でやっているので。もうフリーで無茶するんだったらやはりここである程度の基盤を作っておかなきゃいけないというのと、あとはあまりにもショートの後半含めた完璧な感覚がなさすぎるというのがあったので、この試合でその完璧な感覚を掴みたいなということも願いではあります。

 

――グランプリファイナルという大きな目標の試合を終えて体だけではなく心の面でも今大会に向けてくるのが難しかったと思うのですが、どういうモチベーションでしたか

スケートに気持ちが向かないということはなかったです。ただ、割とへこんでいて。本当にフリーに関してはある程度やったなとは思っているんですけど、思ったよりも消耗も激しかったですし。やはりあの構成で滑りきれていないので、どうしても気持ちの消耗も激しく、結構「あぁまたすぐ試合か」というような感覚でいました。実際こうやって日本に来るときとか、クリケットで、トロントにいてグランプリファイナルなどでもらったメッセージとかそういうものを見ながら、「もう本当に一人のスケートじゃないな」と思って。なんとかそこで、その力で、その力をもらって心をつないできた感じです。

 

――ここの氷は難しいとおっしゃっていました。代々木の難しさは氷の難しさですか

何というか、最初に滑ったときの感覚とだいぶ違うなというのと、製氷後と製氷1時間後というのが全く違うなということを感じました。フリーは多分このままだ最終グループになるので、だとするとやはり製氷1時間後だと思うので、そこを自分の中で調整しきって、エッジ系ジャンプは特に影響があるので、どれだけひっかけるか、どれだけ滑りきるかというのが感触として分かっていなきゃいけないなと思います。

 

――フリーに向けての意気込みをお願いします。

とりあえずあしたがまだあるので、あしたをしっかり調整の日にあてます。どういう調整をするかはまだ決めていないですが。フリーについてはまだ考えられていません。とりあえずきょうは、きょうの反省点とよかった点を踏まえて考えながらホッとしたいなと思います。